IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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年末の仕事も終わったので可能な限りの連日投稿を!


麗銀輝夜 ~ 絶望 ~

Tatenashi View

 

生徒会室にて、今日も書類を片っ端から片づけていく。

今日の午前の授業も終わっているけど、お昼休みには書類処理、これが花の女子高生の生活なのだろうかとさえ思ってしまう。

 

「虚ちゃん、お茶のおかわり~」

 

「少々お待ちください」

 

一夏君と簪ちゃん達、一年生は昨日から臨海学校に行っているので、いつものような喧噪は無い。

だからだろうか、今日はとても退屈に感じられた。

それに比べて虚ちゃんは少しご立腹の様子。

なにやら本音ちゃんが簪ちゃんに派手なイタズラをやらかしたらしい。

その報告を昨晩に受けたらしく、今日は朝から本音ちゃんのお仕置きフルコースを考えている、と。

あまり派手なことにならなきゃいいけど…

 

「えっと、次の書類は…!?」

 

何だろうか、背筋に寒気が走った。

と言うよりも…これは…予感、だろうか。

何か…何かよからぬことが起きる。

そんな気がした。

 

窓の外を見てみる。

 

空はどこまでも青く澄み渡っており、雲一つ見当たない。

 

「何も…何も、起きなければいいんだけど…」

 

胸の内で感じるこの嫌な予感、ただの杞憂であればいいんだけれど…

 

 

 

 

 

 

Dan View

 

(あち)ぃ…」

 

七月に入って一週間しか経ってないのに、日本は全域で真夏日の勧告がでている。

この都会も例外ではないらしく、ジリジリと太陽が照りつけ、コンクリートが熱を地面から跳ね返し、熱帯地獄のようだ。

 

「そういえば一夏は臨海学校だって言ってたよなぁ、なぁ数馬ぁ」

 

「そうだよねぇ…でも一夏は泳がないんだろうし、責めることはできないよ…」

 

「だよなぁ…」

 

あいつは春夏秋冬を通して長袖で生地の厚いシャツを学生服の下に来ている。

しかも学生服すら長袖だ。

俺もマネしてみたが、半日でギブアップした。

学校の中、それも昼休憩の教室で脱ごうとしたから、鈴に蹴っ飛ばされた。

あの時の周囲の視線は辛かったなぁ…。

これは虚さんには言えない秘密だったりする。

 

「虚さん、元気にしてるかなぁ…」

 

「まだ文通でストップしてるのか?」

 

「ああ、俺には一夏のようにコクる度胸がまだ持てなくてなぁ」

 

いまだに『文通相手』で段階がストップしている。

このままじゃあ…虚さんが誰かに奪われたりしないか心配だぁ…

 

「…?何だ…?」

 

「どうした、弾?」

 

「何か…妙な予感がする…」

 

「虚さん関連か?

もう相談には乗らないぞ」

 

そっちじゃねぇよ!

いや、そっちも心配なのは確かだが…。

 

でも、なんなんだ、この妙な感じは…。

 

「それにしても…、奇遇だね弾。

僕も妙な予感がしてならないんだ」

 

「数馬もか?」

 

何事も無ければいいんだけどな…。

 

 

 

Chifuyu View

 

目の前のモニターが表示した内容が信じられなかった。

悪い夢であれば…そう願っていたい。

だが、これは…現実だ。

そう…残酷なまでの現実だ…。

 

「びゃ、白式…反応消失…だと…」

 

「ほぼ同時に打鉄も機能停止です…」

 

「うそ、…いっくんが…箒ちゃん、なんて事を…」

 

嘘だ…辞めろ、こんな現実を私に見せるな…!

 

「サイレント・ゼフィルス、打鉄 弐式の数値が異常を示しています!

搭乗者の意識が乱れています!このままではあの子達が危険です!

…!

福音!攻撃を続行!」

 

「第二防衛線を崩しても構わん!

援護に向かわせろ!急げ!」

 

「ダメです!通信が繋がりません!」

 

こんな時に通信トラブルだと!?何が起こっているんだ!?

