IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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福音編はそろそろおしまいになるかもです。


麗銀輝夜 ~ 天羅 ~

Chifuyu View

 

モニターには現在の戦況が移されている。

全員の一斉掃射が行われ、シルバリオ・ゴスペルの反応が途絶えたが、自己修復により、蘇った。

その直後にボーデヴィッヒ、凰、マドカ、アイリスが続けて撃破されていく。

この状況を見ているしかできないことが歯痒い。

できるのなら、私もあの場所にて戦いたい。

だが、それすら出来ない。

 

「戦闘海域に所属不明機が急速接近!」

 

「所属不明機だと!?こんな時に!…映像を出せ!」

 

「了解!」

 

最大望遠でモニターに移される。だが、それはそれこそ一瞬だった。

速すぎてモニターに映らない。こんなスピードを出せる機体を私は知らない。

世界最速レベルのテンペスタ・ミーティオでもこんなスピードは出せないだろう。

ましてや、白式が瞬時加速をしても、このスピードまでは届かない。

それどころか黒翼天をも凌駕している!

 

「なんなんだ、あの機体は!?」

 

「全世界のISカタログスペックデータに該当する機体も存在していません!」

 

そんなことは分かっている!

どこの誰だ!

この重要な作戦が行われている海域にまっすぐ突っ込んでいる大馬鹿者は!

 

所属不明機に搭乗しているのは何故だ?

白式ではない?

考えられる可能性は…束か!

 

「束、貴様、一夏に何をした…!」

 

相も変わらずこの旅館に居座っている女を睨む。

一時、姿を消して専用機所有者に何かをしていたようだったが、何か関係があるのか?

 

「私は何もしてないよ。白式だって特に何も調整はしてない。

私はデータを観察しただけだよ、黒翼天だって私にも何もできなかったし」

 

「だが、予想は着いているんだろう」

 

「まあね…黒翼天は…そして、今出現したあの機体も『製造』されたものじゃない、『創造』されたってことだけをね」

 

 

 

 

Ichika View

 

その瞬間に、その場の全員の動きが止まっていた。

戦闘を必死に続けていたセシリアとメルクもだ。

岩礁にてようやく再起しはじめたマドカ、シャルロット、ラウラ、鈴も。

そして…福音ですらも。

 

「いち、か…なの…?」

 

「ああ、心配かけて悪かったな、簪」

 

「一夏、一夏、…うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

また、泣かせてしまったな。

ずっと笑顔のままでいてほしいと思っていたのに…。

 

 

 

福音は俺から距離を開き、視線を俺に向けてくる。

とはいえ、搭乗者の視線ではなく、機体に搭載されているであろうAIがこちらが警戒しているのだろう。

 

『カタログ参照、該当無し、速度から計算、警戒レベルAと判断、殲滅する』

 

どうやら本気でかかってくるらしい。

だったらこっちも警戒しよう。

それも本気で戦わなければ、こっちがやられる。

 

「ずいぶんとやってくれたな。

この借り、倍にして返してやるぜ!」

 

思い描いたのは日本刀、その形状の武装が一瞬で精製され、拡張領域が増幅、武装が登録される。

日本刀型装備『黒条』『黒羽(くれは)』を交互に振るい、更に蹴りを編み込む。

福音はプラズマブレードを両腕に展開し、切り結んでくる。

高機動広域殲滅型と言えども、近接戦闘能力もかなりのものだ。

 

「ちぃっ!」

 

距離を空けられた、そして襲ってくるのは

 

『Laaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

広域殲滅射撃、白銀の鐘。

自分の周囲への一斉射撃をばら撒く厄介な装備らしいが、第二形態移行後はそれを調整できるようになっているようだ。

真正面に居る俺にその一斉射撃を集中させてきている。

1対1ではこの射撃には対処ができないだろう。

だが、今ならそれが可能だ。

 

「いくぞ、輝夜!」

 

両手の刀を上空に投げる。

だが、落ちることはなかった。

二振りの刀はそのまま空中に留まり、その切っ先を福音に向ける。

それだけじゃない、俺の周囲に膨大な数の刃が現出する。

数は200を超えた。

その分拡張領域がさらに増幅し、武装が登録されていく。

200から1500、さらに7000、19500、300000!

 

「さあ、射撃勝負と行こうか!」

 

刀、小刀、太刀、日本刀、蛮刀、曲刀、槍、薙刀、大鎌、ありとあらゆる刃が切っ先を福音に向け、次々に矢のように飛んでいく。

白銀の鐘でいくつかは粉砕されるが、それでも刀剣は福音に命中していく。

シールドに阻まれながらも確実にシールドエネルギーを削っていく。

 

「そして射撃の後は…!」

 

瞬時加速!

