それでは皆様一緒に御唱和ください
『何やってんの、のほほんさん!』
※R15描写が入ります※
そして例の機体の秘密が明らかに。
Ichika View
それからはラウラがテキパキと指示を出す。
サイレント・ゼフィルスに損傷が激しい鈴とラウラを担がせ、ブルー・ティアーズに福音の搭乗者を乗せる。
テンペスタ・ミーティオにはシャルロットを乗せる。
で、俺は簪を抱きかかえて飛ぶことになった。
「心配させた罰!」という事で簪は巷で言う『お姫様抱っこ』を所望してきたので、俺はその我が儘を叶えておくことにした。
簪の機体は
シャルロットとセシリアからの視線がきついが、極力スルーした。
で、そのまま旅館に戻ってきたのだが…全員まとめて千冬姉の鉄拳制裁を受ける羽目になったのは言うまでもなかった。
尋常じゃないほど痛い。
「まったく貴様らは…自分達のやった事を考えているのか。
学園に戻ったら相応の処罰を覚悟しておけ」
まあ、そうなるよな
「それと織斑兄、お前はこの後すぐに精密検査だ」
「了解です」
「だがお前たち…よくやった。
これはそう簡単に出来ることではない。
現在搭乗者は安静にしているが、アメリカとイスラエルからは機体もろとも切り捨てられた身だ。
彼女が今後どうなるかは分からんが、当分の間はIS学園にて保護することになった。
お前たちは…まあ、残る臨海学校を満喫しておけ」
背中を向けて長々と語るが…照れているんだろう。
なら必要以上に接するのは危険だろう。
だがまあ、空気を読めない人がいるわけで…
「織斑先生は堅苦しく言っていますが、実際にはとても照れてヒイイイイィィィィッッッ!!??」
空気を読んでください、山田先生。
この人、場を和ませるのは得意なのに、なんで空気を読むことが出来ないのだろうか。
至極今更ではあるのだが。
それから俺は精密検査をすぐに受けることになった。
特に何も異常はなかった、左手を見せることに関しては非常に抵抗はあったが、仕方なく受けた。
それに関しても異常はない。
十字架に侵食されている骨や神経に関しては相変わらずだ。
これに関しては気にしても仕方ない。
福音に串刺しにされた傷は、傷跡として残り続けることになった。なお、内臓も傷が完全に塞がっているようだった。
俺が本当に人間なのか疑いたくなってきた。
だが、それでも俺が人間なのは変えられない、そして逃げられない現実だ。
精密検査が終わってからは寝ることにした、当然翌日は寝坊してしまい、朝食を食べ損ねた。
Tabane View
戦闘が終わってから、私はまた姿を消そうと思っていた。
今回の事でまたデータを整理しないといけない。
私は昔から忙しすぎる身みたいだ。
「こんなところに居たか、束」
「やぁ、ちーちゃん、月が綺麗な夜だね。
月の兎が嬉しそうに跳ねてるんじゃないかな」
この会話も今となっては懐かしい。
夜に偶然会ったら、毎度こんな会話ばかりしてた。
でも、時間と世界は常に人間に残酷だ。
楽しかっただけの日々には帰らせてくれない。
「黒翼天の事をいろいろと訊きたかったんだが、答える気はあるか?」
「いいよ、答えられる事ならなんでも言っちゃうよ」
ちーちゃんは友達だし、冗談は言い合っても、嘘は言いたくなかった。
「それにしても白式は凄いよねぇ、搭乗者の肉体の蘇生能力まで有るだなんてね。
束さんもビックリだよ」
「そうだな、かつての白騎士のようだ」
白騎士の事なら私もしっかりと覚えている。
何せ、あの機体には
「お前が丹精を込めて作り出しだした最初のコア、ISコアナンバー001(The Origin)が搭載された機体だったな」
最初のコア?ちーちゃん、それは少し違うかな。
「なら、そのコアを作るのに過程として必要となった、試作機、プロトタイプコアはどこに行ったんだろうね?」
「…何!?」
言ってしまえば、『コアナンバー000』。
別名
世界に公表される予定の無かったコア。
でもそれをお披露目されないのが嫌で、コアナンバー『467』にしたかった。
あらゆる法則に支配されない、最も自由なコアとして。
けれど、そのコアは危険な方向に成長しようとした。
だから、予定を変更してそのコアを封印した。
災厄を呼びかねないものとして、コアナンバー
「更に問おう、黒翼天の開発元に関して、お前は『製造されていない、創造された』と言ったな、あれはどういう意味だ?」
