IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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今回はちょっと短いですが、束さんと、くーちゃんだけの出番になります。
幕間とでも思っていただければ。


双重奏 ~ 丁半 ~

Tabane View

 

「よし、これで準備完了!」

 

幾つも作った後付武装を専用コンテナに積み込み終え、私は休憩を挟むことにした。

モニターの電源を入れ、今日もいつもと同じ場所を見ていた。

 

「束様、お食事の準備が出来ました」

 

「今日のメニューは何かな?」

 

「和膳定食になります。

炊き立てのご飯に、お味噌汁、野菜の和え物、出汁巻き卵に焼き魚、それから茶碗蒸しです」

 

いっくんが得意としているメニューをそのままトレースしている。

最近はいっくんが料理を作る現場を映像にして毎日繰り返してみているからか、またもや料理の腕が上昇している。

焼き魚、今日はサバみたいだけど、この焼き加減も絶妙で…。

 

「うんうん、美味しいねぇ」

 

作ってくれた人に、そしてこのメニューをそつなく作るいっくんに感謝の念を込めながらガツガツと食べる。

うんうん、とても美味しい♪

 

「今日は…学年別タッグマッチトーナメントの準決勝、でしたか」

 

「午前中に準決勝を終わらせて、午後から決勝戦だってさ」

 

焼き魚も塩加減が絶妙!あんまりにも美味しいから骨も頭も食べてしまう。

そして尻尾も残さずにバリバリと食べつくす。

こっちの野菜の和え物は…隠し味は…味醂醤油だね。

いっくんも同じものを隠し味に使ってるのかぁ、勉強になるなぁ、私は天才だけど料理なんて専門外。

 

「お昼は筑前煮に致しますね」

 

「おう、楽しみぃ♪」

 

会場となるアリーナの観客席は時間経過と一緒にどんどん埋まっていく。

けど、アリーナの外には

 

「ありゃりゃ…箒ちゃん、それはダメだよ…」

 

出禁でも食らったのか、箒ちゃんはアリーナに入れさせてもらえないらしい。

集音して何を言っているのか聞いてみたい気もするけれど、人工衛星が存在するのは大気圏外なので、音なんて聞こえない。

でも、口の動きで何を言っているのかがわかる。

 

『私は一夏の幼馴染なんだ!

無関係ではない!いいから此処を通せ!』

 

幼馴染、その言葉は免罪符になどなりえない。

それをもうそろそろ理解してほしい。

今までにも幾度も問題行動起こしながらも処罰は至って軽いものに終わっていた。

その原因は私にある。

国際IS委員会が私を恐れている。

ちーちゃんが厳罰を言い渡そうとしても、IS委員会は私からの報復を恐れ、処罰を軽くする。

私にそのつもりは無いんだけどなぁ。

更に要因は二つある。

一つは、私がISを発表したことで世の中に広がった風潮である『女尊男卑』。

国際IS委員会は、後にいっくんが牙をむく事を恐れているのと同時に、いっくんの生命を軽んじているから。

この世の中、男であるいっくんの事など、取るに足らない男の一人としてしか見ていない。

白式を使ってデータ採取はさせているけれど、重要なのはそのデータであって、いっくん自身じゃない。

あくまでいっくんをデータ採取用の生体CPUとしてみている節がある。

そして、最後の一つは、これまた私にある。

いつの日か、箒ちゃん自身が自分の行いを振り返り、自ら更生してくれるように、そう願っていたから。

だから私は箒ちゃんの振る舞いを黙認していた。

 

「…やっぱり、無理だったのかな…」

 

「束様?何か味に問題がありましたか?」

 

「料理の話じゃないの。あそこを見ていてね」

 

「束様の妹さん、でしたよね」

 

「うん、…甘やかしすぎたかな、なんて今更になって思ってね」

 

これ以上は放置しておくのは、いっくんにとっても、ちーちゃんにとっても、箒ちゃんの為にもならないだろう。

こうなっては仕方ない。

だから私は別のモニターを展開し、そこに現れる大量の情報に目を通し、一瞬で頭に叩き込む。

この世界では情報もまた技術と並ぶ一つの宝。

だから

 

「これが私のジョーカーだよ」

 

もうそろそろコレの使い時だろう。

いっくんは大切なものを失い過ぎた。

自分を追いつめてしまうまでに。

これ以上は絶対にさせない。

だから私は…。

 

「箒ちゃん、これ以上やろうものなら…私も黙っているわけにはいかないから。

たとえ箒ちゃんにとって現実は辛いかもしれないけれど、人は現実の中を生きていくしかないんだよ」

 

世界も現実も、人間に対して冷酷で残酷。

そしてそこに例外は存在しない。だから私は箒ちゃんに現実を見せに行く。

きっと箒ちゃんは傷つくだろう。悲しむだろう

それでも、いつまでも夢の中に居させるわけにはいかない。

幾ら辛く、悲しく、苦しくても、人は現実の中で生きていく存在なのだと教えてあげなければいけない。

一生消えない傷跡になるかもしれないけれど、それでも、その傷を抱えながらでも現実を見て生きていてほしい。

 

IS学園のスケジュール管理データを勝手に覗き見る。

そして私がいっくんに会いに行く日は…よし、この日にしよう。

 

「楽しみにしていてね、いっくん、ちーちゃん」

 

そして、コンテナに視線を向ける。

ちーちゃんは頭を抱えるかもしれない。

それでも、これが私なりの償い。

これ以上はISも作らないかもしれない。

いっくんを苦しめる要因になっているのだから尚更に。

そして謝るんだ、いっくんに、ちーちゃんに、箒ちゃんに。

 

そして守ろう、大切な友達だから。

 

「御馳走様、とっても美味しかったよ、くーちゃん♪」

 

「お粗末雅でした。

お昼後、タッグマッチトーナメント決勝戦を見ながらでも構いませんが、デザートは何かご要望はありますか?」

 

「う~ん、それじゃあねぇ…抹茶フロート!」

 

「畏まりました!」

 

いっく~ん!君のおかげで私のラボは毎日美味しい食事ばかりだよ~♪

束さん、太ったりしないようにダイエットにも必死になってるから!

