IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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決勝戦です。


双重奏 ~ 栄光 ~

Ichika View

 

昼休憩時間の間はメルクを担いであちこちを走り回り、新聞部の取材から逃げ回り続けた。

時間ギリギリになってからアリーナに飛び込み、更衣室で制服を脱ぎ捨ててからピットへと走りこむ。

そのタイミングの時点で、試合開始の5分前にまで迫っていた。

まったく、新聞部の取材班魂も時と場合を選んでもらいたいものだ。

昼休憩時間すら慌ただしく過ごす羽目になった。

食事時間と食後の時間くらいはゆっくりとさせてほしいものだ。

 

ピットからアリーナを覗いてみると、やはりと言うべきか、満員御礼だ。

空いている席など全く見当たらない。

 

「簪とマドカは…お、アソコか」

 

先の宣言通り、最前列の席に並んで座っている。

向かい側のAピットの付近に見覚えのある姿がちらほらと…こちらは見えなかったものだと思い込んでおこう。

 

『さあ、学年別トーナメントもいよいよ大詰め!

泣いても笑ってもこれが最後の戦いです!学年別タッグマッチトーナメント!決!勝!戦!』

 

長い時間実況をしていた黛先輩のマイクパフォーマンスは相変わらずである。

決勝戦という事もあり、体育会系になっているようだ。…将来、本当にパパラッチになったりしないか心配だ。

 

『数々の戦いを乗り越えた戦士が!今!此処に!

まずはAピットから!

ドイツ国家代表候補生にして最年少佐官!

Follow Me!お前達全員を私が連れて行く!

黒兎隊隊長!ラウラ・ボーデヴィッヒ選手!』

 

ラウラがシュヴァルツェア・レーゲンをまとってピットから飛び出してくる、

途端に観客席の一角が沸き立つ。

それもAピット側の席の一角だ。

IS学園のものとは違う黒い服に帽子、そして左目を覆う眼帯。

 

「あれ、どちら様でしょうか?」

 

「ドイツ軍だ」

 

「…え?」

 

「ドイツ軍IS部隊、『シュヴァルツェア・ハーゼ』御一行だ」

 

見えなかった振りはもう出来ない。

ラウラが言っていた『来訪者』とは彼女達のことか。

見覚えのある顔が幾つも並んでいる。

…まさかとは思うがシュヴァルツェア・ハーゼの全員が来ていたりとかは…流石に考えすぎか。

 

「隊長~~~~!」

 

「頑張ってくださああぁぁぁい!」

 

「我等『シュヴァルツェア・ハーゼ』はどこまでも隊長と共に!」

 

もはや親衛隊のようである。

横断幕だとか、ラウラの顔写真入りの団扇だとかを振っているのを見ると、親衛隊どころか、ただのおっかけファンにも見えて仕方ない。

これもハルフォーフ副隊長の洗脳か?悪質だ…。

ここまでラウラと親しくなっているとは…『ドイツの冷氷』と呼ばれていた人物とは、もう思えない。

敵対するのなら、そうなってしまうかもしれないが、それは望むところではない。

 

…よくよく見れば、来訪者席にはハルフォーフ副隊長も居る。

こちらは他の隊員のように騒いでいないだけ自粛しているようだ。

機会があれば、ラウラへの洗脳について腹を割って話をしておきたい。

 

『続けて飛び立ったのは!フランス国家代表候補生!

戦場を駆け抜ける一迅の疾風!

シャルロット・アイリス選手!』

 

向かいのピットからシャルロットが飛び出してくるのが見えた。

ラウラもシャルロットも凄まじい程の気合いを入れているようだ。相手に不足はない!

 

『さあ!Bピットからの入場です!

先に飛び出してきたのは!イタリア国家代表候補生!

嵐をも貫く白銀の流星!

世界最速の翼!メルク・ハース選手!』

 

メルクが飛び出すと、今度は1年3組の生徒が沸き立つ。

1年の生徒の中で専用機を所有している生徒の半分は何故か1組に居るので、数少ない他のクラスの生徒の中では人気者になっているらしい。

来訪者席にはイタリアの開発スタッフも来ているのか、顔をほころばせている人物も居る。

 

さて、最後は俺の番のようだ。

 

『最後に姿を現したのは!世界を震撼させた唯一の男性搭乗者!

