IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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決勝戦の前に


双重奏 ~ 憩時 ~

Ichika View

 

準決勝も終わった。

とうとう俺が決勝にまで上り詰めたことになる。

 

「…今でも信じらんねぇや」

 

マドカを近くの椅子に寝させ、天井を見上げる。

これから昼休憩を挟み、その後に決勝戦が待ち構えている。

対戦相手はシャルロットとラウラのコンビ。

この二人だが、そろって脅威だ。

シャルロットは容赦無く銃火器を振り回してくる。

高速切替(ラピッド・スイッチ)を使いこなすから、メルクに教えた『欠月』もさして意味は無い。

そしてシャルロットとラウラは分断させるのが最優先だ。

二人そろっていると、驚愕レベルのコンビネーションを見せてくる。

セシリアのビット12基一斉操作に対しても、背中合わせになってからの全方位への一斉掃射により全て撃ち落していた。

 

「残るは一つ!ですね!」

 

「思えば遠くへ来たもんだ」

 

「あの…現実逃避はそこまでにしませんか?」

 

ごもっともで。

午後に待ち受けている決勝戦は時間無制限。

シールドエネルギーが底を尽きるまで試合は決して終わらない。

この期に及んで降参宣言(リザイン)をする者はいないだろう。

 

「そう言えば…ラウラが言う『来訪者』らしき人物は見当たらなかったな…」

 

ラウラは開発スタッフが来るとは言っていたが…ほかにも来訪者が来るような事を言っていた。

重鎮は…来訪者席にでも居たのだろうが、そんな人物など顔も名も知らない。

…まさかとは思うが…いや、そんな筈は無いだろう、俺の思い過ごしであれば、そう願っていよう。

 

「それより、一夏、とうとう決勝戦だね」

 

俺の絶影流もそれだけの可能性を持っていたということだろう。

そして白式にも。

容易に潜り抜けた対戦もあった。

今回のように苦しい戦いもあった。

けど、なんとか勝ってここまで来た。

なのに…俺には喜びも達成感も感じられなかった。

 

「午後の対戦の為に、キッチリと対策を立てておきましょう!」

 

メルクが気合充分とばかりに右手を天井に突きあげた直後

 

キュルル~…

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

音の正体はメルクの腹の虫だった。

簪は大爆笑、メルクは顔を髪と同じ色になるまで恥ずかしがっていた。

そして俺はマドカを背負い、ピットを後にするのだった。

 

 

Laura View

 

「やはり、兄上が決勝進出か」

 

「ラウラの予想通りだったね」

 

「当然だ、かつては1対1の白兵戦で私に勝ったんだ。

必ずこの大会の決勝に届くと思っていたさ」

 

白式の能力は知っている。

だが兄上の能力に関してはまだ理解が出来ていなかった。

この対戦まで兄上は『足技』を隠していた。

それに『二刀流』もだ。

そして『零落白夜』を弾丸にして撃ち出す攻撃も。

 

「本当に…食えない人だ…だからこそ、追う甲斐がある」

 

簪は敗退した、切り札である『山嵐』も使うタイミングを完全に兄上に奪われてしまった上で。

マドカはセシリアをも上回る技量を見せたが、兄上の『肉を切らせて骨を断つ』戦法を想定していなかったようだ。

完全に二人のコンビネーションに圧倒されてしまっていた。

テンペスタ・ミーティオ、それを駆るメルクも今回は切り札である武装を使っていた。

確かにあれは白式の射撃武器と相性がいい、相手を捕獲してしまえば、兄上の射撃攻撃の的に出来る。

それに対応するためには…シャルロットが兄上の相手をするのが調度良い、か。

零落白夜はエネルギー質のものを消失させる能力だ。

だが、実体弾を消失させる事が出来ない。

実体弾を多彩に扱うシャルロットならば…いや、駄目だ、テンペスタの速度には私では追い付けない。

それにシャルロットには、兄上を相手に銃を使うなと私が制限している。

銃火器を多く取り扱うシャルロットに兄上の相手をさせるわけにもいかんだろう。

兄上が発作を起こしてしまえば、それこそ試合どころではない。

 

ならば私が兄上を相手にするか?

