IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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『星』シリーズの真の能力の公開です。


麗銀輝夜 ~ 白錠 ~

Out Side

 

報道は世界を駆け巡っていた。

国境をも越え、すべての国々に流れる風のように。

 

 

ドイツ軍が所有するある駐屯地にも。

 

「副隊長!ニュ!ニュースを確認しましたか!?」

 

「ああ、確認した。

現在は情報を流した輩を捜索中だ!

あんなデマに踊らされるな!

動揺している隊員が居たら引っ叩いてでも正気に戻せ!」

 

「はい!」

 

「隊長からの連絡はまだ来ないのか!?」

 

「まだ連絡が来てません!」

 

「荒熊隊は何をしている!?」

 

「食堂で大騒ぎをしています!

騒ぎ過ぎて収拾がつけられません!」

 

「一人残らず殴り倒せ!

あいつらが正気にならんでどうするんだ!」

 

「認めるものか…彼は私達の大恩人なんだぞ…!

こんな…こんな形で終わらせてなるものか…!」

 

 

 

Lingyin View

 

一日経過した。

あの報道が世界を駆け巡り、アタシのところには弾や数馬からの電話もかかってきた。

蘭からだってメールが絶えない。

でも、答えることが出来なかった。

簪はみんなのなかでもとりわけ酷い。

あれから泣き続けている。

食事もまともにしていない。

アタシも見ていて心が苦しい。

ラウラ、マドカは1組のみんなが取り押さえなければ、篠ノ之を殴り続けていただろう。

シャルロットとセシリア、メルクは差し入れをするしか出来ない。

篠ノ之は…今は即席の懲罰房に放り込まれている。

後ろに腕を回され、指、手首、前腕、肘、二の腕まで幾つもの鋼鉄の手錠を施され、両手の自由は無い。

足も同じように、指、土踏まず、足首、臑、膝、大腿部も拘束されている。

今は国際IS委員会からの処罰内容が下されるのを待つだけだ。

拿捕された直後、アタシもマドカもラウラもシャルロットもメルクも全力でぶん殴った。セシリアだけが平手だったけど、それはそれで良い。

中でも千冬さんは強烈だった。

…鬼の百連突きを初めて見た。

山田先生が止めなかったら、間違いなく篠ノ之は死んでたわね。

ちなみに、百連突きと言っても…アタシには5発目以降は視認出来なかった。

 

「一夏…あんた…今はどこに居るのよ…?」

 

黒翼天が暴れ、福音とともに姿を消してから何も進展が無い。

あたしには…アンタがいないこの状況がとても辛かった…。

 

 

Laura View

 

兄上が行方不明になった。

私も取り乱したが、姉上が一番酷かった。

泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。

今も泣き続けている。

シャルロットがあやしていたが、泣き止む事はなかった。

他の皆の分も、一生の内に流す涙を全てを流し尽くしてしまうかもしれない。

 

こんな事になってしまった原因である篠ノ之を、私は絶対に許さない。

そして…それと同じだけ…あの時に篠ノ之を止めきれなかった自分が不甲斐なかった…!

戦闘海域を気にして攻撃を中断してしまった自分が許せない!

 

「兄上…!頼む…姉上の為にも早く戻ってきてくれ…!」

 

今回の任務はまだ終わっていない。待機命令が出されていなければ、すぐにでも出撃が出来ると言うのに…!

 

 

 

Madoka View

 

兄さんがどうしようもなく心配だった。

腹部を串刺しにされ、そこをレーザーで焼かれている。

それだけでも、夥しい出血だった。

 

「…兄、さん…」

 

黒翼天が一度展開され、感情を失った。

そしてまた…兄さんは黒翼天の力を使った。

今度もまた、何かを失ってしまったのではないのかと思うと、怖くて仕方ない。

今も…手の震えが止まらない。

 

お願いだ…早く戻ってきてよ…!

 

 

 

 

 

Charlotte View

 

初めての命懸けの戦いだった。

でも、その作戦は最悪の形で幕を閉じた。

ターゲットと共に一夏が行方不明。

そして初めて見た『黒翼天』の顕現。

 

『では、繰り返しニュースをお伝えします』

 

これで何度目になるだろうか。

このニュースが放送されるのは…。

 

「簪、食事を持ってきたよ」

 

この部屋に入るのもやっぱり辛い。

あれから簪が泣き続け憔悴している。

食事も全然摂っていない。

 

「簪さん、食事をとらないと、体調を崩してしまいますわよ…」

 

