IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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ようやくここまで来たか…そんな実感です


麗銀輝夜 ~ 銀翼 ~

Chifuyu View

 

…似ている。

一夏と現在話をしているあの小娘…クロエ・クロニクルとか名乗っていたが、あの外見は…

 

「気になるの?ちーちゃん?」

 

「ああ、あまりにも似すぎているからな」

 

心当たりが無いわけではない。

現にラウラ自身もあの小娘を見つめている。

 

「ちーちゃんもいっくんも察しているだろうけれど…あの娘は遺伝子強化素体児(アドヴァンスド)だよ。

というか…それになれなかった子なの。

処分されそうになって死にそうになっていたのを私が引き取ったんだよ」

 

「待て、私とて一年間はドイツ軍に身を置いていたがそんな報告は…」

 

「出来るわけないじゃん、子供を軍の中で殺しまくってただなんて」

 

遺伝子強化素体児(アドヴァンスド)の開発、研究はすでに廃されている。

生命を…それも人間を極めて人工的に製造するなどという所業は倫理上、認められないからだ。

その製造理由が『戦闘』と言われてしまえば、それこそ開発された子供をも虐殺しようとする勢力も現れるだろう。

ラウラは遺伝子強化素体児(アドヴァンスド)の中でも失敗作と言われていた。

それよりも年上に見えるあのクロエ・クロニクルは…言わば『試作体』だったのかもしれない。

だが、戦闘能力は皆無のようだったが…あの仕込杖で篠ノ之の刃を受け止めていたのは…?

いや、そもそも、あの瞬間までは姿も見えていなかった…、まさかとは思うが…。

 

「戦闘能力が皆無だからこその、身を守るための生体同期型のIS…?」

 

「正解、相変わらず勘が鋭くて説明の手間が省けるよ。

あ、でも言っておくけど」

 

「安心しろ、人間嫌いのお前が引き取り、助手に雇う程だ。

口外するつもりは無い」

 

…現にその小娘は何やらラウラを気に入りぬいぐるみのごとく可愛がっているようだがな。

 

「助手なのは確かなんだけど…実際には私の娘なんだけどね。

もうそろそろママって呼んでほしいんだけどなぁ」

 

…!?

娘だと!?

い、いや、いずれにしても養子だ。

先を越されたわけではない、焦る必要など…!

 

「ちーちゃん、いっくんにも先を越されるかもしれないよ?」

 

「余計なお世話だ!」

 

蹴り飛ばしておいた。

 

 

Ichika View

 

 

「織斑先生!大変です!」

 

専用機同士での連携をする際の話に移った頃、山田先生が血相を変えてこの場所に戻ってきた。

山田先生はいつもいつも似たようなことを言ってくるような気がするが…いや、気のせいじゃないな。

いつも気苦労を背負っているのだろう。

副担任って仕事はそれなりに大変なようだ。

ご苦労様です。

ですがあんまり走るようなことはお勧めできません。男も居るんですから、俺は反応しませんが。

 

一歩左へ移動する。

簪には足を踏まれる寸前だった。

更に左に一歩移動、マドカに抓られる寸前だった。

少しはいたわってくれないか?

 

山田先生が何かを耳打ちする。

千冬姉の視線が束さんに向かうが、束さんは首を傾げるだけだった。

 

「了解した、一般生徒は旅館の自室に待機。

訓練機はコンテナに戻させておけ。

専用機持ちのメンバーは全員旅館の広間に集合、これより重要案件について話を行う。

これは、学園上層部からの命令だ!」

 

学園上層部からの命令、ともなれば、国際IS委員会からの命令でもある。

よりにもよってこの臨海学校真っ只中に何の用だ?

 

指定された部屋に案内されると明かりが消された。

そして次々に開かれる青白いディスプレイ、そこには様々な情報が表示されていた。

多分、国際IS委員会からの通達された情報だろう。

 

「これより話すのは極秘事項だ、口外厳禁は絶対の箝口令も敷かれている。

相応の覚悟の無い者は退室しても構わない」

 

無論、その言葉に従い退室する人は誰もいない。

束さんが何故か居るが、この際には気にしておいても必要はないだろう。

するだけ無駄だ。

言ったところで従う人じゃない。

その認識は早くも全員しているんだろう。

 

「本日未明、アメリカとイスラエルによって共同開発された軍事機ISが暴走し、この近海を通る可能性が示唆された」

 

