IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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『馳せて参る!』

とある独眼竜のセリフですが、一夏君に言わせてみたかっただけなんです


麗銀輝夜 ~ 真名 ~

Ichika View

 

だが…これで良かったんだと、今になって思い知った。

 

『何故…守りを捨てた…』

 

「決めていたことを思い出したんだ…俺は…仲間を守るって…。

こうやって互いに刃を幾合もぶつけて理解できたんだよ、お前の事を…」

 

黒翼天は孤独だったんだ。

俺の感情を食らっても…記憶を覗いてきても常に満たされなかったんだ。

なのに、俺を守る事を自分の義務としていた。

そして戦いの中で、俺が窮地に陥るたびに俺を助けた。

危険から仲間を遠ざけるには…暴れるように見せるしかなかった。

自身が人間ではないと理解しているからこそ、仲間として受け入れられないと思っていたから。

とんだ不器用な奴だ。

俺から奪った『怒り』は自分自身への怒りへと変わり、『恐怖』は受け入れられない恐怖へと成り果てた。

俺の感情を全て食らいつくしても、その二つから解放されることがなかったんだ。

 

「だけどな…もう大丈夫だ、お前には俺がいる。

お前は…俺が連れて行く」

 

『何故だ』

 

簡単な話だ、お前は俺で、俺はお前だからだ。

連れて行くと俺が決意したのなら、同時にお前の覚悟でもある。

俺はもう、お前から目を背けない!

 

「俺の手を取れ」

 

『…ふん、とんだお人好しだ』

 

そんなの昔から知っているさ、それに、知っていたんだろう。

 

『お前から奪った記憶と感情は、もうお前のものだ』

 

気づいていたよ、お前と刀をぶつけ合っている中で、俺の中にさまざまな感情が戻ってきたのを。

喜びも…悲しみも…言葉で言い表せないような思いもともに…

だけど…どうしても思い出せない記憶もある。

 

《だが、一部の記憶は完全に消し潰した》

 

 

「なんで…?」

 

『それを知れば…お前は…深い後悔をすることになる。

生きる事に絶望することになる、知らなければ…死んでいればよかったと、な』

 

よっぽど碌でもない記憶だったんだな。そんな記憶、知りたくもねーや。

どうせなら忘れたままでいたい。思い出したくもないし、調べたくもない。

 

『今からコイツはお前の刀になる、使いこなせよ』

 

「違うだろ、『俺たちの刀』だ」

 

黒翼天の展開が解除される。

そこには、もう一人の俺は居ない。かろうじて人の形を保った霞が漂っているだけだった。

 

《俺の翼を背にしていけ…銘は『    』だ…》

 

霞は消え…俺の体に溶け込んだ。

それを確認し、俺は大地に足を下した。

白式は命令してもいないのに展開が解除される。

再び世界は変質する。荒野から、無限の蒼穹と鏡の大地へと

そして…展開が解除された白式は…再び白の女騎士と、白い少女へと姿を変えた。

 

『…感謝します』

 

「何も感謝されるような事はしてないさ、それよりも…感謝をするのは俺だよ。

こうやって俺たちが向かい合ってぶつかる場所を用意してくれたんだから。

ありがとう、それと…ごめんな。

俺、まだまだ弱いからさ、そのせいで俺の代わりにばかり痛い思いをさせて」

 

正直、ずっと不甲斐なかった。だから相棒である白式に申し訳ないとさえ思っていたんだ。

俺が…もっと強い人間であったなら、もっと強い搭乗者であったなら、と。

 

『心配には及びません、私たちは…貴方の剣であり、翼であり…鎧だから…』

 

「鎧だからって、傷つくのは見過ごせない。だから俺は約束するよ。

俺はもっと強くなる、強くなって、仲間を守って…白式も守れるようになる」

 

新たな誓いを交わし、俺は右手の小指を騎士に突き出した。白い少女には、左手の小指を。

 

『…?』

 

「指切りだよ、約束の証だ」

 

