Laura View
タッグマッチトーナメントもここまで来たか、という思いと、こんなものかと思う二つの思いがないまぜになる。
この学園の生徒の中には軍事訓練を受けているものもいるが、多いとは言えないような人数だった。
訓練機である
だが、未熟者もいるのも確かな話だった。
とはいえ、それに関して口出しをするつもりは無い。
技術が伸びる速さに関しては千差万別だ。
兄上のように、吸収の早い者も居れば、反復練習を幾度も繰り返して技術を習得する者も居る。
我がシュヴァルツェア・ハーゼに勧誘したい者も幾名かは居る。
だが、この学園でそういうスカウトは出来ない。
教官や、兄上にもストップを言い渡されている。
「ラウラ、機体の調整は終わった?」
「いつでも行ける」
こちらのタッグパートナーは最初こそ疑っていたが、妙な部分は無かった。
だが、疑問は残る。
フランスでの処置がいくらなんでも早すぎる。
だが本人は何も知らないらしい。
デュノア社はフランス政府からは半年の営業停止が言い渡されている。
そして正妻である旧姓『アヴィーダ・ガルンド』は執行猶予無しの無期懲役に服している。
気にはなるが…情報はこれ以上は無い。
まあ、兄上もあれ以降は信頼しているようだから、私が疑う理由も無い。
「鈴とセシリアのタッグの戦術は至って単純だ。
鈴が前衛となり、セシリアが後衛となり援護射撃をしてくる」
「言わば、セシリアは前衛によって守られている、なら…」
「二人を完全に切り離す、各個撃破だ。
セシリアは近接戦闘がいまだ未熟、このトーナメントでは一度も前に出ていないからこそ、それは確実と言っていいだろう。
無論、近接格闘をしたところで兄上には劣るがな」
白兵戦で私を負かす程だ。
あれ以降も実力に磨きをかけているだろうから、兄上なら学年内でも近接格闘はトップクラスであると私は信じている。
このトーナメントでも、鋭い剣閃を繰り出して見せていたから、それは間違いない。
弓を扱うようになっていたのは、流石に知らなかったが、その欠点も見えている。
私が兄上と戦うようになった時には、使ってこないだろう。
「各個撃破にしても、どっちがどっちと戦うの?」
「そうだな…」
鈴は近接格闘戦闘と、中距離砲撃を得意としている。
だが機動性は優れている方ではない。
機動性だけで言うのなら、鈴もセシリアも大差はないだろう。
私もシャルロットも近接格闘、中距離戦闘もこなせる。
機動性を比べれば、私よりもシャルロットが優れている。
ふむ…そうだな、ならば
「私がセシリアを、シャルロットは鈴を頼む」
「了解だよ」
「それと、セシリアが使うであろう戦法だが、他にも在るかもしれない」
「例えば?」
BTシリーズの脅威は全方位からの射撃が可能という面だ。
たった一人で相手を包囲して蜂の巣にする事もできるだろう。
そしてセシリアが得意としているのは、中距離、遠距離からの射撃だ。
だがミサイルビットに関しても、私の敵ではない。
だからこそ、一気に間合いをつめて近接格闘戦闘で倒す。
私が危惧しているのは、それだけではないが。
常時展開されているビットを破壊した後だ。
「なるほど…」
「その時の対処方法だが」
そして私が考案したフォーメーションを話す。
「更にその後だが…」
「ふむふむ…流石はラウラ、抜かりは無いね」
「では、手筈通りに頼む」
そしてシャルロットが得意としているのは、相手からの距離を自在に変えながら格闘・射撃を拘束で入れ替えながら圧倒する変幻自在の戦法である
だが鈴は、一定距離に達してから戦法を変える。
近寄れば近接格闘、一定距離を空けられれば砲撃。
だからこそ、間合いを高速で変えられてしまえば、鈴の戦術では追い付けない。
「シャルロット、そちらの準備は良いか?」
「うん、いいよ。
もう少しで優勝…優勝したら一夏と…アハハハハ…」
現実に戻ってこい。
妙な噂が流れているのは私も知っている。
そしてその原因となった女も知っている。
今は私の知人がアリーナの外にて取り押さえていることだろう。
兄上は簪と恋人として交際している。
それは私も知っているし、兄上が決めたのなら異論は無い。
悔しい思い…と言うのは無かったわけではないが、なぜそんな思いを抱いたのかはうまく理解はできていない。
ただ、私が兄上に敗北してから、兄上を目標にしているからかもしれない。
だから、私よりも先に兄上の隣に立つ者が現れたことに衝撃を感じたのだろう。
なら、私はそれを追い越すだけだ。
「一夏と…アハハハハハ…」
「………………」
…隣のタッグパートナーを一発殴って現実に引きずり戻しておいた。
Lingyin View
決勝トーナメントが始まった。
機体のメンテナンスもばっちり、体の調子も万全。
優勝まで残るは僅か2戦。
けど、此処からが本番。
両頬を軽く叩き気合いを入れる。
一夏が更織の道場でやっていたのを見て真似をするようになったこのモーションを、私は今も真似ている。
「気合いは充分、セシリア!」
「いつでも大丈夫ですわ!