 

『警戒レベルをAからSに変更、抹殺する』

 

上等!やれるものならやってみろ!

 

白銀の鐘の射撃範囲をさらに狭くしてきた。

弾幕で確実に撃ち抜くつもりだ。

しかも絶え間のない連続射撃だからタチが悪い!

だが…相手が悪かったな!

 

瞬時加速を解除、射撃で幾らかシールドエネルギーが削られるが、そのまま接近する!

雪片弐型と雪華を抜刀し、レーザー刃を展開させる。狙うのはエネルギーで構成された両翼だ。

 

『La♪』

 

だが流石は高機動機、ギリギリで回避された。

まさに間一髪だっただろう。

これが人間と機械の差だろう。

人間の反射能力でも僅かなタイムラグは発生する。

だが機械には無い、しかも今回はAIが相手だ。

ISに搭載されているのなら、戦いのうちに凄まじい速度で成長していく筈だ。

 

『La♪』

 

プラズマブレードが再度展開され、近接戦闘をしかけてくる。

俺も双刀を構え、その刃を受け止める。

 

「ちぃっ!」

 

後退加速で即座に距離を開く。その直後には射撃攻撃が続く。

『相手一体に対しての過剰殺戮』を想定した射撃だ。

近接戦闘で足止めをしながらそのまま撃ち抜くつもりだったのだろう。

この機体の速度が無ければ今頃蜂の巣にされていた。

 

「お返しだ!」

 

左腕の荷電粒子砲『月穿』で射撃を行うが、実体弾程度では軽々と回避される。

この様子なら六条氷華も同じ運命を辿る。

だったら!

双刀を鞘に戻し、右腕の『龍咬』を再度展開、龍の咢が開かれ、息吹が放たれる。

ただし、レーザーとして。

 

「スプレッドパルサー!」

 

紫紺の、細いレーザー幾つもが迸る。

こちらもギリギリで回避される。

やはり成長している…!

この戦い、早々にケリをつけないとジリ貧だ!

明確な対処方法があるわけでもない。

頼みの綱は『零落白夜』だが、先程のように接近させてはくれないだろう。

白銀の福音が自ら接近してこない限りは。

 

『La♪』

 

福音が両翼を開き、戦闘から離脱しようとする。これ以上逃がすわけにはいかない!

俺も翼を広げ、それを追尾する。速度ではこちらが上だ。

福音もそれを悟っているのだろう、後退加速を行いながら射撃攻撃を行っている。

こんどは逃がさないように、回避ルートを含めて照準を合わせてきている。

 

バラララララララララララララ!

 

周囲に凄まじい弾幕が広がる。

広域殲滅を想定した連続射撃だ。

こんなものを戦場で使えばたちまち焼野原の出来上がりだろう。

だが、逃げるわけにもいかない、逃してしまうなど以ての外だ!

 

「ウォロー!」

 

宵闇の龍を呼び寄せる。互いの右腕を突き出すことで、エネルギーフィールドが広範囲に展開され、福音の射撃攻撃を弾き飛ばす。

 

「ペイシオ!レイシオ!」

 

赤銅の龍と黄金の龍をコール。

赤銅の龍『ペイシオ』が両腕の鉤爪にレーザー刃を展開させ、福音に格闘攻撃を。

黄金の龍『レイシオ』がレーザーによる射撃攻撃を絶え間なく繰り出す。

二頭の龍と連携し、俺も両手に刀を握り攻撃を繰り出す。

 

「『災厄招雷』発動!」

 

機体と龍に雷が宿る。

両手の刀による斬撃、と龍の鉤爪による連続攻撃で福音の姿はズタズタになっていく。

刀剣が次々と飛んでいく中を、更には凄まじい弾幕の中を突き進む。

右腕に被弾しそうになる、ギリギリで回避。

左脚部に被弾の危険、機体を回転させ、それを回避。

それでも視線は絶対にそらさない。

 

「これなら躱せないだろう!」

 

右腕の『龍咬』を開く。今度はレーザーではない。純粋な『雷』だ。

刀剣が過ぎ行く一瞬にその雷を発射させる。

福音の真似事だ。

福音自身がばら撒いた弾幕、更には俺が発生させた刀剣を媒体に、全方位から超高電圧が襲う。

シールドエネルギーも凄まじい勢いで削られていく。それはこちらも同じだ。

絶対防御に阻まれ、高電圧は俺自身には届かない。

それでもシールドエネルギーは絞りかす程度にしか残らない。もう、これ以上の戦闘は難しい。

 

『使え、俺のもう一つの力だ』

 

黒翼天の声が脳裏に響く。ディスプレイに表示されたのは、『零落白夜』『災厄招雷』に続く『三つ目の単一仕様能力』だった。

 

「『龍皇咆哮』発動!」

 

龍は咆哮をあげることで自らを鼓舞する。いわば、力の底上げを行っている。

この単一仕様能力の効果、それは『エネルギーの増幅』だ。

使ってしまった『攻撃用エネルギー』、絞り粕程度にまで削られた『シールドエネルギー』が凄まじい勢いで回復、充填される。

これなら、やれる!

