IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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寒い寒い寒い寒い

活動報告に記した通り、不定期更新になるかもです。
ご了承下さい


陽炎 ~ 墓前 ~

更識家では

 

「お姉ちゃ~ん、お嬢様を見つけたよ~」

 

「何処!?何処に居たの!?

あれだけ探し回っても見つけられなかったのに!」

 

「コレコレ~♪

国際空港の入出国管理課のデータなんだけどね~、お嬢様ってばおりむ~や、かんちゃん、マドっちと一緒にオーストラリアに行っちゃったみたい~」

 

「あ、あの人はああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

 

Ichika View

 

当然ではあったが、飛行機のフライトは何事もなく終え、俺たちはオーストラリアの大地に足を下した。

ただ、マドカがぐっすりと眠っていたため、マドカの荷物を楯無さんに持ってもらい、俺がマドカを背負って歩くことにした。

それにしても南国のイメージが粉砕されたな。

日本とは違ってこちらは真冬だ。

 

「ふあぁ」

 

マドカは足がおぼつかない、先程まで俺の背中でグッスリだった。

昨晩は部屋の中で映画に夢中になっていたから仕方ないだろう。

同じく映画にはまっていた簪は普段と何も変わらない。

寝る時間はキッチリと決めていたようなので、寝不足も寝坊もしていない。

楯無さんも相変わらずである、っつーかこの人はホントに何をしにここにきているんだか。

今更何も言うつもりはないが。

 

「寒いわね~、一夏君、コーヒー奢って~」

 

「ご自分でどうぞ…」

 

こんなやり取りが飛行機の中でも続いていた。

なので俺はいろいろと疲れてしまった。

 

パターン1

簪にマッサージをしていたら

 

「一夏く~ん、私にもマッサージお願~い」

 

「スカートを脱がないでください!」

 

 

 

パターン2

機内サービスで食事を注文し、食事をしていたら

 

「そのハンバーグもらった!」

 

「最後に食べようとしてたのに!」

 

 

 

 

パターン3

簪、マドカ、楯無さんがまとめて風呂に入ってる時、俺はようやく落ち着けると思ってハードカバーの本を読んでいたら

 

「一夏く~ん、一緒に入らない?」

 

「ぶううううぅぅぅぅぅっっ!!!???」

 

 

 

パターン4

ダーツでマドカに惨敗したのが悔しかったので練習していたら

 

「一夏く~ん、こっちでビリヤードしてみない?」

 

「なんでバニーガールの恰好をしているんですか!?」

 

 

 

最後は簪がキレて例のモードになった為、震え上がって悪戯はやめるようになった。

ただし、マドカも我慢の限界だったらしく、楯無さんには、俺たちの荷物をまとめて持たせている。

二人がまとめてキレるとか珍しいことが世の中あるものだ。

感情が戻ってきているのだが、『恐怖』と『怒り』に関しては、まだ感覚が甘い。

まあ、その二つに関しては二年間も失っていたのだから致し方あるまい。

俺が微笑んでいれば、簪も、皆も微笑み返してくれる。

それでいい。

 

「兄さん、あそこに迎えが来てるよ!」

 

「うわ、本当にリムジンかよ…」

 

「一夏って慣れてないことが多いんだね」

 

「つい半年前までは『その他大勢』の一般人だったからな…」

 

乗った経験のある乗り物と言えば『電車』『バス』『飛行機』『船』くらいだろう。

後者二つはそれこそ片手で数えるにも少ない回数しか無い。

千冬姉は免許は持っているが、IS学園に赴任している為、使う機会が全く無いらしい。

 

「リムジンってテレビで見た経験はあれど、自分が乗る機会が訪れるとはな…」

 

その間にマドカと簪は何も気にすることもなく平然とリムジンに乗り込んでいく。

たいした度胸だよ…。

 

「一夏君、そろそろ手伝って…」

 

「…頑張ってください」

 

この人の扱いにも慣れてきたな…。

今まで振り回されてきた自分に呆れ、扱いに慣れてきた自分にビックリだ。

いや、本当に。

 

 

リムジンの中では楯無さんはグッスリと眠り、俺は束の間の休息を得ていた。

簪は、マドカによるオーストラリア観光講座に興味津々だった。

シドニー市の講座に関しては俺も聞いておく。

メルボルンはリムジンで走り去った為、まともにみていなかったから、その話も聞いていたら中々に面白いと思う。

ほかにも盛んなスポーツと言えば、ラグビーだとか、野球の原型ともいわれるクリケットだとか。

ほかにもサッカーだとか競馬に、モータースポーツ。

夏の時期であればサーファーも多く姿を見せるとか。

 

「このまま車で何時間かしたら首都キャンベラに到着するから」

 

「また長い旅になるんだな…」

 

「私はオーストラリアって初めてだから楽しみ♪」

 

「俺はオーストラリアで有名なものっていえば『シドニー市』と『エアーズロック』くらいしか知らないからな」

 