「言葉通りだよ、『黒翼天』と称された機体は企業、国家、組織によって開発されていない。
黒翼天を作り出したのは…いっくんだよ。」
「有り得ないな。
あいつの左手に十字架をインプラントされたのは二年前だ。
一夏はそんな技術は持ち合わせていない」
「だからだよ、ちーちゃんが暮桜で戦っている記憶を参考に自ら作り出したんだよ。
いっくんにとって最強の存在、ちーちゃんをも上回る力の具現化。
誰よりも速く、何者よりも力強く、そして万物の中でもっとも自由な存在、それが龍だった。
『人の手で作り出されていない』すなわち『人の心によって作り出された』。
それ故に『製造』ではなく『創造』と言ったんだよ。
武器を無限に生み出していたけど、あれはコアの仕様だよ」
無限に武器を生み出す能力。
あんなものは確かに一つのコアで容量が圧倒的に足りない。
それが常識的な考え。
でも、あのコアは別格で、そんな常識や法則には捕らわれれない。
『無限拡張』
自ら武器を生成し、生み出した分だけ拡張領域が自動増幅し、減少する事が無い。
「私がISを開発する上での、最終目的世代、それが…『第十三世代』。
通称、『終世世代』…だった…」
そう、それすらもう過去形で語らざるを得ない。
いっくんは、無自覚なのか、自覚してなのか、それすら自力で超越した。
その条件、というか境界線は…駄目だ、私でも想像が出来ない。
『デュアル・コア・システム』なんて開発者の私にすらできなかった。
更には、あの戦闘の間に、二度に渡って空間転位を…言ってしまえば
宇宙の旅で必要になると思って私も開発をしてみようと思ったけど、結局出来なかった。
私にも出来なかった二つの事例を、いっくんは完成させ、使ってみせてくれた。
いっくんは…私をも越えた。
その果てに誕生したあの機体は『第十三世代』をはるかに凌駕し、いかなる世代をも超越している。
言うなれば『創世世代』
今のいっくんの新たな機体にはもう名前をつけたのだろうか?
何て呼べばいいのかは私にも分からない。
「黒翼天はどこにも存在しないわけじゃない。
ただ、そこに在るだけ、それじゃあ不満?」
「…一夏に黒翼天を植え付けたのは、お前ではないのだな?」
「束さんじゃないよ、むしろ私もそいつらを追っているんだから。
それと、福音の暴走も私は関係ないからね、国際IS委員会が馬鹿やって、搭乗者と一緒にいっくんを殺そうとして暴れてただけだから」
そう言って私は小型ラボに乗り込む。
いっくんにの背には大きな運命がのしかかっている。
もしかしたら押しつぶされてしまうかもしれない。
だから私が守らないといけない。
そ・れ・に!
いっくんは特別たった一人を決めるほどに成長してるみたいだからね!
「そうそう、四日後にニュースを確認してみて。
きっとすっごい驚くから」
「何をやらかすつもりなのかは知らんが…やり過ぎるなよ」
保証は出来ないなぁ。
私を本気で怒らせたんだから、その分の後始末はしないとね。
庭に目障りな虫が入り込んできたら、私は家ごと燃やして駆除する人間なんだからね。
「お前の妹だが、顔を合わせてきたのか?」
「うん、和解が難しそうなのが悲しいかな。
でも、私は思いっきり謝ってきたよ。
許してくれなかったけど、それでもいい。
これはきっと…私の一つの罪だから、背負って生きていくよ」
「私としては、あいつを別クラスへの移籍しようと思うのだがな」
それならそれでいい、情状酌量が出来るのかはまた難しい話だから。
「良いんじゃないかな。
頭を冷やすには、距離を開くのも重要だと思うよ。
いっくんの周りの娘達は箒ちゃんを許さないだろうけれど、それでもいつの日か和解できれば…手を取り合えれば、なんて楽観視し過ぎかな。『幼馴染』って言葉は免罪符じゃない。
友人以前、幼馴染以前、友達以前、何も無い所からの…ゼロからのスタートとなれば…」
「だが同時に、後も無い。
それを理解できれば良いが…」
箒ちゃんに欠落しているのは、相手を理解し、受け入れる『寛容力』。
相手を拒絶するだけで得られるものは無いのだと、ありのままの現実を見据えることが出来れば、いっくんともゼロからのスタートが出来るだろう。
いつの日か、それが出来る女の子になってくれればと私は願う。
「じゃあ、私は行くね。
先に戻ったくーちゃんも寂しがっているだろうから」