AICを使えば…それも駄目だ、篠ノ之との対戦で使用した為に、AICの有効範囲すら警戒されている。

ならば二人まとめてAICで…いや、今の私でも一機を拘束するのが限界だ。

それに兄上を相手にAICを使わないと私自身に戒めとしている。

ワイヤーブレードを同時併用するのは私としても負担が大きい。

それにあんな速度を出す二機をまとめてAICで捕えられるか!

 

「…手詰まりだ…シャルロットは何か案はあるか」

 

「優勝…優勝できたら一夏と…えへへ…」

 

作戦会議中だぞ。

 

一発殴るべきか

 

「知らぬが仏、と言う奴だな」

 

兄上と簪の事に関しては、文通を通じて口止めをされている。

私が簡単に口を開くわけにもいかん。

もう少しばかり幸せな夢を見させてやっておこう。

 

 

Ichika View

 

白式とテンペスタのエネルギー補給をしている間、俺たちはラウラとシャルロットと対戦する上での作戦を考えることにしていた。

 

「警戒すべきはラウラさんですね、慣性停止結界に束縛されたら、リボルバー・カノンで吹き飛ばされますから」

 

「けど、AICにも欠点がある筈だ、例えば…零落白夜だ、AICはエネルギーフィールドだから零落白夜で切り裂けるんだが…駄目か、命中するまでに拘束されたら意味が無い。

…AICにも射程距離があるとしたら…?」

 

AICは第三世代兵装、セシリアやマドカのビット兵装と同じように高い集中力が必要じゃないのか?

だが、篠ノ之を相手にした時には…

 

「ラウラとシャルロットを分断する、先にシャルロットを撃墜させ、ラウラを挟撃だ」

 

「えっと…それは…?」

 

「AICにも届かない範囲があると思う。

そうでなければ、二人まとめて拘束とかもやっていた筈だ。

アリーナの端にまで追い込み、その間にシャルロットを撃墜だ。

シールドエネルギーを削りきらなくても、気絶させてしまっても戦闘不能と見なされるんだ。

その方法なら、テンペスタ・ミーティオが得意としているだろう?

機動性でもシャルロットでは追い付けないんだからな」

 

「ああ、そういう事ですか、荒っぽいことを考え付きますね、一夏君は。

それならテンペスタ・ミーティオと私に任せてください」

 

メルクが怪しく目を輝かせる。

どうやら俺の考えが分かったらしい。

とはいえ、今回ばかりはかなり荒っぽい作戦だ、後で整備課に一緒に同行するとしよう。

下手をすればイタリア政府に怒られるかもしれないが、それはそれだ。

 

「ですが、その間、ラウラさんはどうされるんですか?」

 

「俺が相手をする、集中する暇を与えないようにするのは得意だからな」

 

俺の剣速はあの頃よりも速い。

それを絶え間なく出してやれば…AICを使わせる暇もないだろう。

そこまで間合いを詰め切れるかはまた問題が別なのではあるが。

 

「エネルギー充填完了だ、二人と合流して食堂に行こう」

 

「はい!」

 

各自機体を手元に戻してから、簪が居る控室に向かう。

 

「兄さ~~~~~~ん!」

 

入った途端にマドカが突撃してきた。

避けるのは容易だが、あえて俺は受け止めた。

悔しくて泣いていたのかと思ったが…違った。

異常なまでに目を輝かせていた。

 

「やっぱり兄さんはすごい!

あのレーザーの嵐の中を突っ込んでまで接近戦に持ち込もうとするなんて!

これまで対戦してきた人は皆、揃って回避に専念し続けてたのに、突っ込んできたのは兄さんだけだったよ!」

 

目が覚めた途端にこの様子だ。

よほど俺の考えなしの突貫に驚愕したのか、真向勝負が嬉しかったのか…多分、前者だろう。

 

「マドカもいつの間にあんな技術を身に着けたんだ?