 

「『災厄招雷』発動!」

 

白、青の輝きに包まれる。

 

 

 

Kanzashi View

 

圧倒的だった。

見たことの無いの機体は、まるで幾つもの意志が宿っているかのように龍とともに夜空を舞っている。

 

「兄さん…凄い…」

 

「兄上…」

 

「お兄さん」

 

「一夏、アンタって本当に…」

 

「一夏…」

 

「一夏さん…」

 

皆も、もう見ているしかできなかった。

でも私はそれを良しとは出来なかった。

 

『あの背中を守りたいのね』

 

「うん、守られているだけの女でいるのは、もう嫌だから…」

 

『ふふふ、恋する乙女って素敵よね。

じゃあ、貴女にあげるわ、私の全てを…』

 

私の目の前に一つのウィンドウが表示された。

 

『戦闘経験値が一定数値蓄積されました。

第二形態移行(セカンド・シフト)を開始します。

確認ボタンを押してください』

 

第二形態移行(セカンド・シフト)…発現が未だに不明とされている新たな力。

あの背中を守るためにも、

 

「お願い、力を貸して…!」

 

私は躊躇せずに確認ボタンを押した。

その瞬間に、打鉄 弐式 は新たな覚醒を始めた。

非固定浮遊部位のミサイルポッドの下部には大出力スラスターが搭載され、ミサイルの発射口が増設される。

そして全体に翼のような紋様が走る。

春雷もまた、変貌を遂げていた。

こちらは二連装のレーザーカノン『万雷』に変化している。

薙刀型武装『夢現』は大出力ブレード『黎明』へと。

打鉄 弐式はその名を新しく変える

『天羅』へと

 

「簪、アンタ、それって…」

 

「行ってくるね。

みんなは安全圏まで下がってて」

 

大出力スラスターが火を噴き、一気に加速される。

 

「一夏!」

 

「簪!?なんで来たんだ!?」

 

「忘れないで、貴方は一人じゃないんだから!」

 

「…前だけ見てろ、背中は守る」

 

「一夏こそ、前だけ見てて、背中は守るから」

 

私もブレード『黎明』を構える。

一夏も両手にブレードを握る。

どちらかともなく微笑む。

 

「織斑一夏」

 

「更識 簪」

 

「馳せて参る!」

 

「いきます!」

 

最初に攻撃を叩き込んだのは一夏だった。

その状態で福音は砲撃をしようとしたけれど、二頭の龍がその砲口を一瞬で切り裂いてしまう。

装甲が爆散し、福音の姿勢が大きく崩れる。

 

「やあああぁぁっっ!!!!」

 

瞬時加速で一気に懐に潜り込み、黎明で切りかかる。

ギリギリで回避される。

それでも、胸部の装甲に真一文字の傷をつけた。

続けて後退加速。

幾つもの刃と雷が降り注ぐ。

両足の膝から下が両断される。

 

不利と判断したのか、こちらに背を向けて飛び立とうとする。

 

「逃すか!」

 

「私に任せて!」

 

非固定浮遊部位のミサイルポッドを一斉開門。

 

「いっけぇぇぇっっ!!『辻風』!!!!」

 

96発のミサイルが一気に発射される。

それは追尾性のものと、回避ルートから迂回し、逃げ道を完全に塞ぐものの二種類に分かれている。

 

『Laaaaaaaa!!!!』

 

福音が両手のブレードで幾つものミサイルが叩き落される。

でも

 

「でも、それでいい(・・・・・)!」

 

 

 

Ichika View

 

ミサイルが爆炎を上げながら半分近く撃墜される。

だが、半分は命中した。

その直後、福音の姿勢が大きく崩れた。

ミサイルにより発生した外側からのダメージによるものではない。

内側からのダメージだ。

『ウォロー』の能力は、直接戦闘のものだけではない。

『電子攻撃』によるものだ。

それにより、福音の内部でデータにエラーが大量に発生し、それを処理するために機動性が著しくダウンした。

 

「『万有天羅』発動!」

 