 

 

 

Tabane View

 

「束様、一夏さんが撃墜されたのは箒さんが作戦を著しく妨害したからのようです」

 

「迂闊だった…訓練機で飛び出すだなんて私にも予想ができなかった。

それで、いっくんは…?」

 

「…ダメです、繋がりません」

 

くーちゃんの生体同期型IS『黒鍵』でも反応を見つけられない。

ともなれば…もう、いっくんの意識が失われているという事だろう。

こんな危険な作戦で意識消失をすれば、それは何を指し示すのか、そんなの判り切っている…!

 

「ただ…一夏さんの意識とは違い、また別の反応が…」

 

「…まさか…!」

 

背筋に寒気が走る。

絶対に展開してはならない。

そう何度も言い聞かせたのに…!

 

「福音!攻撃を続行!」

 

「第二防衛ラインを崩しても構わん!

援護に向かわせろ!急げ!」

 

「ダメです!通信が繋がりません!」

 

…間違いない!

 

「束様、申し訳ありません。

これ以上は探れません…!」

 

「駄目…いっくん、それだけは絶対に駄目…!」

 

お願い!使わないで!

 

 

 

 

Ichika View

 

全身が重い。

微かに目を開けば、青に染まっていた。

福音に撃墜され、海に叩き落されたのだと理解するのに数秒を要した。

 

傷が海水に侵され酷く傷む。

 

体は…まともに動かない…。

意識が朦朧としているにも拘らず残っているのはこの痛みによるものだろう。

視線の向きを少しだけ変えてみる。

傷からは赤が次々に溢れ出している。

 

「ああ…終わるのか…」

 

『諦めるのか』

 

「動けないんだ…どうしようもない…」

 

『抗わないのか…この状態に…』

 

これ以上は、俺にはもう無理だろう…。

 

「黒翼天、頼みだある。

皆を…守ってくれ…お前になら…出来るだろう…」

 

俺には…もう、出来そうにない。

皆を何が何でも守れる人間になりたかった。

でも、俺はここで終わるのかもしれない…なら…

 

『お前の体の状態では五分が限界だろう。』

 

 

そうか…俺の体は…五分で最期を迎えるのか…

 

 

『それだけの時間があれば…だが、あまり派手にはやれないぞ…』

 

「それでも、…頼む…皆を守れるのなら…俺は…」

 

皆を守れた

 

そんな未来とて存在するだけでも、俺は…

 

俺はもう少しで永眠(ねむ)ると言うのなら…今の俺が黒翼天の糧となるものがあるとするのなら…

 

(これ)を喰らっていけ…

 

此処で終わるのなら…

 

惜しいとは思わない…

 

『この…底無しの大馬鹿野郎がああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

俺の両手が勝手に動く。

口が動き言葉を紡いだ。

 

これで俺は最期を迎えるのだろう。

 

悔いが有るとすれば…それは…

 

彷徨(さまよ)える星の骸!来たれ!!』

 

 

 

 

 

 

ごめんな…簪…

 

 

 

 

 

 

Kanzashi View

海から飛び立ったのは『黒翼天』だった。

何故再び展開したのかは分からない。

恐怖と怒り、そして徹底的な破壊を撒き散らすばかりの機体の出現に私は安堵していた。

あの機体の搭乗者は一夏以外に居ない。

だけど、同時に悲しかった。

あの機体を展開する事で、一夏は感情を失っていた。

もう、感情の全てを失ってしまったのに…また、何かを失ってしまう事に。

 

「GURURURURURU……………。

GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

凄まじい速度で飛翔する。

そして両手を掲げ、巨大なエネルギーシールドを形成する。

福音の殲滅砲撃の全てを弾き飛ばした。

信じられなかった。

クラス対抗戦の時には、見境も無い破壊を繰り広げた黒翼天が、私達を守ってくれた。

違う、黒翼天は明確な理性を…心を持っている。

そして…私たちを守ってくれている…。

 

福音が脅威と認めたのか、両機が凄まじい速度でぶつかり合う。

プラズマブレードと、黒翼天がその手に生み出す無限の刃がぶつかり合う。

今までに見たことの無い超スピード、高速を更に越えた超光速の戦闘に私達は見ているしかできない。

迎撃も、援護も出来ない。

上空から無数の弾丸、レーザーが雨のように降り注げば、一夏は無限の刃を一瞬で現出させ、ミサイルのように射出する。

更には黒い雷を無限に発生させ、福音を貫く。

福音の搭乗者の事など、何も考えていないかのように…。

無限に生み出される刃が福音を襲う。

機体の腕も足も両断し、搭乗者の腕がそこに視認出来た。

その状態になっても、黒翼天は攻撃を止めない。

黒い雷が幾つも発生し、福音を貫いた。

 

 

でも、先に限界を迎えたのは黒翼天だった。

一夏の体が大きな傷を負っていたからかもしれない。

 

「GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

あの時のように、一夏の傍に飛翔した。

鈴が止めようとしたけど、今は見逃してほしい。

私の接近に気付いたのか、黒翼天のアイレンズが光る。

それと同時に福音も私の接近に気付いた。

春雷を構え、福音を狙い撃つ!