兜に包まれた素顔は見えない。なのに…俺には彼女が笑って見えた気がした。

けれど、何も語らずに俺小指を絡める。語らないのなら、教えてくれるのを待つだけだ。

俺はそれをいつまでも待つ。いつの日か、語ってくれる程に信頼してくれるその時まで。

 

『黒翼天からの贈り物のようです』

 

「贈り物?何をだ?」

 

『貴方が現実世界で目覚めたときに、それは分かるでしょう。

さあ、行きなさい、新たな翼で』

 

新たな翼。それにはきっとこの二人も一緒に来てくれる。

そう信じ、俺は無限の蒼穹を見上げた。空はどこまでも続く。

悠久の彼方まで、人の手が届かない…無限の成層圏として

 

「これからもよろしく頼むよ、白式」

 

『そんな名前で呼ばれるのは嫌だな』

 

今まで黙し続けていた白い少女が口を開いた。

細い、けれど何処までも響くかのような声に聞こえた。

 

「そう言われてもな…それ以外の名前なんて知らないし…」

 

『だって…『Origin』だとか『白式』だなんて記号みたいな呼ばれ方されても嬉しくないもの』

 

Origin(根源)…?

確かに記号めいた呼び方だが…『白式』の名前すら否定されるのだとしたら、なんて呼べばいいんだか…。

 

『じゃあ、貴方が私に名前をつけて。

貴方だけが呼ぶ、私だけの名前を』

 

なんつー依頼だよ。

俺に名前を要望するだなんて…。

 

『貴方の大切な人は、その左手の子に名前を付けた。

なら私は、貴方から名前を貰いたいの』

 

頭の痛い話だ。

今まで誰かに名前を与えるだなんてそんな機会も無かったというのに…。

騎士に視線を向けてみるが…兜の下の顔は笑っているものだと思う。

…仕方ない…。

 

「判ったよ、名前を考えよう」

 

名も無い白い少女はラウンドベレットの下でクスクスと笑っている。

こっちの気も知らないで…。

 

それにしても名前か…何がいいだろうか。

俺の剣は、その殆どが『月』の字を刻んでいる。

そして黒翼天…。

黒、月、そして青白い光…。

 

「決めたよ、君の名は『―――』だ」

 

『…うん、…気に入った。

今からそれが私の…私だけの名前。

じゃあ、行こう、貴方の大切な人たちが待つ空へ』

 

「ああ、一緒に行こう!」

 

久しぶりに…本当に久しぶりに笑えた気がした。それが嬉しくて…俺は涙を流した。

騎士も、少女も、俺の手を取り、そして繋ぎ、飛翔した。

果てのない青と白の世界へと

 

 

 

 

 

Chifuyu View

 

一夏が行方不明になった時には気が動転しそうになった。

私が平静を保てていたのは、更識のお蔭だ。

アイツがあんなにも泣き叫んでいたのは私も見たことがなかった。

皆の代わりとばかりに泣き崩れているのを見てしまったからこそ、私は気持ちを落ち着けることが出来た。

冷徹と言われようとも構わない、それでも私は一夏やマドカにとって『強い姉』として在りたかった。

つまらないプライドかもしれないが。

だが、私が一夏の心配をしないわけがない。

その欲求を必死にかなぐり捨てて、私は作戦室に籠った。

篠ノ之への暴行に関しては八つ当たりに近かったが、その事はどうでもいい。

それに…

 

「今回のミッションはまだ終わっていない」

 

国際IS委員会からは任務続行の命令を言い渡された。

指示があるまで待機、後々に専用機を向かわせろとまで言ってきている。

上層部のばかな幹部を殴り殺してやりたいが、私には、それも許されない。今のこの立場すら疎ましい!

