IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

74 / 217
今日も張り切ってみよう!


麗銀輝夜 ~ 双心 ~

Ichika View

 

何処とも分からぬ場所で、俺は双眸を開いた。

目が慣れるまで数秒。

朦朧としがちな意識を、頭を軽く振って覚醒させた。

 

「…何処だ、此処は…?」

 

異様な光景が広がっていた。

右半分は、突き抜ける程に青い空が無限に広がっている。

そして白い雲も浮いている。

見下ろせば、鏡のように空の光景が映っている。

 

そして左側は…どす黒い雲が無限に広がっていた。

時折に雷をほとばしらせ、轟音を響かせている。

 

そんな二つの世界の境界線に…俺は立ち尽くしていた。

現実の光景じゃない、それだけは理解している。

だが、それだけだ。

 

「…天国と地獄の狭間、と言った所か?」

 

言葉にしてみるが、それすら現実感が湧いてこない。

想像しているものとは大違いだったからかもしれない。

 

「…簪…」

 

思い出したかのように名前を呟く。

どうしようもない程に、愛しく感じた。

 

「マドカ、千冬姉…」

 

大切な家族の名前を…

 

「ラウラ、鈴、メルク、セシリア、シャルロット…」

 

学園で出会った仲間

 

「弾、数馬、蘭…」

 

懐かしい親友達

 

願わくば

 

叶うのなら

赦されるのなら

 

また、皆に逢いたい。

逢って…一緒に時を過ごしたい…。

また、笑いあいたい。

 

「俺は…生きていたい。

どんなに醜くてもいい、惨めでもいい、俺は…人間として生きていたい…!」

 

感情を失ってから、ずっと願っていた事を口に出したのは初めてだった。

自ら死の闇に身を投げてからこんなにも大切なものだったのだと実感させられる。

 

 

『貴方は…力を欲しますか…』

 

そんな声が聞こえた気がした。

無限の蒼天の中、『彼女達』は居た。

一人は、白い甲冑のようなISを纏った女性だった。ニュースで見る『白騎士』と酷似しているが、スカート状のアーマーが見当たらないが、差はそれだけか。

そして、騎士の傍らには…小さな白い少女。素顔は見えないが、優しい気配を感じた。

 

『貴方は、力を欲しますか?』

 

再びの問い

 

俺はそれに頷いた。

 

「…欲しい」

 

『何故、貴方は力を求める?』

 

何故?…それはもう、二年前から答えは決まっていた。

 

「大切な仲間を…掛け替えのない、大切な人を守りたいからだ。

傲慢な言い方に聞こえるかもしれない、俺一人の手で守れるものなんて、限られているかもしれない、それでも…俺は守ると決めた。

失いたくないから、後悔したくないから…無力に嘆きたくないから…だから、守る為の力が欲しい」

 

『…誰よりも強く在りたい、と?』

 

「強くなんかない、俺は弱い。

強さを求めてもない。

俺が求めているのは…守る為の強さだ。

大切な人を…家族を守れるのなら…俺は誰よりも弱くても構わないんだ。

…矛盾してる、か?」

 

騎士は首を横に振る。素顔は見えない、なのに…白い少女と共に笑ってみえた。

 

 

『なら…俺が代わりになってやるよ…』

 

背後の雷雲から、低い声が聞こえた。

振り返れば…そこにはもう一人の俺が居た。

 

「お前は…黒翼天か?」

 

『そう呼びだければ、それでも良い。

だがな…オレは…てめぇが気にいらねぇ』

 

黒翼天は刀を引き抜く。

あれは…俺の『ダブル』だ。

 

『てめぇは、他人ばかりを守ろうとする。

なら、てめぇを誰が守るんだ?』

 

「…自分の身は自分で守る」

 

『それが出来てねぇからテメェはこの有様だろうが!

てめぇが他人を守るために刃をふるうのはてめぇの勝手だ!

だがな!なんでてめぇは生きることを早々に諦めるようになった!?

何故てめぇはてめぇ自身の命を軽く見ているんだ!!』

 

「それは…」

 

『いいか、てめぇは人間じゃねぇと考えた事があったな』

 

「………」

 

『それはある意味その通りだろうよ。

生きることを早々に諦め、てめぇの二つと無ぇ命をとっとと投げ打つ。

そんな奴は人間とは認められるわけが無ぇだろうが!』

 

その言葉に、俺は何も言い返せなかった。

そうだ、俺はそれを考える事をどこかで拒絶していた。

仲間を守る事ばかり、家族を守る事ばかり、自分を守る事を考えていなかった。

 

 

「そうか…俺が失ったのは感情だけじゃない…。

人間なら誰もが当たり前に持っている筈だったもの…『生存本能』か」

 

『ようやく理解したか』

 

「ああ、判ったさ…だから、か。

そんな馬鹿な俺を守ってくれていたんだな」

 