それが躱され、福音は再び一夏に視線を向ける。そして福音の鋭い爪先が一夏の腹部を蹴った。

「一夏!」

 

それでも怯まない。

右腕の兵装で福音に食らい付き、そのまま幾度も砲撃を叩き込む。

その都度に装甲が爆発を起こす。

自分を傷つけながらの攻撃に…私は思わず息を飲んだ。

あんなの…あんなの…黒翼天(一夏)の戦い方じゃない!

 

「辞めて…もう…それ以上は…」

 

止めようと私は黒翼天に向けて飛翔する。

でも、それが出来なかった。

『来るな』と黒翼天(一夏)の目が告げていた。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

 

瞬間、一夏の姿が消えた。

あの超加速能力を使ったんだ…。

 

「福音が離れていきます!

いえ、あの大きな機体と一緒に!」

 

「そんな!追わないと!

メルク!マドカ!一夏の後を追うよ!」

 

「了解です!」

 

「判った!」

 

二人に指示を出し、私は打鉄弐式が出せる最大速度で黒翼天を追いかける。

メルクとマドカも全速力を出している筈だった。

それでもレーダーを確認すると黒翼天からはどんどん距離を広げられるばかりで追いつける気がしない。恐ろしいほどの加速能力だった。

テンペスタ・ミーティオでも追いつけない速度だとするのなら、黒翼天は間違いなく世界最速の存在。

誰も追いつけない。

 

「お願い、一夏、待って…!」

 

「レーダーの検知範囲から出ました!

これ以上は…捜索が…出来ません…!」

 

「まだだ!まだ追いかけられる!」

 

「私も行ける!絶対に追いつく!」

 

必ず…必ず追いつくから!だから…!

 

 

 

その瞬間だった。

遥か遠くから、白い光が見えた。

 

 

 

「なに、あの光は…?」

 

「判らない、それよりも今は…」

 

『待て』

 

通信が入った。

相手は千冬さんだった。

 

『撤退しろ…』

 

「で、ですけど一夏が!」

 

『撤退…しろ…!上層部からの命令だ…!』

 

上層部からの命令…。

千冬さん我慢をしている。声の響きからそれが理解できた。

 

「簪…」

「簪さん、どうしますか」

 

どうする事も出来ない…!

上層部からの命令ともなれば私たちには従う以外に何も出来ない。

何が…何が専用機所有者…!

何が国家代表候補生…!

好きな人を助ける事も出来ないだなんて…!

 

 

 

 

Laura View

 

篠ノ之を拿捕し、我々は帰投した。

奴を引き渡してから、鈴、シャルロット、セシリアには先に作戦本部に戻ってもらった。

私は、この海岸で残る四人を待つと言い、海岸に残った。

きっと…きっと、傷付いた兄上を連れて帰って来るだろうと思った。

 

 

それからどれだけ経過しただろうか。

ようやく姉上とメルクとマドカも帰投した。

だが…兄上の姿が見えない。

 

「メルク、兄上はどうした」

 

「……………………………」

 

なんだ、なぜ答えない?

 

「マドカ!兄上はどうした!?」

 

「…兄…さん…は…うわあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

まさか…嫌だ、信じたくない!

嘘だ!嘘だと言ってくれ!

 

「姉上!」

 

「う…あああああ…ぁぁぁぁぁ………」

 

そんな…そんな…

 

「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ…嘘だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

 

 

Tabane View

 

白式が撃墜され、黒翼天が出現した。

出現してから黒翼天は福音に食らいつき、作戦領域から急速離脱した。

その先に見えた光が何なのかはまだ判らない。

あるとするのなら、可能性は二つある。

 

「くーちゃん、反応はどう?」

 

「…ダメです。

白式、黒翼天、どちらとも反応はありません。

やはり、あの閃光は…」

 

コア消滅現象か、形態移行(シフトチェンジ)のどちらかだろう。

そのどちらだとしても、いっくんの生存は絶望的だ。

 

「それと、束さま、緊急のニュースが一般回線で流れているようです」

 

「ニュース?そんなの興味無いなぁ…」

 

ウィンドウを開き、適当なチャンネルを選んでみる。

私の興味をひくようなニュースか何か流れているのだろうか?

