IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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久しぶりにくーちゃんにも登場してもらいます。
出番は少ないですが。


双重奏 ~ 罪科 ~

Tabane View

 

「そう…そういう事なんだ…」

 

IS学園の中庭での出来事を私はくーちゃんと一緒に見ていた。

いっくんの体を借りてまで黒翼天は表に出てきていた。

そして容赦なく箒ちゃんを殴り、蹴り飛ばす。

左腕の装甲を部分展開し、トドメを刺そうとする。

けれど、眼鏡の女の子の必至の言葉を聞き入れたのか、そのまま体をいっくんに返した。

 

「束様、あれが黒翼天…『Disaster』のコア人格なのですね…」

 

「うん…そうだね…」

 

あのコアに『Disaster』と刻印し、封印したのは私。

そしてそれは私の罪の象徴でもある。

だけど…今になって私はそれをさらに恥じていた。

 

「あのコアは…災厄になんてなっていなかったんだ…」

 

ただそれが嬉しかった。

そして情けなかった。あのコアに『Disaster』の刻印を刻んだ自分が…。

 

「ごめんね…ごめんね、いっくん…ごめんね…―――」

 

そして…ありがとう…

 

だから…会いに行くから

 

 

 

 

 

Ichika View

 

診察を終えてから自分の部屋に戻る。

ベッドに腰掛けてから、意識を集中させた。

左手を前方に突き出し、左手首に右手を添える。

 

 

 

「応えてくれ…」

 

意識を、左手に。

深く…深く…もっと深く…。

 

「黒翼天…応えてくれ…」

 

意識を更に集中させる。

 

 

一つの風景が見える。

またしてもそこは雷雲に視界を閉ざされている。

そこかしこに黒い雷が迸っている。なぜこんなにも雷雲に閉ざされているのかは判らない。

だがこれは黒翼天の拒絶意志にも思えた。

 

「黒翼天、どこに居る?

俺の声が聞こえているのなら応えてくれ」

 

雷鳴に俺の声は掻き消される。

周囲に視線を向けても、雷雲と雷が邪魔をする。

こうやって黒翼天に同調は出来ているから、ある程度は受けれいれてくれているのかもしれない。相変わらず姿を見せてはくれない。そして今回は返答の一つも無いと来ている。

だが…常々疑問に思っている事がある。

 

「黒翼天の声…何処かで聞いたことがあるような気がするんだよな…」

 

何処かできいたことがある。

なのに…誰の声だったのか、どうしても思い出せない。

 

そんな疑問を頭に浮かべている間に、俺の意識は現実へと戻ってきていた。

 

「…収穫無し、か…」

 

相当な頑固者なのかもしれない。

続けて俺は右手を突出し、右手首に左手を添える。

黒翼天とも同調ができたんだ、もしかしたら…白式とも出来るかもしれない。

 

先程と同じように意識を集中させる。

だが、白式は俺に応えてくれない。

何一つ反応を見せない。

俺を認めていないのか、はたまた別の要因があるのか…それは俺にも判断ができない。

 

「…こっちもダメか」

 

黒翼天は俺に足りないものがあると言っていた。

それが何なのか、俺には判らない。

俺とてギリギリではあるが人間だ。足りないものは幾らでもあるだろう。

俺から何が欠けているというんだ…?

幾ら考えても答えは出ない。

 

「…もう少し、考えてから寝るか…」

 

その夜、結局答えを出せなかった。

 

 

 

 

Lingyin View

 

機体の整備が済んでから私、マドカ、簪、ラウラ、楯無さんは一年生寮の談話室に集合していた。

ラウラから教えてもらった話では、あの黒翼天が一夏の体を借りて自身を表に出したのだと。

 

「黒翼天が…展開された…っていうか…一夏の体を乗っ取ってるような感じだったの…?」

 

 

「うむ、簡単に言ってしまえばな」

 

流石に楯無さんも頭を抱えていた。

あまりにも意外性(イレギュラー性)が強すぎるのだから無理はないだろう。

 

「だが、こうも言っていた。

簪や兄上の望まないことをするつもりは無い、と」

 

「どういう事なのよ…?

簪は何かわからないの?」

 

「私にも…何が何だか…」

 

篠ノ之は一夏に対して、そしていつもその周囲に居るあたし達に対して攻撃的だ。

その篠ノ之相手に激昂し、叩きのめしたとか。

その本人は、今は懲罰房に放り込まれている。

簪の説得が無ければ、間違いなく殺していたらしい。

 

「それで…兄さんは診察をしてもらったけど、今回は何も異常は無かったらしい」

 

「判らないことが多すぎるわね…いったい一夏の身に何が起きてるのよ…?」

 

「それが判ったら苦労はしないわよね」

 