偏向射撃(フレキシブル)』以外の高等技術は初めて見たぞ」

 

「えへへ…オーストラリアに居た頃には出来る様にしてたんだ!」

 

姉は世界最強。

妹は超空間把握能力。

俺は…何かあるだろうか?

…空っぽだな。

 

「それよりも、決勝戦前には昼休みもあるんだ。

食堂に行って食事にしよう。

メルクの腹の虫も限界らしいからな」

 

「それは言わないでください…」

 

「じゃあ、お昼にしよう」

 

簪のその言葉に応えるようにマドカは俺の左腕に腕を絡ませる。

それを見て簪は俺の右腕に以下省略。

メルクはそんな俺達を見てニコニコと笑っているのだった。

 

 

 

ISスーツのままで食堂に入るのもあまり気分がよくないので、各自制服をスーツの上に着てから向かう。

やはりと言うべきか…俺の考慮など露知らず、食堂に集まっている女子は片っ端からISスーツのままだ。

制服を着ているのは数が少ない。

多分、各アリーナで実況を請け負っている生徒数人程度なのだろう。

そんな事を考えているのがバレたのか

 

「一夏?」

 

「兄さん?」

 

「痛い、痛い、痛い」

 

背中をつねられる日常がそこに繰り返されていた。

俺がいったい何をした?

そしてメルク、笑ってないで助けろ。

 

 

 

昼のメニューは何にするか。

それを考えていたが、メルクが俺の分まで勝手に食券を購入していた。

見てみると

 

「…カツ丼?」

 

「しっかりとスタミナをつけて、この後の試合に勝ちましょう!」

 

カツ丼⇒勝つ

そんなシャレめいたことを考えているあたり、本当に試合に対しての意気込みが強いようだ。

 

「まあ、悪くはなさそうだ。じゃあ、俺は席を確保しておくよ」

 

「お願いしま~す!」

 

さて、空いている席は…少しばかり残っているようだ。

生憎と窓際の席は残っていないが、それでも構わないだろう。

 

「ここにするか」

 

周りの席は女子に囲まれてしまってるが、気にしにでおこう。

 

「カツ丼二人前、持ってきました~♪」

 

「空いてる席があってよかったね」

 

「お昼お昼♪」

 

簪とマドカは…カルボナーラスパゲティのようだ。

午後になってからこの二人は決勝戦を見るだけだから、軽いものでも良いのだろう。

俺もメルクからカツ丼を受け取り、さっそく箸を握った。

メルクも席に座るとカツ丼を頬張っている。

この食堂のメニューは何れも絶品揃いだ。

丼に盛られているカツと米を一緒に口の中に運ぶ。

うん、美味い。

 

「午後から決勝戦で、二人は何か対策とか立ててるの?」

 

「単純だけどな、まずは二人を分断、メルクにはシャルロットを撃破してもらい、二人がかりでラウラを叩く。

これがセオリーだろう、難しい話であるのは間違いないだろうけどな」

 

「ふむふむ、ラウラとシャルロットのコンビネーションは厄介だから分断は当然か…でも、ラウラのAICに対しての対応手段は?」

 

「有効射程範囲、つまり、届く距離にも限界があるのではないかと思っています。

なので、その範囲の外からの援護射撃をしながら、一夏君が接近戦を挑む。

こういう作戦が有効だと思っています」

 

俺の勝手な考えではあるものの、ラウラは今回の決勝戦ではAICを使わないのでないか、そんな考えもよぎる。

いや、これは俺個人の勝手な願望だろう。

ラウラは全力で挑んでくる、そこには当然AIC使用も含まれている筈だ。

 

「ラウラさんと言えば…」

 

「どうした?」

 

「あそこ、見てください」

 

食堂の片隅にラウラとシャルロットの後頭部が見えていた。

その周囲には多くの生徒が集まっている。新聞部の人も来ている様子。

取材か何かだろうか。

 

「アイリスさん、決勝戦での意気込みを!」

 

「ボーデヴィッヒさんも何か一言!」

 

…マジで取材だった。

 

「メルク、とっとと食べて食堂から出るぞ」

 

「え?何でですか?」

 