二刀流と蹴り技を嵐のように繰り出す剣士!

現代によみがえった白騎士にして蹴撃の貴公子!織斑一夏選手!』

 

誰が貴公子だ、誰が。

 

そして今度はBピット付近の一角の観客席が沸き立つ。

 

「待ってたぞ一夏ああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

「お前の剣技を見せてみろおおぉぉぉっ!」

 

「負けんじゃねぇぞおぉぉぉっっ!」

 

ドイツ軍のエリ-ト戦闘集団『荒熊隊』がそこに居た。

…嘘だろ。お前らはそこで何をやっているんだ。

ヴィラルドさんまで居るのかよ。

 

片手をあげて軽い挨拶代わりにすると更に沸き立つ。

周囲の生徒は異質なものを見るような視線を彼らに向けていた。

とはいえ、ドイツの重鎮の護衛目的で黒兎隊も荒熊隊も来ているのだろう。

それが観客席で何をしているのやら。

っつーか…あの駐屯地、今は空っぽになっていたりしないよな…?

新兵(ルーキー)に留守番を頼んでいるとか、そんなオチになっていなければいいが…

 

 

気を引き締めよう。

黛先輩は未だに実況を続けている。

あの二つの部隊のことについて語ろうとしていた。

やはり黛先輩とは腹を割って話す必要がありそうだな。

とは言え、今は試合に集中すべきだろう。

 

「兄上、今回は私が勝つぞ」

 

「俺だって負ける気は無いさ。

機体の色に合わせて白黒つける、なんて笑えない冗談は言わないさ。

全力でぶつかって行こう」

 

「シャルロットさん!

負けませんよ!」

 

「僕だって負けないよ!優勝して…ゥヘヘ…」

 

シャルロットが何やら妙な笑みを浮かべているが、スルーしておく。

例の噂に感化されているようだ。

誤解を解くのも面倒だ。

放置しておき、メルクに押し付けよう、そうしよう。

 

「此処は日本の流儀に倣って言っておこう」

 

ラウラが両腕にプラズマブレードを展開させ、それを交差させる。

そして視線を俺に向け、通信回線を開く。

それもオープンチャネルで

 

「ドイツ軍IS部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』が隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒが推して参る!」

 

ハルフォーフ副隊長…アンタは本当に何をラウラに教えているんだ…?

これが日本文化だとでも教えているのか?

見ろ、メルクもシャルロットだけじゃない、観客席に居るほとんどの人間が唖然としているぞ。

これ…俺も応えなきゃならないのか…?

ラウラは凄まじい期待を込めた視線を俺に向けている。

…応えなきゃ…ならないんだよなぁ…オープンチャネルで…はぁ…仕方ない…

 

俺はラウラに応えるように両手に刀を握り、抜刀し、そして構える。

 

「『絶影(たちかげ)流』初代伝承者、織斑 一夏が受けて立つ!」

 

…やはりアリーナは静寂に包まれていた。…やらなきゃ良かった…。

そんな後悔が押し寄せてくる。

 

『え~…何やらお互いに鼓舞している様子です。

で、では、時間も来ましたので…試合開始!』

 

その瞬間に、俺とメルクは瞬時加速。互いに決めた相手へと突っ込んでいく。

メルクはシャルロットに、俺はラウラへと。

 

「一夏君、こちらはお任せ下さい!

その代わりに」

 

「ああ、こっちは任せろ!」

 

 

 

Laura View

 

試合開始の合図が出された。

この試合で私が使うのはこのプラズマブレードのみ。

ワイヤーブレードもリボルバー・カノンもAICも使わない!

私達は、刃で決着をつけるのみ!

 

「いくぞ、兄上!」

 

プラズマブレードを構える。

 

「!?」

 

瞬間、兄上の姿が消えた。

 

「がぁっ!?」

 

刹那、すさまじい衝撃を感じ吹き飛ばされる。

姿勢制御をしようとスラスターをふかせる。

 

「ぐぁっ!?」

 

その瞬間を見越したかのように再び心臓部に衝撃。

絶対防御が発動され、シールドエネルギーが合計18%も削られてしまった。

 

「くっ…!い、今のは…!?」

 

兄上が得意としている瞬時加速(イグニッションブースト)か!?