 

「な、なに、この、放送…」

 

あまりにもふざけたニュースがそこには流れていた。

 

『では、繰り返しお伝えします。

全世界を騒がせた、最初の男性IS搭乗者、織斑一夏君が死亡したとの緊急ニュースです』

 

 

 

 

Tatenashi View

 

「う、虚ちゃん、これ、何の冗談なの…?」

 

「何処のチャンネルでも同じニュースが繰り返し流されています。

調べたところ、全世界でも同じ報道がされています」

 

嘘よ…!一夏君が死んだなんて!

絶対に何かの間違いよ!

 

「この情報の裏は取れているの!?

すぐに確認を!

私は臨海学校のほうに問い合わせてみるわ!」

 

「了解しました!」

 

こんな報道、絶対に許さない!

簪ちゃんと一夏君の未来を奪うようなことは絶対にさせない!

 

 

 

Lingyin View

 

一夏はMIA(戦闘中行方不明)の扱いになり、私達専用機所有者も自室待機が言い渡された。

一夏が帰ってきていない。

それどころか行方不明なってしまい、胸の内にポッカリと大きな穴が開いてしまったみたいに感じられた。

 

「鈴!テレビをつけて!大変なニュースが流れてる!」

 

「何よティナ、ニュース?

そんなの別に興味も…」

 

「いいから!緊急報道なの!」

 

緊急報道?いったいなにが…?

 

「何よ、コレ…」

 

あんまりにも突拍子もないニュースが流れていた。

一夏が…死んだ…は、ははは…嘘よ、アイツがこんな簡単に死ぬわけが…

 

「ほかの皆もこのニュースにくぎ付けになってる…ボーデヴィッヒさんも…アイリスさんも、オルコットさんも…更識さんや、マドカちゃんも…ハースさん、も…」

 

「嘘よ…こんなの…嘘の報道に決まってる…!

そうよね、ティナ…?こんなの嘘に決まってる、そうよ…嘘よ…」

 

嘘に決まってる。

でも、もしも…もしも…この報道が真実なのだとしたら…

 

「なんで…」

 

頬に涙が流れるのが感じられた。

 

「一夏が居ないのに…なんで…なんであの大馬鹿女がここに帰ってきてるのよ!!!!!」

 

 

 

 

Dan View

 

「暑い…」

 

「アイスなら最後の一個を弾が食べてしまったんだろう…我慢しろよ…」

 

「そうは言ってもだな…」

 

「お兄ぃっ!」

 

「お、蘭、どうした?」

 

部屋の扉を蹴り壊して飛び込んできたのは妹の蘭だった。

っつーか、これで何回目だよ、毎度毎度直すこっちの身にもなってくれ…。

 

「話は後!こっちに来て!数馬も!」

 

「僕も?」

 

言われるがまま、一階の食堂に降りてみる。

テレビには緊急のニュースが報道されていた。

ただ、内容が内容だけに信じられなかった。

 

「俺、酒や煙草はやってないよな…?」

 

「ああ、やってないな」

 

「麻薬だとか覚せい剤、大麻や危険ドラッグだってやってないぞ…。

白昼夢、とかじゃないよな…?」

 

ためしに頬を抓ってみる。うん、痛い、夢じゃない。

じゃあ、これは現実なんだな…

 

『繰り返し報道します。

世界最初の男性IS搭乗者である織斑一夏さんが―――』

 

「う…うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!」

 

蘭が大泣きし始めた。

俺の部屋に飛びこんできたときには我慢していたんだろう。

 

嘘、だろ…嘘、だよな、…なあ、だれか嘘だって言ってくれよ…

 




報道は世界を駆ける

それは、彼を愛する少女の耳にも届く

絶望、悲嘆、憤怒に襲われる彼女達に、一つの光が差し込む

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 白錠 ~』

今ここに、心が繋がる

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