その言葉に今度は全員が凍りついた。

ISは兵器だ、それも世界最強クラスの兵器。

元来は宇宙進出開発技術として開発されたが、その目的は凍結され、兵器からスポーツに定着している。

だが、武器で武装している限り『兵器』の概念から逃げられない。

一機だけでも一国の軍事レベルを大きく狂わせる。

だから世界中でISの軍事転用が禁止され、『アラスカ条約』が締結されている。

その条約をアメリカとイスラエルが無視し、軍事転用のISを開発した。

しかも暴走というオマケ付き。これで今後はイスラエルとアメリカが糾弾されることになる。

国際IS委員会からの厳罰はかなり厳しいだろう。

 

「そして、学園上層部から、この機体の討伐、破壊が命令された。

だがこれは一学生には荷が重いのは明白、強制はしない。

これが最後のチャンスだ、この任務に参加したくないものは退室しても構わない、各国の政府には伝令されることはないから安心しろ」

 

それでも、誰も退室する奴は居なかった。

勇気と無謀は別だ。

それを理解しても放っておけなかったんだろう。

参加したとしても、参加しなくても、IS学園の生徒としては支障は無い。

だが、これは模擬戦でも予習でも実践訓練でもない。『命を懸けた実戦』だ。

 

「良いだろう、だが諸君等には今後最低二年間はIS委員会の監視がつく。

それを理解しておけ、繰り返して言うが、箝口令を敷く。

では内容を話す、一言一句聞き逃すな」

 

そして情報が通達される。

暴走したISは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』、通称『福音』名が示す通り、白銀色の機体だった。

それが無人の状態で暴走していると言うから、殊更にタチが悪い。

だが無人と分かれば、討伐・破壊に加減する必要はない。

既に条約違反を犯しているからアメリカとイスラエルはこれに関しては泣き寝入りする以外に無いだろう。

撃墜しようとしたが、悉く返り討ちにされ、そのまま逃げられ、超音速飛行しているらしく、1時間後にはこの近海へと飛来する。

それを討伐しろとのことらしい。

 

「ここまでで何か質問はあるか?」

 

「はい、機体の詳細なスペックデータを要求しますわ」

 

セシリアが挙手と同時に意見を口にする。

だが、それだけでも二か国の最重要軍事機密レベルであることは間違いない。

 

「カタログスペック上では広域殲滅攻撃を主体とした、高機動砲撃型か」

 

「うわ、この速度じゃ甲龍は追いつけないわよ」

 

「レーゲンでも無理だな。

篠ノ之博士から受理した武装を使ってもとてもではないが追いつけない」

 

また厄介なものを作るもんだな。

だが、それだけでは情報不足だ

 

「格闘戦についての情報は有りませんか?」

 

「それに関しては、未だデータが収集できていない、との事らしい」

 

接近したところで格闘で勝てる保証もない、か。

これは間違いなく情報を二か国が隠している。

情報を提供すれば二か国のIS開発上の機密情報にも触れてしまう、だから国際IS委員会への情報開示命令に従わないのだろう。

そしてその尻拭いを俺達が負う羽目になった。

命懸けということを理解しているのだろうか。

今更言ってもどうしようもないが。

 

「飛行スピードから見ても、アプローチが可能なのは一回のみ、厳しい作戦になりそうだ」

 

ラウラの言葉通り、これは厳しい戦いになる。超音速飛行をしている相手に接触、その一回の戦闘で確実にしとめる必要がある。

飛行スピードからして、速度が劣るシュヴァルツェア・レーゲンは戦闘に参加が難しい。

束さんから受理した装備でも追いつききれないそうだ。

鈴も同様だ。

そんな事を考えていると、全員の視線が俺に突き刺さる。

…言いたい事はわかる、白式のスピードと『零落白夜』に頼るしかない。

広域殲滅砲撃を掻い潜って『零落白夜』で撃ち抜くのは確実性にかけるから、叩き斬るしかない。

だが、此処で問題が一つある。

『移動』だ。

白式のエネルギーは零落白夜を発動させるために温存させる必要がある。

最悪討伐出来たとしても、軍事機が相手だ、かなりのエネルギー消耗は避けられない。

今度は帰ってくることができなければ何の意味もない。

泳いで帰るのは一苦労だ。

 

「ラウラ、何か有用な作戦は思いつくか?」

 

「む…そうだな…」

 

ラウラの視線が周囲に向けられる。

 

「高い機動性を誇る機体を別の機体で運搬、作戦領域に突入と同時に降ろし、戦闘に入る。

その後、高機動機で福音を攪乱、その隙に兄上が『零落白夜』で決着をつける」

 

