IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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夏休み直前だなんて羨ましい。


陽炎 ~ 開始 ~

Ichika View

 

一学期の期末試験も終わった。

テストの成績は…まあまあだった。

順位は…152名中25位。

因みに

1位 簪

2位 マドカ

3位 ラウラ

4位 メルク

5位 シャルロット

6位 セシリア

 

だった。

なお、鈴は26位だとか言ってたか。

操縦技術に関しては、

 

1位 ラウラ

2位 マドカ

3位 簪

4位 メルク

5位 俺

6位 シャルロット

7位 鈴

8位 セシリア

 

との事

 

福音討伐作戦の事は公には加算されていないので致し方ない。

が、ISの操縦技術で俺が此処まで上位に入っているのは予想外だ。

 

なお、形態移行(シフト・チェンジ)に至っているのは、俺と簪だけだ。

だが、俺の場合は形態移行(シフト・チェンジ)と言っていいのかは甚だ疑問ではある。

 

で、現在どうしているかというと…

 

「ぜらあああぁぁぁぁぁっっ!」

 

「ぐっ!?」

 

今日も俺は千冬姉を相手に剣術の訓練をしていた。

見物人として先ほどの面々が勢ぞろいしている。

 

「おお、千冬さんを下がらせた」

 

「試合を始めてから35分、新記録ですね!」

 

「一夏、頑張って!」

 

鈴もメルクも簪も楽しそうに見ている。

 

「姉さんも兄さんも頑張れ!」

 

「兄上!へこたれるな!」

 

マドカは二人まとめて応援、ラウラは俺の応援と忙しい。

 

「一夏、負けないでね!」

 

「油断大敵ですわ!」

 

シャルロットもセシリアも今日は珍しく体育会系だ。

そしてどっちかというと、千冬姉がアウェーになりつつある。

 

「やれやれ、オーディエンスはお前の肩を持つばかりのようだな」

 

「みたいだな、なぜかは知らないけどさ」

 

俺も少し困惑している。

なんでこうなったのか、と。

剣術の訓練の話が何故、一気に拡散したのかが分からない。

 

絶影(たちかげ)流…幻月!」

 

横薙ぎの斬撃は受け流される。

なら、逆手に握るナイフで・・・!

 

「影月!」

 

「ちぃっ!」

 

また一歩下がらせた!

即座に体の向きを変え、向かい合う。

そして一気に懐に入り込む。

逆手に握ったナイフで殴るように切り込む!

 

「いい攻撃だ、だが!」

 

「『逆月(さかづき)』!」

 

ナイフの向きを変え、今度は横薙ぎにナイフを振るう。

 

「先の攻撃は囮。

射程内に入った相手を死角から刺す、か。

よく考えたものだ」

 

「意表をついたと思ったんだけどな…」

 

振るう筈だった腕を受け止められていた。

死角も無いと言いたいのかよ…。

 

「だが、ここまでだな」

 

千冬姉の刀が俺の喉元に突きつけられる。

やれやれ…また負けかよ。

0勝75敗…まだ届かないのかよ…。

本気で悔しい。

 

「だが、また鋭い剣閃になってきたな。

並の輩では相手にならんだろう。

弟子を要したりしないのか?」

 

「俺は弟子を取らん」

 

どこぞで聞いた覚えのある台詞になっていた。

…多分、気のせいだと思うが。

だが…いつになったら勝てるのやら。

 

「お疲れ様、一夏」

 

「サンキュ」

 

簪からドリンクとタオルを受け取り、さっそく水分補給に入る。

飲むものは温めのスポーツドリンクだ。

何事も健康第一だからな。

 

「相変わらずよね~、アンタらは」

 

「「何か変?」」

 

「わ、わざわざ声を揃えてまで言うんですね…」

 

鈴は呆れ、メルクは苦笑いだ。

なんだ?なにかおかしなことでも言っただろうか?

 

「一夏さんは夏休みはなにか予定は有りますの?」

 

「ん?ああ、まあ、武者修行をな」

 

内容としてはオーストラリアとドイツへの渡航だ。

パスポートも入手しているので、使わない手は無いだろう。

それに、色々と見て回っておきたい事も有るからな。

オーストラリアには、マドカが世話になっていたウェイザー夫妻への挨拶、ドイツにはハルフォーフ副隊長に言うべき事が多々ある。

必要なら、ISでの勝負も辞さない。

 

「まあ、それも夏休みに入ってから一週間程経過してから始めるつもりだ。

それまでは、機体の開発元に行ったり、日本政府に行ったり、自宅の片付けも有るからな。

それと、顔を見せに行かなきゃならないところもある

こっちもこっちで忙しい日々になりそうだ」

 

楯無さんが、厳馬師範とあってほしいとは行っていたが何用なのかは判らない。

ただ、あの楯無さんが酷くやつれているように見えてしまったのは気のせいではないだろう。

生徒会の仕事がたまっていた云々は別にして。

虚さんに訊ねてみても、妙な表情をして視線を反らされた。

…何が有った?

