IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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『ジョーカー』が動き始めます。


閑話 ~ 切札 ~

Tabane View

 

知らなかった

 

私を此処まで怒らせる輩が居るだなんて

 

知らなかった

 

私は本気でキレた時、笑いが込み上げてくるだなんて

 

なら、私は動こう

 

私が目指した夢へと一歩踏み出すために

 

いっくんが幸せな未来へと歩めるように

 

 

「やあ、久しぶりだねぇ、国際IS委員会の諸君」

 

国際IS委員会本部に、私は殴り込みをしていた。

だけど、この場で起きていることは世界中のだれもがいまだに知らない。

そしてここで起きていることは、この建物の外に情報が漏えいすることはない。

くーちゃんのISである『黒鍵』によって周囲には何も起きていないように見える。

そして『白錠』によって外界への情報の流出はすべて封じ込まれている。

 

「リズ隊!

3階の制圧を急げ!」

 

「了解!」

 

「マリー隊!議会場を制圧完了!」

 

「イザベラ隊!幹部議員の捕縛完了!」

 

今回、私とくーちゃんだけでも骨が折れそうなので、いっくんの旧知である彼女達、そして彼等の手を借りた。

彼女達の上に存在する人達の説得にも骨が折れたけれど、今回ばかりは、真実を知ると、彼女たちも快く引き受けてくれた。

 

「ガルンド議員はまだ見つからないのか!?」

 

 

「奴の捕縛を急げ!

今回の首謀者だ!亡国機業とは繋がってはいないが、今回のミッションは奴の捕縛が最大の目的だ!

 

「副隊長!15階よりラファール・リヴァイブが来ています!」

 

「我々のシュヴァルツに届くと思うな!

制圧しろ!」

 

「了解!」

 

黒の機体が展開され、緑の機体を押しつぶしていく。

その光景を横目に、私はサーバー本体を見つけ出し、ハッキングを開始する。

私の目的は、いっくんを亡き者にしようとした国際IS委員会会長である『ヴルーメ・ガルンド』の捕縛。

彼女を野放しにしておけば、今後もいっくんを狙い続けるだろう。

『世界唯一のイレギュラーなど排除すべき』などという信念ではなく『男のIS搭乗者の存在が気に入らない』という曖昧な理由だけで。

そして彼女は、先に逮捕されたデュノア社総帥の奥方である『アヴィーダ・ガルンド』の実妹。

アヴィーダの義娘であるシャルロットちゃんがいっくんに接触してから一週間程で緊急逮捕された為、その仇討のつもりなのだろう。

でも、アヴィーダが逮捕された事にいっくんは関与していない、ただ、切欠になったに過ぎない。

実際に動いたのは私なのだから。

 

『ベアーデ2!

地下施設占領を完了!

ヴィラルド中佐!応答願う!』

 

『こちらベアーデ1!引き続き作戦を続行しろ!

ベアーデ4!非戦闘員の避難を急がせろ!』

 

『ベアーデ4!了解!』

 

私が彼らに情報をリークした事で、彼等も本気になってくれているようだ。

これもいっくんの人望なのかもしれない。

 

「へぇ…ご丁寧にも日記とかも記録に残してるんだ…」

 

態々こんなところにデータを残しているとは…。

なるほどねぇ…シャルロットちゃんのお母さまが亡くなられた事故も、この姉妹が関与しているようだった。

デュノア社総帥の財産を残りつくさず食いつぶす為に嫁ぎ、世界唯一の男性IS搭乗者であるいっくんを排除し…呆れるほどに『女尊男卑』を地でいく人間だったようだ。

それも…私がISを発表する前から…。

だけど、それも此処まで。

私が動いたことでそれも終わる。

 

「現在の居場所は…屋上に近づいている?

そうか、ラファール・リヴァイヴで逃げるつもりなのか。

だけど、残念だね。

私が動いたからには、それすらもう終わってるってことを教えてあげるよ」

 

屋上ドアをもロック。

この建物は、ISに襲われた際を考慮し、実弾兵装だけでなく、光学兵装からの防御も出来るようにしている。

実弾しか扱えない第二世代機程度では、もうこの建物からは逃げられない。

 

「目標は現在20階に居るよ」

 

『了解!

イザベラ隊!私に続け!

我らの大恩人を亡き者にしようとしたあの女を何としても捕えろ!』

 

『イザベラ隊!了解!』

 

『マリー!了解!』

 

『リズ隊!了解!』

 

『こちらベアーデ6!