今になって思い返す。

黒翼天が展開されたのは…<俺が窮地に陥った瞬間>だ。

セシリアとの戦いでも、敗北しそうになったから左腕を貸し与えてくれた。

クラス対抗戦の際に乱入者に撃墜された時も、俺を助けてくれた。

 

『助けてなんかいない。

勝手に暴れただけだ』

 

「嘘だな。

あの時には…アリーナのフィールドをズタズタにしても、観客席には攻撃を一発も当てなかった。

セシリアを撃墜したのも、フィールドに近寄らせない為だったんだろう。

鈴を痛め付けても、トドメを刺そうとはしなかった。

ただ恐怖させ、萎縮させて、あの場から遠ざけさせようとしたかったんだろう」

 

俺はようやくコイツを…『黒翼天』理解し始めていた。

黒翼天は…もう一人の俺だ。

まるで鏡合わせのように立つ、もう一人の俺。

俺が失ってしまった感情を、黒翼天は持っている。

 

霞んだ記憶が俺の脳裏をよぎる。

これは…黒翼天の記憶。

福音と戦った瞬間の記憶。

孤独に一人で戦う姿の中、仲間達を守ろうとエネルギーフィールドを発生させている瞬間も有った。

 

『てめぇ…!』

 

「お前は…俺だ!」

 

俺もまた『ダブル』を抜刀した。

籠鍔のついた刀と、鏡のような煌めきを見せるナイフを構える。

そして決めた、俺はもう、相棒から目をそむけない!

 

《なら証明して見せろ!》

 

「見せてやるよ!俺たちと…おまえとの繋がりを!」

 

互いの体が鎧に包まれる。

俺は背後に居た騎士と少女が変化した鎧『白式』を纏う。

眼前に居たもう一人の俺は漆黒の雷龍『黒翼天』を纏った。

世界が変質していく。

蒼穹と雷雲に染まる世界は、無限の刃を内包する広大な荒野へと。

『ダブル』が変化し、雪片弐型と雪華に変わった。

黒翼天は身の丈を超えるような斬馬刀を地面から引き抜き、両手に持っている。

 

「『おおおおおおおああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!!』」

 

刃と刃がぶつかり合う。

今までにないほどの金属音。

火花すら一瞬で業火へと変わりそうなほどだ。

二刀流と二刀流のぶつかり合いはラウラとの決闘以来だ。

 

 

オレがこいつを守る

 

 

声が聞こえた。

儚く、今にも消えてしまいそうな程にかすかな声が。

 

『ぜあああっぁっっ!!』

 

「らあああぁぁぁっっ!!」

 

斬馬刀が砕ける。

だが黒翼天は即座に新たな刃を引き抜く。

新たな刃は西洋刀。

両刃の幅広の剣だった。

それを右手に、左手には斬馬刀。

構えた瞬間に俺は手に持った双刀を連結させ、六条氷華を展開。

狙いも充分に合わせずに矢を放った。

西洋刀が半ばから砕け、斬馬刀は根元から砕け散る。

だが、今度は刺突を想定したであろうコリシュマルドを掴んで突進してくる。

六条氷華を解除、二刀流の構えに戻し、雪華で刺突を受け流す。

雪片弐型を横なぎに振るうが、後退加速で回避される。

 

「逃すか!」

 

それに合わせ、俺は瞬時加速!

コリシュマルドを蹴り飛ばす!

だが次に襲ってくるのは蛮刀だ!

くそ!

この場所にはどれだけの剣があるんだよ!?

 

《龍咬》

 

右腕を突き出してくる。

そこには龍の頭を模したような武装。嫌な予感がする!

今度は俺が後退加速をする番だった。

そして撃ち出される幾条ものレーザー。

コイツも飛び道具を持っていたのか!

 

《吹き飛べぇっ!》

 

今度は俺の身長の倍程の投身を持つ大剣を大上段から振りかぶってくる。

俺は雪片弐型のレーザー刃を展開、大剣の刃を灼き斬る!

だが次は漆黒の刀身を持つ日本刀型の武装だ。

左手には脇差型の武装を逆手に持っている。

構えは俺もアイツも同じだ。

 

「ぜぇぇりゃあぁぁぁぁっっ!!」

 

『おあああああぁぁぁぁぁ!!』

 

また刃がぶつかり合う。

双刀と双刀による鍔迫り合い!

スラスターは最大出力!

白式のパワーアシストも限界数値に至っている、なら、このまま押し通す!

こじ開けるように双刀を振るう!

刹那の瞬間には互いの足技がぶつかり、激しい衝突音。

見合わせたかのように左手の脇差を互いに投擲する。

だが、避ける必要なんて無い。

目の前で互いの脇差が消え、腰にマウントされ直す。

右手の刀が衝突する!

 

「…零落白夜!」

 

手元の雪片弐型の刀身がスライドし、レーザー刃が展開され、青白い刃が金色に染まる!

 

『災厄招雷!』

 

アイツは刀全体、そして黒翼天全体が黒い雷に包まれる。

大地を蹴り、俺たちは互いに飛翔した。

一対の翼と四対の翼から光が迸る!