違う、瞬時加速(イグニッションブースト)なら、こんなにも早くに加速をやり直すなど…!?

 

「『二重瞬時加速(デュアル・イグニッションブースト)』だ。

つい最近会得したばかりでな、この決勝戦までは隠していたんだ」

 

「なるほど、織斑教官が得意としていた技術をそのまま…その加速能力を使っての体当たりだったのか…」

 

「『体当たり』じゃないさ。

絶影流初伝『穿月(うがちつき)』、そしてそれを追うような形での追撃の刺突『填月(うずめつき)』だ」

 

二段の刺突に二重瞬時加速(デュアル・イグニッションブースト)を使ったのか。

ここまで兄上のデータは多くは求めなった。

瞬時加速(イグニッションブースト)だけかと思っていたが、それ以外の加速もまた得ていたか。

 

「侮れないな、やはり兄上は…」

 

「お互い様だ、言っただろう、全力だとな」

 

「ああ、だが私は負けない!」

 

 

 

Melk View

 

「いやぁ、やっぱり一夏君は凄いですねぇ」

 

「そういう君もね!

でも、油断してる暇はあるのかな!?」

 

こちらはこちらで、両手に近接格闘武装『ホーク』を縦横無尽に振るいながらのシャルロットさんとの斬りあいに発展してます。

第二世代機と言えども、この高機動性はなかなかのもの。

一夏君に教わった太刀筋にも追いついてきていますね、これは驚きです。

 

「いえいえ、油断なんて…してませんよ!」

 

横薙ぎの一閃をバックで回避。

『ホーク』を収納し、続けてレーザーライフル『ファルコン』を両手に展開。

そのまま射撃!

 

「あ、危な…」

 

「あらあら、そちらも避けましたか」

 

シャルロットさんは上空に上昇することでこちらの射撃攻撃を回避した御様子。

それを追うようにこちらも上昇!

 

「ここからは射撃勝負といきますか?」

 

「それも悪くなさそうだね、負けないよメルク!」

 

「追いついてこれますか?このテンペスタ・ミーティオに!」

 

シャルロットさんはアサルトライフルにマシンガンを両手に、こちらは変わらずにレーザーライフルを両手に。

そのまま旋回しながらの回避と射撃の応酬。

サークルロンドに突入。

実弾とレーザーが飛び交い、火花が散る。

お互いに牽制射撃を含めての射撃攻撃に何の遠慮も無し。

強いて言うのなら、地上付近で戦っているラウラさんと一夏君の邪魔にならないように気遣っているのみ。

 

「成程、それが高速切替(ラピッド・スイッチ)ですか」

 

多くの武装を取り扱う人がよく使う技術とか教えてもらっていますけどね。

あの換装スピードでは絶影流『欠月』は意味が無い。

だったら…

 

「参ります!」

 

両手にファルコンを握ったまま瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

「接近戦?それでも負けないよ!」

 

シャルロットさんは両手の銃器を収納して、ブレード一振りのみで瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

「絶影流…!」

 

瞬間、私は右手のファルコンを上に放り投げる。

続けて左手のライフルもまた投げる。

即座に両手に『ホーク』を展開!

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)!?

メルクも使えるの!?」

 

「ぶっつけ本番です!」

 

左手の『ホーク』は逆手に。

一切の減速すらさせずに駆け抜け…シャルロットさんの斬撃を錐もみさせながら回避しながらこちらも横薙ぎに一閃!

 

「『幻月(げんげつ)』。

これ一夏君直伝の剣技です!」

 

「一夏直伝!?」

 

そして、それだけじゃないですよ。

右手のブレードを収納、落下してきたのは『ファルコン』二挺が連結した大出力レーザーライフル『レイヴン』!

 

「吹き飛んでください!」

 

トリガーを引くと、野太い閃光。

シャルロットさんは避ける間もなく飲み込まれた。

これ…威力がとんでもないんですけど…。

『ライフル』じゃなくて『カノン』でも良いんじゃないんですかね?