楯無さんの言葉は尤もだった。

多くのことが起こりすぎている。

それもこの半年にも満たない短い期間で集中し過ぎている。

一夏がISを動かし、この学園へ入学。

正体不明の侵入者。

黒翼天の登場。

一夏の感情の喪失。

そして黒翼天が一夏の体を借りて…。

一介の人間が負えるような問題量じゃない。

千冬さんも苦労しているかもしれない。胃薬とかの世話になってなきゃいいけど。

 

「もうすぐ寮の門限も近いわね。

じゃあ、今日の談話はこれくらいにしときましょうか。

お姉さんはこれで二年生寮に戻らせてもらうわね」

 

まあ、この人が居なくなったらあたし達だけじゃ話は先には進みそうにないわね。

あたし達も解散するとしようかしら。

 

「そうそう、皆に教えておくことがあるわ」

 

談話室を出る直前、なにか思い出したかのように楯無さんが振り返る。

でも、その話は凶報だった。

 

「箒ちゃんの処罰内容だけど、国際IS委員会が出しゃばってきてね、明日の朝には懲罰房から出てくるらしいわ。

暴行も結局は未遂で終わり、何の被害も出ていなかったような形だったようだから、これに関しては言及ができそうにないの」

 

…また頭の痛い話だった。

千冬さんから警告を受けていたようだったらしいけど、絶対にアイツは聞き入れることなんてしてないだろうし…。

 

「奴は私が監視する。

兄上に近づけさせはしない」

 

「ラウラ、頼んだわよ…」

 

「うむ、任せておけ。

シュヴァルツェア・ハーゼ隊長として、この監視任務は確実に遂行して見せよう。

だから安心してくれ、簪、マドカ」

 

「うん、頼りにしてるから」

 

「兄さんに近づけさせないでね、頼んだから」

 

 

 

 

Kanzashi View

 

「かんちゃん、おかえり~」

 

「ただいま、本音」

 

寮の部屋に戻ってからは幼馴染の使用人である本音が迎えてくれた。

でも、この呼び方はどうにかしてほしいけれど、実はもう諦めている節もあったりする。

 

「一夏はどうしてる?」

 

「う~ん…お隣さんはとっても静かだよ~。

もう寝ちゃってるかもしれないね~」

 

時間は8時。

今日は幾度も試合をしているから、疲れていても無理も無いかもしれない。

だったらゆっくりと寝させてあげよう。

 

「かんちゃんは明日は準決勝だね~。

しののんが原因で広まった噂を何が何でも撤回させるためにも優勝は必要だよね~」

 

「そもそも噂を広めたのは本音でしょ」

 

そう、今回のトーナメントで優勝出来た人は一夏と交際出来る、などと如何わしい話に作り替え、それを流布させたのは私の目の前でニヤニヤとしているこの人だったりする。

一夏もメルクから話を教えてもらったらしく、頭を痛めていたとか。

それでも噂は止まることを知らず、学年全体に広まってしまっている…だけでなく、学園全体に広まってしまっている。

私と一夏の関係を知っている、ラウラ、マドカ、メルク、鈴の活躍で噂に踊らされている人は全員沈められている。

けど、それは一年生だけの話。二年生はお姉ちゃんが沈めてくれている。三年生は…噂に踊らされている人が居ないことを祈りたい。

虚さんに努力してもらうしかないかもしれない。

 

「で~も~、必ずしもかんちゃんが優勝する必要は無いんだよね~?

おりむ~が優勝しちゃえば、話は無かったことにもなるだろうから」

 

 

「でも、私は優勝したいの」

 

お姉ちゃんにも勝ちたい。いつもいつもお姉ちゃんと比べられるだけだった私でいたくないから。

『私』は『私』なのだと証明したいから。

それに

 

「一夏の剣に私の薙刀は届かなかった。

いつもいつもそれを繰り返してるのは悔しいから」

 

「お~、かんちゃんがすっごいヤル気満々だ~!

おりむ~!覚悟~!打倒絶影(たちかげ)流!

明日のかんちゃんは道場破りだぁ~!やはははは!」

 

天真爛漫に騒ぐ本音を宥めるのに、私は無駄な体力を使わされるハメになった。もし一夏が本当に眠っているのだとしたら、安眠妨害にもなり兼ねなかった。

 

シャワーを浴びてから、ベッドに入る。

消灯してから私は今日の出来事について振り返っていた。

黒翼天は、私や一夏の望まないことをする気は無いと言っていた。

言わば、黒翼天を鎮静化出来るのは私しか居ない。

でも、何故…?