 

「速いっ!」

 

全方位から超スピードで刀が振るわれる。

俺の目でもハイパーセンサーでも捉えきれない。

殆どギリギリで弾いているが、実質的には勘で刀を振るっているだけだ。

それでも、手は感電したかのように痺れている。

アイツは『災厄招雷』と呟いていた。おそらく、それが黒翼天の『単一仕様能力』だ。

武装に高電圧を纏わせ、更にはシステムの処理速度を加速させ、超加速をも可能とさせるもの。

零落白夜で消せたとしても、消しきれない高電圧エネルギーが俺の体にまで流れ込んでいるんだろう。

だとしても

 

「目が慣れてきた!」

 

背後に雪片弐型を振るった。

 

ガギィッ!

 

激しい金属音。

互いの刀が衝突した瞬間だった。

 

『ちぃっ!』

 

「わかったんだよ…お前の太刀筋が…」

 

やっぱり、コイツは俺だ。

どのような方向から刀を振るおうが、俺と太刀筋が全く同じだ。

鏡合わせの二刀流、鏡合わせの足技、ただ振るう刀の形が違うだけ。

 

『…ふざけるなぁっ!』

 

黒翼天が刀を手放し、左腕を振るう。

そこには別の武装が、鋭い鉤爪状のクロー。

後退加速でそれを回避するが、間に合わずに前髪が数本空中に散った。

どこから用意したのか、両手にはすでに新しい剣が握られている。

今度は…ミステリアス・レイディの『ラスティー・ネイル』かよ!

だが、それだってもう見慣れているんだ!

 

関節剣が蛇のようにしなり、襲ってくる。

ラスティー・ネイルへの対応手段は…『肉を切らせて骨を断つ』!

雪片弐型にその刃を巻き付けさせる!だが、これでいい!

 

『捕えたぞ!』

 

「これで逃げられないのはお前も同じだろう!」

 

この剣は巻き付けてしまえばそこまで。

それ以上は斬れない!だ

からこその、脇差!

雪華を逆手に握り、殴るように叩き斬る!

かつての二刀流の剣豪、宮本武蔵が鎖鎌への対処方法として生み出したものと同じだ。

 

『くそがっ!』

 

黒翼天はラスティー・ネイルを手放して離脱。

次に取り出したのは打鉄のブレード『葵』

横なぎに振るうそれをギリギリで避ける、そのままバク転のように旋回し、蹴り飛ばす。

続けて展開されたのは簪の…

 

「夢現か!」

 

十文字に振るわれるそれを双刀でかろうじて受け流す。

簪が振るう刃よりも鋭い!

そして速く、重い!

だけど、薙刀とて見慣れている。

柄を両断し、更に刃を発生させている出力装置を蹴り砕く!

 

『双天牙月』

 

今度は鈴の剣。

先ほどとは違う二刀流の構え。

だがそれも見慣れてる!

何度あいつと模擬戦をしたと思っているんだ!

 

『雪片』

 

「いい加減にしろよ、お前」

 

もう呆れてきた。

こいつは他人の武器ばかりを作り出している。

自分の武器を持っていないのか。

 

「俺は俺だけの剣を見つけた。

お前にはそれが無いのか?

千冬姉から言われた言葉を忘れたのか?

模倣してばかりじゃ強くなったとは言えない。

お前にだってあるんだろう、お前だけの剣が!」

 

黒翼天の手に構えられていた雪片が消えた。

眼下の荒野に無限に突き刺さる刃も、宝剣も、宝刀も、魔剣も、妖刀も消失する。

ありとあらゆる無限の刃が消えた。

光の粒子となって…闇色の粒子へと変質していく。

 

『全ての刃が俺の武器だ…そしてこれが…オレがオレの為だけに生み出した刃』

 

それは美しくも禍々しく俺の目に映った。

その剣は…龍の爪だった。黒の一振り。

 

《天龍神》(アマノタツカミ)

 

「お前の最強の刀か…上等だ。

なら俺もコイツで挑む、雪片弐型と雪華で!

俺が信じる、最強の刀で!」

 

俺は双刀を構える。

左半身を前にし、雪華を逆手に握る。

右半身は後ろに、雪片弐型をだらりと提げるように構える。

本命の刀の動きを悟られないように、更には俺が鍛えた蹴り技を素早く繰り出す為に、俺が考えた最強の構え。

未だに千冬姉には届いていないが、必ず超える。

その覚悟をも含めたものだ。

 

対する黒翼天は…同じ構えだ。やっぱり…コイツは俺だ。

そして…俺はコイツだ。

 

「織斑一夏」

 

《黒翼天》

 

「雪片弐型、雪華」

 

《天龍神》

 

一度息を吸う、そしてもう一人の俺を見つめた

 

「《馳せて参る!》」

 

互いの刀が交差し、ぶつかることもなく…互いの体を貫いた。

 




少年は実感した

自らの欠落を

負うべき責を

昏き翼と共にあるべき場所へと向かう

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 真名 ~』

君の名前は…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。