なお、今回は後者を見に行く予定は無い。

いくらなんでも遠すぎる。

今回はメルボルン、キャンベラ、シドニーだけだ。

見に行く余裕がほしいのなら、永住するのがベストかもしれない。

それでも遠いのは変わりないが。

 

 

キャンベラにたどり着いたのは夕方になってからだった。

マドカが話しておいてくれたらしく、首相だとか、国王までもが迎え入れてくれた。

俺がマドカの兄だと知ると、涙流しながら握手をされた。

これには俺も簪もドン引きだ。

マドカは見慣れていると言わんばかりに呆れているような様子だった。

なお、今回お呼びでない楯無さんはリムジンの中で待機中だ。

ぐっすりと眠っているから別に構わないが。

 

「…で、今日の宿は此処なのか…」

 

これまた(物理的にも金銭的にも)高いのが見て取れる高級ホテルだ。

しかも部屋は最上階の超高級スウィートルームと言うのだからオーストラリア政府の懐事情には呆れ果ててしまう。

これも、二年前にマドカが国家代表候補生になり、更には学園で開催されたタッグマッチトーナメントで優秀な成績を収めたから、との事。

だが、絶対に私情が入っていそうだ、マドカを猫可愛がりでもしていたのだろうな。

 

「まあ、充分に休めるのならそれで構わないか」

 

従業員に案内され、俺達は車から降り、相変わらず眠っている楯無さんを肩に担いでホテルに入っていく。

荷物は簪とマドカが四人分運んでくれているので感謝だ。

とは言っても…

 

「わ・た・し・が一夏の荷物を運ぶから」

 

「じゃあ楯無先輩の荷物も一緒に任せるから」

 

「それはマドカが運んで」

 

「なんで私が!?」

 

「頼んだからね」

 

「ヒイイィィィッッ!?」

 

…脅すなよ…。

っつーか、勝手についてきたからと言っても、楯無さんをそこまで邪見にしなくてもいいと思います。

 

「はにゃ?…此処、どこ?」

 

俺が肩に担いでいた楯無さんもようやく目覚めたらしい。

何時間眠っていたんだ、この人は…?

 

「ようやく起きましたか、と言ってももう夜なんですけどね」

 

「あら、そうなの…ところで、この運び方はさすがにどうかとお姉さんは思うんだけど?」

 

「我慢してください、もうすぐ部屋に着きますから。

そのあとでお説教を受ける羽目になると思われますけどね」

 

「でも、周囲から見たら誘拐犯みたいよね」

 

ほっとけ。

 

 

 

 

 

ロイヤルスウィートルームはそれはそれは豪華なものだった。

落ち着かねぇ…。

ベッドはダブルベッドが二つある。

これは寝心地が良さそうだ。

マットレスもかなり柔らかい。

 

「あ~…頭に血が昇ってクラクラする…」

 

「眠気覚ましに入浴でもしてきたらどうです?

もっとも、あとは寝るしか無いですが」

 

「もうこんな時間なのね…ずいぶん長い時間眠ってたみたいだわ」

 

「時差ボケですか?

日本より一時間しか時差は無いらしいですが」

 

「書類仕事が沢山あったのよ、当主は忙しいのよ」

 

その忙しい仕事が終わった、ということだろうか。

だとしたら多少は労わるべきかもしれない。

 

「ってなんでまたスカートを脱いでるんですか!?」

 

「マッサージお願~い!」

 

「じゃあ私がやってやる!」

 

「マドカちゃんが?それも良さそう…って痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

コリだとかそれ以前にツボを刺激しすぎてるだけでしょそれイタタタタタタタタタタ!!??」

 

…ご愁傷様。

でもソレ、よく効きますから、明日は体が楽になってると思いますよ。

 

「マドカ、容赦無いねぇ…」

 

「千冬姉でも最初はアレに驚愕してたからな…。

だけど、翌日には体が軽くなったと評判は良かったな」

 

千冬姉は楯無さんのような悲鳴をあげるのをよしとはせず、歯を食いしばっていたけどな。

次第に慣れてマッサージ中も会話をするのも容易になってきていた。

なお、俺はお断りである。

 

「じゃあ、私お風呂に入ってくるね」

 

「ああ、ゆっくりしてこい」

 

「一緒に入る?」

 

思わずずっこけた。

 

「楯無さんのマネしてないで行って来い!」

 

「は~い!」

 

やれやれ、簪も悪戯が好きになってきたのか?

だとしたら頭の痛い話だ。

 

「いたたたたたたたたたたたたたた!?

い、一夏君!見てないで助けいたたたたたたた!?」

 

「そんなに遠慮するな楯無先輩、明日には体が軽くなってるだろうからさ」

 

「痛いものは痛いのよ!」

 

「…ご愁傷様…」

 

俺はその間に食事を頼んでおこう。

 

 

 

Kanzashi View

 

私とマドカがお風呂を終え、一夏もお風呂を終えた。

マドカのマッサージがよほど効いたのか、お姉ちゃんはピクリとも動かない。

時折微かに聞こえるのは呻き声だけ。

マドカが言うには、明日の朝にはピンピンしているだろうとの事。

…ほ、本当かな…?

