IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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都合がついたので連日投稿になります


姉妹との出会い

飛行機を幾つか乗り継ぎ、二日かけて俺は、故国の地を踏み締める事になった。

刀とコンバットナイフは厳重にケースに包まれ、封までされて荷物と一緒に運ばれてくる。

そして到着ロビー側の金属探知器にまで引っ掛かり、係員に必死に説明し、俺はロビーに訪れた。

 

「疲れた…ヴィラルドさんもラウラも、もっとマシな餞別にしてくれよ…」

 

おかげで心労が溜まるばかりだ。

その代わり、飛行機の中では、よく眠れたけどさ。

 

「…で…更識家の迎えってのは…何処だ…?」

 

国際空港の必要以上に、そして過剰な広さでは、迎えとやらを捜すのも一苦労だ。

それとも外か?

 

「…ん?」

 

出口の近くで、何か騒ぎが起きているようだった。

遠目には何が起きているのか…なんだ、ナンパか。

ナンパをしているのは、20代半ばの男が3人。

その餌食にされているのは、どこか気弱そうな女の子だった。

 

「警備員は何をやってるんだ?」

 

見た感じ、女の子は必死に抵抗しているのだろうが…いかんせ、その気弱さに付け込まれている。

そして男連中はそれを見越してベタベタと…。

見過ごせないし、助けておこう。

おっと、荷物を忘れずにしないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が近くにまで来ても、男達は女の子に詰め寄り続けていた。

 

「ほら、俺達と遊びに行こうぜ~」

 

「退屈はさせないって~」

 

「お金だって沢山あるから、暇はさせないよ~」

 

…ナンパするにもネタが古すぎるだろう。

女の子の方を見ていると…

 

「だ、だから…辞めてください…。

私は…此処で人を待ってるんです…。

遊んでる暇なんて…無い…」

 

服装を見る。

見た具合では、どこかの中学の制服みたいだ。

それにしても…同行者の一人も居ないのか?

まあ、いいや、助けておこう。

 

「そこまでだ」

 

女の子の肩に触れようとしていた男の手を掴む。

…あまり鍛えていないよのか、腕はやや細い。

 

「ああ、なんだテメェ?」

 

「ただの通りすがりだよ。

この子は嫌がってるだろ。

いい加減にしてやれよ」

 

「無関係な奴が手出ししてんじゃねぇっ!」

 

手を振り払われる。

そしていきなり殴り掛かってくる。

その手を掌で受け止め、更に腕を捩上げる。

ドイツ軍で受けた訓練が、こんなにも早く使う機会が来るとは思ってもみなかった。

 

「この野郎!」

 

二人目が蹴りかかってくる。

腕を捩りあげた男を楯にして受け止める。

もののついでに、そいつを投げ飛ばし、首に手刀を振り下ろし気絶させる。

 

「悪い、少しの間でいいから荷物を持っておいてもらえないか?」

 

「…え?あ、はい…」

 

絡まれていた女の子に荷物を渡しておく。

こんな所で喧嘩するにしても荷物を持っておくにしても邪魔になる。

預けた傍から落としそうになってるけど、気にしないでおく。

少し重かったかな?

 

「すかしてんじゃねぇぞテメェ!」

 

二人目が今度は殴ってこようとする。

側面に回るようにいなし、足を引っ掛けて転倒させる。

狙ったつもりは無かったが、そのまま頭を豪快に床に打ち付けて気絶した。

そして三人目は…

 

途端に周辺から悲鳴があがった。

三人目は、懐からナイフを取り出して俺を睨んでいる。

 

「邪魔してんじゃねぇぞガキがぁっ!」

 

「そもそもお前らの行動が問題だったんだろ…。

それと…そのナイフを仕舞えよ。

手加減がしにくくなる」

 

「死ねやぁっ!」

 

そのナイフを突き出して突っ込んでくる。

けど…そのナイフは酷く弱々しく見えた。

ラウラが振り回していたナイフよりも遥かに小さい、バタフライナイフだった。

 

「危ない…!」

 

