IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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新年あけましておめでとうございます


麗銀輝夜 ~ 覚醒 ~

Ichika View

 

目が覚める。

真っ暗な場所だった。

そして寒い。何処だ、此処は…?

 

「誰か、居ないのか?」

 

周囲を見渡しながら声をあげる。

だが、声が反響するだけで返事など何処からも聞こえない。

 

『海底洞窟だ』

 

返ってくるのは、黒翼天の声だった。

直接耳に聞こえたわけじゃない。

頭の中に直接響いてくる。

俗に言うテレパシーみたいなものだろう。

 

体を見下ろしてみる。

ISスーツは福音に裂かれ、ボロボロだ。

新しいものを発注した方がいいだろう。

そして…俺の皮膚も露出してしまっている。

両肩には銃創が見え、両肩からクロスするような形でひどい裂傷が走っている。

これは福音にやられたものだろう。

腹部にもまた銃創、そしてその隣には刺された傷跡があり、背中にまで貫通している。

そして背中には爆発により発生した炎で火傷が広がっている。

…何つーか、コレは…プールだとか海だとかには完全に縁切りをした方がいいかもしれない。

 

『死体になったお前を俺が此処まで運んでやったんだ』

 

「そうだったのか…」

 

『そしてお前は確かに一度死んだ。

生き返らせるのは面倒だったぞ』

 

「…ありがとうな」

 

『これで二度目だったがな』

 

俺は以前にも死んだ経験が有るのかよ。

まるで覚えていないんだがな…だが、心当たりが無い訳でもない。

誘拐された時にも、俺は救われたのかもしれない。

左手の相棒に。

 

っつーか、コイツが怒るのも無理はないよな。

知らなかったとはいえ、一度救ってもらった命をむざむざと捨てようとしていたのだから。

 

なら、この命は捨てていいものではない。

三度目の人生、満喫してしまおう。

 

 

 

近くには誰も居ない。

だが、コイツの声が聞こえるだけでどこか安堵出来ていた。

…嬉しかった…こんな感情は久しぶりだ…。

 

「本当にありがとう、黒翼天。

俺は…また『俺』に戻れた…。

は…ははは…はははははは…」

 

本当に…本当に久しぶりに笑えた。

涙が流れた。

感情が…失われた全てが戻ってきていた。

 

それを…皆に教えたい。

簪に逢いたい…どうしようもなく逢いたいんだ…。

 

『なら、行こう、皆の所に』

 

「ああ、そうだな…」

 

右手に左手を添える。左手の手袋は未だに十字架を隠している。

これをいつまで着ける事になるのかは判らない。

けど、それでもいい。

こいつも俺の相棒なのだから。

 

「…判る、皆がどこに居るのかが…」

 

『そうだね…貴方を願う声が…祈る声が聞こえる』

 

戦っている。

そして苦しんでいる。

怯えている。

そして…俺を呼んでいる。

 

なら、俺が行かなきゃいけない。皆を助けるんだ。

俺の居場所を守るんだ…その為にも…俺は進む。

力を貸してくれ、白式、黒翼天…!

 

「来い!…『――』!」

 

俺の体を包むように全身装甲が展開される。

右半身は黒の装甲に、左半身は白の装甲に覆われる。

それだけではない。

黒翼天のフォルムそのままの純白の装甲が俺の上半身を、そして頭部も包んでいく。

 

『IS Core Nunber EX『The Infinity Olacion』

 IS Core Number EX『The Neo Hope』

Dual Boot』

 

First Shift Completed(第一形態移行 完了)

 

Second Shift Comleted(第二形態移行 完了)

 

Third Shift Completed(第三形態移行 完了)

 

Forth Shift Completed(第四形態移行 完了)

 

Last Shift Completed(最終形態移行 完了)

 

『数多の祈り』

そう名付けられたコアが目覚めたのだろう。

更には『新たなる希望』と名付けられたもう一つのコアもまた。

白式、黒翼天、そして俺の祈りの下に生まれた新生の存在が。

 

IS 『Galaxy』 Ignition

 

感情を失った直後、俺は人間ではないのだと思い込んだ。

その言葉で簪達を深く傷つけた。

 

今になって再度考えてみる。

『俺は何者なのか』と。

 

もう、答えなんて出ている。

俺は人間だ。

何処も皆と変わらない、ちっぽけな、たった一人の人間なんだ。

もう、その答えに迷いは無い。

迷う理由は無い。

なら…俺は(未来)へと突き進むだけだ!

だから…行こう!