 

「ってー訳で、夏休みの大半は日本に居ないからな。

次に会うのは夏休みが終わってからか、もしくは終わる直前になる、かな」

 

旅支度はすでに整っている。

後はその時を待つだけだ。

 

「明日は終業式、か…一学期はあっという間に終わったよね…」

 

「まったくだ、時が過ぎ去るのは早いものだ」

 

「お前らは6月になってから転入してきたんだから早く終わって感じて当たり前だろう」

 

シャルロットとラウラのボケにマドカがすばやく反応した。

まあ、尤もな話だ。

 

「ラウラ、黒兎隊の皆は相変わらず駐屯地で訓練ばかりなのか?」

 

「うむ、先日…篠ノ之博士が国際IS委員会の頂点に君臨した前後には連絡が取れなかったのだが、今は相変わらずだ」

 

あの世界へのカミングアウトの前後に、ねぇ…。

それは少し気にかかるな。だが、問いただしても口を開くだろうか…?

軍には守秘義務があるからな。

 

「兄上、次は私と試合をしてくれないか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

だが今はそういった事を気にしておくべきでもないだろう。

体を動かしておこう。

さて、始めよう。

 

 

 

ちなみに、ラウラ相手に本気を出してしまった。

大人気なかったと反省はしている。

ISでの勝負もしてみたんだが…輝夜の性能が高すぎるため、近寄ることもできないという始末だったりする。

ペイシオ、レイシオ、ウォローの使用は今後は控えておこうと流石に思った。

 

「じゃあ、次は僕が相手をするね」

 

「ああ、頼む」

 

シャルロットが右手にアサルトライフルを構える。

俺は右手に雪片、左手に天龍神を構える。

俺は強く自己暗示を行い、発作を無理矢理に抑え込む。

感情のほとんどが戻ってきていても、未だに『銃』に対するトラウマは拭えていない。

 

「試合開始!」

 

「先手必勝!」

 

途端にシャルロットがアサルトライフルを撃ちまくる。

牽制射撃は無視する。

直撃すると思われる弾丸だけを弾き飛ばす。

両手のブレードだけでは足りない。

脚部のプラズマブレードをも展開し、それも使う。

 

「嘘ぉッ!?」

 

両手の刃で弾丸を弾き、両足のブレードで弾丸を蹴り飛ばす。

千冬姉の剣技は『柔』と『剛』、そして『正確さ』にある。

『絶影流』の真髄は『速さ』にある。

体をどれだけ早く動かせるか、刃を如何に早く振るえるかがミソになってくる。

だが、必然的に正確さは欠けている。

それを補う為の『速』だ。

 

時には体を上下逆転させてでも弾丸を弾き、蹴り飛ばす。

アサルトライフルの弾丸が途切れる。

だが、『高速切替』で愛銃である『レイン・オブ・サタディ』が展開される。

その隙に俺は瞬時加速で懐に入り込む。

白式とは比べ物にならない速さにシャルロットも怯む。

左手でシールドピアースを撃ちこもうとするが、俺から見れば遅い。

 

「『幻月』!」

 

物理シールドが接続されている部位を切り飛ばした。

 

「嘘ぉっ!?」

 

さっきと驚きようが同じだぞ…。

だがそんなくだらない事に構っていられない。

 

「絶影流『円月』!」

 

急速旋回からの背面回し蹴りは今度はシャルロットの銃を吹き飛ばす。

だが、今度は『ガルム』を展開する。

しかも両手に。

銃ばっかり展開してんじゃねぇよ!

 

「『幻月 双華』!」

 

正面から袈裟斬りに、背後に回って逆袈裟斬りにする。

 

「速過ぎるよ!」

 

「今更だろう」

 

シャルロットが振り向くよりも前に俺は両手の刀を上空に放り投げ、右腕の兵装『龍咬』を開く。

こいつは高性能な兵装だ、格闘、射撃にも使える。

龍の牙には昏い光が宿っている。

そしてそれらを一斉掃射する。

 

ドガガガガガガガガガガァンッ!

