IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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一夏不在の中、女子会の始まりです。
朝っぱらからですが、読む前にブラックコーヒーの用意を推奨します。
角砂糖もミルクも無いほうがよろしいかと。


麗銀輝夜 ~ 場所 ~

Lingyin View

 

一夏と簪が部屋を出た後、シャルロットが外れた障子を直し、そのまま正座させられた。

そして千冬さんの視線がアタシ達全員に向けられた。

 

「さて、揃いも揃ってよく盗聴をする気になったものだな。

その興味が私かマドカか、はたまた一夏に向けられているのかは知らんが」

 

顔は笑ってないのに目が笑ってる、絶対に分かってて訊いてるわよこの人!

 

「まあ、それは置いておこう。

どうせ一人を除いて女子高なんだ、大体察しはついている。

本人が居ないから訊いておこうか。

あいつは確かに器用だ、炊事洗濯掃除裁縫、更にはマッサージと特技が多い。

どうだ、欲しいか?」

 

「「「くれるんですか!?」」」

 

現金にも反応したのはシャルロットとセシリアと篠ノ之だった。

千冬さんも意地が悪いわね…。

一夏が簪と交際しているのを知って、それを認可してるのに。

千冬さんの背後でマドカがこの三人に鋭い視線を向けてるわよ。

あーあ、アタシはもう知らない。

 

「馬鹿者、やらん」

 

「「「え~~~…」」」

 

この切り返しだもの、本当に意地が悪い。

それは兎も角、メルクの反応が無いみたいだけど…この子も一夏と簪の事を知っているみたいね。

一夏としては味方が一人増えたようなものかしらね。

まあ、アタシとしても友達だけどね。

 

「織斑先生、実際にアタシ達と一夏の距離感ってどんな感じなんですか?」

 

「ふむ、いい質問だな凰。

これは私の主観ではあるが、おおよそ間違ったものでもない。

この際だから言っておこうか」

 

これまた現金に期待している奴が居るのも確かだ。

特に金髪二人とか。

 

「『この場に居るお前達で』最も近いのは…ボーデヴィッヒと凰の二人だ」

 

わざわざその前提の言葉が必要になるとは思えないんですけど…

先ずはアタシとラウラの二人ね。

扱いは分かるけど。

 

「マドカには一歩遅れるような形ではあるが、お前たち二人共を妹のように見ている節がある」

 

やっぱり一夏はシスコンなのかもしれない。

マドカは兎も角として、アタシとラウラまで妹扱いとか…。

…って、よくよく原因を考えればアタシが原因だぁっ!

肩車とかおんぶとかねだるんじゃなかったぁっ!

マドカが物凄いドヤ顔でアタシを見てきているのが無性に腹立つ!

 

「ふむ、やはり私は妹として見られていたのか、兄上らしいな」

 

「アンタはソレに納得してるの!?」

 

「当然だ、私にとっては兄同然だ、クラリッサも言っていたぞ?」

 

「アンタは絶対に洗脳されてるのよ!

そのクラリッサって人に!

いい加減に自覚しなさいよこのブラコン!

マドカだけでブラコンは充分なのよ!」

 

「さて、次だ」

 

今のをスルーするんですか千冬さん!?

 

「何か不満があるようだな、凰?」

 

「いいえ、何も!」

 

「では話を戻そう。

先程の二人にはやや劣るが…次はハースだ」

 

名前を呼ばれた本人としてはキョトンとしている。

まあ、あんまり自覚はしてなかったのかもしれないけど。

二人の関係を教えてもらっているのなら、それは妥当よね。

 

「トーナメントで戦い続けた戦友でもある。

フォーメーションを組む上でも、それなりに心を開いているとみて良いだろう」

 

「戦友…満足です…」

 

メルクはウットリと恍惚としてる。

この子、今後にバトルジャンキーになったりしないでしょうね…?

タッグマッチトーナメントでシャルロットとラウラを激突させ、ついたあだ名が『隕石(メテオ)』だったわね。

流星(ミーティオ)』が『隕石(メテオ)』って…流石に恐怖の代名詞になるかも…。

ちょっと不安だわ、マドカとも友達みたいだけど大丈夫かしら?