ISの格納庫を占領完了!』

 

『ベアーデ3!武器庫を占領完了!』

 

彼女達は奮闘してくれている。

ちーちゃんとの約束まで、残るは一日。

なら、それまでに片づけてしまおう。

FBI、ICP、そして日本政府を始めとして、世界中の万国に連絡を入れていく。

返答が次々と入ってくる。

私が入れた連絡には軽い脅しも含めていたけれど、世界中がそれに恐怖し従った。

「色好い返答に感謝するよ」

 

これで私の指名手配は完全に取り消された。

誰も私を追えないし、手出しも出来ない。

あのIS学園ですらも。

 

『来るなっ!来るなぁっ!』

 

『我らの怒りを思い知れ…ヴルーメ・ガルンド!

全部隊!制圧せよ!』

 

『はっ!』

 

どうやら20階での戦いは終わったようだ。

なら、総仕上げとしよう。

 

私がISを兵器とするのは、できればこれで最後にしたい。

私が求めたのは、地上と青い空に縛られた翼じゃない。

私が求めるのは、あの空を超えた先にある無限の星空。その星空の下では、不平等は無いのだと、星の輝きを、誰もが手にすることができるのだと思いたいから。

 

『ヴルーメ・ガルンドの捕縛に成功!』

 

さあ、最後の仕事だ。

 

「束様、『ジョーカー』の発動はいつでも可能です」

 

「くーちゃんもご苦労様。

さてと、国際IS委員会の諸君、本部は私が制圧した。

君達のトップも拿捕したから、無駄な抵抗は辞めて武器を下ろしてもらおうか。

さもないと…」

 

コンソールを呼び出し操作、途端にこの建物内から駆り出されたISが強制的に機能停止した。

これで動けるのは、私が今回要請したシュヴァルツとシュヴァルツェア・ツヴァイクのみ。

 

「女尊男卑だなんてくだらない。

ISが女性にしか動かせないのは、この世界の技術が未だに私に追いついていないからなのに。それに、そんな風潮は謳うのは勝手だけど、どこの国も推奨してないでしょ。

そもそも私もね。

なのに、私の大切な友達を…希望の欠片を奪うだなんて…許さないよ」

 

さて、と。

 

次に私は別のコンソールを呼び出し、国際IS委員会のメンバー一覧に目を通す。

くだらない風潮に染まらぬ者も居る筈だから、その人くらいは解放してあげよう。

 

「この人と、この人と、この人だね。

う~ん、やっぱり少数派なのかな…」

 

中には、本気でいっくんを守ろうと働いてくれている人も居るらしい。

これには素直に感謝かな。

 

じゃあ、明日に備えて今日は休むとしようか。

 

 

 

 

Ichika View

 

今日、篠ノ之の処分が下される。

千冬姉はクラスの移籍を妥当と考えていたらしいが、俺が一旦ストップを入れた。

まあ、別に反対するわけではないが。

腐っても幼馴染だからだろうか…?

遠ざけるのは簡単だが、結局それでは成長は出来ない。

だから、謹慎処分で済ませることにしてもらった。

 

「だが、良いのか?

今回ばかりは国際IS委員会も黙らせるつもりではいるが、お前はアイツに殺された側なんだぞ」

 

「自分の命の価値くらいは自覚してる。

俺が思っていた以上に重いって事もな。

生きているから、なんて言うつもりは無い。

けどさ、遠くに投げたからあいつは変われなかったんだ。

だったら、面倒を見てやるべきじゃなかろうかと思うんだよ。

それに学生の世話は教師の仕事だろ」

 

「む…」

 

こうやってい俺が千冬姉を言い負かすのは至って珍しい話だ。

だが苛立っているのだろう、机の下では行儀悪く俺の脚を蹴り続けている。地味に痛い。

 

「だが、お前の周りの奴がそれを許すと思うのか?」

 

問題はそこだよな。

簪は殺気剥き出し。

マドカは敵視。

ラウラも敵視。

鈴は見る度に威嚇。

メルクも印象が悪いらしい。

セシリアも印象が良いとは思えない。

シャルロットも同じく。

 

「これから篠ノ之本人がどうするか、だ。

『言葉無くして理解しろ』と言うのは難しいのなら、今度はあいつが『手さぐり』でどうするかだ。

その切欠は千冬姉が与えてくれたってクラスメイトの谷元さんから教えてもらったよ。

懲罰房で、今はじっくりと考えている頃だろうな」

 

