IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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おはようございます


麗銀輝夜 ~ 夏典 ~

Ichika View

 

「到着、と」

 

目的地のショッピングモールに到着し、バイクを駐輪場に停め、ロックも施す。

簪が延ばしてきた手に、俺も手を差し延べる。

小さく華奢な手に俺の手を繋ぎ、そのまま歩き始める。

 

「行こう、簪」

 

「うん、行こう、一夏!」

 

俺はこの微笑みを見るのが好きだった。

この微笑みを守りたい、その微笑みを傍らでずっと見ていたいと思えていた。

 

「久しぶりだよね、こうやって一緒に出掛けるのは」

 

「そうだな、今まで訓練ばかり優先してたから。こうやって出掛けるのは…」

 

悪くない、そう口から出そうになった。

だけど、その言葉は不躾を通り越して無骨だ。

 

「…楽しいな…」

 

それでも表情は変わらない。

言葉に抑揚すら無い。

 

「…………」

 

不安にさせたくない。だから簪の手を少しだけ強く握る。

俺の心中を察してくれたのか、肩に寄り掛かってきた。

…優しいよな、簪は。

せめて今日一日は、楽しませてあげよう。

 

 

 

Kanzashi View

 

久しぶりのデートに、私の気分は沸き立ってた。

こうやって隣を歩いているだけでも、私としては嬉しい。

それに、今日の服装にだって気合いを入れてきた。

夏に見合った白いワンピースに、長袖のボレロ。

それに白のラウンドベレット。

学園で着けている髪飾りも今日は外し、うなじで一筋に束ねている。

朝から本音に手伝ってもらった甲斐があった。

一夏が気付いてくれていないのはちょっと悔しいけど、無理は言わない。

 

「まずは何処から見てみる?」

 

「そうだな…食品売り場は最後でいいな。

まずは…上の階から見て行こうか。そこから下の階へ順番に見ていこう」

 

「うん!」

 

「それと…今日の服、よく似合ってると思うぞ」

 

気付いてくれた。

それが嬉しくて、私はさっきよりも強く、一夏の腕を抱きしめた。

ぎゅっと抱きしめる。

彼の表情は何も変わらない。

でも、いつか感情を取り戻せたその時に、今日の事を思い出してほしい。

こうやって出掛けた事を。

 

最初に寄ったのは書店だった。

そこで一夏はISの参考書と剣術の本を購入してた。

こういう所には向上心が伺える。

途中で寄ったのは、衣服を扱っているお店だった。

今の時期に見合わせて、水着も扱っている。

ただ、女性用の水着が大半…と言うか、9割8分程…。男性用なんて、隅の方に無作法に置かれてるだけに思えた。

でも一夏は男性用水着に興味も向けなかった。

事情は察しているから、特に私は口出しはしなかった。

 

「興味がある水着、あるんだろう?」

 

「あ、うん…」

 

「遠慮は要らないさ、見てきて良い」

 

じゃあ、探してみようかな。

一夏が気に入ってくれるような水着を見付けられたら良いなぁ…。

でも、此処はやっぱり

 

「一夏も一緒に行くの」

 

「分かったよ、俺の負けだ。

一緒に行こう」

 

 

 

 

Ichika View

 

簪を守りたい、そんな風に思っていたのに、こういう所では俺は負けてばかりだ。

だけど、そんなに気分の悪いものじゃない。

寧ろ、簪が俺にちょっとした我が儘を言ってくれる事に、胸の内が大きく揺れていた。

 

「これ、どうかな?」

 

最初に出してきたのは、セパレートタイプ。

白の布に、その淵に走るライトブルーのラインがアクセントになっている。

このカラーは白式を思い出す。

 

「うん、良いと思うぞ」

 

そんな事を思いながらありきたりな反応をしてみたが、俺は悪くないと思う。

 

「じゃあ、こっちは?」

 

次に見せてきたのは、レモンイエローのワンピース。

 

「うん、可愛いと思うぞ」

 

「なら、これはどうかな?」

 

次は…大胆にもクリムゾンのビキニ。

楯無さんを上回ったスタイルには魅力的かもしれないが

 

「悪い虫がついてきそうだ、辞めておこう」

 

「う~ん…じゃあ、これは?」

 

次はパープルの競泳用の水着。

…なんでそんなものまで置いているんだか。

 

「臨海学校には似つかわしくない、かな」

 

「じゃあ…これ!なんちゃって…」

 

何故スクール水着まで置いているんだ、この店は…?

