IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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お久しぶりです


麗銀輝夜 ~ 許婚 ~

Ichika View

 

 

学年別ダッグマッチトーナメントが終わった。

俺が表彰式をボイコットした為、後々に千冬姉から一喝された。

メルクは優勝にて大喜び。

例の噂に関しては、無かった事になっている。

当たり前だ、俺を景品にするなというものだ。

それに、俺には簪が居るからな。

なので…

 

「オワタ…織斑君との交際が…」

 

「うぅぅ…素直に称賛出来ないぃ…」

 

「神様は残酷過ぎる…」

 

…数日はこんな空気が続いている。

クラスの皆で祝勝会をしようとしていたが…俺は片っ端から逃げ出した。

訓練を優先したのは、俺が掲げる目標に到達したいから。

それを伝えると、クラスの皆も納得してくれた。

それと同時に、俺は情けなく思えてしまっていた。

申し訳なかった。

俺の気持ちを優先してみんなを振り回してしまう、そんな俺が…。

 

そしてタッグマッチトーナメントが終わってから一週間が経過した。

 

「…俺を代表候補に、ですか?」

 

簪、マドカと一緒に寮の部屋で過ごしていたときに、山田先生の来訪から話は始まった。

 

「はい、世界各国から織斑君を国家代表候補生として迎え入れたいという国が後を絶ちません。

どうしますか?もちろん、断ることも出来ますよ?」

 

今の俺には国籍が無い。

ISが世の中に発表され、10年経過してようやく現れたイレギュラー、それが俺だ。

ISを動かせる理由は未だに不明。

その所為だろう、世界各国が俺の身柄を要望しているのは知っている。

だが、その大半以上がモルモットとしての扱いだと思っている。

そんな国に自分の身元を預けると、何をされるか判ったものではない。

結局のところ、卒業まで、俺がどこの国に国籍を置くかは保留されている。

 

それが先のタッグマッチトーナメントで優勝したものだから、どこの国も我先にと動き出しているのだろう。

俺は俺自身の実力を試すために参加したに過ぎない。

優勝をしたのは、メルクのサポートが有ってこそのものだ。

 

それに俺は…優勝したところで嬉しくもなんとも無かったのだから。

 

「この代表候補生になったら、パスポートは作れますか?」

 

「はい、勿論です。

代表候補生になると同時に、所属国家認定のパスポートが発行されます」

 

行きたいと思う国が二つある。

 

ひとつはオーストラリア。

11年間も離れ離れになっていた妹、マドカが世話になっていたウェイザー夫妻の墓前に挨拶くらいはしておきたかった。

 

もうひとつはドイツだ。

理由としては、シュヴァルツェア・ハーゼや、荒熊隊の皆に会いたいからだ。

特にこちらの二つの部隊は、先のトーナメント戦が終わるや否や即日ドイツに戻ってしまったため、言いたい事も言えずに終わってしまっている。

ハルフォーフ副隊長への尋問をする為にも、パスポートは必要不可欠だ。

 

「俺を要望している国は、と…結構多いな…」

 

日本、中国、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、イタリア、オーストラリア、アメリカ、イスラエル、韓国、台湾、ブラジル、エトセトラエトセトラ…多過ぎる。

他にもバチカンだのマルタ騎士団だの、フリーメイソンだの…妙なところも有るぞ…。

以前にも思ったがバチカン、宗教国家が俺に何の用だ。

そしてマルタ騎士団、ビル一つしか領土が無かった気がする。

俺を代表候補に迎え入れたい、という書類の他にも絶影(たちかげ)流の道場を要望する国家も存在するようだ、フザけんな。

 

「…国際IS委員会はこれには出張ってきていませんよね?」

 

「お、恐らく…」

 

山田先生のこの弱弱しい反応は今に始まったところでもない。

どうしたものか…。

 

「この中で信じられそうな国は…日本くらいしかありませんね」

 

「では、日本国家代表候補生で構いませんね?」

 

「他の国に比べれば、ですが」

 

「それではそのように申請してきますね。

お疲れ様、織斑君」

 

そう言って山田先生は部屋から職員室の方向へと歩いていった。

 

日本は以前、俺を一度見捨てている。

第二回モンド・グロッソ決勝戦当日に、俺が誘拐されたことを知りながらも名誉を優先し、千冬姉に知らせなかった。

その情報を俺は更識家伝いに教えてもらっている。

尤も、それは一部の女性議員がわめきだしたことで始まったようだが。

千冬姉はドイツ軍に教えてもらい、その真相を知ったらしい。

 

「これで一夏も国家代表候補生、だね」

 

「兄さんが日本の国家代表候補生。

凄い事だよ!世界でたった一人の男性代表候補生だなんて!」

 

「煽てても何もでないぞ」

 

そして訓練を続けた。

刀を振るい、弓を射ち、ターゲットを蹴り飛ばす。

これでいい、これで俺は俺の気持ちを押し殺す事が出来る。

そんなことがバレでもしたのか、休日は気分を休める為にも、外出するように楯無さんに言われた。

まあ、気晴らしには良いかもしれないな。

 

