IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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更識家には大浴場とか有るのでしょうね。
何が言いたいかというと、一夏君は落ち着いてお風呂に入れません。
同年代の女の子が5人も居るわけですから

そして楯無さんが可哀相な回です。

普段は一夏君をからかってばかりのお姉さんを、今度は皆でいじり倒してみたかっただけなんです。
決して嫌いな訳ではございません。
普段とは逆にいじり倒してみたかっただけなのです。
重要なので2回言いました。


陽炎 ~ 湯煙 ~

Ichika View

 

楯無さんと虚さんには部屋から退出してもらってから、胴着に着替え、修練場に入る。

更織家の修練場も久しぶりだ。

この空気、雰囲気、それが心地良い。

 

「準備は良いかしら?」

 

「いつでも」

 

『ダブル』を両手に構え、軽いステップ。

普段と何も変わらない、俺だけの二刀流『絶影流』の構えだ。

 

「じゃあ、行きます!」

 

双刀を振るい、流れるように蹴りを繰り出す。

此処までは今までと何も変わらない。

そう見せている。

 

「ふむふむ、相変わらず手数は凄いわね。

じゃあ、今度はこっちからいくわよ!」

 

「いえ、まだまだ俺の番です。

このまま押し通す!」

 

一気にギアを加速する!

 

「ちょ、これって…!?」

 

「まだ序ノ口、更に加速しますよ!」

 

「一夏君の鬼ぃ!」

 

俺は更に加速させる!

輝夜の速さに応えるように、俺も更なる修業をした。

その集大成が、生身での加速だった。

速さを持続させる特訓も繰り返した。

スタミナ切れやガス欠とかになったら流石に御免だ。

 

「は、速っ!?ちょ、待っ…!?ひあぁっ!」

 

楯無さんが両手に構えていた槍を両断してしまった。

やばい、本気を出し過ぎたか?

 

「久しぶりに俺の勝ちですね」

 

「もぅ…今まで隠してたわね…」

 

「隠していたわけではありませんよ。

実際に此処まで形に出来たのは、一学期終了直前だったんですよ」

 

なので、実際に見せるまで三日のラグがあった。

それだけの話だ。

実際に見せたのは、これが四人目だ。

千冬姉と簪とマドカにも見せていた。

ラウラと闘った時よりも、更に速くした。

だが、まだ納得はしていない。

もっと速く、強くなれる、俺はそう信じている。

 

「白兵戦なら、学園最強ね」

 

「それ以外なら、まだ楯無さんに負けますよ」

 

「当然♪

お姉さんは簡単には負けてあげないわよ♪」

 

胸元から扇子を取り出し、それを開く。

そこには『私こそが学園最強』。

相変わらず千冬姉を忘れているらしい。

あの人が居る限り、誰も『学園最強』を名乗れないだと思うのだが。

 

そして、そろそろその扇子を分解させて下さい、お願いします。

復元出来る自信は有りませんが。

 

「手も足も出ないなんて悔しいわ…」

 

「…なんかすみません…」

 

試合に勝って勝負に負けた、そんな風景だった。

 

 

 

「やれやれ、疲れた…」

 

楯無さんを相手にしてから以降、更織家に仕える人を相手にするハメになった。

その数、軽く100を越えた。

勘弁してくれよ…。

なお、勝率は8割。

本気は隠していたから仕方ないだろう。

終わった頃には時間は夕刻。

なので大浴場を借りて、体を休める事にした。

風呂は好きだ、心身供に休まる。

今日は此処に泊まるか。

 

「あぁ~、休まる…」

 

…と、思っていたんだが…何故、こうなった。

脱衣所から幾つもの声。

…マドカに簪に楯無さんだ。

更には虚さんとのほほんさんも居るようだ…。

楯無さんのイタズラだな、これは…。

相変わらず俺を困らせて遊ぶのが気に入っているらしいな。

そして今回は簪とマドカと虚さんとのほほんさんも巻き添えかよ。

勘弁してくれよ…さてと、今回はどうやって対処したものだか。

 

・正面から堂々と出る。

一番ダメなパターンだな。

これでは弾と同類だ。

 

・窓から出る。

無理だ、此処の窓は嵌め殺しだから出られない。

それに服とかを置き去りにしていたら楯無さんが良からぬことを考える。

 

・湯船に潜って隠れる

コレも無理だ、息が続かない。

そしてバレようものなら殊更にヤバイ事になる。

 

・出入り口の脇に立っておき、全員が入ってきて視線が俺に向かないうちに飛び出す

…忍者でもない限り無理な話だな、うん。

 

「打つ手無しか…ん…?」

 

 

 

 

Tatenashi View

 

うっふふふ~♪

修練場では、手も足も出せずに負けてしまったんだもの。

で・も!こういう所では私は負けるつもりは無いんだから♪

 

「じゃあ、大浴場に行きましょう♪」

 

 

さあさあ♪

一夏君の困った顔、見せてもらうわよ♪

 

事務仕事に疲れたらしい虚ちゃんと本音ちゃんも誘った。

 

「ふむふむ~、お姉ちゃんは90か~」

 

「どこを見てるの、目測しないで。

しかも正確な数値だから殊更に腹立たしいわね!」

 

「お姉ひゃん、いひゃいいいひゃい、ひゃなひへ~!」

 

嘘…90!?