 

「話を続ける、ハースから更に一歩遅れているのが…アイリスとオルコットの二人だ」

 

「僕…そんなに離れてるんだ…」

 

「わたくし…入学直後の事が原因ですわね…」

 

「心当たりがあるのならまだマシじゃないの…」

 

アタシなんて原因に心当たりが有り過ぎるくらいなんだから。

失恋したと知った直後にだって大暴れしてたけど、今思えば我儘を言う妹をあやすような言い方だったように思えてくる。

ああ…過去の自分を殴りたい…。

 

「まあ、一夏からすればオルコットとアイリスの二人は好敵手として見ているようだ。

あいつが抱えている都合の事もあるだろうがな」

 

「一夏の都合、ですか…」

 

シャルロットもラウラから教えてもらっているらしい。

タッグマッチトーナメントで一夏を相手にしていないようにしていたのかしらね。

 

「まあ、あいつが抱えている事情はここにいるほとんどの人間が知っているが、みだりに口にしていい話ではない。

それは理解しておけ、いいな」

 

「は、はい!」

 

それが賢明よシャルロット、この場でそれを教えるわけにはいかない人物が一人居るんだから。

 

「そして最後に…最も離れているのは…言うまでもないだろうが…篠ノ之、お前だ」

 

「私が…一番離れている…そんな…幼馴染…なのに……なんで…」

 

これは誰もが認識していること。

篠ノ之 箒は此処に居る誰よりも一夏から離れた場所に立っている。

アタシだってコイツと接するのは極力避けてる。

セシリアも、マドカも、シャルロットも、メルクも、ラウラも、そして千冬さんも。

 

「篠ノ之、先ほどお前に問いを出しておいたが、答えは見つかったか?」

 

「『力』です」

 

「不正解だ、出直してこい、その答えは絶対的な間違いだ」

 

 

 

Chifuyu View

 

やはり、何もわかっていない。

『力』そのものには、善も悪も無い。

使う者次第で、力は剣にも楯にも成りうる。

だが、コイツは…『力さえあれば何であろうと解決出来る』と思っているようだ。

あまりにも危険すぎる思想だ。

強すぎる力は容易に人を狂わせる。

かつてのラウラが良い例だろう。

強い(シュヴァルツェア・レーゲン)を得て、ラウラは『織斑 千冬()』になろうとしていた。

だが、向かう先の見つからない力は暴走するのがオチだ。

自分も他人も傷つけてしまうものに成り果てる。

だが、篠ノ之はそれが理解できていなかったようだ。

 

 

 

 

Lingyin View

 

凄まじい程の速度での即答の応酬だった。

それにしても…在り来たり…と言うか、一番在り得ないものを望んでるのね、コイツは…。

やっぱり、危険すぎる。

 

「話はコレで終わりだ、解散しろ。

そろそろ一夏が戻ってくる頃合いだ。

飲み物を受け取り次第、各自部屋に戻れ」

 

 

「あの…織斑先生、もう少し訊きたい事が…」

 

「何だ、アイリス?」

 

「一夏とよく一緒に居る簪は、立ち位置はどんな感じなんでしょうか?」

 

…む、またとんでもない事を聞いてるわねシャルロットは…千冬さんは、どう答えるのかしら。

口止めされているのは同じなんだから、正直に答えるとは思えないけど…

 

「ふむ、更識妹は…」

 

セシリア、シャルロット、アンタ達は目を輝かせすぎよ。

 

「いや、答えるのはやめておこう。

相手の立ち位置を気にする暇があるのなら、自分の足場を踏み固めることだ。

さもなければ、殊更に離れてしまうぞ」

 

「「うぐ…」」

 

この答え方が無難かもしれない。

あたしもあんなことを訊かれたら同じように答えるようにしよう。

一夏と簪が恋人として交際しているのは秘密なんだから。

 

やれやれ、これで解散か…って、ん?