 

 

Chifuyu View

 

…逃げ出したい。

世界最強(ブリュンヒルデ)ともかつて呼ばれていた私がそんな衝動に迫られたのは、この数分間だけで何度目になるだろうか。

その原因は、私の目の前にいる男、『更識 厳馬』のせいだ。

何を思ったのか、この男は休日にこのIS学園に来ている。

私を呼び出したかと思えば、一方的に話を続けている。

その話の内容は、一夏の事や、娘姉妹のことばかり。

そんな話に私は、適当に相槌を打ったり、生返事を返すだけだ。

エンドレスに続く話など、右から左へと聞き流している。

 

「それで、ここからが重要な話なのだが」

 

「はあ…」

 

む、もう手元のコーヒーが無くなってしまったか。

 

「簪と一夏君なのだが、今もまだ仲睦まじく交際を続けているようだね」

 

「まあ、確かに…」

 

茶菓子も用意していなかったか。

それが有れば暇つぶしくらいは出来たかもしれなかったが。

 

「妻も二人の仲の進展を期待しているのだよ。

そこで、少々気が早いかもしれないが、千冬君が承知してくれれば、二人を許婚として認めてあげられないだろうか」

 

「構わないかと」

 

…ん?この男は今…何と言った?

 

「いやあ、ここまでアッサリとOKが出るとは思わなかった!

今日の夕方あたりには二人に知らせが届くようにしておこう!」

 

「いや、ちょっと待っていただきた」

 

「織斑先生!こんな所にいましたか!」

 

この声は山田先生か?

ちょっと待て、今は重要な話をしている途中だぞ!

 

「織斑先生!ちょっと来て下さい!

重要な書類が届いたんです!提出期限にしても、今日のお昼までに提出しろと日本政府からのお達しで!」

 

「なんでこんなタイミングでそんな書類が届くんだ!

厳馬師範、少しまって…って居ない!?」

 

あの人は何処に行ったんだ!?

くっ!引退しているものの暗部の長だった頃の力は未だ衰えていないのか!

 

「いいから急いでください!

織斑先生の確認も必要な書類なんですから!」

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「で、何処に行くんだ?」

 

「久しぶりにショッピングに行きたいの。それも一夏と一緒に」

 

今回は簪が俺を連れ出した形になっている。

今までなら、俺から連れ出す事が有ったが…楯無さんや鈴は訓練に明け暮れていた俺に溜息をついていた。

 

話を戻そう。

出掛ける事が決まってから、久しぶりにまたバイクに二人乗りをして外出だった。

マドカは気を効かせて留守番だ。

なお、バイクでの外出を提案したのもマドカだ。

この時期、夏も近いので外出にはモノレールを使う生徒が多いのだとか。

俺がモノレールを使うとなると混雑させてしまうのは目に見えていた。なので多少時間が掛かっても、大橋をバイクで渡る事にしている。

多少暑いが、構うものか。それに…簪も同じなんだからな。

 

 

Madoka View

 

兄さんが出掛けた後、私も外出の準備をした。

今日は兄さんが訓練を休んでいる事が、楯無先輩から情報が漏れてしまったらしく、兄さんがストーキングされる可能性があった。

モノレールの駅に到着したが…

 

「えっと…一夏は…あれ?居ない?」

 

「一夏さんは何処にいらっしゃるのかしら?」

 

…シャルロットとセシリアが兄さんを探しているようだ。

まったく、この二人は…

 

「マドカちゃんもお出かけですか?」

 

「メルク…そっちは?」

 

「臨海学校が近いですから、水着を買いに行くんです。

一緒に行きませんか?」

 

そういえば臨海学校が近いと姉さんも言っていたな。

水着は制限が無かったから、各自自由に用意している。

主にショッピングにて。

私は…どうしようかな。

 

「兄さんは…泳ぐつもりは無いだろうしな…」

 

中学生の頃は、兄さんは水泳の授業を全てボイコットしていた。

傷痕を見られないようにする為だった。

簪とのデートでも、プールや海には同行しても泳ごうとはしてなかった。

ベンチに座って、私達がナンパされないように見張っていたような気がする。

 

「…どうしようかな…」

 

兄さんは、自分に気を使わなくていい、とまで言ってくれたけど…。

それでもな…。

 

「今日は別の目的もあるし…」

 

兄さんと簪のデートに邪魔が入らないようにしようと思って外出までした。

けど、それを放り投げるのも…。

 

「迷ってる時間が有ったら行きましょう!」

 

「わ、こら!引っ張るなぁっ!」

 

メルクってこんなに強引だなんて知らなかった!