 

「ど、どんな出力なのさ、その武装!?」

 

どうやら無事だった様子。

でも…物理シールドが危うい状態。

こちらの攻撃用エネルギーはそんなに減ってないようですね。

 

「…もう一発いかがですか?」

 

「いらないから!」

 

「そう遠慮なさらずに♪」

 

「何で押し売りになってるのさ!?」

 

まあ、そんなやりとりは此処までにしておきましょうか。

本気になってやっていきましょう!

 

「ところでシャルロットさん、絶叫アトラクションはお好きですか?」

 

「…え?」

 

 

 

 

Ichika View

 

まずは逆手に握った雪華で切り掛かる。その刃は腕部のプラズマブレードで受け止められた。

やはり、簡単にはいかないか!

当たり前だ、相手は現役軍人。

それにあの頃よりも強くなっている。俺だって訓練は積んでいるが、ラウラだって同じだ。

手の内はもう知られてしまっているんだ。

奇策は尽きているも同然、此処からは気力の勝負だ。

 

「はぁっ!」

 

「ぐっ!?

…兄上、二年前のあの日には二刀流と足技を隠していたのか…!?」

 

「いいや、あれ以降に鍛えたんだよ。あの日にはまだ考えてもいなかったけどな。

そして…」

 

双刀を開くようにしてプラズマブレードを振り払う。

 

「此処からが俺の隠し弾だ」

 

ラウラの機体『シュヴァルツェア・レーゲン』はオールレンジでの戦闘が可能だが、それだけ集中力が必要だ。AICはその中で最たる物の筈だ。

それを使わせない為に、鍛えたのが…

 

「は、速ッ…!?」

 

二刀流による連撃だ。ラウラとてプラズマブレードでの二刀流だが、『使える』と『反応出来る』とはまた別だ。

その隙を突いての二刀流での連撃だ。

 

「凄いな、兄上は…!」

 

「お前もなラウラ!

さあ、加速するぞ!」

 

これが本当の隠し弾、そして、此処からが、本当の全力だ!

 

「ちぃっ…!」

 

「…隙だらけだ!」

 

一瞬の隙を突き、豪快に蹴り飛した。

 

 

 

Laura View

 

「ぐっ!?

…兄上、二年前のあの日には二刀流と足技を隠していたのか…!?」

 

「いいや、あれ以降に鍛えたんだよ。あの日にはまだ考えてもいなかったけどな。

そして…」

 

剣速が速くなった。

 

「此処からが俺の隠し弾だ」

 

両手に握る刀が凄まじい速さへ。

覚えがある、これはあの日に私に見せた『居合』だ。

あの時には、その一閃には対応しきれず、眼帯を吹き飛ばされた。

反応しきれた訳じゃない、確かにあの瞬間には脅威を感じていただけだ。

よもやそれをISで行うとは…!

 

「さあ、加速するぞ!」

 

まだ速くなるのか!

これ以上加速されれば私にも対応しきれないぞ!?

 

「ちぃ…!」

 

舌打ちをしながらも私はプラズマブレードで対応するが、ガリガリとシールドエネルギーが削られている。このままではじり貧だ。

 

「隙だらけだ!」

 

一瞬の隙を突かれ、蹴り飛ばされた。

スラスターを吹かせ、凄まじいスピードの蹴りにアリーナの端にまで吹き飛ばされた。

背中に激しい衝撃。壁面に衝突したか。

兄上の脅威は『スピード』だ。

あの日、兄上と決闘した際にも居合の速さに追いつけず、眼帯を吹き飛ばされた。

今もまた、あの頃以上の速さに翻弄されてしまっている。

このシュヴァルツェア・レーゲンをも吹き飛ばす蹴りにもまたスピードが込められている。

 

「強い…!」

 

この二年間でまたも鋭さも速さも増してる。

私では追いつけない速さにまで至っている。

…ならば…!

 

「もう私も出し惜しみはしないぞ、兄上!」

 

左目を覆う眼帯を剥ぎ取る。

 

越界の瞳(ヴォータン・オージェ)

 

IS適正を引き上げるために植え付けられたナノマシンにより私の左目は金色変色している。

だが、私には扱いきれず、日常生活にまで支障をきたす程だ。

それでも、扱い切れないわけではない…!

耐えきれない痛みが生じるまでは…しめて8分!