女の子も悲鳴をあげる。

その声に視線を向ける。

何故だろう

 

そんな顔をさせたくない

 

心の底からそう思ってしまっていた。

 

三人目の男の手を受け止める。

バタフライナイフの刃は、俺の指の隙間をすりぬけている。

それを目にして信じられない物でも見たように、男の動きが完全に止まる。

その隙を突き、男の顔面を蹴り飛ばした。

これにて一件落着、と。

そして今になって警備員が詰め寄ってくる。

もうちょっと早く来てくれよ…。

 

「あ、あの…助けてくれて…ありがとう…」

 

「いや、礼は要らないよ。

こっちこそ荷物をいきなり預けて悪かったよ」

 

女の子の手から荷物を返してもらい、肩から提げる。

人捜しを再開しよう。

 

「こういう所へ来る時には誰かと一緒に来た方が良いぜ。

さっきのような連中も居るからさ」

 

「じ、事情が有って…」

 

事情…?

俺がとやかく言う事じゃないかな。

 

「あの…貴方の名前は?」

 

「一夏、…織斑一夏だ」

 

「…そうだったんだ…貴方が…」

 

ん?

俺の事を知ってるのか?

千冬姉の事ならともかく…何で俺を知ってるんだ…?

 

「織斑千冬さんから話を伺ってます。

更識家の者です。 この空港にまで迎えに来ました」

 

それが、俺と彼女との奇妙な出会いだった。

でも…

 

「いきなり敬語を使われてもな…。

さっきまでと同じようにタメ口でいいから」

 

それに歳だって同じくらいなんだから。

それから空港の駐車場に案内されると…強面の黒スーツの面々が並んでいた。

事情とはこれか…。

こんな人が大勢空港の到着ロビーに居ようものなら大混乱は免れないだろう。

俺だって絡むのは心底お断りだ。

だからこの女の子は一人で来ていたのかもしれない。

 

「…名前を言ってなかった。

私は簪、更識 簪です」

 

『簪』

 

その名前の響きに、不思議な心象を持った。

綺麗な名前だと思うし、だけど名前と違って飾ったようにも見えない。

どちらかと言うと…等身大の自分そのものを見せてくれていた。

 

「えっと…このまま更識家に直行なのか?」

 

「必要なものもあるだろうから、まずは貴方の家に向かう事になる。

それから更識家に案内する手筈になってる」

 

それは助かる。

けど…家か…一ヶ月振りに帰るんだよな…。

なんだか懐かしく思える。

けど、また半年に渡って空ける事になるのか…。

少し淋しいな…。

あれ?ホームシックになってるのか俺は?

子供かよ俺は…。

 

 

空港の駐車場を出てそのまましばらく車は走り続ける。

その間、更識さんは黙っていたままだった。

俺に向ける視線もどこか弱々しい。

 

「えっと…俺、何かしたかな?

まあ、空港であれだけ暴れてたら流石に恐がらせたかな、なんて思ってるけど…」

 

「そ、そんな事ないよ!

むしろ、その…格好良かったし…。

でも…その…男の人と接する事なんて無かったから…」

 

「機会が無かった?」

 

「私は…小学生の頃から女子校に通ってるから…」

 

…あ、成る程…。

そりゃ家族とか周囲の護衛(?)とか以外では男と接する機会も無かっただろうな。

それも同年代なんて知り合う事もなさそうだ。

ナンパされたあの場で恐がっていたのも納得だ。

俺も今後は気をつけよう。

 

 

 

 

 

 

一ヶ月振りに帰ってきた家はどこか殺風景に思えた。

ポストに関しては空っぽ。

千冬姉が私書箱を用意しているから、後々郵便局に行ってまとめて受け取る必要があるだろうな。

第一回モンド・グロッソ優勝直後は呆れる程のファンレターとか来て千冬姉もウンザリしてたから仕方ない。

 

「此処が貴方の家?」

 

「ああ、そうだ。

千冬姉と二人で暮らしていたんだ。

…ちょっと懐かしく感じるよ…」

 

家の鍵を開け、中に入る。

 