 

「うわぁっ!?」

 

10連射撃攻撃『スプレッドパルサー』が全て着弾し、爆発を起こす。

ダメージが大きかったらしく、シャルロットは吹き飛び、姿勢を崩す。

その間に俺は龍咬を閉じ、落下してきた刀を掴む。

刹那、二度目の瞬時加速を行い接近。

刀を突きつけた。

 

「俺の勝ち、かな?」

 

「一夏、狡いよアレ…」

 

「何がだ?」

 

「背面からのゼロ距離射撃だよ…。

あんなの躱せないよ…」

 

そうでもないんだけどな…。

楯無さんは避けずにすべて水の障壁でガードしちまってたからな。

あの障壁は苦労しそうだよなぁ。

俺の太刀筋を正確に予期して水の障壁を事前に用意したりとか…。

とは言え、楯無さん相手になったら、それこそ本気で挑まなければならないからな…この夏休み中は本気で修業しないとな。

 

ん?メルクが何やら落ち込んでいるみたいだが…集音してみようか。

 

『あんまりにも速過ぎます…イタリアの威厳が…』

 

…まあ、その、なんだ…スマン…。

確かにコイツは速過ぎるんだよな。

イタリアのIS開発コンセプトは『世界最速』だ。

それを余裕で飛び越えてしまっている『輝夜』の前では霞んでしまうのかもしれない。

 

 

それ以降は、各自、束さんからもらった武装を扱いきれるように訓練を積み重ねていた。

マドカには剣の扱いを俺から教えておく。

だが、マドカに与えられた『祈星』から出力されるブレードは、刃渡り4メートルとなかなかにデカイい。

無論、抜刀居合なども出来るわけもないので、基本的な太刀筋をふるえるように教えておく。

セシリアは、大出力カノンだが、やはり反動が大きい為、一撃放つと3メートルほどバックしてしまうようだ。

純粋に威力だけなら、此処に居るメンバーの中ではラウラのリボルバー・カノンやパンツァー・カノニーアにも並びそうだ。

輝夜が放つ『エクサフレア』には流石に遠く及ばないだろうが。

なお、『エクサフレア』に関しては学園内では使用は禁止されている。

理由は簡単だ、『アリーナを丸ごと吹き飛ばしかねない』からだ。

『逆鱗』に関しても、新たな武装の精製は禁止されている。

と言っても…既に展開可能になっている武装は1000を軽く超えて300000に至っている。

武蔵坊弁慶も顔負けの数だ。

シャルロットが操る『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は『飛翔する火薬庫』などと言われているが、輝夜は言ってしまえば『飛翔する武器輸送船』だろう。

収納できる武器の数は比べ物にならない。

 

ラウラは束さんからもらった武装を自在に操れるようになってきている。

ハイパーセンサーを用い、即座にシールドを背後に動かしたりできるようになった。

 

 

鈴は青竜刀を両手に持って振り回していたからだろう、刀に代わっても問題はなさそうだ。

そこから放たれるレーザーの射撃もターゲットに当たるようになってきている。

 

「ねえ、『絶影流』をアタシにも教えてよ」

 

「あのな…お前は剛剣の使い手だろうが」

 

「メルクはOKでアタシはダメだっての?」

 

「メルクにはタッグマッチトーナメント優勝するために最低限度の技しか教えていない。

本人だけの戦い方ってのを否定し兼ねないからな。

それに俺は弟子を取らん」

 

「お兄さん!?

私は一番弟子じゃないんですか!?」

 

メルクの絶叫が聞こえてくるが、あえてスルーした。

メルクは俺の弟子だなどと言われているらしいが、俺はそれを肯定した覚えは無い。

メルク当人の自称でしかない。

 

俺は弟子を取らん。

 

メルクの訓練を見ると、ブーメラン型の武装を自分の周りに旋回させ続けながら射撃を行うという離れ業をやってのけている。

 

攻撃に使うだけでなく、相手の接近を封じる戦法にも使えるらしい。

タチが悪ぃ…。

 

シャルロットと言えば、脚部装甲武装なので、蹴り技の伝授を願ってきたので、最低限度にだけ教えておいた。

残る時間は高軌道訓練に費やしている。

 

簪はダブルセイバーの扱いにも長けてきている。

もともと扱っていたのが薙刀だけに、扱うのも容易なのだろう。

 

俺はと言えば、射撃攻撃訓練に勤しんでいる。

六条氷華と、龍咬での射撃の命中精度は…システムアシスト無しで…70%くらいには届いただろう。

 

一年生の専用機所有者が全員集合してきているので、それの見物に来ている姿も観客席にもちらほらと見える。

楯無さんの姿も見える。

開かれた扇子には『見物中』と無駄に達筆。

至極今更なのではあるが、あの人は何故あそこまで扇子にこだわるのだろうか。

まあ、話すと長ったらしくなりそうなので気にしないでおこう。

 

IS学園一学期も間もなく終了、長い日々だったな…

 




少年達の一学期はようやく終わった

幾度もトラブルは存在したが、ようやくかつての日常に戻る

だが、少年の苦難はまだ続くのかもしれない

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 懐所 ~』

お姉さんをほっとくなんて酷いわよ!

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