此処には高軌道の機体が幾つもある。

その代表格であるのが、『テンペスタ・ミーティオ』だ。

他にも『白式』、『打鉄 弐式』。

更には『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』と『サイレント・ゼフィルス』だな。

特にリヴァイヴは束さんから受け取った後付武装があるから、それで加速も可能だ。

「高機動ならわたくしにも出番が有りそうですわね」

 

セシリアのブルー・ティアーズに関しても強襲機動パックが届いていたな。

高機動なら、彼女も頼りになる。

 

「良し、ではそうだな…シャルロット、セシリア、姉上の三名で、兄上、メルク、マドカの運搬だ。

前者の三人の内、シャルロット、セシリアは作戦海域に運搬終了後、第二防衛ラインに入り、姉上は兄上やメルクと共に戦闘に入る。

残る私と鈴が最終防衛ラインだ」

 

作戦内容としては、ISにISを背負わせるという非常識なものだろうか。

作戦領域に入ったら、メルクが福音を攪乱、マドカ、簪が牽制、その隙に俺が福音を叩き斬る。

たった4人による無人機の破壊、今回はそれしかない。

 

「オルコット、強襲機動パッケージのインストールにどれだけの時間がかかる?」

 

「10分有れば終わりますわ」

 

「駄目だ、5分で終わらせろ。織斑兄妹、更識、ハース、アイリスは各自機体の調整に入れ!」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

それから即座に機体の調整に入る。

『福音』のスペック上、白式もそれに合わせてやる必要がある。

だが、白式は守りが他の機体には大きく劣る。

そのため、マドカのサイレント・ゼフィルスのシールド・ビットに頼らざるを得ない。

スラスターは最大速度まで即座に出せるように調整の必要がありそうだ。

『瞬時加速』『連続個別加速』『二重加速』も既に会得している。後は…『零落白夜』を確実に命中させる!

それでもダメだった時には…!

 

「………………」

 

コイツ(黒翼天)に頼らざるを得ないだろう…。

だが、その時には俺は…

 

「いっくん、何を考えてるの…?」

 

「何でもありません」

 

「…お願い、その手段だけは選ばないで…もしも、使った時には…いっくんが…」

 

「判っています、だから俺は…」

 

 

 

Houki View

 

好機は去ったのかと思った。

だが、即座に新たな好機が巡ってきた。

作戦室とされたらしい部屋の前で、重要な話をしているのが聞こえてしまった。

今回は一夏達だけでも難しい作戦だ。

なら、私もそれに参加し、功績を残せば…!

 

「一夏や姉さんだって私を認めてくれる、そうなれば専用機への近道じゃないか!」

 

なら迷う必要は無い!

幸い、訓練機も多少なら用意されていた筈!見ていろ一夏!

私の覚悟、そして力を!

 

 

 

Ichika View

 

白式の調整は簪とマドカにも手伝ってもらい、準備は完了だ。

防御はマドカに全て任せるような形になってしまい少々心苦しい。

マドカは「気にしなくていい、兄さんを手伝えるのなら、私は満足だ!」とまで言ってくれる。

なら、今回は本当に頼りにしている。

 

「準備完了です」

 

「こちらもですわ」

 

メルクとセシリアも気合充分

 

「こっちも終わったよ」

 

「こっちも出来たぞ兄さん!」

 

「僕もいつでも行けるよ!」

 

続けて簪とマドカもシャルロットも終わったようだ。

作戦開始時間まで余裕はあった、これが最後の気休めができる残り少ない時間…になる筈だった。

 

「織斑先生!山田先生!大変です!」

 

作戦室は基本、関係者以外立ち入り禁止。

そこに飛び込んできたのは、マドカのルームメイトの相川さんだった。

全力で走ってきたのか息がかなり荒く、山田先生以上に血相を変えていた。

 

「作戦室は立ち入り禁止だ、即刻退室しろ」

 

「篠ノ之さんが!

訓練機を装着してどこかに勝手に飛び立ったみたいなんです!」

 

学園から持ち出された打鉄は2機。

当たり前な話だが、学園の備品だ。

勝手な装着も機動も厳罰対象だ。

ましてや、これは脱走にも等しい。

…これによる懲罰は計り知れない。

 

「相川さん、まずは一旦落ち着いてくれ。深呼吸だ」

 

俺の指示に従って相川さんは荒くなった呼吸を整える。

それによって落ち着いたのか、血相も少しは良くなった

 

「状況を説明してくれるか?」

 

「う、うん。篠ノ之さんがトイレに行ってから、また部屋から出たの。

それからISの機動音が聞こえたから、4組の林先生に同行してもらって確認をしたら、コンテナに収容されていた打鉄が一機無くなってて…生徒の確認をしてたら…篠ノ之さんがいなくなっていたんです。

急いで確認したら」

 

あのバカが勝手に機動して、これまた勝手に出撃したって事か。

 

「山田先生、急ぎ打鉄の居場所を確認してくれ」

 

「了解です。

…発見しました、『福音』との戦闘予定海域付近です!」

 

あのバカ…

 

 

Chifuyu View

 

あの底無しの大馬鹿者めが…!この作戦室での会話を訊いていたのか…!

