IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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一夏とラウラの決闘の後は、やっぱりこれですよね。
典型的過ぎる?自覚してますとも


力の在り方

Laura View

 

 

「…わた、し…が……負け、…た…?」

 

戦う為だけに作り出された、この私が…?

 

処分されかけていた私を、初対面にも関わらず救ってくれた教官。

 

あの人のように最強でありたいと願った。

 

上層部はそれを嘲笑い、私にISを押し付けた。

 

未だ誰も使いこなせなかったこの機体、『シュヴァルツェア・レーゲン』を…。

 

ならばこいつで最強と言われる程になりたい、そう願った。

 

なのに…なのに、私は負けたのか…?

 

戦場に立った事すら無いこの男に…?

 

「…敗北…この私が…?」

 

嫌だ

 

認めない

 

認めたくない

 

そうでなくては…私は最強で要られない

 

《モトメルカ…チカラヲ…》

 

そんな声が聞こえた気がした。

だが、私はそれに頷く。

 

《ホッスルカ…ダレヨリモツヨイチカラヲ》

 

寄越せ、力を…!

揺るぎない、『最強』を…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「一夏!下がれ!」

 

千冬姉の叫び声。

俺は咄嗟にバックステップで跳躍した。

 

ザクゥッ!!

 

今の今まで立っていた場所にドス黒い刃が突き刺さる。

コンバットナイフじゃい。

かと言ってドイツ軍の軍刀でもない。

これは…

 

「…これは…!」

 

色は違う、だけどこれを…見間違える事なんてない!

誰よりも近くで見ていたからこそ理解できる!

これは…

 

「…『雪片』…!」

 

なんでこんな色になって…こんな場所に…!?

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

続けて聞こえた悲鳴に俺は視線を向ける。

隊長が『何か』に飲み込まれていた。

右足に固定していたレッグバンド…多分、待機状態のISから溢れ出した泥、もしくはスライムのような何かに…。

だけど…待機状態のISがあんな形状変化を起こす筈がない!

 

 

驚愕している間にも隊長はドロドロになったISに飲み込まれていく。

そして…黒いスライムは隊長を完全に飲み込み…巨大な女性的なフォルムを作り出した。

これが黒くなければ、女神像と言われても頷いていたかもしれない。

 

「VTシステムか…上層部のクソ共が…!」

 

「VTシステム…何だよ、それ」

 

「IS搭乗者、その部門受賞者の動きをトレースさせるシステムだ。

研究、開発、その一切が禁止されている禁忌のシステムだ」

 

部門受賞者…この外見から察するに千冬姉をトレースしている。

このドス黒い雪片がその証拠だろう。

 

駐屯地のあちこちから警報がけたたましく鳴り始める。

緊急事態としとて扱われ、ISが次々に発進する。

 

「一夏、もうお前に出来る事は無い。

下がっておけ」

 

俺には…何も出来ないのかよ…。

千冬姉に鍛えてもらったのに…なんで肝心な時に俺は無力なんだよ…!?

 

これじゃあ成長してないみたいじゃないか…まるで…あの時みたいに…!

 

でも、男の俺にはどうする事も出来ない…!

相手はISだ、男の俺には…

 

「…皆に任せるしかないのかよ…」

 

千冬姉に言われるままに一歩下がり、飛来するISを見上げた。

 

 

 

「…!?」

 

途端に、嫌な汗が浮き上がる。

何だ、これ…?

 

何かが、頭の中に…

 

「一夏…?おい、一夏」

 

銃口を向ける誰かの姿

 

それをニヤニヤと笑う見知らぬ誰か

 

記憶が壊れているかのようにその誰か思い出す事が出来ない。

 

嫌だ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 

「撃つな、撃つな…嫌だ、やめろ…撃つなああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

頭が割れる…!

 

何だよ、これ!

頭の中、何かが浮き上がる!

 

嫌だ、俺にそれを見せるな

 

それを俺に向けるな

 

だけど…『それ』を向けるのは誰だ!?

誰だ…誰なんだお前は…!?