ただいま

 

そんな風に呟いてみるけど、当然ながら返ってくる返事なんて無い。

埃はそんなに積もっていない。

台所では、二人分の食器が整理整頓されたまま。

見慣れた筈の光景なのに、どこか見知らぬ景色にすら見える。

 

「少し、荷物をまとめてくるよ」

 

「私達は外で待ってる」

 

更識家でも使うと思われるものを集める。

気に入って使っていたマグカップ。

洗面具を一式。

あの日、持っていくのを忘れてしまっていた携帯電話。

履歴を見ると、千冬姉に鈴、弾と数馬からの着信で埋まってしまっている。

そういえば、ドイツでは厨房の仕事と訓練で一ヶ月の予定を全て使いきり、連絡の一つもしていなかった。

後で連絡を入れてみよう。

 

携帯電話をポケットに仕舞い、充電器もトランクに詰め込む。

着替えを幾つかもトランクに詰めた。

そうだ、学校の教材とかも必要だな、持っていこう。

 

そうやって荷物を用意して15分。

必要と思うものを全てトランクへ詰め込んだ。

 

「お待たせ」

 

「荷物、それだけなの?」

 

「ああ、あんまり多くなっても、それはそれで面倒だから」

 

後は…そうだ、学校への距離も伸びてしまうだろうから、自転車も持っていこう。

 

「自転車だけど…あれは流石に無理かな」

 

「大丈夫だと思う」

 

え、マジですか?

 

どうやら大型荷物の運搬の為にボックスカーも手配していたとか。

いや、そんな大きな荷物は用意するつもりは無かったけどさ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく車に揺られ、更識家へと到着した。

見た感じとしては…正に武家屋敷だった。

古い時代に建てられたのか、屋敷全体からそれらしい風格さえ感じさせる。

 

「立派な屋敷だな」

 

「そう?私は幼い頃から住んでるからよく判らない」

 

「はは、…そうか…」

 

自転車を下ろし、これまた立派な車庫に置かせてもらう。

それから荷物を持ち、更識さんと一緒に敷居を越えると

 

「お帰りなさいませ、簪お嬢様」

 

「おかえり~、かんちゃ~ん~」

 

二人の女の子が挨拶をしてくる。

更識さんはオドオドと対応をする。

この二人も苦手なのか?

 

「ようこそ更識家へ、織斑一夏さん。

お話は全て伺っております」

 

「初めまして、織斑一夏です」

 

失礼のないようにきっちり挨拶をしておく。

これから半年も世話になり続けるから、これくらいはしとかないと。

 

「お部屋は既に用意しています。

本音、ご案内してあげて」

 

「うい~」

 

眼鏡をかけた女の子に言われ、背丈の小さな子に指示を出す。

背丈の小さな子は…どこか人懐っこく…のほほんとしている。

まるでマンチカン種の猫みたいだ。

 

「おりむ~、こっちだよ~」

 

「…『おりむー』?」

 

後ろを振り返るが、そこには更識さんが一人だけ。

だが、更識さんは『かんちゃん』と呼ばれていたと思うが…?

 

「おりむ~?どうしたの~?」

 

「…俺?」

 

「『織斑』だから~、『おりむ~』なので~す」

 

あ、なるほど、そういう事か。

今までそんな呼ばれ方をされた事も無かったから反応出来なかった。

 

「じゃあじゃあ~、案内するよ~」

 

「は、はい、よろしくお願いします」

 

「敬語なんて使わなくてもいいよ~。

同い年だから」

 

…見えないから。

むしろ年下に見える、なんて言わない方がいいかもしれない。

それにしてもこの子…服の袖が妙に長い。

手が見えないレベルで。

長すぎるだろう。

 

 

 

 

 

 

少ない荷物を手に提げ、部屋への案内をしてもらう。

武家屋敷よろしく、中も純和風だった。台所に座敷、トイレに風呂など、屋敷全体を案内をしてもらう。

 

木造の内装がなかなかに見事だ。

 

 

「此処が、おりむ~の部屋になりま~す」

 

「判ったよ、ありがとう」

 

半年も使う事になる部屋、それも今から少し楽しみだ。

ドアノブを握り、扉を開いた。

 

「お帰りなさ~い♪

ご飯にします?

