IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

85 / 217
まあ、こんな夜明けもあるんじゃないのでしょうか。
タイトルの意味は後半にて判りますー
何が言いたいかというと、結局この作品でも一夏君は苦労人なんです。
そして人はソレをラッキースケベと呼ぶ。

皆さん、せーのでご唱和ください
「その場所代わって一夏君!!」


陽炎 ~ 苦眠 ~

Ichika View

 

二度目の入浴を終わらせ、とっとと着替え、左手には手袋をする。

部屋に戻ると…

 

「すぅ…すぅ…」

 

簪がすっかり寝入っていた。やっぱり待たせ過ぎたか。

簪が用意してくれたであろう麦茶をグラス一杯だけ飲み、布団を敷く事にした。

 

「まあ、悪いのは俺だよな」

 

大切な人を待たせるだけ待たせてしまったんだ。

今日はこの部屋に泊まっていってもらおう。

 

「流石に俺も眠いな…夕食は食べずに寝るか」

 

押し入れから布団とシーツにタオルケット、それから枕を取り出し、床に敷く。

この作業もすっかり慣れてしまっている。

半年過ごしたこの部屋で眠るのは懐かしい、そう思いながら、机に突っ伏して眠っている簪を布団に横たわらせた。

 

「兄さん、学園の課題なんだけ…ど…」

 

…そういえば、ドアを開けっ放しにしていたのを忘れてたな。

妙なタイミングでマドカに見られた…。

 

「えと…その…後はお若い二人でごゆっくり」

 

最悪クラスの誤解をされていた。

このまま立ち去ってしまおうならば、俺への評価は滝の如く真下方向へと真っ逆さまだ。

なので右の二の腕を掴んで力ずくで引き止める。

 

「待て待てマドカ、せめて言い訳くらいさせろ。

お前が思っている事は何も無いからな」

 

「だって、兄さんだって健全な青少年だし、そういう事には興味を持つのも理解出来るし、兄さんにとっては簪が一番なのは私だって熟知してる。

それに男は胸の大きな女性を好むのも教えてもらってるから!」

 

「色々とツッコミ所が満載だが最後の偏見に満ちた情報は誰から聞いた」

 

「弾と数馬」

 

よし、次に会ったらその二人はシメる。

更にはマドカに要らん事を吹き込んだ罪で裁く!

 

そう決めてから、俺はマドカを正座させ、今回の事の経緯を話し、誤解を解いた。

なお、説明には2分も要していない。事の経緯は非常に短いんだから。

 

「な~んだ、そういう事だったんだ」

 

「誤解が解けて何よりだ」

 

「じゃあ私も寝るね、布団を持ってくるから」

 

ん?マドカもこの部屋に宿泊決定か?

まあ、構わないが。

 

「まあ、いいか。

家族なんだし。

妹の我が儘に付き合うのも兄貴の仕事だよな。

…弾は見習うべきじゃないけどな」

 

あの暴力による力関係は、俺としてはお断りだ。

思い返せば、蘭は弾の部屋に入る時には、その都度ドアを蹴り壊していたな。

千冬姉、出席簿で叩くのは勘弁してくれよ。

それからマドカが布団を持ってきて、簪の隣に布団を敷き、寝る準備を整える。最近購入したらしい紫の半袖の寝間着がよく似合っている。

 

「兄さん、一緒に寝よう!」

 

「いや、良い。俺は布団が無くても寝れるから」

 

「…む~…」

 

壁に寄り掛かって寝るかな、この季節は一晩をそのまま過ごして眠っても大丈夫だろう。

とか思ってるのがバレでもしたのだろうか、マドカは何処からか更に布団を持ってきて敷き始める。

三人並んで「川の字をやってみたい!」とか言い始めたりしないだろうか。

千冬姉がドイツから帰ってきたばかりの頃もやってたんだよな…。

時には俺のベッドに忍び込んでたりもしたよな…。

千冬姉のベッドに入り込んだ場合は、朝には頭にタンコブを作っていたな。

 

「…で、何をやってるんだ?」

 

「これなら私の寝相が悪くても大丈夫でしょ?

兄さんの布団に入れるから!」

 

「…………」

 

俺、廊下で寝てもいいかな?

 

だが逃げる事も出来ず、俺は簪とマドカに挟まれて眠る事になった。

まあ、別に構わないが。

 

「兄さんと同じ部屋♪兄さんと同じ部屋♪」

 

隣のマドカが何故かハイテンションなのが気になったが、俺はとっとと寝る事にした。

明日は朝から鍛練、夏休みの課題、と予定が並んでいる。学生は休みも忙しいんだ。

 

 

 

Madoka View

 

兄さんは寝るのが早い。

布団の中で大きく息を吸い、吐き出す。

それだけで夢の中だ。

それを確認し、私は兄さんの布団の中に忍び込んだ。

そして兄さんの左腕に、私の頭をのせる。

兄さんの腕枕は気持ち良い。

とても落ち着いて眠れる。

素直に言うと、姉さんと一緒に寝るよりも気分が良い。

姉さんは寝相が悪く、ベッドから落とされてしまった経験が有る。

頭に瘤を作ってしまったのも毎度の事だった。

私はそれでも姉さんのベッドに入ったけど。

でも兄さんは違う。

寝相が良く、落ち着いて眠れる。

それに相手は兄さんだ。

寝返りをうって抱き枕のようにされたって良い。

むしろそうしてほしいけど、未だにそうなった試しもない。

それに一線を越えたとしても構わない。

兄さんが相手なら、私はいつでもどこでも受け入れる!