 

両肩と胸部が激しく痛み始める!

 

痛みが体を貫くような

 

パァンッ!

 

左頬に衝撃。

横を見ると、千冬姉が俺を見ていた。

 

「落ち着け一夏。

よく聞け、此処に、お前を撃つ奴は居ない。

いいか、此処に、お前を、撃つ奴は、居ない」

 

一句ずつ区切って言われる言葉を聞きながら、俺は深呼吸を繰り返す。

 

なんでだ…?

 

俺を撃つわけじゃない、なのに…

 

なのに…

 

考えるのは後だ、IS相手に俺が勝てるわけが…

 

ズガアァァンッ!!

 

轟音を起てながら俺達のすぐ隣に何かが落ちてきた。

砂埃の向こうには、ISが倒れていた。

その搭乗者は

 

「リズ!」

 

黒兎隊で顔なじみになった少女が目を回している。

 

「おい、しっかりしろリズ!」

 

「…イ、イチカ…?」

 

「傷は…無さそうだな、でもシールドエネルギーが枯渇寸前だ。

早く此処を離れるぞ。

ISを待機状態に戻せ!」

 

「うん、ごめん…ねえ、また近いうちに」

 

「カレーくらい作ってやるから」

 

リズは俺が作ったカレーを結構気に入っていた。

俺も驚いていたが、他の隊員が食べる量より、大盛りにしていたよな。

なら、また作ってあげよう。

 

「展開…解除…」

 

ISが解除され、俺はリズを肩に担ぐ。

背後から視線を感じた。

視線の主は…

 

「あの…物真似野郎…!」

 

黒い女神が俺を睥睨している。

ドス黒い雪片を構え、俺に突っ込んでくる。

 

「千冬姉!リズを頼む!」

 

「何をする気だ!?」

 

「俺に喧嘩を売ってきてるんだよ!」

 

傍に落ちていた俺の刀と鞘を掴む。

こんなものがISに通じる訳がない。

そんなの判りきっている!

だけど!それでも!

 

「逃げろ一夏!」

 

ハルフォーフ副隊長の声

 

「危ない!逃げて!」

 

隊員のイザベラの悲鳴

 

「逃げてえぇ!」

 

アイラの金切り声

 

「もういい!逃げろぉ一夏!」

 

千冬姉の声が聞こえる。

 

それでも俺は引くつもりは無いんだよ!

 

刀を構え、雪片を迎え撃つ!

 

「…ぐ…は…」

 

 

だが、成す術もなく、俺は吹き飛ばされる。

無様に、惨めに地面を転がってしまっていた。

 

「痛ぇ…っ!」

 

痛みは体全体に感じる。

刀を杖にして立ち上がり、黒い女神像を睨んだ。

パキリ、と音が聞こえる。

…今の衝撃に耐えられなかったのか、刀が砕けだ。

 

武器を失った俺に、あいつは代わらずに俺を睥睨している。

再び雪片を構えて接近してくる。

 

「イチカ!此処は私達が抑える!」

 

「だから早く逃げろ!」

 

アイラとハルフォーフ副隊長が俺の眼前に駆け寄り、近接戦闘用のブレードを構え、俺を見下ろしてくる。

 

悪いけど、その意見は聞かない。

そもそも、隊長と親しくなってほしいと頼んできたのはアンタだろ、ハルフォーフ副隊長?

 

「副隊長からの頼みなんだ、今更それを無かった事になんて出来るかよ…!」

 

「一夏、君は…」

 

「副隊長!来ます!」

 

黒い女神像が眼前にまで来る。

二人は軍人として非常に優秀だ。

IS搭乗者としても。

だけど…部門受賞者にまで達しているわけじゃなかった。

雪片と数合撃ち合わせるが、それだけで吹き飛ばされる。

…ハルフォーフ副隊長も…。

他の隊員からの銃撃も無視しているかのように。

 

「なあ、隊長。

お前、他の隊員の顔を覚えてるのか?」

 

ナノマシンを肉眼に植え付けられていない少女まで眼帯をしていた理由も

 

「どれだけの言葉を交わした?