 

「一夏と精神的に繋がってるのかな…?」

 

幾ら考えてみても答えなんて出てこなかった。

…疑問はさっきから増えるばかりだった。

 

「準決勝、か…」

 

マドカのサポートもあってようやくここまで来れた。

そんな気がするけれど、ここから先はまた厳しい対戦になりそうだった。

準決勝も、そして決勝戦も専用機所有者同士との戦いになる。

でも、私は負けたくない。全力で戦って…そして勝つ。

 

「準決勝第一試合は鈴とセシリアのタッグと、シャルロットとラウラのタッグ。

第二試合で私とマドカのタッグと、一夏とメルクのタッグの対戦。

その勝者が決勝、か…。

本音は誰を応援するつもりなの?」

 

「私はぁ…おりむ~とかんちゃんだよぉ」

 

…準決勝でぶつかるんだけど。

そこの所を私の幼馴染は理解して…ないかもしれない。

 

改めて気合を入れていかなきゃ。

 

「一夏、私、絶対に負けないからね」

 

 

 

Laura View

 

「篠ノ之は…明日には解放か…」

 

懲りない女だと思う。

トーナメント前には本気も出さずに圧倒しておいた。

トーナメント本番では二人がかりで叩き潰した。

だがそれでも奴は兄上に害をなそうとする。

どうすれば懲りるのか。

あんな女、わがシュヴァルツェア・ハーゼにも居ないから扱い辛い。

新兵(ルーキー)でもまだ反省したりはする。

 

「…幼稚なだけなのだろうな」

 

ベッドに寝転がり、小棚に置いていたナイフを掴み、鞘から引き抜く。

刀身はまるで鏡のように私の目を映し出す。

二年前のあの日、兄上に渡したナイフ。

あれは実は私が使い続けた二振りの内の一振りだと気付いているだろうか…?

まあ、それはどちらでも構わない。

 

「ねえラウラ、明日の準決勝は、このフォーメーションで良いかな?」

 

「うむ、構わない。

鈴とセシリアには悪いが、道をあけてもらうとしよう」

 

「第二試合は一夏とメルクのタッグ、簪とマドカのタッグだよね。

どっちが勝つと思う?」

 

愚問だな、シャルロット。

 

「兄上だ」

 

「い、言い切るんだ…まあい、いいや。

じゃあ一夏のタッグが勝ち上がってきた時だけど、その際のフォーメーションは」

 

「すまないが…シャルロット、決勝での対戦だが、私の我儘を押し通させてもらえなだろうか」

 

「…?」

 

二年前、ドイツで私は兄上と決闘をした。

続く奇策に嵌められ、私は敗北した。それも二敗も。

嫌な記憶とまでは言わないが、受けた敗北をそのままにしておくつもりは無かった。

 

「兄上には…私一人で挑みたい。

シャルロット、お前はメルクの相手だけをしていろ」

 

「何というか…気合が入ってるね。

ラウラならAICさえ使えば一対一(サシ)での戦闘じゃ負け知らずだろうから、それはそれで構わないけど」

馬鹿を言うな。兄上相手にAICなど使う気はない。

私達は…刃で決着をつけるだけだ。

 

「そして言っておく。

兄上に銃器を向けるなよ。もしも兄上に銃器を向けようなどとすれば…私がお前を撃つ」

 

「き、肝に銘じておくよ!だからナイフを突きつけないで!」

 

 

 

 

Madoka View

 

明日には学年別タッグマッチトーナメントの準決勝。

簪も充分に気合が入っているらしい。

かういう私も、サイレント・ゼフィルスの調整には余念が無かった。

 

「明日には久しぶりに本気を出せそうだ」

 

「マドカちゃん、今まで本気出してなかったんだ…」

 

ル-ムメイトの清香が少し引いている。…何でだろう?

 

「オルコットさんとの対戦でビット12基一斉操作とかやってたけど、アレは本気に入るの?」

 

まさか、あの程度(・・・・)で本気なわけは無いだろう。

オルコットにも、姉さんにも、兄さんにも、そして簪にも私の本気は見せたことがない。

オーストラリア本土では、私の本気を開発スタッフに一度見せたことがあった。

楯無先輩は…情報を手元に置いているかもしれないが。

 

「あんなのはBTシリーズを扱う初級技術の応用でしかない。

アレを本気と認識されるのは不愉快だ」

 

「本気じゃなかったんだ…。

流石BT適正オーバーSSSランク…恐ろしい」

 

「兄さんに勝つには私の本気を出さなきゃいけない。

そうでないと兄さんには勝てはしないんだ」

 

「そして織斑君への評価が凄まじく高い…」

 

当たり前だ。私も兄さんの剣技を使っているが、たった三種類だけが限界だった。

見様見真似でも兄さんの剣技には届かない。なら、私は私の戦法で、それも全力で出迎えなければ絶対に勝てないんだ。

 

「私の本気、学年の全体に見せつけてやるさ」

 

ビットの大量一斉操作と偏向射撃(フレキシブル)だけが私の切り札じゃないんだ。

そして明日の対戦では出せる限りの本気を出し尽くす!

 

「兄さん、絶対に負けないからな!」

 




こんにちは、またもや書き下ろし作品と相成りました。
おかげで投稿のタイミングが遅れました。
今回は各自の気合の入り方が色々と見えています。
そしてマドカちゃんが恐ろしいことを口にしていますが…その本気とはどれだけのものになるのやら。
それではまた次回にて。

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