俺の隣で簪の声が響く。

簪の機体がまばゆいばかりの閃光を放つ。

見覚えは有る。

俺だってしょっちゅうその力に頼ってきていたのだから。

この輝きは…『単一仕様能力(ワン オフ アビリティ)』のものだ。

 

「此処は、私だけの世界!」

 

撃ちまくったミサイルが撃墜、そして直撃した事で立ち込めた煙が規則性を持って動き始める。

 

「これは…『気圧操作』か!」

 

煙は風に流れる。

それも、渦となって蠢く。

微風から旋風へ、そして豪風へと変わり、竜巻へと変貌していく。

ミサイルから発生した煙の正体は『ナノマシン』のようだ。

楯無さんが操るミステリアス・レイディに搭載されたアクア・クリスタルから散布されるようなナノマシン程度の量じゃない。

肉眼でも視認できるような膨大な量だ。

これを操作することにより、気圧、気温、風を思うが侭に操る…天候の支配者、『万有天羅』。

 

「一夏!」

 

「ああ、判ってる!」

 

福音はすでに竜巻に飲み込まれている。

もう、動けない。

誇るべき天使の翼も、今は役に立たない。

 

「もう、終わりにしよう」

 

竜巻の上空へと飛び立つ。

 

この瞬間、ひどい違和感に襲われた。

『竜巻よりも上に』

そう願った瞬間に俺の体は機体と共に竜巻による暴風の影響を受けない超高度にまで上昇していた。

だが、今は気にしている暇はない。

 

右腕を振り上げる事で、周囲に刃が幾つも発生する。

短刀、刀、直剣、大剣、曲刀、大鎌、大槍、大斧、薙刀、飛来刃、数えきれない刃。

それだけでなく、黒雷、白雷もまた出現する。

 

右腕を振り下ろす。

 

刃も雷もすさまじい音を起てて落ちていく。

新たに発生させたであろう装甲、脚部も両腕も、そして翼を捥ぎ落とし、銀の天使は海へと落ちていく。

だが、新たな装甲をコールする余裕もなく、天使はそのまま硬直した。

 

着水した瞬間に、海面が氷に覆われたからだ。

『万有天羅』とはよくいったものだ。

ナノマシンが触れたものなら自在に操れるらしい。

大気中にバラ撒けば、気圧、気温、気流、風速などを操り、水に触れれば『液体』『気体』『個体』の三様に自在に変化させる。

間違いなくミステリアス・レイディの天敵だ。

 

「ウォロー!ペイシオ!レイシオ!」

 

三体の龍をコールする。

右腕の兵装、『龍咬』に龍が身を寄せる。

龍の咢が開かれると、今まで以上のエネルギーが収束される。

 

「一緒にやろう」

 

「ああ、俺は射撃が苦手だからな。

照準を任せる」

 

狙う先は無論、翼を捥がれたた銀色の天使だ。

 

「「エクサフレア!」」

 

俺と簪の声が重なる。

龍咬から放たれたエネルギー弾はすさまじい勢いで福音へと落ちていく。

そして直撃。

竜巻をいとも容易く吹き飛ばし、衝撃は上空に居た俺たちにも直撃する。

やや離れた場所に居る鈴達も吹き飛ばされそうになっている。

ラウラが両手にAICを発動させ、全員をその場にとどまらせている。

 

「La…aaaaaa…aaa…」

 

福音もエネルギー枯渇寸前のようだ。

なら、この絶好の機会を逃すわけにはいかない。

新たに装甲をコールさせる事で、小型エネルギーパックよりエネルギーを補充されたのでは、キリが無い。

軍用機と言えども、所詮はISであることからは逃げられない。

そして、すべてのISの欠点は『エネルギー切れ』だ。

福音は、それを初めて克服したISかもしれない。

高機動広範囲殲滅ともなればエネルギーの消費は著しいものだろう。

エネルギー消耗が激しいのは白式も同じだったからよくわかる。

エネルギーの消費を極力まで抑え込み、なおかつ高機動広範囲殲滅、さらに軍事器ともなれば相応の技術を組み込ませている。

こんな技術を公にしえしまえば、世界中がアメリカとイスラエルをつぶそうとする。

ISは一機だけでも一国の軍事バランスを崩すのだから。

 

 

 

再び海面が蠢き、福音を飲み込んで凍りつく。

 

「一夏!」

 

「『災厄招雷』『龍皇咆哮』『零落白夜』一斉発動!」

 

雪片弐型の青白いレーザー刃が金色へと染まり、輝く。白銀の福音はもう動けない。

その四肢を氷に縫い付けられ、武装も貫いている。

そしてエネルギーの翼も今は失われている。

攻撃も、迎撃も、防御も、回避も許されない状態だ。

卑怯だとは思う。

動けない相手に必殺の攻撃だなんて。

でも今は、なりふり構っていられない!