目指すは優勝!そして…一夏さんと…一夏さんと…ウフフフフフ…」
…此処にも噂に流されるバカが居た。
ボカァッ!
現実に引き戻すため、もののついでに憂さ晴らしに一発殴っておく。
「きゃっ!?なんで殴るんですの!?」
「うっさい!そんな浮ついた気持ちで試合に勝てると思ってんじゃないわよ!
じゃあ、行くわよ!お先!」
カタパルトに甲龍の足を乗せ、アリーナに射出される。
『さあ!学年別タッグトーナメントも残り僅か!
此処まで6回もの戦いを乗り越え勝ち抜いてきた戦士がグラウンドに舞い降りた!
準決勝第一試合で戦うのは!
Aピットから!
凰 鈴音 選手!
セシリア・オルコット選手!
Bピットから!
シャルロット・アイリス選手!
ラウラ・ボーデヴィッヒ選手!』
あの妙なマイクパフォーマンスはとうとうネタが尽きてしまったらしい。多分だけど。
クラス対抗戦の時には酷い言われようだったわね…三毛猫とか言われてたっけ。
「やあ鈴」
「負けないわよシャルロット」
「コンビネーションならば我々が上だ」
「必ず撃ち抜きますわよ」
ラウラ達も気合いが充分らしい。
それでもあたし達だって絶対に負けない。
双月牙天を構える。
セシリアも、ラウラもシャルロットも自分が得意とする武器を展開している。
『さあ、両チームが睨み合う中~~!
今!試合開始ぃっ!』
「シャルロット!アンタの相手はアタシよ!」
「良いよ!勝負!」
「セオリー通りだな!セシリア!」
「何事にも想定外の事が有りますのよ!ラウラさん!」
ラウラを相手にするとAICで動きを止められる。
それを防ぐ為にはセシリアのビットによる絶え間無い連続射撃があたし達の対抗策…というか、それしか無い!
セシリアがラウラを相手にしている隙に、アタシがシャルロットを倒す!
「せぇりゃあぁぁっ!!」
「簡単には受けないよ!」
シャルロットは持ち前の機動性であたしの剣を回避し、マシンガンを構える。
「だったら!」
衝撃砲で対処!龍砲は連射が出来ない。だけど、左右の衝撃砲を交互に撃てばその欠点を埋められる!
狙いは当然シャルロット!射撃に対してはパワーが上回る砲撃で勝負!
Laura View
「ちぃっ!ちょこまかと!」
周囲からのビットによる射撃に私はプラズマブレードで対処をする。刃の扱いに関しては誰にも負けるつもりは無い。
兄上には二敗しているものの、この程度の攻撃など…!
「此処からは…私の番だ!」
非固定浮遊部位からすべてのワイヤーブレードを展開する。
『貫く』『切り刻む』『絡み付かせる』複数種の戦闘が可能なこの武器の前で、BT兵装など脅威にも感じられない。
リボルバー・カノンと共にビットを撃墜していく。
一基、二基、
「これで三基!」
本体からの射撃攻撃をAICで防御、ワイヤーブレードとの同時併用に頭が焼き切れそうになる。
歯を食いしばり、これに耐える。
「四基!これで残るはそのミサイルだけだ!」
「なら、これはどうですの!」
二基のミサイルが撃ち放たれる、それをワイヤーブレードで切り刻む!
