IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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久々の登場になるかもです。
あの方の登場です。


麗銀輝夜 ~ 幾星 ~

Ichika View

 

翌日、旅館の前には結構な数のコンテナが搬送されてきた。

各専用機持ちのメンバーの為の物だ。

各々の機体に新たに搭載される武装や、強化パッケージのようだ。

 

セシリアのブルー・ティアーズには強襲機動用パッケージ。

『ストライク・ガンナー』という名称らしい。

 

鈴の甲龍には強化パッケージだ。

腕部装甲が更に頑丈に、そして純粋にパワーが向上したらしい。

 

シャルロットのリヴァイヴには更に多くの重火器が搭載されるのだとか。

こいつには近づきたくない、発作が止まらなくなりそうだ。

戦闘なんてやったら絶対に勝てそうにない。実体弾のオンパレードじゃねぇか。

簪には夢現の予備が送られてきた。

更に付け加え、防御用パッケージも送られてきている。

 

マドカには新たな武装が渡された。

タッグマッチトーナメントで見せた分散射撃(スプリット・シュート)を考慮し、砲口が3つ搭載された新種の射撃ビットがそれのようだ。

 

メルクにはレーザーブレード『スラッシュフェザー』だ。

これはテンペスタ・ミーティオの非固定武装の翼に搭載されるもので、すれ違いざまに切り裂くという、むしろ追撃に使うもののようだ。

両腕に持ったレーザーブレードを回避したところで、今度は翼に切り刻まれるという、なんともタチが悪い。高機動特化のテンペスタには相応しい武装だ。

腕部に搭載された杭型武装の『イーグル』もそうだが、テンペスタは高機動格闘がメインになりつつある。

レーザーライフルも搭載されているようだが。

 

なお、俺の白式には何も送られていない。

当たり前だ。

『雪片弐型』『雪華』『六条氷華』そして『零落白夜』によって拡張領域が完全に埋まっている。

緊急用のISスーツをインストールして絞り粕程度に残った拡張領域も使い切ってしまっているんだ。

もう何も武装を搭載できない。

後付武装は一切不可能。

二刀流と弓以外は、俺の蹴り技を使うしかない。

なんとも俺の相棒は頑固者だ。

 

なので俺は簪の手伝いをしながら時間を潰していた。

ラウラの方も見せてもらった。どうやら遠距離精密砲撃に適した『パンツァー・カノニーア』が搭載されたようだ。

一発の威力ではそれこそ学園最強クラスの威力を誇るのだとか。

おっかないなぁ。

 

「全専用機持ちは武装を確認、インストール後に集合、他の生徒はこの場で訓練を続けるように!

専用機所有者は私についてこい」

 

千冬姉の合図後、俺達は指示に従って旅館の裏に向かっていった。

そこは日本の古風な風景を描いたかのような風景だ。

そこに俺、マドカ、簪、鈴、ラウラ、メルク、シャルロット、セシリアが集合した。

だが、その場に集まる筈のない者が一人居た。「織斑先生、篠ノ之は専用機持ちではないのでは?」

 

マドカのその問いがそれだ。

篠ノ之は専用機所有者ではない。

一般生徒だ。本来ならこの場に居て良い道理は無い。

俺としては早々に追い返すべきだと判断している。

 

「その件だが、少し待て、確認したいことがある」

 

「確認したい事?それは篠ノ之本人にですか?

それとも、別の人物からの確認ですか?」

 

俺の問いの意味に関して、察してほしいとは言わない。

だが、それだけは知っておきたい。

 

「…後者だ」

 

千冬姉のその呟きの瞬間だった。千冬姉の左腕が急に延ばされる。その先には何も見えな―――

 

「痛い痛い痛い痛い!

ちーちゃん手加減して!

束さんの頭がトマトのように潰されちゃうよ!」

 

そんな声が聞こえた。

その声に俺としては頭を抱えたくなった。

声の主を知っている。

しばらく前にもその声の主と通話をしているんだから。

なんで姿を隠しているのかとか、学園関係者以外立ち入り禁止の場所にどうやって入ったのか、とか訊きたい。

そして何もない場所から弱い青白い光が発生する。

 

「…………」

 

とんでもない服装をしている人物がそこに居た。

見てくれとしては童話の中から飛び出してきたかのような…不思議の国のアリスだろうか?

前回に遭遇した時は輝夜姫だったな…。

その服装をしている人は千冬姉と同じ年齢、すなわち

 

バシン!