「ああ、またな」
「また会えるよ、モニター越しになるだろうけれどね。
それとちーちゃん、早く相手を見つけないといっくんどころかマドっちにも先を越されちゃうぞ♪」
「余計なお世話だ!!」
ちーちゃんが出席簿を振り回すよりもさきに私は移動ラボに飛び込んで移動を始めた。
じゃあねちーちゃん、いっくん、また会おうね。
Ichika View
朝食を食べ損ねてしまったが、こればかりは我慢しようと決めて、俺は左手に手袋をした。
予備の手袋を用意しておいてよかったと思う。
それに、今ではコレをしておかないとどうにも気分が落ち着かない。
それからシャワーを浴びて、制服に着替えてから俺は『ダブル』を抱えてビーチとは正反対側にある森の中の広場に来ていた。
臨界学校初日にも訪れていたこの場所は、剣術の特訓をする為に必要な環境を作ってくれている。
言ってしまえば此処はとても静かな場所だ。
「さてと、始めるか」
右手にバルムンク、左手にはナイフを持ち、構える。
そしていつもと同じ動きを繰り返す。
反復練習によって、決まった動きを繰り返すことなど、今の俺には造作も無い事だった。
だけど、今の俺に必要なのはスピードだと思っている。
刀も、ナイフも、そして蹴りも、だ。
視覚で認識できない速さであれば、防御もままならない。
そして常に先手を奪い続ける。
その練習を繰り返して、更識につかえている人達にも勝負を繰り返し挑んでいる。
今現在でも勝率は6割くらいだったか。
師範相手でもまだ1勝しただけだからなぁ…。
刀を振るい、逆手に握ったナイフを振るう。
流れるような動きで蹴りを繰り出す。
「もっと、もっと速く!」
進化した新たなISのスピード、あれに応えられなければ、俺は強くなったとは言えない。
初めて展開したものの、戦闘なんて一切やっていない始末だ。
「速く、迅く、もっとだ!」
光をも越え、光をも切り裂くような速さで!
万物をも断つスピードを!
そうやって刀を振るい、1時間が経過した。
気分転換のつもりで携帯電話を確認してみると、弾、数馬、楯無さん、虚さん、蘭の名前が着信履歴を埋め尽くしていた。
それも2分と待たずに再コールしている人ばかり。
ちょ、コレ、マナー違反…。
マドカから教えてもらったが、俺は世間では死んだことになっているらしい。
酷く失礼な話だが。
この人達には後で連絡を入れておこう。
「かんちゃ~ん、こっちこっち~♪」
「本音~、待って~!」
森の方から何か声が聞こえた。
…というか、このパターンには覚えがある。
どうやらのほほんさんが、またもやらかしたのだろう。
飽きないな、あの人は…。
おっと、精神集中だ。
深呼吸をしよう、それから剣に集中だ。
先程と同じように双刀を振るう。
空気を斬り、断ち、穿ち、刎ね、刺す。
空中に舞い散る木の葉を両断する。
刀で真っ二つにしたソレを、更にナイフで真一文字に切り裂き、十文字に斬られる。
「お~、おりむ~発見~」
…その声に完全に集中が切れた。
仕方ない、いったん休憩を挟もうか。
「また簪をからかってるのか、のほほんさんは」
「えへへ~」
断じて褒めてない。
少しため息をつきつつも、のほほんさんがその手に持っているものを見てみる。
先日同様、紫のビキニ…の上を握っていると思われる。
「おりむ~、おりむ~、ちょっと耳を貸して~」
もうその手に乗るか。また簪が悲鳴をあげようものならどうなる事か。
しかも今の俺は感情の殆どが戻っているから、タイミング次第ではポーカーフェイスなんて保つことも出来ないんだぞ。
「って何やってんだよ!?」
「え~?物干し竿?」
俺の刀は物干し竿じゃねぇよ!
そういう風に呼ばれていた刀は古来に存在していたらしいけど!
俺の刀は断じて物干し竿じゃないからな!
「本音!み、見つけ…た…」
…最悪のタイミングだった。
自由時間を満喫していたらしい簪は水着姿。
またもどこか妖艶に見える紫のビキニ…だなんて格好じゃなかった、上は着けていない…というか、あちこちで引っ掛けたのか、ボロボロになった布が細い肩からぶら下がっているだけだ。
楯無さんよりも大きくなったその膨らみが一切隠されていない。
丸見えだ。
のほほんさんを追いかけるのに、効率重視を選んだらしく、今はその掌は体を隠すことを忘れている。
前日は上半身だったが、今回は下半身まで…
って、ちょっと待て!