「仕方のない奴め…だが、どうなろうとも知らんぞ。

まったく、お前は本物の莫迦か、それとも無駄に器が大きいだけなのか」

 

そんなの知るかよ…。

 

「切欠があれば、人は変われる。

『成長』か『変貌』かの違いはあるかもだけどな」

 

「…まあ、お前は前者だったのだろうな」

 

 

だと俺も願いたいけどね。

「だが、『手さぐりで』とお前は言ったな。

なら、お前から干渉をするな、けっきょくそれはあいつに対しての『甘やかし』でしかない。

『優しさ』と『甘さ』をはき違えるな」

 

「肝に銘じておくよ。

あ、そうそう。

今度の夏休みだけど、俺はオーストラリアとドイツに行ってくるから」

 

「そうか、気をつけて行って来い」

 

その前に、だ。

 

俺は鞄から二冊のノートを取り出し、千冬姉に手渡した。

そのノートのタイトルは『織斑家 秘伝料理レポート』だ。

俺が今まで作り上げてきた料理のレシピのすべてが載っている。

 

「…なんだ、コレは?」

 

「俺やマドカが居ない間の食事に偏りがあるとよくないからな。

これを見て料理ができるようになってもらいたいんだよ」

 

 

 

Chifuyu View

 

よもやこんなものを渡されるとは思ってもみなかった。

一冊目は『初級者用料理』なるものも載っている。

二冊目になると、ドイツで鍛えたであろう洋風料理も事細かに記されている。

だが…私は料理など出来んぞ。

 

「まあ、素で砂糖と塩を間違えるどころか、味の素を突っ込む千冬姉の為にも判りやすく書いているつもりだ。

これを見て練習してみてくれよ、言うなれば、俺から出す宿題ってところかな」

 

うまい事を言う奴だ。

だが、人の昔話をこんなところでサラリと暴露するな。

 

「それに、こういった修行をしないと、いつまで経っても貰い手が無いぜ?」

 

「余計なお世話だ!」

 

貴様も束と同じことを言うか!

一発殴らせろ!

 

「うお、危ねっ!?」

 

「避けるな!」

 

「無茶を言うな!」

 

途端に一夏は窓から飛び降りていく。

良いだろう…地獄を思い出させてやる。

お前の13歳の誕生日の記憶をな…!

 

 

 

 

Ichika View

 

余計なことを言ったかな…。

13歳の誕生日の記憶をふと思い出す。

俺はその日、自分の誕生日であることをすっかり忘れて朝早くから夜遅くまでバイトに明け暮れていた。

そしてバイトを終えて家に帰ると…鬼がそこに居た。

怒っている理由は当時は判らなかった。

だが、そのままでいるのはマズイと直感し、逃げ出した。

だが、千冬姉は容赦が無い。

俺が逃げれば追いかけてくる。

歩道橋を渡って、走って逃げれば、千冬姉は歩道橋から飛び降り、大型トラックのコンテナに着地して、そのまま追いかけてくる。

何故追いかけてくるのだろうかと考え始めた頃には、東の空は明るみ始めていた。

それでも意地になって逃げていたところ、千冬姉から連絡を受けていたであろう鈴にラリアットを受けて俺は気絶させられた。

その後だったな、先日が俺の誕生日だったと思い出したのは。

 

「うごっ!?」

 

後頭部に何か激突した。

何かと思ってみてみれば『出席簿』だ。

…ピッチングの実力も確かみたいだな…。

だが、当たり所が悪かった。

意識が朦朧とし、俺はそのまま木から落ちた。

擦り傷だけで済んだのは不幸中の幸いだったかもしれないが。

 

ちょっとは手加減してくれ…。

 

薄れゆく意識の中、そんな事を考えていたりする。

 

 

 

 

 

 

目が覚めたのは、1時間後だった。

痛む頭を摩りながら起き上る。

 

「携帯に着信?誰からだ?」

 

送り主は簪だった。

メール内容は…寮の娯楽室に来てほしい、との事だった。

今日も今日とて全力疾走。

やれやれ、忙しい日々だ。

 

 

 

 

 

「あ、お兄さんが来ましたよ」

 

「遅いぞ兄上」

 

「なにやってたんだか、この莫迦兄貴は」

 

「凄いニュースやってるよ、兄さん」

 

妙な呼び方をしている人が居たが、悉くスルーし、俺は簪の隣に腰かけた。

妙な呼び方については俺はすでに諦めの境地に至っている。

 

「で、呼び出した要件は何なんだ?