お前の事だからハルフォーフ副隊長と千冬姉の言葉くらいしか聞いてないんだろ」

 

千冬姉が「逃げろ」と叫ぶ中、倒れてしまってたアイラが手から落とした近接戦闘用のブレードを掴んだ。

刀身だけでも俺の身長程の流さだ。

しかも…目茶苦茶重てぇ…!

 

「今、目を醒まさせてやるよ…!」

 

無理矢理にブレードを持ち上げ、構える。

これじゃあ駄目だ。

 

剣に振り回されている。

 

息を整えろ。

 

剣を構えろ。

 

振り回されるな。

 

この程度の重さが何だ。

 

千冬姉はこの重さを毎日振るい続けていたんだ。

 

ISを動かせないから何だ。

 

俺は男だ

 

これっぽっちの重さで…!

 

『ナサケネェヤツダナ…スコシダケダ、チカラヲカシテヤル』

 

何処かから声が聞こえた気がした。

振り向いても、そこに声の主らしき人物は居ない。

 

「…!?」

 

今の今まで重たくて仕方なかったブレードが軽く感じられた。

それこそ、振り回されることも無い程の軽さに…。

だが、なんでだ、何故、急にこんな…!?

 

でも、それを考えている暇なんてなかった。

振り下ろされる刃に対し、ブレードを振り上げて対応する。

 

「チィッ!」

 

受け止め、そして弾く。

続けて横薙ぎに振るわれる刃を受け流す。

下段から掬い上げるような斬撃には、ブレードを振り下ろして止める。

刺突は刃で直接止め、そして後方へと流す。火花が散る。

だがそんなものに構っていられるか!

こっちは千冬姉の刀を受け続けていたんだ。

こんな偽物野郎に

 

「負けられるかよ…!」

 

刃をぶつけ合う。

一合、二合、続けて三合。

悲鳴のような金属音、立て続けに飛び散る火花。

腕に伝わってくる衝撃。

でも、まだまだだ!

 

睥睨してくる漆黒の女神像を睨む。

黒い暮桜、黒い雪片、そして黒に染まった千冬姉の形。

その全てが偽物、借り物、仮初めの姿。

 

 

 

 

 

「こいよ…ケリをつけてやる!」

 

八相の構え。

かつて千冬姉に教えてもらった居合の構え。

 

 

女神像が雪片を振るう

 

俺はタイミングを合わせてブレードを振るう

 

耳障りな金属音が響く

 

今まで以上の重さを持つ攻撃に腕へ凄まじい衝撃を感じる

 

無視しろ

 

今は前だけを見ろ

 

地面をしっかりと踏みしめろ!

 

自分の体を気にするのは後だ!

 

返す刀で一気に振り上げる!

 

腹部から頭頂部までを一刀両断した

 

女神の動きが完全に止まった

 

再びドロドロと溶け落ちていく。

両断された断面から少女の姿が見えた。

黒兎隊隊長だ。

 

「馬鹿者、逃げろと言っただろう…ヒヤヒヤさせられたぞ」

 

「原因は俺だからな、後始末を他人任せにしたくなかったんだ」

 

「まったく誰に似たんだか」

 

鏡を見た方が早いかもな。

 

他の隊員を見渡してみる。

暴走したISをガキの俺が止めたから驚愕している。

 

「千冬姉、収拾頼んでいいかな?」

 

「…やれやれ…だが仕方ないか…」

 

…まだ俺は千冬姉には届かないらしい。




と、言うわけで一夏VSラウラの一騎打ちの延長戦でした。
予想通り過ぎ、でしたでしょうか。
そして正体不明の声が少しだけ登場。
それはこの物語のかなり後にて判明…するかもしれません。
まだそこまでストックを溜めていないものですから。
さて、次回にてドイツ滞在編は終了の予定です。
今作のヒロイン役は簪の予定ですが、ラウラがお先に登場となってしまいました。
ああ、早い内にマドカも出してあげたいな…。
それでは次回にてお会いしましょう。
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