 

「織斑 一夏 『輝夜』!発進する!」

 

右腕の『龍咬』を真上に向け、龍の咢を開く。

凄まじい出力のレーザーが天蓋を貫く。海水が落ちてくる中、俺たちはその場を飛び出した。目指す場所は、簪達が居る場所だ。

 

ものの15秒で輝夜の体が海面に飛び出す。

ハイパーセンサーとレーダーを起動させ、周囲を確認。

居た。

俺達が居る場所から西へ1キロの地点だ。

 

「…遠いな…」

 

『遠いものか、目と鼻の先だ』

 

『一緒に行こう、ね?』

 

「そうだな…」

 

ウィンドウが勝手に展開される。

表示されたのは単一仕様能力の一覧だ。

 

『お前の願いが作り出した力だ、半分は俺の力ではあるがな』

 

感謝するよ、黒翼天。

 

表示されている単一仕様能力を確認する。

『災厄招雷』『龍皇咆哮』そして『零落白夜』の三つ。

イレギュラーにも程がある。

だがそれも含めて笑ってしまう。

 

それだけではなく、機体の周囲に何かが現れる。

その数、3機。

機体よりは小さいそれはまるで、ドラゴンのようだった。

 

『前だけ見ていろ、背中は守る』

 

黒翼天の声が響く。

右手には黄金色の龍『レイシオ』

左手には赤銅色の龍『ペイシオ』

背後には宵闇色の龍『ウォロー』

各自の能力がどのようなものなのか、一瞬で頭に叩き込まれる。

俺が制御しているわけではなく、黒翼天がその三機の龍をコントロールしているようだ。

 

 

「じゃあ、行こうぜ…!

『災厄招雷』発動!」

 

 

 

 

 

Kanzashi View

 

「てえぇぇ―――!」

 

ラウラによる回線の合図で砲撃が行われた。遠く離れた場所に居た福音に…命中した。

爆音と閃光が周囲の闇を明るく照らす。

 

「初弾命中!続けて砲撃を行う!」

 

「牽制なら任せろ!行くぞセシリア!メルク!シャルロット!」

 

「わかりましたわ!」

 

「はい!」

 

マドカを筆頭にセシリア、メルク、シャルロットによる牽制射撃が始まった。

10基のビットと4丁のレーザーライフル、2丁のアサルトライフルによる凄まじい射撃の応酬だった。

その間にもラウラがパンツァー・カノーニアの照準調整に入っている。私と鈴はそのガードとして布陣している。

 

「姉上」

 

「どうしたの?」

 

「兄上は…大丈夫だろうか?正直に言うと、私は心配なんだ…。二年振りに再会した兄上はずっと強くなっていた…私を打倒したあの時よりも…。

だが…感情を失っていた兄上が怖かった。

でも、あの時と変わらない対応をしてくれたのが私は本当に嬉しかったんだ。

だが…あの機体…黒翼天を展開して、感情を失ったと聞いて…兄上が、私も知らない誰かに変わっていくのが怖い。

ましてや今回はひどい重症を負ってしまっている。

また、変わってしまっているのではないのかと思うと…手の震えが止まらないんだ」

 

ラウラは私と同じ事を考えていた。ラウラは一夏を兄と慕っているからよく分かる。

でも、私は信じたい。一夏が私達の所に帰ってきてくれる事を。

 

「信じよう、一夏を。それとも一夏を信じられない?」

 

「そんなわけ有るか!私は兄上を信じている!兄上が居なければ…今の私は居ないんだ!」

 

知ってる、ドイツでの話は一夏から教えてもらったから。

 

「簪、ラウラ!悪いけどお話はそこまで!お客さんが来たわよ!」

 

「「了解!」」

 

今度はラウラが牽制をする番。ワイヤーブレードで行動範囲を制限する。

そこに私が春雷を撃ちこみ、距離を開く。更には鈴が衝撃砲を叩き込んだ。

 

「止まれええぇぇぇぇっっ!」

 

すかさずラウラがAICを発動させ、動きを完全に封じ込めた。

 

「今だ!総員一斉射撃開始!」

 

マドカとセシリアがビットと共にライフルの照準を合わせ、一斉掃射。

更にセシリアはミサイルをも発射。

メルクも両手のライフルを連結させ、最大出力にまで威力を高めて砲撃を行う。

鈴は両の衝撃砲を最大出力に設定して砲撃

シャルロットは両手にグレネード・ランチャーを持ち、同時に砲撃をする。

ラウラは大型砲で狙い撃つ。

私も、春雷を可能な限り発射する。

そして、山嵐も全弾一斉砲撃をおこなう。

福音には避ける事なんて出来ない。続けざまに砲撃、射撃を受け、凄まじい爆発と衝撃、光が周囲を照らした。

 

そして…爆炎が消えた後には…全身の装甲がボロボロになったシルバリオ・ゴスペルが辛うじてその場に浮遊していた。あちこちのシステムが支障をきたしたらしく、パチパチとスパーク、ショートしている。

それも数秒、シルバリオ・ゴスペルは夜の海に落ちて行った。

 

「勝った、の…?これで終わったの?」

 

それでも嫌な予感がする。この予感が杞憂で終わってくれれば…そう願わずにはいられない。

叶うのなら、機体が強制解除され、搭乗者だけが海から出てきてほしい。

 

「…来る!」

 

嫌な予感は的中した。ハイパーセンサーに反応が出た。

戦いはまだ終わっていない!