 

「…簪…」

 

「えへへ、冗談。

なら、これは?」

 

ライトブルーのワンピースタイプの水着を選んでみせた。各所にフリルが着いていて、どこと無く可愛いらしい。

っそれにこのカラーは簪の髪の色ともよく似ている。

 

「よく似合ってる」

 

「じゃあ、これにするね!」

 

此処は俺の奢りにしておいた。

値段は…6800円。安い、とは言えるかは微妙だが、これで簪が笑顔になってくれるのなら、俺としては財布を開くのに、躊躇はしない。

 

「後は…そうだな…」

 

何かアクセントになるようなものは有るだろうか。

小物でも構わない、周囲を見渡す。

 

「うん、あれがいい」

 

ラッパ状の花が着いた髪飾りが目にとまる。

ラウンドベレットを取り、選んだアクセサリを簪の髪に乗せてみる。

小動物のように感じさせる彼女が、これだけで今度は妖精のように見えた。

 

「よく似合ってる、これも一緒に購入決定だな」

 

「えへへ…」

 

ラウンドベレットを被り直した簪は、嬉しいのか恥ずかしいのか、帽子で顔を隠す。

それとも照れているのか?

まあ、いい、様子が元に戻るまで少し待っていようか。

 

「会計に行くぞ」

 

「…うん」

 

妙な様子の女がこちらに視線を向けている。

それを視認し、俺は簪の手を握って歩き始めた。

簪が選んだ水着を買い物籠に入れる。

だが、レジに到達する寸前。

 

ボスッ!

 

「アンタ、これも買いなさい」

 

俺達に視線を向けていた女だった。

記憶の中にはこの女は居ない。

完全に初対面…の筈。

 

なお、買い物籠に入れられたのは、多種多様な服に水着。

簪のものではない。

ましてや俺の水着でもない。

 

「…アンタの買い物だろう、アンタが自分で買え」

 

「は?男の分際で女の私に文句を言うの?」

 

だから何だと言うんだ。

ISが世の中に公表されてから10年。

女尊男卑の風潮に躍らされている女性が世界に掃いて捨てる程に居る。

目の前の女性もそれのようだ。

当たり前の話だが、印象は最悪だ。

なお、昨今の世の中、反論しようものなら厳罰、投獄なども珍しくない。

社会的制裁を受けた、なんて話もゴロゴロと転がっている。

 

「常識的な話だろう、そもそもアンタとは初対面だ。

何の関係も無い人間に奢ってもらうだなんて、そこまでアンタはそこまで偉い人間でもないだろう」

 

それ以上接するのも面倒だった。

この女が入れてきた衣服を、別の買い物籠に放り込み、そのまま放置する。

 

「警備員に突き出されたいの!?」

 

「突き出されるのは…どっちだろうな。」

 

「警備員!こっちに来なさいよ!」

 

女の金切り声に付近をうろついていたであろう警備員が駆け寄ってくる。

それの相手をするのも面倒だった。

会計をしていたが、警備員に囲まれた。

殊更に面倒な事に警備員は女性ばかり。

 

「こちらの女性が乱暴をされたと言っていますが、本当ですか?」

 

なんつー作り話だよ、こっちは指一本すら触れた覚えも無い。

むしろ触れたくもない。

簪も気分の良さそうな顔はしていない。

ウンザリ、といった表情だ。

 

「作り話です」

 

「それを証明出来ますか?」

 

「疑うのなら、監視カメラを見るなり、嘘発見機でも持ってきて下さい。

そんな事をやらかせば、貴方達が不利になると思いますが」

 