 

なんて考えていた時期もあったな…。

そうなった試しも無いし簪という婚約者も居るんだから。

まあ、いいや、今は寝よう

 

「ふぅ、落ち着く…」

 

おやすみ、兄さん、大好きだぞ。

 

 

 

Kanzashi View

 

「…ふぁ…今、何時だろ…?」

 

周囲が真っ暗になった時間帯に、私は目が覚めてしまった。

寝ぼけた頭でも、此処が何処なのかはぼんやりと理解している。

そうだ、此処は一夏の部屋だった。

一夏がお風呂からあがるのを待ってたら寝てしまってたんだった。

その本人は…寝てる?

隣の布団で安らかに眠っている。

 

「一夏、ぐっすり眠ってるんだ…」

 

それを見て安心した。

学園に居る頃にも一夏の部屋には度々泊まった事が有ったけれど、こんなにも安らかに眠っている所を見るのは好きだった。

悪夢に魘れている事が幾度もあった。

感情を失ってからもそれは変わらなかった。

夢を見る度に苦しんでいた。

感情を失っても、残されていた。

その様子を見る度に、私も苦しかった。

だから、今の一夏を見ているととても安心した。

 

「…む…」

 

よく見ればマドカが一夏の布団の中に入り込んでいる。

私が眠っている間にそんな事をするなんて狡い!

だったら私も!

 

「一夏の布団に私も入る」

 

そう決めて私は一夏の右腕に自分の頭をのせる。

腕枕をしてもらうのも好き、伝わってくるこの温もりが心地良い。

 

「あったかい…」

 

それに…安心出来る…

出来るのなら、ずっとこの温もりを感じていたいと思う程に…。

 

「おやすみ、一夏…」

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「…どうなってんだ、これ…?」

 

いつもと同じ時間に目が覚めたが、左腕にはマドカ、右腕には簪が。

しかも俺の腕を枕にしている。

まあ、それだけなら良いだろう。

しかし問題なのは、二人が俺の寝間着を鷲掴みにしている点だ。

 

「…動けない」

 

ガッチリと掴んでいるから、どうしようもない。

こうなったら…ゆっくりとでも良いから脱出だ。

それにこの時間に二人を起こすのは酷だろう。

 

「静かに…ゆっくりと、だ」

 

まずは二人の頭を腕からおろす。

よし、成功だ。

後は…二人の手を寝間着から離させてからタオルケットからの脱出だ。

 

「悪く思わないでくれよ」

 

まずはマドカ、次に簪の手を寝間着からゆっくりと離させる。

よし、これも成功だ。

 

「後は…」

 

二人を起こさないように、ゆっくりと抜け出す。

だが、少し動きが大きかったのか

 

「…う…ん……兄さん…」

 

ズルズルズル

 

マドカの寝相が悪かったのか、タオルケットの中に引きずり戻された。

脱出まで残り僅かだったが、スタート位置へリターンさせられてしまってた。

 

「そ~っと、そ~っと…」

 

よし、残りは僅かだ

 

「…いち…か…」

 

ズルズルズル

 

今度は簪に引きずり戻された。

なのでまたもやスタート位置に逆戻り。

 

「そ~っと、そ~っと」

 

ズルズルズルズル

 

「そ~っと、そ~っと」

 

ズルズルズルズル

 

幾度かのこの繰り返し。

どうしたものかと俺も頭を悩ませる。

 

「…むにゃ…ぅに」

 

「うを!?」

 

簪が抱き着いてきた。

それもさっきまでよりも力が強くなってるぞ…。

 

「…兄さん…」

 

「…こっちもか…」

 

マドカもまた抱き着いてくる。

寝間着を越して温もりが伝わってくる。

そのせいか、晴れてきた眠気がまた強くなってきた。

おいおい睡魔、この時間帯はお前は仕事をボイコットしているくせに、何でまた本領発揮しているんだ。

 

「いや、とっとと出ないと」

 

そ~っと、そ~っと

 

ズルズルズル

 

「…………」

 

そ~っと、そ~っと

 

ズルズルズル

 

何度か繰り返したか数えるつもりも無かったが、その都度に引きずり戻される。

揚句にはマドカが寝間着を先程よりも強い力で抱き着いてくる。

更には簪が俺の頭を両手で掴み、その状態で抱き着いている。

つまり…簪の胸が俺の顔にあたっているわけで…大変心臓に悪い。

しかも昨年から急激に育っているから、その柔らかさも感じているわけで…。

 

「い、急いで脱出を…」

 

ゆっくりとだが、確実に脱出をしようと試みる。

寝間着からマドカの手を離させ、頭に絡み付いている簪の手をほどく。

よし、成功だ。

睡魔がまた出て来ないうちに素早く脱出を…!