それまでに…

 

「兄上、私は貴方に勝つ!絶対に!負けな――――」

い、とまで言い切れなかった!

 

「ヒイィィィアアアアアアアアァァァァァァァァ~~~~~!!!!????」

 

そんな間抜けな声が聞こえてきた直後

 

ドガッシャアアアアァァァァァンァァ!!!!!!

 

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??」

 

凄まじい衝撃が真横から襲ってきて、私はまたもや吹き飛ばされた。

 

「…豪快にやらかしたな…」

 

砂埃が晴れた先には…

 

「シャルロット!?」

 

「…キュゥ…」

 

私のタッグパートナーが気絶していた。

 

『シャルロット・アイリス 意識消失

戦闘不能』

 

無機質なアナウンスが流れる。つまり…この二人をまとめて相手にしろと言うのか!?

 

「ラウラ、悪いな。

此処からは、俺達のターンだ」

 

 

 

Melk View

 

「ところでシャルロットさん、絶叫アトラクションはお好きですか?」

 

「…え?」

 

シャルロットさんの顔がビクリと歪むのを私は見逃しませんでした。

これは…絶叫アトラクションはどちらかというと苦手としている様子。

…好都合です?

 

「そ、それって…どういう意味、かな?

ISに乗っている以上、絶叫アトラクションくらいは…」

「顔に出てますよ♪」

 

再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)、からの…

 

「絶影流…!」

 

「させない!迎え撃つ!」

 

シャルロットさんもブレードを展開。

それを見越し、二重瞬時加速(デュアル・イグニッション・ブースト)

シャルロットさんは大上段からの振り下ろし。

けれど、私にはそれがスロー映像のように見えた。

 

まだ…まだ…まだ…そこ!

 

背面スラスターをカット、PICをカット、続けて脚部スラスター最大出力!

 

「『薙月』!」

 

脚部ブレードを展開!

機体を縦に回転!そのまま相手のリヴァイブの腕を脚部ブレードを両断!

更に今度は背面スラスターを最大出力!

機体は縦回転から横回転へと軸が変わる。

胸部装甲が弾け飛び、残る片腕も両断!

これで高速切替(ラピッド・スイッチ)をしても武器は握れない!

 

「両腕が…!?」

 

「は~い、捕まえました♪」

 

脚部クロー『アウル』にて、両断した腕を掴み取る。

物理シールドにはどうやら『楯殺し(シールドピアース)』が装備されているようなので、左腕側は、その楯を掴む。

もののついでにスラスターも破壊してしまえば、主導権は私に切り替わる。

 

「此処でもう一度質問です。

絶叫アトラクションは嫌いですか?大嫌いですか?」

 

「何で『嫌い』の一択しか無いのさ!?」

 

それは…これから嫌いになるからかもしれないからです♪

 

「絶叫コースターへお一人様ご案内で~~す!」

 

「なんでそんなノリノリなのさあああああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

速さはイタリアのウリですから!

 

「終着点は~!あのお二人の決闘の真っ只中です!」

 

「嫌ああああぁぁぁぁ!ぶつかるうううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」

 

「あ、舌を噛まないように気を付けてくださいね♡」

 

そして此処で連装瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)

 

「ヒイィィィアアアアアアアアァァァァァァァァ~~~~~!!!!????」

あ、言うのが遅かったかもです。

一瞬後凄まじい轟音と衝撃での衝突になりました。

私は避けてましたけど。

 

 

 

Ichika View

 

「…豪快にやらかしたな…」

 

シャルロットは完全に意識を消失し、この戦いからは脱落だ。

両腕を斬られているから戦う術が無いわけだが…。

 

「ラウラ、悪いな。

此処からは…俺のターンだ」

 

「…くっ!」

 

左目を使い始めたようだからこそ急がなくてはならない。

アレはラウラにとっては背水の陣だ。

雪片弐型と雪華のレーザー刃を両方とも展開。一気に勝負をつける。

 

四つのレーザー刃が幾度もぶつかり、火花を散らす。

これはあの日の決闘以来だろう。

俺は二刀流に変わったが、強くなりたいという精神はあの日から何も変わってはいない。

あの日は奇策を使っての勝利だった。

だが、今回はISに搭乗しての本気の勝負。

 