本音ちゃんも入学前の時点で90、下着をチラっと確認すると…91!?

そして虚ちゃんが90!?虚ちゃんにも越された…!?

 

「む、簪、また大きくなってないか?」

 

「…実は、ちょっとだけ……大きくなった…97…」

 

「…う…簪は姉さんに追い付いたのか…私はまだなのに…95までは育ったのに…」

 

「かんちゃん大きい~♪

いひゃい!いひゃい!」

 

「本音、自重しなさい」

 

何なのこの敗北感は!?

二人が私よりも育っているのは知ってるけど、そんなに大きくなったの!?

私は…89…。

…泣きたくなってきた…!

 

「あれ?お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「どうしたんだかな。

…簪は97…千冬姉さんは97…本音は91…虚さんは90…」

 

ボソボソと言わないでぇっ!

…くっ、こうなったら一夏君共々驚かせて鬱憤を晴らしてやるんだから!

 

「マドカちゃんは大浴場は初めてだったわね!

ついてきなさい!

此処が!更識家自慢の大浴場よ!」

 

そう叫びながら私は、浴場への扉を全力で開いた。

さあ、絶叫しなさい、一夏君!簪ちゃん!マドカちゃん!虚ちゃん!本音ちゃん!

バスタオルをしっかり巻いていない事を後悔しなさい!

 

大浴場は蒸気に包まれて中がよく見えないわね!

何が何でも捜すわよ!

 

「広~い!」

 

「マドカ、走ったら危ないよ!」

 

子供っぽい二人を自由にしておき、私は視線を右に左にと走らせる。

その間に虚ちゃんの本音ちゃんは体を洗い始めている。

それを横目に確認しながらも大浴場全体に視線を走らせる、でも一夏君らしい姿は見えない。

何処に行ったのかしら?

…う~ん…?

此処って抜け道とかは無かった筈なんだけど…?

 

 

Ichika View

 

やれやれ、危なかった。

下手をすれば、簪やマドカからの評価が一気に落ちる所だった。

付け加えていうのならのほほんさんと、虚さんからもだ。

浴場の天井の板が動くのを偶然発見し、そこを使って逃げ出した。

脱衣所にて素早く着替えを掴み取り、梁の上でとっとと更衣、それから通風孔から飛び出す。

やってる事が忍者のそれだ。

 

「あの人の悪戯心も何とかしないとな…ヘックシ!」

 

くそ!湯冷めした!

 

 

Madoka View

 

「はぅ…暖まる…」

 

お風呂はやっぱり良い。

心が休まるし、体の疲れが抜けていくのが実感出来る。

『お湯は少し熱いくらいが調度良い』

それが織斑家での基本、というか兄さんと姉さんの談。

私もどっぷりとそのポリシーに従っていた。

 

「それにしても…」

 

私の視線は天井から右へと移る。

そこには簪の姿。

お湯に浸かっているから、顔が少し赤い。

そしてその顔の前にはプカリと浮かんでいる二つの膨らみ。

 

「どうしたのマドカ?」

 

「…どうやったらそんなに大きくなるんだ?」

 

「…ふえぇっ!?」

 

あ、また顔が赤くなった。

のぼせたのか?

いや、この際どうでもいい。

私の疑問には答えてもらうぞ。

 

「だってそうだろう。

私と簪は食生活は殆ど同じ、運動の量だって変わらない。

なのに簪は97で、私は95だ。何か秘密にしてるんじゃないのか?」

 

「それは私も知りたいわね簪ちゃん?

ほ~ら、お姉ちゃんに教えなさ~い?」

 

「かんちゃ~ん、私にも~♪」

 

「本音、自重しなさい…」

 

「してない!何もしてないから!

お願いだから三人供、その手の動きをやめてぇっ!?」

 

…簪が錯乱寸前になってる。

なら辞めておこう、簪は私の親友なんだ、嘘は無いと信じる。

 

「そうか、何もしてないのか…」

 

 

 

Kanzashi View

 

マドカのとんでもない発言に私は真っ赤になってしまった。

お風呂だけのせいじゃない、本当に恥ずかしいからやめてほしい。

 

「本当に何もしてないから。

それはマドカも知ってるでしょ」

 

「…だよね…」

 

IS学園に入学する直前にはお姉ちゃんを越えてた。

思い返してみれば…一夏と恋人同士になってからどんどん大きくなった気がする。

でも、他に何か有ったかなぁ?

やっぱり胸が大きくなるような事は…うん、してない。

 

「簪ちゃんにもマドカちゃんにも越されるなんて…それどころか虚ちゃんにまで越されるだなんて…」

 

「なんで私を基準にしているんですかお嬢様…」

 

「…さっき雰囲気が暗かったのはそれか…」

 

「…そういう事だったんだ…」

 

なんとなく理解出来た。

胸のサイズは女の子にとっては、いつの時代でも悩みになる。

私やマドカだって例外じゃない。

中学生の頃は凄い悩んだ。

お姉ちゃんはどんどん大きくなってたのに、私はなかなか大きくならなかったんだから…。

なのに、ある時期からは私もマドカも育った。

私は一夏と交際を始めてから、マドカは千冬さんが日本に帰国してからだったかな?