一夏も苦笑してるみたいだけど、それならそれで…信じておこう。

 

ベッドはダブルベッドが二つ。

一つは微動だにできないおねえちゃんが使っている。

だからもう一つは私が一夏と一緒に使う。

もちろんマドカも一緒だけど。

 

「それにしても…オーストラリアって遠いもんだよな…」

 

「そうだね…」

 

「何年も前にこの国に置き去りにされた時には絶望したなぁ…あ、ゴメン、気分の悪くなるような話をして」

 

そうか…マドカはオーストラリア国家代表候補生だけど、この国で産まれたわけじゃない。

一夏と千冬さんは、実の両親に捨てられた、マドカは…その両親に連れ去られたのだろう。

連れ去られた後、捨てられた…。

なんて残酷なんだろう…。

 

「…痛っ!?」

 

「一夏?どうしたの?」

 

「…?いや、なんでもない…、一瞬だけど、ひどい頭痛が…」

 

「頭痛?大丈夫なの兄さん?」

 

「ああ、大丈夫だ。

今日はもう寝よう」

 

今日も今日とて私は一夏の右側、反対側にはマドカが居る。

いつもと変わらぬ光景。

それでも、私は先程の一夏の頭痛が気になっていた。

 

聞いた話では、小学生以前の記憶と、二年前に誘拐された当時の記憶が無いらしい。

その事と関係が有るのだろうか…?

本人はまるで気にもしていないみたいだったけど。

 

 

 

Ichika View

 

翌日は、朝からまたリムジンでの移動と相成った。

どこのセレブだ俺達は。

そして移動中は楯無さんがやたらと煩い。

昨日のマドカのマッサージがよほど効いたらしく、疲労も一周して朝からハイテンションだ。

 

「よーし!ロイヤルストレートフラッシュ!」

 

「うわ、えげつな…」

 

リムジンのなかではポーカーの真っ最中。

そして楯無さんはこれで17回連続でストレートフラッシュが炸裂している。

イカサマであるのは明白なのだが、その瞬間を抑えなければそれを立証できない。

そのタイミングもその都度変えているらしく、取り押さえもできないというはた迷惑さだ。

簪は

 

「ワンペア…」

 

マドカは

 

「…ブタ…」

 

つまりは役が成立していない。

こちらもブタが17回目だ。楯無さんは昨日のマッサージをよほど恨んでいるらしかった。

子供か。

なので、俺もまたヴィラルドさんの部下だったミハエルに仕込まれたイカサマをやってのける。

 

「さあさあ、一夏君はどうなのかしらぁ?」

 

「ファイブカードです」

 

俺の手元にはダイヤ、スペード、クラブ、ハー8のカードが一枚ずつとジョーカーが一枚。

『ファイブカード』の完成だった。

 

「う、うそ…」

 

「兄さん、すごい…」

 

「そ、そんな…ジョーカーは誰にも配られないように仕込んでおいたはずなのに…」

 

「ボロが出ましたね」

 

「し、しま…」

 

これ以降のことは割愛しておこう。

簪の八つ当たりとマドカの激痛マッサージが炸裂し続けるのだから。

今日一日楯無さんはダウンということで。

 

「イカサマするのが悪いんですよ」

 

「一夏君が、それを…言う、の…」

 

ダウンした。

応答は無い、ただの屍のようだ。

 

シドニー市に着いてからは市長と挨拶したり、マドカの専用機であるサイレント・ゼフィルスの開発元に学園でのデータやログを届けに行ったりと少々忙しくなった。

マドカが『偏向射撃(フレキシブル)』『分散射撃(スプリット・シュート)』『収束射撃(バースト・シュート)』を会得し『独立稼働兵装超大量一斉操作(オールマイティ・レンジ)』もやって見せたと此処の職員は知っているらしい。

臨海学校が終わった後も、特訓を積み重ね、射撃ビット48基、分散射撃ビット12基、シールドビット8基、以上を同時操作し、持ち合わせた技術を全て使い、セシリアを一蹴した事を伝えると、職員は更に大喜びだ。

俺の妹は凄まじいことになってきている。

 

「じゃあ、兄さん、あそこだから」

 

開発元での用事が終わった後は、兼ねてからの予定であるウェイザー夫妻の眠る墓地に訪れることになった。

付近の花屋にて花束を購入してから訪れたそこは、とても静かだった。

その中心に、それはあった。

『アイザック・ウェイザー』『ミュレ・ウェイザー』

それがマドカの世話をしてくれていた義親の名前だった。

 

「久しぶり、父さん、母さん」

 




妹が育った場所

妹が家族として迎え入れられた国

ようやくたどり着いたそこに、その二人は眠っている

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 幻覚 ~』

グサッ! ザクッ!

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