 

「…んにぃ…さん」

 

「…いち…か…」

 

ズルズルズルズル

 

…数秒で元の姿勢に早戻り。

顔には簪の胸が押し当てられ、左腕にはマドカの胸が押し当てられる。

今の俺にとっては心底心臓に悪い状況、なのに殊更に厄介な事にも、再び睡魔が全力で仕事を始める始末。

…もうこのまま二度寝してしまおうか…。

 

 

結局、俺が起床したのは7時になったのだった。

俺が目覚めた直後に簪も目覚め、茹蛸以上に真っ赤になったのも、夏の思い出の一つになった。

…数時間は顔を合わせるのも互いに恥ずかしかったが…。

 

 

Kanzashi View

 

目が覚めた直後、何か違和感があった。

一夏と同じ布団の中で寝た、そこまでは覚えているけど、目が覚めた直後の光景には本当に驚いてしまった。

 

「私、なんて事をしてるんだろ…」

 

一夏の顔を胸元に抱きしめてたなんて…。

そんな大胆な事は今までやった事が無かった。

私、こんなに寝相が悪かったなんて…。

でも一夏もぐっすり眠ってたみたいだし…また、やってみようかな、なんて。

 

「えへへ、ちょっと楽しかったかも」

 

一夏が焦っている表情も見ていたら、何だか少し楽しくなってしまったのは秘密にしておこう。

でも申し訳ない気持ちもあったりするのも確かな話。

 

「またやってみようかな♪」

 

やっぱり私もお姉ちゃんと似てるかもしれない、こういう悪戯心とか。

 

 

 

Madoka View

 

簪に先を越された気がした。兄さんに抱き着いたとしても、それはまだ許容範囲だ。

だがまさか兄さんの顔を胸元に抱きしめているだなんて思ってもみなかった。

なんて大胆なんだ簪は…。

でも、兄さんはぐっすりと眠っていたんだし…やっぱり兄さんも男の子なんだし、胸の大きな女の子が好きなのかもしれない。

此処は弾や数馬が言っていた話の通りだ。よし、なら兄さんにアレを頼もう!

 

「兄さん!私に豊胸マッサージをしてくれ!」

 

「ぶうぅぅぅぅぅっっ!!??」

 

飲んでいる途中のお茶を吹き出す。

マナーが悪いぞ簪。間一髪で躱したから良かったけど。

 

そんな事をしていたら兄さんにも嫌われてしまうぞ。

 

「…お前は朝っぱらから何を言ってんだ!?

まだ寝ぼけてんのか!?」

 

「寝ぼけてない、私は至極マジメだ」

 

「殊更にタチが悪いぞお前…、ともかく理由を言え」

 

何故かは判らないが、廊下に正座させられた。

そのまま説明をさせられた。

昨日は詳しく言っていなかったけど、今日は詳しく理由を話す。

すると兄さんは頭を抱えた。

何か悩み事でもあるのか?なら私に相談してほしい。

 

「マドカ、後で出掛けるぞ」

 

「デートか!?」

 

「違う、弾と数馬の所に行くぞ。

あの二人に説教だ。

蘭も呼ぶべきだな、弾に鉄拳制裁をする手間を省ける」

 

兄さんがそういうのなら、良いか。

 

 

Ichika View

 

昨日も思ったが、弾と数馬はマドカに何を吹き込んでいるんだか。

後日には殴り込みに…いや、もう面倒だしメールで弾の所業を蘭に教えてしまおう。

 

「マドカ、今回の件を蘭に教えてみたらどうだ?」

 

なので手っ取り早くマドカをたきつける事にしておいた。

さあ、俺は剣の特訓に勤しむとしようか。

 

数分後、住宅街の一角にある定食屋から悲鳴が聞こえた…気がした。

スルーしたが。

 

 

所変わって更識家の修練場。

昨日と同じように、此処には強面の方々が特訓をしている。体感温度が5℃は上昇した気がした。

 

『おはようございます、若!!』

 

「誰が【若】だ。頼むからその呼び方はやめてくれ」

 

『ダブル』を引き抜き、早速構える。さて、最初の相手は誰なんだか。

 

「じゃあ、始めようぜ!」

 

 

旅立ちの日まで、残るは六日だ。

 




少年の手元には幾枚かのチケット

それは、空への旅を告げるものだった

そして少年は、少女と共に妹の居た場所へと飛翔する

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 旅立 ~』

俺には勝ち目が無いだろ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。