今ではお姉ちゃんに勝つ少ない要素だ。

 

「簪、後で牛乳を飲もう」

 

「うん、そうだね」

 

お風呂の後には牛乳、これが私とマドカの日課。

…これが原因かも。

 

「お姉ちゃんも牛乳、どう?」

 

「その笑顔が憎い!

簪ちゃんがそんな笑い方をするなんて知らなかった!」

 

「楯無先輩、牛乳飲む?」

 

「マドカちゃんまで!?

もうやめて!私のSE(シールドエネルギー)は0だから!

お姉さんをこれ以上いじめないで!」

 

 

「お姉ちゃん」

 

「楯無先輩」

 

「楯無様~♪」

 

「「「牛乳飲む?」」」

 

「飲~ま~な~い~!」

 

一夏をさんざん困らせてばかりだったんだから、これくらいの仕返しは許されると思う。

それに凄い優越感だった。

虚さんは苦笑していたけれど、まあ良いかな。

お風呂から出た時には、お姉ちゃんだけがゲッソリしていた。

 

お風呂からあがってから、私とマドカは台所に直行。

料理長に頼んで牛乳をもらった。

うん、冷えてて美味しい。

 

「お、簪にマドカ、風呂からあがったんだな」

 

牛乳を飲んでから部屋に戻る途中、一夏の姿を見つけた。

今まで刀を振るい続けていたのか、顔は汗に濡れていた。

 

「一夏もお風呂に入ったら?凄い汗だよ?」

 

「…そうするよ」

 

「…?」

 

何故か分からないけれど、一夏は苦笑いしてる。

何かあったのかな?

けど一夏は何も言おうとはしないから、私も追求はやめておく。

聞かれたくない事は誰にだってある。

きっと一夏にも。

 

「やっぱりこの屋敷の人達は強いな。

今の今まで勝負してたけど、完全に時間を忘れてたよ」

 

「い、今までやってたの!?」

 

「ああ、だから分かった。俺は…まだまだ強くなれる。

だから、頑張るよ、俺は」

 

屈託の無い一夏の笑顔。

私はどうしようもなく見惚れた。

それに…惹かれた。

これだから一夏はかっこいい。

一夏は私だけのヒーローだって思える。

 

「ヒーローみたい…」

 

「そうあれるように頑張るさ」

 

 

一夏が私の頭を撫でてくれる。

それも好き。

手はちょっとだけゴツゴツしてるけど、なぜかとても気持ち良い。

それに…落ち着く…。

 

「じゃあ、俺は風呂に入って来るよ。

後で部屋で会おう、夏休みの課題は早めに終わらせておきたいからな」

 

「そっちも頑張ろうね」

 

早く終わらせて、時間を確保しよう。

そうすれば、一緒に過ごせる時間は長い方が良い。

感情を失ってしまっていたんだから、一夏には少しでも多くの思い出を作ってあげたい。

その隣には私も居よう、一緒に時間を過ごして一緒に思い出を作ろう。

 

「今は部屋で待ってよう、お茶も用意しなきゃ」

 

用意するのは…冷えた麦茶が良いかな。

それから課題の冊子も用意をしないと。

マドカは…やっぱり来るかな。

出来れば二人きりが良いんだけど…まず無理かな。

 

 

 

Ichika View

 

やれやれ、ようやく落ち着いて風呂に入れそうだ。

さっきは楯無さんが突貫してきたから、まとも風呂に入れなかったからな…。

今度はゆっくりと湯に浸かれそうだ。

でも、そんなに長い時間は使えないだろう。

簪が部屋で待ってくれているんだ。

 

「とは言え…やっぱり風呂は良いな」

 

風呂は魅力的だ。

どうしようもなく長い時間を過ごしてしまう。

心身の疲れがどんどん抜けていくのが分かる。

今度こそ全ての疲労を取り払っておこう。

 

「…………」

 

ふと、自分の体を見てみる。

両肩、腹部には銃で撃たれた傷痕、左手の甲には十字架。

もののついでに腹部には二つの大きな傷痕まで増えている。

随分とボロボロになっているよな…、俺は。

左手の十字架、それを隠す為の手袋を外す事は…きっと今後も無いだろう。

そう思ってしまう俺は…弱い…。

いつかこの弱さを克服出来るのだろうか?

乗り越えられるだろうか?

向き合えるだろうか?

…きっと目を背け続けるだろう、受け入れてくれる場所を求め続けて…。

 

「さてと、そろそろ出るか…」

 

充分に体は温もった。

簪を待たせ続けるのも気分が悪い。




懐かしい場所なのに、思い出されるのは妙な記憶ばかり

だが、それほど悪い気分でもないのは何故だろうか

そこにはきっと大切な思い出が詰まっているからかもしれない

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 苦眠 ~』

色々とツッコミ所が満載だが最後の偏見に満ちた情報は誰から聞いた

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