「くっ!このっ…!」

 

訓練期間こそ違うが、対等な条件に限りなく近いだろう。

ラウラがプラズマブレードしか使わないのは、あの日の借りを返すためと見ている。

AICを使わないのは、俺としてはありがたい。

1対1ではこのシュヴァルツェア・レーゲンに勝てる奴は居ないだろう。

 

「ラウラ、ここから更に加速するぞ、ついてこれるか?」

 

「追いついて見せる!」

 

「それが俺の最大速度にまで一気に加速するとしても、か?」

 

「な…!?」

 

絶影流の技は全般的に一瞬で終わるものが多い。

だからこそ、終わりを感じさせない技を、見せてやる…!

 

「絶影流奥伝…『絶影(ぜつえい)』!」

 

二刀流、そして絶影流の神髄は速さと手数、それで相手を圧倒する!

 

始まりは両手の刀での横薙ぎの一閃!

そこから終わりの無い連続の斬撃、更には蹴りが繰り出され続ける。

だが

それは単調な技を連続で放つのと変わらない。

それを悟らせないようにするのがこのスピードだ。

 

まだだ…もっと…もっと速く!

 

「馬鹿な…このスピードは…!…ぐっ…!?」

 

ラウラにも限界が来たのか、左目だけが閉じられる。

限界時間(タイム・リミット)が来たようだ。

 

「『零落白夜』発動!」

 

雪華を鞘に戻す。

零落白夜を使う以上、雪華を使うわけにはいかない!

 

「兄上…!くっ…!私は…負けない…!

シュヴァルツェア・レーゲン!全攻撃エネルギーを右腕のプラズマブレードに収束!

そして最大出力!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンのプラズマブレードが先程までよりも強く輝く。

手刀と呼ぶよりも、その大きさから刀のようにも見えた。

 

「この一刀で、兄上を超える!

ドイツ軍IS部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』が隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒが推して参る!」

 

「絶影流初代伝承者、織斑 一夏が受けて立つ!」

 

いざ、尋常に…

 

「「勝負!」」

 

お互いに全力を出し切った上での一閃だった。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったタイミングも同じだった。

違ったのは、俺が再び二重瞬時加速(デュアル・イグニッション・ブースト)を使った事くらいだろう。

そのスピードに、左目を閉じたラウラは追いつけなかった。

ラウラがプラズマブレードを振り下ろすよりも先に、零落白夜の金色の斬撃がシュヴァルツェア・レーゲンを薙いでいた。

 

『シュヴァルツェア・レーゲン シールドエネルギーエンプティ

勝者 織斑一夏&メルク・ハース』

 

その合成音声が聞こえたのは、何秒後だっただろうか。

それすら分からなかった。

 

「一夏君、私達の勝ちですよ」

 

「…勝ち…?俺達が…?」

 

残存シールドエネルギーを確認してみる。

…驚愕の8%だ。危ねぇにも程がある。

 

『決まったああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っっっっ!!!!!!!!

幾つもの闘いを乗り越え!

頂点に辿り着いたのは!

白と白銀!

世界最速の二人!

そして、誰もが注目していた二人!

二刀流剣士!織斑一夏選手と!

白銀の流星!メルク・ハース選手です!』

 

黛先輩のアナウンスが流れてくる。それを耳にしながらも俺の胸の内は…静寂そのものだった。

嬉しさすら、今の俺には感じられない。

 

『この結果を誰が予想していたでしょうか!

世界にたった一人の男性搭乗者が!

頂点に到達したと!』

 

観客席は黛先輩に乗せられフィーバー状態だ。大変騒がしい。

黒兎隊も荒熊隊も、そして簪もマドカも大喜びだ。

その内に黛先輩の声すら聞こえなくなりそうだ。

 

「また、私の負けだったな兄上」

 

「結構危うかったがな。

シ-ルドエネルギーは枯渇寸前だ」

 

「そうか…でも、私は必ずリベンジをする」

「その時には受けて立つさ」

 

ラウラと言葉を交わした後はメルクが駆け寄ってきた。

 

「やりましたね!」

 

「…騒がしいな、先にピットに戻る。

シャルロットを頼む。」

 