いや、別に要件も無しに呼び出されても文句は無いけどさ」

 

「さっきマドカちゃんが言っていた通り、凄いニュースが報道されているの」

 

ニュース、ね…。

楯無さんはお茶を飲みつつ苺大福を頬張り、虚さんはいつもと同じく澄ました風貌。

そしてのほほんさんは…床に正座させられていた。

彼女の足元に特大サイズの算盤が置いてあるように見えたのは幻覚だ、幻視だ、蜃気楼だ。

 

 

モニターが映り、そこには見覚えのある人物が登場する。

その人は、いつも御伽噺だとかの服装をしているくせに、今日に限っては何故か知らないが空色のレーディーススーツに身を包んでいる。

 

『世界中の皆さん、お久しぶり、もしくは初めまして。

この度、国際IS委員会会長に就任しました篠ノ之 束です』

 

はいいいいぃぃぃぃっ!?

 

因みに、別のチャンネルでは

 

『国際IS委員会旧会長である『ヴルーメ・ガルンド』女史が緊急逮捕されました。

容疑は、アメリカ・イスラエル軍事基地へのハッキングと殺人未遂です』

 

世間で何が起きているんだ?

 

だがニュースは続く。

逮捕云々の話はさて置いといて、国際指名手配犯があんなところで何をやってるんだよ…。

 

『私はこの世界に流れている風潮に対して異議を唱えます。

ISが女性にしか動かせない、ただそれだけで世間は大きく傾きました。ですが、私がいつ、その風潮を推奨したでしょうか?

その風潮を進めようとする国家が何処にあるでしょうか?

それを考えていただきたい』

 

その宣言に対して、世間は賛否両論だろう。

その風潮の原因はISであり、それを開発した束さんにある。

…だから、このままで終わるつもりなど無いのだろう。

 

『皆さんも知っての通り、現在、男性でありながらISの搭乗者となっている人物が世界に一人だけ存在します』

 

…俺の事だな。

 

『彼も世間に流れている風潮に苦しめられることもありました。

ですが、彼はその風潮を気にも留めていない。

そして、今回、その風潮『女尊男卑』などとくだらないもの踊らされた人物から『気に入らない』という理由だけで殺害される寸前に至りました。

一つの風潮、個人的なエゴ、ただそれだけで他人を蹂躙し、殺害に及んでもいいものでしょうか?

私はそうは思いません。

世間が彼を苦しめようとするのなら、私は彼を守ります。

世界にたった一人だけのイレギュラーなのだとしても、彼、『織斑一夏』君もまた、この世界に生きる一人の人間です。

一夏君が生きる権利を誰にも否定はできない、否定させない』

 

また過保護な事を言い始めたな…。

 

『その風潮が流れ始めた原因が私であることは否定しません。

ですが、皆さんには思い出していただきたい。

私が何故ISを作り、世間に発表したのかを。

私はISを作り出した理由を…夢を未だに捨ててなどいません。

いつの日か、宇宙を飛翔するその為に』

 

束さんが国際IS委員会会長か。

これで世間が動いてくれればいいんだがな…一人が動き始めたのなら、それは波のごとく広がっていくだろう。

これで動かないのは、風潮に縋り付く女と、ISを兵器と謳う連中と、それを用いるテロリストとかだろう。

束さんが皆に託した『星』は、彼女が最後に作った武器であり、願いなのかもしれない。

 

『無論、私が理想を掲げただけでは信じない人も多く居ることでしょう。

ですので、私も実際に行動を開始します。

IS学園整備課の顧問として、そして新たな学科として『宇宙航空学科』を来年から設立し、そこの担任として働きましょう』

 

凄ぇ事をカミングアウトしてるぞ、この人…。

だが、もう誰も束さんの動きを止められる人は居ないだろう。

数年後、もしかしたらISはその翼を地上と青い空からの戒めから解き放たれ、悠久の星空を飛翔しているだろう。

…俺もその星空を見てみたい。

だから、俺も束さんの授業を受けてみよう。

ここからが正念場だな。

俺もお前達(相棒)も…。

 




開発者はとうとう切り札を見せた

だが、それで世界が動くのかはわからない

そんな中、少年達は長い休みに突入する。

次回
IS 漆黒の雷龍
『陽炎 ~ 開始 ~』

オーディエンスはお前の肩を持つばかりのようだな

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