 

「教育的御導だ」

 

ご苦労様です。

つーか余計なことを考えているのが何でわかるんだよ…。

それは兎も角として

 

「なんでこんなところに居るんですか、束さん」

 

学生の身でありながら、核をも超える抑止力を世界にバラ撒いた張本人である国際指名手配犯がそこに居た。

篠ノ之 束博士

その名前を知らない人間はこの世に居ない。

すべてのISの母でもあり、ブラックボックスとされているISコアを唯一作成可能な人間。

更には世界のバランスをも崩した張本人だ。だが467個のコアを作成し、世界にバラ撒いた後は自ら失踪した。

それからというもの、国際IS委員会や、国際刑事警察機構インターポール、更にはFBIからも捜索されているのに、一向に足取りが掴めなかった。

そんな人物が何故、この旅館の裏庭なんかに居るのやら。

 

「束博士ぇっ!?」

 

鈴の素っ頓狂な叫びが響き渡り、他のメンバーも混乱をし始める。

俺がその鎮圧に駆り出され、まともに話が出来るようになるまで8分を要した。

 

「で、束さんは何故、こんなところに来たんですか?理由をお聞きしたいんですが」

 

「いっくんの様子を見に来たんだよ。衛星を使って見るにも限界があるからね」

 

サラッととんでもない事を言ってのけたな、この人は。

当たり前な話ではあるが、衛星へのハッキングは重罪だ。

もしも私用で作って打ち上げるにも、あちこちの許可をもらう必要がある。

だが、国際指名手配犯にそんな許可が下りるわけもなく、受け付けてもらえる筈も無い。

ともなれば、もう既に使用されていない、廃棄された衛星でも利用したのか?

それなら掃いて捨てるほどの数が宇宙空間に漂っているかもしれないが…。

それこそスペースデブリとして。この人ならやりかねない。

 

「…左手は見せませんよ」

 

「昨晩にもう見てるから大丈夫」

 

プライバシー侵害だ、そういってもこの人には通じない。

それすら理解している。

この人に常識は通じない。

それどころか常識をひっくり返し、覆す。

そもそも昨晩とは『いつ』の事だ?

俺が左手を隠すために使っている手袋を外すタイミングなんてそれこそ…

 

「入浴中に衛星を使って覗いていたんですか、…ド変態と罵ることはしませんが、忠告します、盗撮は犯罪ですよ」

 

「入浴中!?」

 

今度はシャルロットが素っ頓狂な声をあげる。

そして全員揃いに揃って顔を真っ赤にしている。

平然としているのは千冬姉と束さんだけである。

今のところ、俺の左手の都合を知っているのは…千冬姉に簪に楯無さん、だな。

直接にこの十字架を見ている人間は、それこそ千冬姉と簪だけだ。

それと、ドイツの医者くらいだろう。

この十字架が待機状態のISだと知ったのは、クラス対抗戦の後だ。

それまで、こいつは『正体不明』の存在だった。

そもそも、展開を命令してもウンともスンとも反応しない。

更には束さんには『絶対に使うな』とも言われている。

…使えないが。

その本人は未だに千冬姉のアイアンクローを受け続け、そのまま持ち上げられるというどうにもシュールな光景のド真ん中に居るのだが。

そこからなんとか脱出し、今度は待機状態の白式に視線を向けてくる。

 

「ちょっとごめ~んね」

 

どこからともなく取り出したコネクタを白式に接続、そしてディスプレイを呼び出し、様々なデータをモニタリングし始めた。

これは俺のバイタルデータも入っている様子だ。

 

「ふんふん、いっくんのデータは面白いね~。

確かに白式に符合するようにピッタリになってる、これは今まで見たことの無い形のデータだね、いっくんが男の子だからかな?

ねえ、いっくん、いっくんの体を分解、させて?」

 

なんつー事を聞いてきてるんだ、この人は。『分解』なんて言葉は、どこで何を間違えたとしても生きた人間に使う言葉ではない。

むしろ機械とかに使うべき言葉だ。

 

「お断りします」

 

「ありゃ、残念」

 

続けて俺の左腕にガントレット状の機器を巻き、そこにコネクタを繋ぐ。

今度は黒翼天のデータを見るつもりか。

だが、IS学園でも一切のデータが採取不可能だった。それをこの人に出来るのか?