 

「全員離れて!」

 

それは私の叫び声の直後だった。

閃光と一緒に巨大な水柱が空へと上ったのは…。

閃光の奥には…装甲が一新された天使が飛翔していた。

 

「まさか…負傷した装甲を予備パーツと交換したのか…!?」

 

それだけじゃない。

あそこまで追い詰めたと思ったのに…まるで…エネルギー回復しているような…?

 

「違う、姉上…。

あれは装甲を始めとしたパーツを交換することで、そこに搭載されているエネルギーパックから補充しているんだ」

 

「そんな…じゃあ…エネルギー切れを狙うにしても…」

 

「ああ、零落白夜を使い続ける以外に手段はない!

その上で…完全に叩き潰さねば…!」

 

 

 

 

Ichika View

 

背中に広がる四対八翼を大きく広げ、俺は夜空を駆け抜ける。

その翼も、全ての装甲が雷に包まれる。

 

それに応えるようにスピードが更に激しくなる。

俺が体験した最大スピードは、白式の瞬時加速くらいだ。

だが、今のこの機体は、通常飛行速度の範囲で、白式をそして、黒翼天をも凌駕している。

もう、誰も追いつけない速さに至っている。

 

「連装瞬時加速!」

 

更なる加速を行う。

景色は線となって過ぎていく。

周囲へのソニックブームは傍迷惑な領域だろう。

だが今は構っていられない。

 

「…見えた!」

 

ハイパーセンサーには点にしか見えない。

一瞬にして点から立体像へと変わって見えていく。

全員が悪戦苦闘しているようだ。

その原因は、白銀の福音を見れば理解出来た。

最初に見た時とは姿が違う。

形態移行をしているようだ。

そして…次に狙われているのは簪だ。

 

「頼むぞ、雪片弐型、天龍神!」

 

両腰の双刀を抜き放つ。

そして…

 

「吹き飛べぇっ!」

 

『!?』

 

「絶影流 『穿月(うがちづき)ぃっ!』」

 

速度をそのままにして白銀の福音に攻撃、そのまま全員から距離を引き離した。

 

 

Laura View

 

「なんだ…この反応は!?」

 

ハイパーセンサーが探知したその反応に驚愕を隠せなかった。

正体不明の存在が凄まじい速度で急速接近をしてくる。

ISなのは間違いないだろう。だが、その速度が尋常ではない!

こんなスピード…白式をも遥かに凌駕して…5倍以上のスピード…いったいどこの誰だ!?

 

「全員気をつけろ!所属不明の機体が接近している!」

 

「所属不明機!?どこのバカよ!?」

 

「知るか!接触まで残り10…バカな、また加速しているだと!?」

 

突如突き抜ける突風。

続けて巻き上がる凄まじい波、そしておくれて発生する衝撃波。

その全てが未知の存在が巻き起こしたものだと判断出来るまで数秒を要した。

機体の特徴は何一つ掴めなかった。

それどころか、視認すら出来なかっただと…!?

いったい何者なんだ…!?

 

「簪!そっちへ行ったぞ!」

 

「!」

 

 

Kanzashi View

 

怖い、でも引くわけにはいかない!

夢現を展開し、両手に持って構える。一夏はどんなときにも臆しなかった。

いつも私を引っ張ってくれた!なら、私だって逃げるわけにはいかない!

 

「やあああぁぁぁぁぁっっっ!」

 

ガギィッ!

 

夢現のブレードで福音の両手のブレードを受け止めた。

でも…ものすごいパワー!

このままじゃ、押し切られる!

一夏のように受け流す技術は私には無い!

 

「このっ!」

 

距離を開くためにも私は春雷を撃つ。

一瞬開いた間合い、私は横薙ぎに夢現を振るう!

でも、それを回避された。

 

「―La♪」

 

透き通った歌声、その一瞬後に凄まじい衝撃に襲われる。

私は海面に叩きつけられる、そう悟った

体が重い、シールドエネルギーが今の一撃で根こそぎ奪われた。

システムに異常が発生したのか、パワーアシストもスラスターも作動しない。展開解除命令も出来ない。

 

「此処で…終わり、か…」

 

暗い海の中で迎える最期は怖い。

 

出来る事なら…もう一度…

 

「一夏の笑顔が見たかったな…」

 

一夏はこんな時にも…目を閉じる事も無かったのだろう…

 

…なのに…私は目を閉じてしまった

 

「絶影流…」

 

そんな声が聞こえた気がした。

暖かな思い出に浸っていたからだろうか、一夏の声に聞こえた。

 

 

「『穿月(うがちづき)』ぃっ!」

 

私の目の前を、白と黒の影が駆け抜けていった。

 

 

「一、夏…」

 

目を開いても…何も見えなかった。

 

目の前は…虹色に染まっていく

 

涙が流れているのに気付いた

 

もう、泣かないって決めたのに…

 

「心配させて…遅れてすまなかった…」

 

誰よりも大好きな人の声に、涙が溢れ出した




少年は辿り着く

少女たちの戦場へと

龍を従え、その背には雷の翼を広げて

白と黒の刃を携え、龍は天使へと二度目の戦いを挑む

月光に沈むのは天使か龍か

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 天羅 ~』

此処は、私だけの世界!

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