 

「タンキニにしますか?ビキニですか?ハイレグにします?それともセパレート?」

 

「勝手にしろ…」

 

兄さんを驚かせるくらいの水着でも見付けてみようかな。

 

 

 

Lingyin View

 

臨海学校が近い。

初日は海で自由時間を過ごせるらしいので、私は水着を購入しようと思い、思い切って外出した。

…までは良かったんだけど…

 

「ラウラ、アンタ何やってんの?」

 

「む、鈴か。兄上が珍しく訓練をせずに出掛けようとしているのを見つけたので、何処に向かおうとしているのかが気になったんだ」

 

ふぅん、一夏が外出ね…ようやくその気になったって事か。

でも外出となったら…

 

「簪と一緒に出掛けるって事でしょ。きっとデートよ。ゆっくりさせてあげましょ」

 

「そうか…なら邪魔が入らないように周囲に目を光らせておこう」

 

「それじゃあアンタも同類でしょ!」

 

でもアタシも気になるわね…ラウラの言い分も尤もだし、邪魔が入らないように見張ってあげようかしらね、この貸しは高くつくわよ一夏、簪。

 

モノレール駅に向かうまでの途中、その二人の姿が見えた。

一夏と簪はバイクに二人乗りをして、大橋の方に走っていく。

ルートも考えているのか、人目につかないようにしているみたい。

 

「さあ、モノレール駅に行くわよ」

 

「了解だ」

 

邪魔が入らないようにする為には先回りが常套手段。

それじゃあ、モノレール駅に行こうっと!

 

 

 

Laura View

 

兄上と簪の外出に邪魔が入らないようにする為に、私は鈴とモノレールに乗り込んだ。

やはり、と言うべきか学園の生徒の姿があちこちに見えた。

耳に入ってくる話題としては…水着がどうこうと。

 

「ふむ…水着、か…」

 

私が持っている水着と言えば…リズから渡された『スクール水着』とかいうものだけだったな。

兄上も臨海学校には参加するだろうし、私も改めて考えてみるべきか。

衛星通信機をを取り出し、指定周波数に合わせる。

これは私の部下…クラリッサに繋がるものだ。

 

「クラリッサ、私だ」

 

『如何しましたか、隊長?』

 

「学園行事として、近々に臨海学校が開催される。水着も必要になるのだが…」

 

『隊長が持っておられる水着は、日本の学校におけるスクール水着だけ、でしたか』

 

「うむ、そうだ」

 

あれでもさして問題は無いとは思うが、やはり部下は頼りになる。

クラリッサもリズも皆、部下であり盟友であり、私の誇りだ。

 

『それでは駄目です隊長!』

 

「むぅ!?な、何故だ!?」

 

『スクール水着とて、昨今の男性、特に一夏の目を向けるのには十二分に足りるでしょう!

しかし!それでは色物の域を出ない!』

 

やはり私の部下は頼りになる!

ならば如何様にすべきか答えてもらおう!

 

『隊長の現在のスタイルに合わせて提案をさせていただきます!

我等シュヴァルツェア・ハーゼ!

何処までも隊長と供に参ります!』

 

「ああ、任せる!」

 

さて、これで私も用事が出来てしまったな。だが兄上の件とて忘れてはいない。

ならば…最初に向かうべき場所は…

 

『夏の水着バーゲンです!』

 

「感謝するクラリッサ!」

 

「アンタ、何処に電話してんのよ…」

 

む、そういえば鈴の事を忘れていたな。

同行していたんだった。

 

「行くぞ鈴、夏の水着バーゲンだ!」

 

「だからアンタは何処に行くつもりなのよ!?」

 

 

 

Charlotte View

 

今日は一夏と訓練をしてみようと思ったのに、姿が見えなかった。

何やら外出すると知り、僕はそれにちゃっかり同行しようと思っていたのに…

 

「はぁ…何処にも居ませんわね…」

 

僕の隣に居るセシリアも似たような事を考えていたらしく、しっかりとメイクまでしてる。

 

「…一夏…」

 

同じ部屋で一週間程過ごしただけ。

それでも、今まで接した事の無いタイプの男性で、好意を抱くまで時間は掛からなかった。

無表情を貫き通していた理由は一応知っている。

それなりに女としてアピールはしてきた。

でも、風のように僕の手を摺り抜けていくみたいで…。

 

「モノレールには乗ってないのかな?」

 

「ですけれど、歩いていくともなると、大橋を渡るのは手間ですわよね…?」

 

当たり前な話だけど、暑いし、時間もかかる。だから使う筈も無いし…。

ああ、もう~!何処に行ったのさぁ!一夏あぁぁっ!




今回は投稿が遅くなりました。
臨海学校編の前には、いろいろと有るだろうと思い、執筆をチマチマとしているレインスカイの提供でお送りいたします。
タッグマッチトーナメントで一夏君は優勝したのですから、これくらいの勧誘はあるかもしれません。
いろいろと書いていたら怪しい名前もチラホラと…。

そしてこれにて一夏君も国家代表候補生に!
されどコレは実は伏線だったり…。
厳馬師範、お久しぶりの登場、ご苦労様でした。
すっかり千冬さんの弱点になってしまっていますね、恐ろしや。
そして一夏君と簪ちゃんの仲も一歩前進…どころか全力疾走か…!?
まだまだ続く『麗銀輝夜』編、お楽しみに!

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