そう言って、簪がボレロのジャケットのポケットからIS学園の生徒手帳を見せる。

更には、『国家代表候補生』に与えられるらしいエンブレムまで。

俺もそれに倣い、生徒手帳をポケットからちらつかせる。

俺の生徒手帳にも国家代表候補生に与えられるエンブレムが新たに刻まれている。

警備員がそれを見た途端に、一気に青ざめていく。

学園の生徒のバックには、常に各国家政府に、国際IS委員会が睨みを利かせている。

国と国連に匹敵する国際組織、それを敵に回せば、どうなるのか分かったものではない、IS学園の生徒は国賓同然だ。

国家代表候補生ともなれば国の重鎮、首相レベルに限りなく近い。

そんな事は、警備員、警察だって承知している。

 

「し、失礼致しました!このままショッピングをお続けください!」

 

ビシッ!と敬礼までする始末。

金切り声の女が両腕を捕まれ、連行されていく。

その女はデタラメを吐きながら引きずられていく、だが俺はそれに視線を向ける事もしない。

今は簪の気分が心配だった。

 

「次は何処に行く?」

 

「どこかで食事にしようよ、お腹空いた」

 

時間を見れば、12時近く。食事をするには適度だな。

 

 

 

Kanzashi View

 

衣服を売っていた店で、とんだ濡れ衣を着せられそうになったけど、今回は私が一夏を助ける事になった。

こういう所では国家代表候補生の肩書が役に立つ。でも、権力を振るうのはあまり良い気分はしない。

 

「お、一夏!簪!」

 

レゾナンスを見て回っていた途中だった。

そんな声が遠くから聞こえてきたのは。

 

「あの人って…」

 

「ああ、弾だ」

 

五反田 弾 さんだった。

一夏が中学生の頃の友人で、理解者。

私達の交際を知っている人でもある。

 

「ひっさしぶりだなぁ!」

 

「ああ、そうだな」

 

「ご無沙汰!簪ちゃ~ん!」

 

「あ、はい…」

 

ちょっとチャラい面もあったりするから、少し苦手…かな。

 

「今日は二人はデートか?」

 

「まあ、そんな所だ。弾は…」

 

一夏の視線が弾君の両手に落ちる。

そこには紙袋にビニール袋に、小箱に、鞄、ナップサック…なんだ荷物持ちか。

 

「此処まで持ってるって事は…」

 

周囲を視線を向けると…やっぱり居た。

 

「遅い!お兄ぃっ!!」

 

「ぶごぉっ!?」

 

飛び膝蹴りが弾君の右脇腹に突き刺さった。

うわ、痛そう…。

 

「相変わらずの力関係だな…」

 

「だよね…」

 

これがこの二人の日常。

何か不満があれば、口より先に手や足が出る。

ただし、一方的に。

 

「ら、蘭ちゃん、せめて力加減を…」

 

「あ、簪さん!一夏さんも!お久しぶりです!」

 

「…気付いていなかったのか」

 

「ニュースを見ましたよ一夏さん!

国家代表候補生就任おめでとうございます!」

 

「まあ、な。

いろいろと喧しい話でもあったんだが、仕方なく就任したわけでもないか。

俺にも理由が有ってな」

 

「どちらにしたっておめでたいですよ!

ところでお二人はデートですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

弾君と同じ事を訊いてきてるし…。

 

「蘭ちゃんは何を買いにきたの?

物凄い量の荷物だけど」

 

「水着です!これからは夏ですからね!

新しい水着や、必需品を新調しに来ました!」

 

「必需品…多過ぎじゃないか?」

 

「値段なら大丈夫でしたよ、お兄ぃの懐とかヘソクリですから」

 

これは酷い。弾君には同情しておこう。

私は一夏にこんな事はしないでおこう、蘭ちゃんには悪いけど、反面教師にさせてもらっておいた。

 

「そう言えば、マドカさんと鈴さんも来ていましたよ」

 

「マドカと鈴が?」

 

 

 

Ichika View

 

マドカと鈴も来ている?

てっきり留守番をしているものかと思っていたんだが、どうさたんだろうか。もしかしたら弾と蘭と同じ用事かもしれないな。

 

「他にも、銀髪の女の子とか桜色の髪の女の子とかも」

 

…ラウラ、もしくはメルクか?

 

「金髪に紫色の目の女の子とか、肩を越えた位のプラチナブロンドの女の子とか」

 

…シャルロットとセシリアだな。

 

「それと…何だか目付きの鋭いポニーテールの女の子も」

 

まさか、篠ノ之か?