のほほんさんは今度は
非常にマズイ事態です。
なので俺は再び回れ右。
両手に刃物、しかも刀にビキニが括りつけられている。
ビキニの
そんな事をやらかしている男を世間は何と言うか。
言うまでもない『水着泥棒』だ。
「~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」
再び簪の声にならない悲鳴が響き渡った。
偶然にも吹いた風にかき消されて本当に良かった。
これで誰か来ようものなら『変態』『水着泥棒』『変質者』のレッテルを貼り付けられるところだった。
結局誰も来ず、命拾いしたが。
しかし…今回ばかりは
即座に回れ右だ。
だが、一度見た光景は瞼にも脳裏にもしっかりと焼き付いていた。
「そ、その…み、見た…?」
「…す、すまん…全部見た…」
素直に白状した。
土下座してでも頼み込んでも構わない。
不名誉な二つ銘だけは御勘弁していただきたい。
「その…何だ…責任は背負う」
「~~~~~~~~~~!!!!!!!!」
偶然だろうか、またも風が都合よく流れてきて簪の悲鳴は掻き消された。
ただし
「やはははは!
あ~はははははははははははははは!
お、お腹がよ、よじれる~!
く、苦しい…!
あ、あははははははははははははは!」
のほほんさんの笑い声だけが響いていた。
「おりむ~、拳骨、痛い…」
「これくらいは安い代償だろう、ったく。
簪も気をつけろよ、どうやらのほほんさんは油断も隙も無いみたいだからな」
「うん、気を付けるね…本音、学園に帰ったらお仕置き倍増どころじゃ済まないんだから」
「かんちゃんも酷い~…」
自業自得だ。
なお、学園にて過ごしているであろう虚さんにはメールでのほほんさんのイタズラを伝えておいた。
かなりきつい折檻が待っているであろうが、俺も簪も助ける気が無い。
なお、メールの内容には、俺が簪の全裸を見てしまったことに関しては書かないでおいた。
「のほほんさんも、イタズラはこれっきりにしとけよ。
簪が困るようなことがあれば、俺が出てくるのは分かってるんだろう?」
「うい」
微妙な返事を耳にしながらも、俺は剣術特訓に戻ることにした。
前回同様、のほほんさんは簪の椅子になっていた。
簪には、体を冷やしたりしないように、俺の制服の上着とカッターシャツを羽織らせておいた。
俺の服を羽織っているのが嬉しいのか、ご満悦の表情をしている。
スカートの代わりに腰にはブレザーを巻き、上にはカッターシャツだ。
懐かしくも、簪の笑顔を見られて本当に嬉しかった。
そうだ、俺はこんなにも簪の笑顔が好きなんだ。
どうしようもなく、誰よりも好きなんだと、俺は実感が出来るようになっていた。
だから、守ろう。
この愛しい微笑みを。誰よりも愛する大切な人を。
「誓うよ、もうこの手を離したりしない」
俺の一生涯の誓いだ。
俺たちの心を繋ぐ絆の誓いだ。
翌日
臨海学校最終日。
「とうとう終わったな、今期の臨海学校も」
「波乱万丈だったけどね」
だよな、俺は海にはとうとう赴かず、刀を振り続けたり、一度死んだり、生き返ったりと並みの人間ではない経験をした。
だが、俺は人間だ。
「お兄さん、記念写真撮りませんか?」
メルクの意見に頷いて返し、マドカが早速カメラを荷物の中から取り出す。
「兄上、私も一緒に映るぞ!」
「だったらアタシも一緒よ!」
「兄さんの左側は私がもらった!」
ラウラも鈴もマドカも朝から元気一杯だ。
そして俺の右側にはいつも通りに簪が。
「わたくしもご一緒してもよろしいかしら?」
「あ、じゃあ僕も!」
セシリアもシャルロットも一緒に撮影することになった。
旅館の従業員を捕まえ、シャッターをきってもらう。
学園に戻ったら写真部に頼んでで現像してもらおう。
きっと、この写真の中の俺は、今まで出来なかった笑顔になれているだろう。
臨海学校も終わり、少年は少女達と共にあるべき場所へと帰る。
そんな中、彼は新たな苦労を負うことになる。
次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 永遠 ~』
まあ、こんなのも時には悪くないか