このままでは死んでしまう。

そんな風に思ってしまうほどに彼女は心身共に弱っていた。

メルクの説得で自殺の心配は無いらしいけれど、僕たちには食事の差し入れしかできないのが辛かった。

 

「…要ら、ない」

 

「そんな事を言ってたら駄目ですよ、ほら、食べてください」

 

「一夏が、居ない…のに…」

 

それは誰だって辛い…でも…それでも…

 

 

 

 

Chifuyu View

 

あんなにも取り乱したのは、いつ以来だっただろう。

一夏が誘拐されたと知った直後、だった気がする。

その前は、両親がマドカと共に姿を消した時だったか。

二人だけ残された。

だから、一夏は私が命を懸けて守ると決めた。

なのに…私は再び家族を失う寸前まで至っている。

そこに至らせたのは私だ。

あの作戦に参加させなければ…そう後悔している。

 

「これでは二年前と何も変わらない…私は…また守れないのか…」

 

認めない…一夏、お前の死など、私は絶対に認めない。だから…帰ってこい…!

 

 

 

 

Tabane View

 

映像に映されたものを、私は信じられずに居た。

海中から飛び立った漆黒の雷龍…『黒翼天』の姿に…。

いっくんの左手に存在する待機状態のISからは、データの採取は出来なかった。

……『機体組み上げ』のデータも。

コアには思い当たるものが一つだけある。

それすら確信に至る物が…。

『黒翼天と名付けられた機体は、誰も開発していない』事も含め、二つの確信だった。

そして、三つ目の確信は…

 

「あの機体を組み上げたのは…」

 

その人物は…一人だけ。

 

「束様、どうされますか」

 

「使うしかないよ…あの能力を…」

 

私の視線は更に別のモニターに向かう。

そこに映るのは、いっくんの死を告知するニュース。

どこのチャンネルでも同じニュースの繰り返しばかり。

あまりにもしつこいと思う。

だからこそ怪しかった、私もそのニュースを見てはいたけれど、情報の裏がはっきりとしていない。

ニュースを読み上げるばかりで、映像らしきものが映されていない。

コイツらは、いっくんの死を告知しているだけ。

 

「やっぱりね…こいつらは何も知らないんだ…」

 

「情報源を発見しました。

国際IS委員会本部です、そこからアメリカ・イスラエル軍事基地へのハッキングの形跡もあります。

ただ…」

 

「どうしたの?」

 

「国際IS委員会も一夏さんの死を、確認したわけではなさそうです」

 

と、なると…。

今回の軍事ISの暴走は…そうか…そういう事か…!

 

「あ、はははははは…」

 

知らなかった。

私をここまで怒らせるような輩が存在するだなんて…

 

知らなかった

私は本気でキレた時、笑いがこみあげてくるだなんて…。

 

「この報い、相応にしてやらないとね…」

 

だけど、報復なんて後回し、

今はいっくんの捜索が何より一番だ。

 

いっくんの死だなんて絶対に認めない。

認めないから…!

 

「海上保安庁が保管しているあの海域の海流の詳細デ-タ、気象庁が保管している気象データ、それから、海図。

まだだ、まだデータが足りない。

黒翼天のスピード、他にもデータは必要…他には…福音の機動性、ログから見た白い閃光、それによる衝撃は…」

 

やっぱり、使うしかない。

 

「くーちゃん、専用機所有者を全員集めて、場所は…そう、海岸がいい」

 

「承知しました」

 

こんなにも早くに使うだなんて思わなかった。

でも、この際四の五の言っていられない。

 

「『白錠(しらじょう)』を使う時、ですね」

 

「うん、それからアレ(ジョーカー)もね」

 

「あの篠ノ之博士…何をされるつもりなんですか?」

 

ふと後ろから声が聞こえてくる。

振り返ると、胸のずいぶん大きな…先生かな?

確か…山田先生って呼ばれていたと思うけど…。

 

「いっくんを見つけるんだよ」

 

「織斑君を、ですか?

ですが、ニュースでは…」

 

「あんなくだらないデマを信じるのかなぁ?」

 

「デ、デマですか!?

ですが、海域は現在封鎖されているんですよ!?

いったいどうやって捜索を…!?」

 

私たちだからこそ出来る事がある。

物理的に探し出せないのなら…別の線で捜索する。

その為の『星』なのだから。

 

 

 

Chifuyu View

 

束が何か動き回っている。

それは私も把握していた。

だが、私は敢えて放置しておいた。

あいつが動くということは、何か機略を巡らせているからだろう。

 

「おい、そこのお前」

 

「はい、何でしょうか?」

 

束の助手…いや、娘を名乗っている者を呼び止める。

 

「束は何を考えている?」

 

「一夏さんの捜索です。

たった一つだけ、彼を探し出す方法がありますので」

 

「海域は封鎖されているぞ」

 

「山田先生と同じことを仰るのですね」

 

…あいつと同格に見られているのか、私は?