 

「むむむ…データを採取できない…それにコアネットワークにも繋がっていない………だとしたら、やっぱりコレは…間違い無い…」

 

「束さん、どうしました?」

 

「解析できないね…束さんの命令にも従わないなんて…」

 

期待するだけ意味が無かったか、それに束さんの手でも、これを俺の左手からは外せないとも言っていたし、コイツとは長い付き合いになりそうだな。

 

「それで、話を蒸し返すことになりますが、束さんは何をしに此処に来たんですか」

 

「ああ、それはね!」

 

「姉さん!」

 

俺の話は、その大声で遮られた。

 

 

 

Houki View

 

姉さんが目の前に居る。

なのに…私にただの一度も目を合わせてくれない。

その事実に胸が痛くなった。

姉さんが見ているのは、一夏だけ。

観察しているデータの内容は何一つ分からないが、私にとって問題はそこじゃない。

今、この場には姉さんの助手を名乗る人間が居ない。

だからこそ、唯一の好機!

 

「姉さん!」

 

「おお!箒ちゃん!久しぶりだね~!

何年ぶりだったかな?すっかり大きくなっちゃって、とくにこの双子のオッパイが~♪」

 

ばきぃっ!

 

木刀で殴っておいた。数年振りの再会がセクハラで始まるとは何事か。

 

「殴りますよ!」

 

「殴ってから言ったぁっ!箒ちゃん酷い~!」

 

酷いのはどっちだ!

ISを開発して家族をバラバラにし、私と一夏を引き離した貴女と比べれば遥かにマシだ!

ふん、だが今回が私にとって好機である事に間違いは無い!

姉さんに頼めば私だけの力を…専用機を作ってくれる!それさえ有れば!

 

「姉さん、私に―――」

 

「箒ちゃんには専用機は作らないよ」

 

今、この人は何と言った…!?私に専用機を作らない、だと!?

 

「束さんはね、ある人物と契約しているの、

『箒ちゃんにだけは、何があっても専用機を作るな、与えるな』ってね。

それも契約金代わりの件も一括前払いでもらっちゃったんだ~。今更それを反故には出来ないよ。

それに箒ちゃんも知ってる筈だよ。この前、連絡を入れてきたけど、私の助手の子からも聞いてるよね」

 

アレは…本当に姉さんの意思だというのか、嘘だ、信じたくない。絶対に信じない!

何で…何故姉さんは私の願いを目茶苦茶にするんだ!?家族を奪い!一夏を奪い!私の生き方を奪ったのに!私の願いすら奪うと言うのか!?

 

「篠ノ之、お前は俺とも契約しているだろう。学年別トーナメントで3回線までに敗退したら『専用機を求めるな』と、そう言った筈だ」

「そんなの関係無い!お前が勝手に言った事だ!私がその言葉に従う義務は無い!」

 

そうだ、アレはお前が勝手に言い始めたことだ!私はそれに応じた覚えはない!

そもそもお前が悪いんだ!お前が周りの女にヘラヘラしてばかりだから、私が更生させてやろうとしているんじゃないか!お前が私を咎めようなど、筋違いだ!

 

「お前とて勝手なことを言っていたな。

確か…『学年別トーナメントで私が優勝したら付き合ってもらう』、だったか。

お前こそ俺の返答も聞かずに立ち去って行ったな。

勝手な事をやらかしていたのはお前だ」

 

「何が勝手だ!それは私からの宣誓だったんだぞ!そもそも」

バキィッ!

 

左頬が痛い。何故?叩かれた?違う、殴られた。誰に?

視線を左に向かわせる。

そこには

 

「何をするんだ、鈴!」

 

「この馬鹿ぁっ!」

 

バキィッ!

 

また左頬を殴られた。

 

「アンタのその我が儘のせいで一夏にどんだけ迷惑かけてるのか理解してるの!?

アンタのせいで…一夏は…一夏は…」

 

「そこまでだ鈴、それ以上は必要無い。

殴る必要も、語る必要も」

 

一夏は私に視線を全く向けない。

幼馴染の私を蔑ろにして、周りの女に味方ばかりする!

お前なら分かってくれる筈だ!

私は悪くないのだと!

そう言ってくれ!

 

 

 

 

Lingyin View

 

殴らずにはいられなかった。

この馬鹿女のせいで一夏は感情を失ったのに…コイツは何も反省していない。

それどころか自分を正当化しようとしている!

こういう人間は嫌い!

自分の責任を他人に押し付けようとしている奴は!

マドカも、簪も鋭い視線を向けている。絶対にコイツを許さない、そんな目をしている。

 

 

Ichika View

 

「話を戻しましょう。

束さんはここに何をしに来たんですか?」

 

「それはね…いっくんが信頼しているみんなにプレゼントを持ってきたのさ!」

…プレゼント?

いったいなんのことだ。

それに、俺が信頼している人間に?

 




ここから先はとんでもないものをみんなに渡します。
待て後日!

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