 

「織斑先生!大変です!全専用機持ちが勝手に発進した模様です!」

 

「…やはり、か…」

 

こうなるのではないのかと実際には少しは考えていた。

だが、形式上は対処をしなければならんだろう。

 

「通信を開け、直ちに帰投させろ」

 

「駄目です!通信が繋がりません」

 

これも想像していた。

あいつらは自分たちから通信を切っている。

向かわせたのは束だろう。

専用機所有者を一か所に集めて何かをさせていたようだったのだから。

 

これはあいつらの我が儘だ。篠ノ之に比べれば無謀とは言わない。

だから…生きて帰ってこい!

 

 

 

Kanzashi View

 

篠ノ之博士が演算し、指定したポイント。

私達は無断発進した後、ようやくそこにたどり着いた。

 

「ラウラ、この辺りで間違いないのよね!?」

 

「ああ、間違いない。

この近辺に兄上が居る筈だ!」

 

ラウラの指摘に私は周囲に目を凝らす。

この近辺と言っても…見渡す限り、夜色に染まった海しか見えない。

 

「ど、何処から探しますの!?

探すところなんてどこにも…」

 

「もしかして、海に潜れだなんて言わないよね…?」

 

「最悪の場合は泳ぐ必要もあるんじゃないの?

何?アンタ達二人そろってカナヅチだったりするの?」

 

「言い争いする暇があったらお兄さんを探しませんか?」

 

「そうだ、ただでさえ無断発進したんだ、兄さんを見つけられなければどうしようもないぞ」

 

皆は好き勝手に駄弁っているけれど、私はそんな気分になれなった。

少しでも早く一夏に逢いたい。

ただそれだけだった。

 

篠ノ之博士が教えてくれた情報をもう一度頭の中で思い出す。

 

・報道はデマ

私もあの報道を受けてショックを受けた。

一夏が私の知らない所で居なくなるだなんて信じたくなかった。

 

・報道に関してだが、情報の裏付けが成されていない

一夏の死を願う連中が早急に作り上げた即席のニュースでしかなかった。

 

・報道を全世界に一斉配信したのは『国際IS委員会』

一夏が何故ISを稼働できるのかは未だに判らない。

だけど、存在しているだけで目障りにされる謂れなんて絶対に無い。

 

「絶対に…絶対に見つけ出す!」

 

幾度も、幾度も周囲に視線を向けるけれど、一夏の姿は見当たらない。

レーダーにも何も探知されない。

ラウラから受け取った地図を見ても、このポイントであるのは明白。

なのに…なのに、見当たらない…。

何処を見ても…何度見渡しても、見つけられない。

 

「姉上、その…残酷な事を言うようだが…考えられる最悪の事態ではあるが…兄上の…その…」

 

「お願い…それ以上言わないで…それだけは…」

 

「うむ…承知した…」

 

ラウラが何を言おうとしていたのかは私だって理解している。

考えられる最悪の事態、それは『一夏の遺体の発見』

 

でも、私は一夏の死だなんて信じたくない。

きっと何処かで生きている。

同じ未来を一緒に歩む約束だってしているんだから、彼の生存を私は信じ続ける。

絶対に見つけるんだ…取り戻すんだ、すべてを…!

 

「一夏の捜索をしたいのはやまやまだけど…」

 

シャルロットの言葉に私も頷く。

レーダーに一つの反応が示されていた。

白式でもない、黒翼天でもない。

 

「呼んでもいないお客さんがお見えのようですよ!」

 

私も、篠ノ之博士から受け取った武装を展開する。

皆はすでに戦闘態勢に入っていた。

 

「邪魔はさせない!銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)!」

 

昨日の戦闘をした時とは姿が違う。

黒翼天に引き裂かれた両腕と両足も再生している。

あれはまさか…

 

「気を付けて!第二形態移行(セカンド・シフト)してる!」

 

「冗談でしょ!?」

 

「それでも…やるしかないだろう!

総員第一級戦闘配備!これより交戦する!」

 

銀色の天使、貴女は絶対に許さない!




蘇る銀の兇天使

少女たちはその手に刃を握り迎え撃つ

そして、誰の手も届かぬ場所で彼は目覚める。

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 覚醒 ~』

前だけ見ていろ

背中は守る

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