あいつに見付かったら一番面倒だな。

 

「どこかで時間を潰すか」

 

「それでしたら、良い店を知ってますよ!

ついてきて下さい!

ほら、お兄ぃ、いつまで寝てるの!」

 

「んがぁっ!?」

 

今度は爪先が弾の左脇腹に突き刺さる。その辺にしといてやれよ。

声もあげずに悶絶する姿はなかなかにグロッキーだ。

 

「簪、行こう」

 

「うん」

 

俺と蘭とで弾の足を掴んで引きずっていく。

簪はただただ苦笑いをしているだけだった。

 

そのまま蘭に連れられるままに入ったのは軽食店だ。

到着した頃合いに弾は復活したが…埃だらけのゴミだらけ。従業員は嫌そうな目を向けていた。

 

「私、クリームソーダと抹茶ケーキ!」

 

蘭が元気よく注文。

 

「じゃあ俺はツナサンドに…コーヒーで」

 

弾も注文をしている。

俺は…何にするかな、お、これだな

 

「スパイシードックに…ソーダで」

 

「アップルパイと抹茶フロートを」

 

簪も注文したようだ。商品が届くまでは暇だし、何か話題でも…

 

「なあ、一夏、以前にも訊いたんだが…IS学園での生活ってどんなだ?」

 

「そうだな…物珍しい奴を見るような視線にはそろそろ慣れた、かな。

精神衛生上はまだまだ色々と問題はある、かな」

 

男子に慣れていない女子とて居るし、逆に何の意識もしていない為に、遠慮のかけらも無い人が居るのも確かな話。

ヤバイ状況になったら窓から飛び出す、なんてのも今ではIS学園では見慣れた光景になっているとか…非常に不本意だが。

 

「一夏さん、あの約束、覚えてますよね!?

もしも私がIS学園に入学が出来たら」

 

「コーチングしてほしい、だろ。素人に毛が生えた程度の俺一人じゃ難しいだろうし、簪も一緒になるだろうけど、それで良いなら」

 

「ということみたいだから、受験とか頑張ってね」

 

「はい!お願いします!」

 

蘭とて、俺と簪の交際の件は知っている。

最初は鈴と同様に泣いたり喚いたり、時にやけ食いしたりとかが有ったが、今はすっかり簪と友人だ。

 

「寮生活にも早い内に慣れた、かな。

妙な事は色々と有ったけどな」

 

医務室に幾度か厄介になった事はこの際伏せておく。

女子と同衾させられた事も黙っておく、これを知られたら一番厄介、そして面倒だ。その被験者が二人も居たんだ。

今でこそマドカが三日に一回は泊まりに来ているが、それは構わないだろう。蘭とマドカは親友なんだし。

 

「そうそう、ついこの前にあった学年別トーナメントだけどね…」

 

此処からは、簪と蘭が話に花を咲かせる。女子が知っている最近のブームだとか、男子禁制ギリギリの話題も流れている。

 

「で、今日は二人でデートか。学園の中じゃゆっくり出来る時間とかが少ないんだな」

 

「まあな、暇さえ有れば寄ってくる女子も居るからな。例えば…」

 

店の外に視線を向けると

 

「メルク!そんなに引っ張るなぁ!」

 

「水着は色々と有りますから!見てまわりましょう!」

メルクがマドカを引っ張り回していた。

マドカ…頑張れよ。それと、服が伸びなければいいな。

水着か…マドカはどんなものを選ぶのやら。中学に在学していた頃はスクール水着一貫だったが…そこはメルクに任せておこう。

 

「マドカちゃんは元気だなぁ…」

 

「弾、お前、庭で遊んでいる孫を見ながら茶を飲んでる爺さんみたいだぞ」

 

「俺はそんな年寄りじゃねぇっ!」

 

「マドカはお前にはやらん」

 

「シスコンがぁっ!」

 

「『家族思い』と言え、シメるぞ」

 

「それ去年にマドカちゃんがハマってたドラマの台詞だろ!」




おはようございます。
レインスカイです。
寒さに弱い体質なので布団の中は極楽です。
ああ、このまま眠ってしまいたい…←
けれど物語は夏真っ盛り!
羨ましい…。

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