「あ、待って下さい!」

 

気絶したシャルロットをメルクに任せ、駆け寄ってくるラウラを抱えてBピットへと戻った。

まあ、戻ったところで

 

「よくやったな、一夏」

 

「千冬姉」

 

「織斑先生、だ。

まあ、今回は大目に見よう。

…よく頑張ったな」

 

だがこっちを向いて言ってくれない。

山田先生がクスクスと笑っている点から察するに…照れているようだ。

「『驕るな、研鑽を積み続けろ』。

今回は一つの通過点と思い、今後とも訓練を続けていきます」

 

「…そうか…」

 

これで羽目を外す気にはなれない。

感情を残している俺であれば、喜びに大声をあげていただろう。

なのに…今の俺は、歓喜も達成感も感動すら無い。

…今日はさっさと寝たい。

 

「兄上…どうしたんだ?」

 

「これでまた騒ぎが起きそうだと思って、な」

 

俺を国家代表候補生に迎え入れたい、と叫ぶ国が多く出て来るだろう。

…用心しておこう。むしろ片っ端から蹴るか。

 

「俺は更衣室に行く、流石に疲れた」

 

感情を失っても、こういう感覚だけは残っている。

俺も随分と人間として壊れているようだ。

祝杯をあげるのは他の皆だけでやってくれ。

俺は楽しいだなんて思えないんだからさ。

 

 

 

Kanzashi View

 

学年別トーナメントで一夏が優勝した。

そのニュースをお姉ちゃんに届けると、文字通り飛んできた。

専用機である『ミステリアス・レイディ』に乗って…織斑先生に拳骨をくらってたけど。

 

「メルク!一夏は何処!?」

 

「先に更衣室に行っちゃいました…。

疲れた、とか言ってましたけど…」

 

入れ違いになったらしく、私はそのまま引き返した。これから表彰式だって有るのに、一夏はマイペース。仕方ないなぁ…。

 

「更衣室は…あっち!

あ、居た!」

 

「ん?簪か、どうしたんだ?」

 

「どうした、じゃないよ。

これから表彰式なのに、どうしたの?」

 

「…表彰式には出ない、俺なんかが出ても、な」

 

一夏の都合は知ってる。

だから私は察した。

今の一夏には感情が無い。

例えコメントを求められたとしても、何も答えられない。

パートナーを勤めてくれていたメルクにすら、気の利いた事が言えない…。

だから一夏は…静かに立ち去ろうとしてたんだ…。

 

「簪が暗い顔をしないでくれ。

これは俺の勝手な都合なんだ」

 

「…うん…ごめん…ごめんなさ、い…」

 

我慢出来なかった。

一夏の都合も考えていなかった自分が恥ずかしくて、一夏が感情を失ってしまった事が悲しくて…私は一夏に抱きしめられたまま、彼の胸元で泣いた。

どれだけ泣いたか分からなくなった頃に、一夏は優しく涙を拭ってくれた。

 

「そうだ、簪にはまだ言ってもらってなかったよな」

 

「遅くなってごめん…優勝、おめでとう!」

 

涙はまだ流れてた。

それでも、私は精一杯に微笑んだ。

私はこうやって微笑んでいよう。

マドカや千冬さんのように、感情を失ってしまった一夏の代わりに微笑んでいるんだ。

怒る時も、悲しむ時も、喜ぶ時も、嬉しい時も…。

いつの日か、一夏が感情を…心を取り戻せるその時まで…。

取り戻せたその時は…一緒に笑おう、そして涙を流そう。

心の底から、そう願った。そして誓った。

 

「じゃあ、寮に戻るか」

 

「賛成!」

 

私はこうやって一夏の隣に居よう。隣に立って、ずっと支える。

この場所は、誰にも譲らない。だって、私だけの特権だもん!