 

「捜索方法は一つ、ですが、物理的なものではございません。

一種の賭けにはなってしまいますが。

織斑 千冬さん、あなたの手元にAphrodita(暮桜)が有れば、捜索に加われたかもしれませんが…」

 

…アレは現在封印されている。

私の手でそれを解除させるのは不可能だろう。

だが、ISがあれば捜索出来るとでも言うのか…?

 

「今、此処にはVenus(打鉄 弐式)があります。

もしかしたら、彼女なら見つけられるかもしれませんね。

一夏さんが認めた、たった一人の特別である簪さん(彼女)なら…」

 

…そう願いたいものだ。

 

「確実に見つけられるのか?」

 

「先ほども申した通り、賭けです。

ですが、このまま動かないよりは確実だと申しておきます」

 

「なら…必ず見つけ出せ、見つけ出し、引きずり戻してこい」

 

私はもう家族を失いたくはない。

だから…頼む…!

 

「承知致しました」

 

 

 

Tabane View

 

私は、先に一人で海岸で皆を待つ事にした。

ここから先は大きな賭けになる。

その賭けに皆が乗ってくれるかは判らない。

たとえこの誘いに乗ってくれなかったとしても、私は誰も責めない。

 

「夕暮れ、か…あの日もこんな感じだったな…」

 

私が世界から姿を消したのはこんな時間だったと思う。

後悔はした、憤慨もした。

でも、今は私も先に向かって進む時だ。

 

「あの…」

 

「やあ、よく来てくれたね」

 

最初に来たのはイタリアのテンペスタの娘だった。

続けて、イギリス、フランス、ドイツの娘も来てくれた。

この娘達もいっくんを慕ってくれていたから決意してくれたのだろう。

 

「兄さんを…見つけられるのか…?」

 

マドっちも来てくれたのは幸いだったかな。

 

「確実に、とまでは言えないのが辛いけれど…このまま動かないよりはマシでしょ?」

 

「つまり…博打、ですか…」

 

中国の鈴ちゃんも来てくれたらしい。

残るは…一人…。

 

「簪ちゃんは?」

 

「姉上にも伝えた、けど、来るかどうかは…」

 

今もあの娘は塞ぎ込んでいるかもしれない。

此処には来ないかもしれない。

けど、私にそれを責める権利は無い。

オマケにこんな博打を行おうだなんてね…。

 

「簪、さん…?」

 

イギリスの娘の声に私は視線を後ろに向ける。

そこには、トボトボと歩いてくる女の子の姿。

それを見て私は少しだけ安堵した。

彼女の眼は…炎が宿っていた。

 

「簪、あんた、もう大丈夫なの?」

 

「大丈夫…泣くだけ泣いた、弱音だってはいた、暗いままの自分が嫌だったの。

だから…もう、弱いままの自分で居たくない。

それに…方法があいまいなのだったとしても…それで一夏を見つけられるのかもしれないのなら…私は…希望を捨てたくない」

 

本当に…本当にこの娘は強いんだね。

いっくんが気にかけ続けていた理由がわかった気がした。

そして…いっくんがこの娘を選んだ理由も…。

 

「束様、始めましょう」

 

「そうだね、始めようか。

じゃあ皆、まずは各自の機体を展開させて」

 

私の合図と共に全員が機体を展開させていく。

 

更識 簪ちゃんの専用機

日本製第三世代機『打鉄 弐式』

 

織斑 マドカちゃんの専用機

イギリス・オーストラリアにより共同開発された第三世代機

『サイレント・ゼフィルス』

 

ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんの専用機

ドイツ製第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』

 

メルク・ハースちゃんの専用機

イタリア製第三世代機『テンペスタ・ミーティオ』

 

鳳 鈴音ちゃんの専用機

中国製第三世代機『甲龍』

 

セシリア・オルコットちゃんの専用機

イギリス製第三世代機『ブルー・ティアーズ』

 

シャルロット・デュノアちゃんの専用機

フランス製第二世代機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』

 

すべての機体が展開されるのを見渡す。

こうやって見ると、中々に荘厳に見えた。

 

「それで…どうするんですか?

このまま飛び立って、海域を探せと?」

 

簪ちゃんの質問に私は首を横に振った。

そんな原始的な方法じゃない。

 

「まず、皆に基本的なクイズを出題するよ。

コアネットワークは何の為?