これで残るは本体!場所は…12時の方向だ!
だが、背後から感じる衝撃、これは…!?
「ビットは全て破壊した筈だったがな…!」
「全てではありませんわよ!」
周囲から感じる熱源反応、その数…12!?
それに気づき、私は一気に後退する。
なるほど、確かに私が破壊したビットは『全て』では無かったようだ!
急に数が増えたビットの正体、それは
「拡張領域に入れていた予備パーツだな!」
「ご名答!これだけの数のビット!貴女に対処出来ますかしら!?」
「ふん、だが…
私が後退した先には、こいつのタッグパートナーである鈴が居る!
BTシリーズ1号機『ブルー・ティアーズ』の情報はすでにこの対戦が始まるよりも前に蒐集している。
一対多を想定して創作された機体。だが多勢側に回ると味方もビットも邪魔になる。
連携にはもっともかけ離れた機体と言える。
ビットを展開したのなら対処方法は三つ。
一つ目、すべてのビットを破壊。
難しく、また地道な話だ。
二つ目、射撃をかいくぐり、本体を攻撃する。
これはビットによる射撃で自身を撃つわけにはいかないからだ。
特にセシリアは
そして三つ目、これは機体の能力的には考えにくい可能性ではあるが
「
最後の三つ目、それは、BTシリーズの機体の味方であるメンバーに接近する事だ。
友軍誤射は回避したいだろうからな、それもこれだけの数のビットを展開していれば殊更に。
「くっ!」
「ここからは、私の番だとな!」
ワイヤーブレードを全て展開、ビットを次々と切り裂いていく。
後で整備課に同行くらいはしてやるさ。破壊したのは他ならぬ私なのだからな。そしてセシリア・オルコットの思考が停止してしまったのか、ビットの動きも急速に鈍る。
この瞬間を待っていた!
「フォーメーション!トリガーロンド!」
「了解!」
シャルロットと背中合わせになり、互いに両手にアサルトライフル『レイン・オブ・サタディ』と『ガルム』を構える。
背中合わせのサークルロンド。
全方位への連携射撃により立て続けにビットを破壊していく。
12基のビットを破壊した瞬間にレイン・オブ・サタディを量子変換。
私は鈴に、シャルロットはセシリアへと突貫していく。
「さあ、これにて終幕だ」
「まけるかぁっ!」
視線を向ける。
それだけで鈴の動きが完全に停止した。AIC『慣性停止結界』にて捕えた。1対1なら、この機体に…私に勝てる者など居ない!
「しまっ…」
「もう遅い!」
リボルバー・カノンの照準を合わせる。そして砲撃。
『甲龍 シールドエネルギーエンプティ』
その放送が入り、私はもう一度、鈴に視線を向けた。
「あ~あ、負けちゃったか」
「作戦は見事だった、だが全て想定範囲内だったという事だ」
そう、全て私とシャルロットとで組み上げた作戦通りだった。
鈴とセシリアが私たちの内、どちらを相手にしようとするのか。
セシリアに関しても、4基のビットが破壊された後、予備パーツのビットを展開することも、すべて想定内だ。
「全てアンタ達の掌の内で踊らされていたってことか」
「そういう事だ、そしてそろそろ」
『ブルー・ティアーズ シールドエネルギーエンプティ
勝者 ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルロット・アイリス』
シャルロットがセシリアを撃墜している頃合いだ。
「謙遜はしなくていい、またいつでも相手をしてやるさ」
「言ったわね、必ずリベンジしてやるんだから!」
さて、次は決勝か。
兄上、私達は先に進んでいるぞ。
「えへへ…優勝したら…一夏と…えへへ…」
…もう一発殴るべきか…?
妙な笑いをしているシャルロットにワイヤーブレードを巻き付け、そのまま引っ張ってピットに戻ることにした。
一夏君の出番がなかったですね。
今回はラウラ達の独壇場でした。
そしてモッピーは今回はラウラの知人が取り押さえています。
生半可は方々ではないでしょうね。
ではまた次回、準決勝第二試合にて