「食事どころじゃなくなるからだ。

あんなにも詰め寄られてみろ、折角の料理も冷め切るまで時間を潰される」

 

「あ、それは困ります!」

 

メルクは丼を持ち上げ、カツ丼を掻き込む。

俺もそれに倣い、カツ丼を一気に掻き込み始めた。

本来ならもっとゆっくりと食事をしたいのだが、あの二人の様子を見たら気が変わった。

マドカと簪もフォークとスプーンをあわただしく動かし始めた。

 

「御馳走様」

 

早くもカツ丼を平らげ、熱いお茶を飲む。

気分を落ち着けたいのはやまやまだが…。

 

「あ、織斑君が居た!ハースさんも!」

 

「取材!取材よ!」

 

「者共!であえであえ!」

 

いつからこの学園は武家屋敷になった…。

相手をするのは面倒なので早々に退散するとしよう。

 

「いくぞメルク」

 

「は、はい!」

 

メルクも食べ終わったようだ。

だが米粒が口元についているのは気づいていないのか。

いや、今は気にしておく時間も惜しい。とっとと退散するとしよう。

 

「簪、マドカ、先に行くぞ」

 

「気をつけてね」

 

「応援には必ず行くから!最前列の席で見てるよ!」

 

頼もしい声を背にしながらトレイを返却口に置き、食堂の出入り口から逃げ出そうとしたが…。

 

「新聞部B班!突撃ぃっ!」

 

葉後から黛先輩の声が轟く。

すると食堂の外、廊下を全力で走ってくる女子生徒が…15名。

俺達の逃走を計算に入れていたのかよ…あの人、間違いなく将来はパパラッチだな。

 

「ど、どうしますか!?」

 

「はぁ…仕方ないな…」

 

「ひゃわぁ!?」

 

「変な声を出すな、ただ担いだだけだぞ。

それと、しっかり歯を食いしばれ」

 

「な、何をする気ですかぁ!?」

 

それは勿論。

 

「ひぃぃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

飛び降りるに決まっているだろう。

いつもはやらない場所だから慣れない場所からの行為。

なので少々対処に困るものの、応用すれば大丈夫そうだ。

 

「よっと、着地完了、大丈夫かメルク?」

 

「あ、危うく食べたばかりのカツ丼を戻してしまうところでしたよ!?」

 

そりゃ一大事だろうな。

 

 

 

 

Laura View

 

「あ、兄上は無茶をするのだな…」

 

「だよね…黛先輩のパパラッチ振りにも驚かされたけど…えっと…この食堂って…4階だよ…?」

 

教室でこそ3階、それを上回る高さから人を一人担いで飛び降りるとは…無茶にも程がある。

メルクにも同情しておこう。

 

「僕たちも食事にしようか…冷め切ってるけど…」

 

「…む…冷め切ってしまったか…」

 

折角のパイが…。

 

 

 

Tabane View

 

「あ~う~…抹茶フロートが…束さんが隠していたBLTサンドが…」

 

くーちゃんが作ってくれた筑前煮も美味しいけど、賭けには負けて折角の抹茶フロートもくーちゃんの胃袋の中に。

更には外界で購入し、隠しておいた筈のBLTサンドも何故かくーちゃんに知られてしまい、それすらくーちゃんがおいしそうに食べている。

でも、この束さんの秘密のラボでは、データ形式にまとめているものはくーちゃん相手に隠しきれない。

仕方なくBLTサンドはくーちゃんに譲った。賭けに負けたから仕方ないけど。

再度モニターを見てみる。

IS学園で開催されているタッグマッチトーナメントも大詰め。

いっくんはとうとう決勝戦にまで上り詰めている。

このまあ優勝を目指して頑張ってほしい。

 

「いっくん、頑張ってね、束さんは応援してるからね」




おはようございます。
レインスカイです。
決勝戦前には昼休憩を挟む形にしていましたので、そちらを描写してみました。
決勝戦を楽しみにしていた皆様方、申し訳ない。
それでは次はお昼過ぎに決勝戦を 執筆してみようかと。
ではまた次回にて

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