ほとほと愛想が尽きた!

 

「作戦変更だ!織斑兄妹!更識!オルコット!ハース!即座に出撃!

アイリス!ボーデヴィッヒ!凰!お前たちも織斑に続け!

作戦海域に到着よりも前に篠ノ之を確保しろ!発砲を許可する!」

 

「「「了解!」」」

 

「相川!お前は早急に部屋に戻れ!そしてこの部屋で見聞きしたことは口外厳禁とする!」

 

「はい!」

 

もう我慢の限界だ!

奴は懲罰房に叩き込んでやる!

学園上層部や理事長、国際IS委員会が何と言おうと知るか!

奴は私が処罰する!

 

 

 

Ichika View

 

アレは本気でキレていたな。

この先にて篠ノ之がどうなるのかなんて知ったことではないし、同情の余地は無い。

 

「よし、発進してくれ」

 

「任せて」

 

軍事機が相手という前代未聞のこの作戦。

古今東西でも実践した奴は居ないだろう。

そんな前代未聞の作戦を、俺たちはこれから行うことになる。

簪が俺を、シャルロットがマドカを、セシリアがメルクを背負う。

ただ、機体のエネルギーを極力残存させる為、ISを背負うのではなく、搭乗者を抱えて飛行することになる。

 

「発進します!」

 

「行きます!」

 

「行きますわ!」

 

ふわりと浮かび上がる感触、そして一気に加速する。

セシリアのブルー・ティアーズに搭載されているのは強襲機動パッケージ、中々の速度が結構出ている。

隣のシャルロットとマドカのコンビもそれなりの速度が出ている。

後方を見れば、ラウラと鈴と並んで飛行している。

集音してみると…篠ノ之への罵詈雑言だった。

内容は聞かなかったことにした。

 

「兄さん、戦闘海域まで、のこり5分!」

 

「了解だ、シールドビットをいつでも展開できるようにしておいてくれ」

 

「分かった!」

 

こちらの様子に福音は気づいているのだろうか。

気づいていなければ御の字、気づいて進路を変更でもされたら、成す術が無い。

そうなるよりも前に撃墜の必要がある。

 

「見つけましたわ!篠ノ之さんを!なんて無謀なことを!」

 

打鉄の装備はブレード『葵』とアサルトライフル『焔備』だけ。

後付武装として高機動パックを搭載しているようだが、その程度で軍事用ISに勝てる筈も無い。

今回の臨海学校では旅館の従業員という一般人がいるので、万が一にも負傷をさせないように学園におかれている機体はリミッターを施され、更にスペックが落とされている。

その為、事故未然防止の為にも攻撃性能が下げられている状態だ。

言ってしまえば専守防衛用の機体にも成りえない。

だが軍事ISに対し、その防御すら無意味だ。

相手は軍事機、それも暴走している。

競技用リミッターなんぞ最初から存在しないから、一撃で打鉄のシールドエネルギーを根こそぎ奪い、絶対防御すら突き抜けるだろう。

現状、あの打鉄の防御など、何の役にも立たない。

あのバカの行動は、それを理解してもいない自殺行為でしかない。

 

「篠ノ之の姿を確認、座標を送る。

ラウラ、鈴、シャルロット、対応を頼むぞ」

 

「任せろ兄上!」

 

「灸を据えてやるわ、あのバカ!」

 

「ちょっと厳しめで行くよ!」

 

なんとも勇ましい事だ、頼りになる。

 

「作戦領域が近い、行くぞ!」

 

運搬担当の三人の背中から飛び降り、俺達の体が空中に放り出される。

俺は慌てる事も無く、右手のガントレットに左手を添える。

 

「来い、白式!」

 

「テンペスタ・ミーティオ、展開!」

 

「羽ばたけ、サイレント・ゼフィルス!」

 

さあ、戦闘開始だ!




交錯する意思

荒れ狂う怒号

降り注ぐ白銀の弾幕

『実践』ではなく、命懸けの『実戦』が始まる

その果てに見えるのは勝利か敗北か

次回
IS 漆黒の雷龍
『麗銀輝夜 ~ 白墜 ~』

幾度でも目覚める
故に人はそれを災厄と呼ぶ

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