 

「どうしたのよ、セシリア?」

 

「あ、足が痺れて歩けませんわ…鈴さん、肩を貸していただけませんか?」

 

よく我慢したわね、セシリア。

今のアンタは輝いてるわよ。

 

 

 

 

Madoka View

 

「姉さん、なんで皆にあんな話をしたの?」

 

私としては先ほどから黙っていたけど、あまり気分のいい話なんかじゃなかった。

セシリアとシャルロットと篠ノ之が現金な反応をしてきたので、あわやナイフを取り出しそうになった。

それを我慢するのも大変だったんだぞ。

 

「なに、一種の暇つぶしだ。

それに牽制すべきは誰なのかがよく理解出来ただろう?」

 

「篠ノ之は兄さんに近づけちゃいけない、それはよく分かった。

アイツは兄さんにとって危険過ぎる」

 

自分に足りないものが何なのか、それをアイツは『力』だとまで言い切った。

その思考はすさまじい危険性を持っている。

それにあの女は力そのものを理解していない。

力の振るい方も、その根源も…!

だからこそ言い切れる。

篠ノ之 箒、あの女だけは兄さんに近づけさせない!

 

「臨海学校が終わり次第、あいつだけはクラスを変更させる。

そうだな…代表候補が居ない5組が妥当だろう」

 

仕事が早いな、姉さん。

 

「ただ…心配をしている要素はある。」

 

「何、その心配要素って?」

 

「明日は…篠ノ之の誕生日だ。

それが問題なんだ、もしも…束がこの場に来ようものなら…」

 

再び世界のバランスが崩れてしまう。

そう姉さんは言いたかったのかもしれない。

 

「あのバカ姉妹はただでさえ大問題なんだ、まったく頭が痛い話だ」

 

私も同感だ、姉さん。

その10分後、兄さんが帰ってきた。

遅くなった理由としては外を散歩していたんだとか。

簪も同じことを言っているから嘘じゃなさそうだ、どのみち疑ったりなんてしないけどね。

 

 

 

Ichika View

 

部屋に訪れていた全員が妙な表情をして退室していくようだが、何を話していたんだろうか?

簪と顔を見合わせたが、疑問が解決するでもない。

仕方ないし、俺はこのまま散歩に出向くことにした。

隣にはいつものように簪が居る。

 

「きれいな星空…」

 

簪も星と同様に目を輝かせている。

俺としては、星よりもその輝きに目を奪われる。

出会ったばかりの頃は、どうしようもなく暗かった瞳が、だ。

その筈だったのに、今の俺はそれすら美しいだなんて思えなかった。

ただ、目を奪われただけだ。

星空も、夜の海も、俺にはありふれた一つの風景にしか映らない。

 

「…ッ!」

 

微かに左手が痛む。

十字架が疼いているのだろうか。

それに…何か嫌な予感がしてならない。

何なのだろうか、寒気…ではない、恐怖、でもない。

そもそも今の俺には恐怖なんて感情も存在していない。

死すらも容易く受け入れてしまうかもしれない。

そうなったら簪はどうなるだろうか…。

悲しむ、だろうか…。

簪には…笑顔でいてほしい。

ずっと一緒に居たいと決めたんだ、笑顔でいてほしい、そう決めているんだ。

だから俺は…生きなきゃいけない。

 

『人間』として。

 

その為なら俺は…

 

 

「一夏?どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

そっと腰を抱き寄せる。

驚いてはいたが、すぐに身を預けてくる。

ほのかに伝わる暖かさ。

この温もりを守るために、俺は生きよう。

失わないために、俺のこの手で簪を守り続けよう。

 

「一夏、あったかい…」

 

「そう、か」

 

目を細める彼女がどうしようもなく愛しかった。

この思いが例え絞り粕程度の感情として残ったものの一つなら、それすら俺は守ろう。

簪が俺を支え続けてくれたように。

その思いを込め、俺は簪の唇を奪った。

 

「ッ!?」

 