 

「絶影流奥伝…!」

 

真下に向かっての連装瞬時加速。

 

この瞬間、またも違和感を覚えた。

一瞬、目の前の光景が二重に見えた。

その直後には福音にまで迫っていた。

 

最初に組み上げた技は『穿月』だった。

ただ、それをひたすらに速く、そして只々鋭く。

イメージするのは万物をも貫通する鋭い刀。

 

「『月閃光』!」

 

金色の刃を突き出し、そのシールドを貫いた。

最後の意地か、福音は懸命にもがく。

機体の白銀色の装甲が強く輝く。

だが零落白夜によりそのエネルギーがガリガリと削られていく。

本来なら時間との勝負になっていただろう。

こちらのシールドエネルギーとて失われていく一方だったのだから。

だが『龍皇咆哮』により、こちらはエネルギーが尽きることがない。

単一仕様能力の同時併発、土壇場ではあるがそれが発動できているからこその、この状態だ。

 

『Laaaaaaaaaaaa………aaa、a…』

 

アイレンズから光が失われていき…そして…福音はとうとう力を失ったかのようにあがきが止まる。

そして…量子変換され…中に捕らわれていた搭乗者が姿を現した。

 

 

「この人が搭乗者、か」

 

機体も、そして搭乗者もアメリカとイスラエルから切り捨てられた女性。

このままみすみすその二か国に返すとこの人が危険になる。

処分しようとすれば、福音は搭乗者を守ろうとするだろう。

なら…保護をすべきだ。

 

「それにしても…疲れた…」

 

だが、これで一件落着だ。

あとは…

視線を北に向ける、そこには

 

「一夏あああぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

簪、マドカ、メルク、シャルロット、ラウラ、セシリア、鈴の七人の姿が見えた。

警戒をしているようには見えない。

この全身装甲の状態でも関係無さそうだった俺の意思に応えるように輝夜の展開が解除される。

そのまま氷塊に着地、改めて全員を見上げる。

ただ、機体にインストールされていた緊急用のISスーツだけは解除させないでおく。

傷跡を見られたくないし、見せるわけにもいかないだろう。

 

「一夏ぁっ!」

 

「兄さんっ!」

 

簪とマドカが真っ先に着地してきて飛びついてくる。

この二人には特に心配をかけてしまった。

抱き着いてきた二人に、俺は微笑み返した。

…久しぶりに微笑むことができた気がした。

 

「皆も降りてこいよ」

 

「心得た、兄上」

 

「御無事で何よりですわ」

 

「お兄さん、お疲れ様!」

 

「すごいスピードだったね、一夏!」

 

「むしろそんなにもピンピンしてるのが信じられないんだけど!?」

 

思い思いのことを言いながら、それぞれ降りてくる。

今度はラウラが飛びついてくる、ものの数秒で肩車だ。

 

「ラウラ狡いわよ!

そこはアタシの特等席なんだから!」

 

「席じゃねぇよ!」

 

「そうだ、兄上を椅子代わりにするな」

 

ラウラ、お前は人のことを言えないだろう。

 

「一夏さん、あの機体は何だったんですの?」

 

「正直、俺にもなんて言えば良いのかが分からない、悪いな」

 

『輝夜』

これからは、こいつが俺の相棒になるだろう。

白式、黒翼天、その魂は確かに受け継がれている。

 

「すごい速度でしたね!」

 

「もう見えないくらいだったよ!」

 

メルクもシャルロットも言いたいことを口にしてくる。

 

「まあ、色々と話したいことはあるだろうけど旅館に帰ろうぜ、こっちはこっちで疲れてるんだ。

それと…ちょっと貧血気味だ…」

 

周囲のマップをコールして確認してみる。

…凄ぇ…旅館から南方へ60Kmも離れてるぜ…。

輝夜の速度のおかげで距離感が曖昧になっていたが、そこまで離れてたのかよ…。

…夜明けまでに戻れるか少し不安だな。

そして…千冬姉は何と言うか…やれやれ、不安要素はいくつも有るな。

なるようになっちまえ…。

 




降り注ぐ月光の中、少年は生還した

大切な仲間の元へと

愛する少女の元へと

そして陽光の中、掛け替えのない家族の元へと帰還する

皆で過ごす、臨海学校も、最後の日が近づく

次回
IS 漆黒の雷龍 ~ 心絆 ~

もう、この手を離さない

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