お風呂にします?

それとも、わ・た・し?」

 

バタン

 

即座に扉を閉じた。

あれ?

此処が今日から半年、俺の部屋になる筈なんだよな?

なんでその部屋に裸エプロンの女の子が居るんだ?

いや、俺の見間違い?

それとも、案内された先が間違ってたのか?

 

「おりむ~、どうしたの?」

 

「部屋、間違えてないんだよな?」

 

「うい、ここだよ」

 

そうか、間違ってないのか。

じゃあ俺の見間違いだったんだな。

よし、それでも念には念を入れて

 

コンコン

 

ノックをしておく。

返事は…よし、返ってこない。

俺の見間違いだったんだ。

テイク2、いってみよう

 

ガチャ

 

「お帰りなさ~い♪ご飯にします?

お風呂にします?

それとも、わ・た・し?」

 

バタン

 

再び閉じた。

見間違いじゃなかった!?

いや、見間違いの筈だろ!?

そうでなければ幻覚!?

 

「おりむ~、どうしたの~?」

 

「いや、なんでもない…」

 

テイク3だ。

よし、心を落ち着かせる為にも深呼吸だ。

当然ながらノックをしたが、返事はやっぱり無かった。

 

ガチャ

 

「お帰りなさ~い♪

私にします?

私にします?

それとも、わ・た・し?」

 

選択肢が無い!?

 

バタン!

 

ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…

 

深呼吸したのに息が荒くなっていた。

何の為の深呼吸だったんだ…?

 

「おりむ~?」

 

案内をしてくれた子も流石に心配しているみたいだし…。

 

「本音、何をやってるの?

あら、一夏さん、どうしましたか?」

 

「その…部屋の中に不審者が居まして…」

 

「不審者なんてひっど~い♪

お姉さん傷ついたわよ?」

 

その人が部屋の中から出てきた。

いつの間にかきっちりと服を着てるし…。

何者なんだ、この人は?

 

「何をされているんですか、お嬢様」

 

「うっふふふ♪

今日から男の子が一緒に住むって言うから、衝撃的な出会いを作ってみたのよ♪」

 

狙っていたのかよ…。

何と言うか…この部屋に居ても落ち着けそうにないな…。

ごめん、千冬姉。

俺は早速ホームシックになってきたみたいだ。

 

「退屈なんかしないって事を教えてあげたかったのよ、それも全力でね♪」

 

「喘息を起こさせてどうするんですか」

 

もっともな反論だと思います。

何やら言い争いらしき事をしている二人をそのままに、今度こそ俺は部屋に入った。

 

「…うん、悪くないな」

 

実家の部屋に比べると少し小さいけど、一人で過ごす部屋としては充分だ。

押し入れの中には布団もある。

それと、円テーブルも有り、勉強をするのにも使えそうだ。

本当にこの部屋は…悪くない、むしろ快適だ。

 

「ちょっと一夏君!

お姉さんをほっとくなんて酷いわよ!」

 

「こ、今度は何ですか!?

それよりも前に誰なんですか貴女は!?」

 

「あら、お姉さんったら名乗るのを忘れてたわね♪

初めまして、更識家十七代目当主、更識楯無よ」

 

「私も名乗り忘れていました。

お嬢様の補佐をしています、布仏 虚です」

 

「同じく~、布仏 本音で~す」

 

布仏 本音、略して『のほほん』。今後は親しみを込めて『のほほん』さんと呼んでいこうかな。

そして空港で出会った『更識 簪』さん、か。

 

四人の名前をきっちりと覚える。

…とはいえ…この先は苦労しそうだ。




暗部ガールズ全員に登場してもらいました。
楯無さんの登場にはアレは流石に衝撃が強すぎるかもしれませんね。
でも、誰だって驚愕すると思います、ドアを開けたら裸エプロンの美少女登場には。

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