マドっち!答えてみて!」

 

「私か!?

えっと…宇宙進出開発技術の一環として開発されたネットワークで…恒星間距離でも通信や、互いの位置を知るためのものだったと記憶してる」

 

うん、そこまでは正解かな。

宇宙進出技術開発を行ったISが兵器に転用されたのは私でも嫌な記憶だけれど、今はそれを置いておこう。

 

「じゃあ、次の質問。

そのコアネットワークは、あるものを参考にして私が組み上げたの。

それは何かわかるかな?

まずはイギリスの娘!」

 

「えっと…わかりません…」

 

「じゃあ次にドイツの黒兎!」

 

「むう…ネットワークと言う位だから…インターネット関連か?」

 

「不正解!

次にイタリアの娘!」

 

「えっと…く、クモの巣!」

 

「一気に遠のいた!?

次にフランスの僕っ娘!」

 

「え!?僕!?えっと…」

 

「時間切れ!

次に鈴ちゃん!」

 

「わ、わからない、です…」

 

「簪ちゃん!」

 

「えっと…すべてのコアはコアネットワークによって繋がっている…。

じゃあ…物質的なものではなく、形の無いもの、でしょうか?」

 

そう、それで半分正解。

じゃあ、答えを教えてあげようか。

 

「コアネットワークは目に見えない。

だから私は、形の無いものを参考にして、作り上げたの。

形の無いもの、だけれど、すべてが繋がる。

コアネットワークの原型(モデル)、それは…『人の心』。

馬鹿みたいに聞こえるかもしれないけれど、これが、本当の答え。

いつの日か、全ての人が心を通わせ、無限の宇宙を飛翔していく。

そう思ったんだ…。」

 

そう、思っていたんだけどなぁ。

 

「湿っぽい話は此処まで。

それじゃあ、いっくんの捜索を始めようか。

皆、私が昨日あげた装備を取り出してみて」

 

私の合図に、皆が素直に装備を取り出す。

七つの星がそろってから、私はくーちゃんに合図を出す。

くーちゃんの周囲に幾つものモニターが展開される。

くーちゃんに渡している二つ目の機体『白錠(しらじょう)』の起動合図だった。

 

「皆、それぞれ意識を集中させて。

これから君たちの意識をコアネットワークにサイバーダイブさせる。

そこで、白式のコア反応を探してほしいの」

 

「サ、サイバーダイブ!?」

 

「皆に渡した武装の本当の能力、それは搭乗者の意識を電脳世界だけでなく、コアネットワークにサイバーダイブさせるものなの。

こんな事にならなければいいと思っていたけれど…もしも…もしもの時のために開発しておいて正解だった…。

物理的な捜索が出来ないのなら、コアネットワークを通して白式を捜索、そのコアの反応からくーちゃんが演算を行い、現実世界での居場所を逆算する。

場所が分かり次第、皆にはいっくんの捜索に向かってもらうから!」

「で、ですけれど…海域には立ち入りが禁止されておりますわ…」

 

見つけたいの(・・・・・・)見つけたくないの(・・・・・・・・)?」

 

これは一つの博打。

皆がコアネットワーク上で白式の反応を見つけられるかはわからない。

それでも、もうこれだけしか無い。

海上保安庁も、気象庁も、気象データや海流のデータを執拗に消し去っていた以上、捜索方法はこの一つしかないのだから。

「やる、やります!」

 

一番に返事をしてくれたのは簪ちゃんだった。

続けてマドっちも名乗り出る。

ラウラちゃんもメルクちゃんも鈴ちゃんも賛成してくれる。

セシリアちゃんも、シャルロットちゃんも声を上げる。

 

皆、こんなにもいっくんを慕ってくれている。

此処には確かに、目に見えない繋がりが…絆が成り立っていた。

 

「私は…こんな光景を見たくてISを開発したのかもしれない…」

 

今まで信じなかった光景。

今の今までずっと望んでいた全てがあった。

人間嫌いだなんて言っていたけど…人の心の繋がりを謳っての開発だったけど…もうそんなの今はどうだっていい。

私も…前に進むんだ…!

 

「皆、意識を集中して、…始めるよ!」

 

「ダイブ、スタート!」

 

星々が青白い輝きを発する。

その光が途絶えた瞬間、皆が倒れる。

お互いに背中を預けあって…。

 

「頼んだよ、皆…」

 




繋がるもの

繋がらぬもの

それらは時には煌めき、時に昏く人に魅せる

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 心星 ~』


取り戻すんだ…すべてを…!

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