 

 

 

 

 

Lingyin View

 

表彰式が始まった。なのに一夏の姿は何処にも見えなかった。

それに簪の姿も見えないし、マドカは居るみたいだったけど。

面倒になって逃げ出したのかも。

特に一夏は周囲に気を使って自分からどこかに行ったんだと思う。

だから表彰台には、ラウラとシャルロット、それからあたしとセシリア、メルクにマドカの6人だけだった。

 

「優勝者の居ない表彰台って妙な光景よね」

 

「そうですね、ですが一夏君らしいですよ、あの飄々とした所は」

 

メルクも一夏の事を理解しているみたいね。

同じチームだったからかな、ちょっと嫉妬。

 

「ああ…優勝が…」

 

「一夏さんとの交際の夢が…」

 

シャルロットとセシリアは現金よね…。

まったく、真実を知らないから夢を見ていられたとは言え、この二人は…。

あ、篠ノ之を入れたら三人か。

それから真実を知らない生徒は他にも多く居たわね。

 

「鈴、この二人には教えるべきだろうか、兄上と簪の事は…?」

 

「口止めされてるからダメに決まってるでしょ、絶対に誰にも言っちゃダメよ」

 

「心得た」

 

「特に、篠ノ之箒には絶対にね」

 

「賛成だ」

 

まったく、あの二人は…黙ってるこっちの身にもなりなさいよね、今度奢ってもらおうかしら?

 

 

 

Tatenashi View

 

「あらあら、やっぱり此処に居たのね」

 

織斑先生にしこたま大目玉をくらった後、私はこの場所に忍び込んでいた。

一夏君が居なくなり、簪ちゃんも姿を消した。

タッグマッチトーナメントだったのに、表彰台の頂点にはメルクちゃん一人だけ、表彰式はそんな妙な形で進んでいたので、探しにきたけど…

 

「一夏君も簪ちゃんも幸せそうな顔しちゃって…」

 

並んで眠る一夏君と簪ちゃんは、相変わらずの鉄仮面の如くに無表情。

それでも今だけは、何故か安らかに見えた。

 

「まあ、今日だけはゆっくりさせてあげよう」

 

一年生寮の2016号室でぐっすりと眠っている二人を、もう少しだけ通風孔から見ていたいけど、気付かれるとまた面倒なので、そのまま戻る事にした。

 

通風孔を這い出て、廊下に飛び降りる。

それから自分の姿を見ると…

 

「よっと、…ちょっと埃が溜まってたみたいね、まあ仕方ないけど」

 

全身が埃まみれ。洗濯と…それからシャワーね

 

「何が仕方ないのですか、お嬢様」

 

「う、虚、ちゃん…!?

なんで此処に!?」

 

「お嬢様が一年生寮に向かうのを見かけましたので、追尾してきました。

また一夏さんにイタズラをするものと思いましたので、観察させていただきました。

通風孔から人の部屋の中を覗くだなんて、やっている事が奇人、変人、変態、ストーカー、変質者、不審者の類と同然ですよ」

 

そこまで言うの!?

酷過ぎるわよ!!

 

「私が見てたのは簪ちゃんの寝顔だけよ!」

 

「充分過ぎる程に変質者として成立します。では、このまま織斑先生の所まで連行しますので抵抗しないで下さい」

 

「い~~~~や~~~~~!!!!!!」

 

千冬さんの拳骨はもう嫌ああぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!

 

それは兎も角、一夏君。

タッグマッチトーナメントでの優勝おめでとう♡

私はこれから死地(織斑先生の待つ管制室)に逝くことになりそうだけど…。

 




遅くなりました。
いろいろと書きたいことを書きまくっていたらこんな時間に…。
タッグマッチトーナメントと言えばVTシステム暴走が皆さんのイメージがあるかもしれませんが、今作では最初のほうに書いていたので今回は引っ込んでもらいました。
シュヴァルツェア・レーゲンにはもうVTシステムは搭載されておりません。
そして絶影流の奥伝の二つ目が出ましたが、高速の斬撃と蹴撃を絶え間なく連続で繰り出しているものだとお思っていただければ簡単です。
そして今回はメルクも大暴れ。
高軌道ではやはりテンペスタに軍配があがりました。

さて、これにて原作2巻分はお終いになります。
ここまでで60話近く。
これって多いほうなのか少ないほうなのか。
判断しかねているレインスカイでした。

ここでもう一つお知らせです。
登場人物紹介のところにて一部追記いたしました。
至極微量ですが。
ここから先は更なる波乱になるかもしれません。
それでは次章『麗銀輝夜』編にてお会いしましょう。

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