くーちゃんは羨ましいなぁ、太りにくい体質なんだってさ!

束さんの場合はお腹よりも胸のほうに栄養が行く体質だけどねぇ♪

あ、あれ?厨房の方からすごい殺気が伝わってくるのは何でだろう!?

うん、気のせい♪

 

モニターには試合開始が近いからなのか、満席御礼の状態。

でもこんなところから覗き見している私には関係無い。

広々としたラボでリクライニングシートに座り、お煎餅と緑茶を口にしながら見ている。

 

「洗い物が終わりました」

 

「ご苦労様、じゃあくーちゃん、一緒に見ようか。

あ、対戦表が表示されたよ」

 

くーちゃんが隣に座るのを確認してから、モニターに映る映像の一部を拡大する。

準決勝第一試合の組み合わせは

 

『凰 鈴音&セシリア・オルコット』

VS

『ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルロット・アイリス』

 

ツインテールの娘はいっくんとは幼馴染の関係、そして親友。

付け加えて言うのなら、いっくんにとっても良き理解者。

そして今は中国出身の国家代表候補生。

専用機は中国で開発された第三世代機である『甲竜』。

低燃費と空間圧縮兵装、そしてとても強力なパワーがコンセプト。

あんなに体が小さいのに、あんな屈強な機体を操るのは流石というか、抜群のセンスというか。

 

タッグを組んでいるのは金髪の女の子。

イギリス出身の国家代表候補生らしい。

専用機は…イギリスで開発された『メイルシュトローム』の発展機である第三世代機『ブルー・ティアーズ』

イギリスの開発コンセプトと言えば『射撃特化』

それによって開発されたのが独立稼働兵装である『ビット』

四月の段階でいえば未熟者だったけれど、この短い期間でも技量を磨いている様子。

最初はいっくんを愚弄してばかりだったけれど、いまでは 胸の内をすっかりと入れ替えてるみたい。

それどころかいっくんにオトされてるみたいだね。

しかも無自覚だからいっくんは天然ジゴロかもしれない。

簪ちゃんが居るんだから浮気はダメだよいっくん。

そして来月には、この娘にも私は消えない傷を刻み込むのかもしれない。

 

 

そして対戦相手は

銀髪の女の子。鈴ちゃん同様に体も胸も小さいけれど、屈強な機体を操っている。

その機体『シュヴァルツェア・レーゲン』にはAIC、『慣性停止結界』が搭載されているから、一対一での戦闘では、まず負けは無い。

これはいっくんでも厳しいかもしれないなぁ…。

そしてこの娘ったらいっくんを『兄上』呼ばわり。う~ん…まあ、いっか。

 

そのタッグもまた金髪の女の子。

フランス出身の国家代表候補生。

いっくんの部屋のPCをハッキングして盗聴させてもらったけど、驚くべき事情を抱えていた。

私も軽くブチッと来たので、暴れさせてもらった。

デュノア社と国際IS委員会、さらには国際警察に国際裁判所に密告し、大々的に世界にその情報を暴露した。

今ではすっかり憑き物がとれたように楽しそうな学園生活を送っているみたいだった。

でも、私が密告したのはこの娘も知らないんだろうなぁ。

付け加えると、この娘もいっくんにオトされてる様子。

いっくん、浮気は束さんも許さないからね~。

 

専用機は…『ラファール・リヴァイヴ』を独自にカスタマイズした機体だった。

重火器を大量に詰め込んでいるから飛翔する火薬庫とも言える。

更には順応性も高く、高速切替(ラピッドスイッチ)も行えるから、第三世代機顔負けの技量に至っている。

 

「ねぇくーちゃん、このタッグはどっちが勝つと思う?」

 

「そうですねぇ…鈴音さんとセシリアさんは前衛と後衛に分かれての典型的なパターンだけで勝ち上がっていますが、それ以外にフォーメーションも連携らしきものが見当たりません。

ラウラさんとシャルロットさんは、リヴァイヴの武装を貸したりしながら、様々な連携を駆使、ここまで勝ち上がっています。

さらにはレーゲンのAICは無双の強さを誇ります。

ですから…ラウラさん、シャルロットさんのタッグが勝つと思われます」

 

ふむふむ、くーちゃんの予想はそんな感じか…。

イギリスの娘は今では4基以上のビット操作も出来るようになっているから、AICの発動タイミングを与えないかもしれない。

それを考えると…。

 

「束さんはイギリス、中国のタッグに抹茶フロートを二つ!」

 

「なら私は、フランス・ドイツのタッグに同じく抹茶フロートを二つです」

 

誰も手の届かないところでスイーツを賭けた博打が発生していた。

けど、私達を取り締まる人なんて居ないから大丈夫!

 

「あ、私はやっぱり抹茶フロート二つに付け加えて、BLTサンドも賭けますね」

 

やっぱり厨房から放たれていた殺気はくーちゃんだった!?

 




束さんは一夏君に会いに行く準備は完了しました。
なら、いつに会いに行くのか、それは皆様も知ってのとおり、例のイベントの時です。
くーちゃんには…その時に登場してもらうかは推敲中です。
それではまた後日にお会いしましょう。

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