今の簪は目を見開いているかもしれない。

体が硬直している。

でも、それも数秒だけだった。

また体を預けてくる、一度唇を離すと、今度は簪から求めてくる。

それを数回、それだけで簪は満面の笑顔を見せてくれる。

この笑顔を守る、俺はその夜、改めて誓った。

絶対に失わない、そのちっぽけな感情はいつの間にか強い意志へと変わっていた。

 

「もう、誰かに見られたらどうするの?」

 

「すまん、それを考えてなかった」

 

簪がクスクスと笑いながら、視線を海に向ける。

俺もそちらに視線を海に向ける。

海は、まるで混沌のように黒く染まっている。

そんな中、鏡となって上空の月を映していた。

 

『月』

 

俺にとっては千冬姉とは正反対の存在だと思っている。

千冬姉は全世界の女性の、そして俺にとっても憧れの存在だ。

言うなれば、誰もが見上げる『太陽』だ。

だったら、俺は闇夜に浮かぶ月でいい。

そんな風にさえ思っていた。

だから、絶影(たちかげ)流の技の殆どに『月』の文字を刻んだ。

俺は千冬姉が作り出す光で生まれた影の中の存在だ。

その影をいつの日か絶つ、その為に『絶影(たちかげ)』と名付けた。

絶影(たちかげ)流を作ってから、その影から抜け出す。

その日の願いをいつの日か達成できるのだろうか。

 

「ねえ、一夏」

 

「どうした?」

 

「父さんや千冬さんが私達の婚約の話を進めていたりしてたけど、一夏自身はどう思ってるの?」

 

今更過ぎるだろう、その話は。

 

「嫌だなんて思っていない。

俺も賛同したんだ、そうでなければ指輪の購入だって決めたりなんてしない。

今だって、簪の隣には居なかっただろう。

俺自身も簪との婚約を望んだ、だから俺は、此処に居る」

 

簪と同じ未来を望んでいるからこそ、俺はこの場に居るんだ。

 

「艱難辛苦はこの先もあるだろうな。

けど、そういうのも含めて簪と一緒なら乗り越えられる。

一緒に乗り越えたいって思ってる」

 

これが、俺の本心だ。

 

「簪はどう思ってる?」

 

「私も同じ。

ずっと一夏と一緒に居たい、一夏と一緒に幸せになりたい。

そして…一夏と一緒なら、不幸になっても構わない」

 

不幸になんてさせたくない。

そう思ってはいるが、今はそれを口にはしないでおく。

 

もしも…そう、もしも、簪が帰らぬ人となってしまえば、俺は躊躇無く後を追うだろう。

でも、俺が先にそうなってしまったとしても…簪には生きていてほしい。

残酷かもしれない、冷酷だとか残忍とも言われるだろう。

それでも俺は…簪には生きていてほしい。

 

「五年だ」

 

「?」

 

「五年待ってほしい。

その時までには俺は…見合った場所と、ドレスを用意したいと思ってる。

だから、その時には…」

 

続きは言えなかった。

俺の唇は、簪のそれに塞がれていたからだ。

 

「気持ちはとても嬉しい。

だけど、そこから先の言葉はその時に伝えてほしいな。

女の子はね、そういった形にしてもらう方が嬉しいの」

 

やれやれ、またもや俺の負けか。

なら、こっから先の言葉はまた五年後にまで温存しておこう。

 

「そうだな、なら、その時まで言わないでおくよ」

 

そして今度は俺から同じ行為を簪にお見舞いした。

闇夜でもわかるくらいに簪は真っ赤になってしまっていたけど、それはそれで構わないだろう。

顔色が元に戻るのを待ってから、俺たちはお互いに手を繋いで旅館に戻ることにした。




ぜぇ…ぜぇ…に、逃げ切れたか…。

あ、どうも、寒さに弱いレインスカイです。
今回は夜にも拘らず、あっつい話に仕上げてみました。
特に後半とか一夏君と簪ちゃんのイチャラブです。
君達自重しなさいね。
特に一夏くんは無表情で惚気まくってました。
ではまた次回にてお会いしましょう。

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