IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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一気に場面が飛びます


双重奏 ~ 激怒 ~

Tabane View

 

私とくーちゃんが暮らす秘密の場所。

そこから廃棄済の人工衛星をジャックして今日も今日とてIS学園を見つめていた。

 

「いっくんも頑張ってるねぇ」

 

どうやら学年別でトーナメントを、しかも二人一組になってのタッグマッチでの試合が執り行われている。

いっくんはイタリアの子と一緒になって戦いを続けている。

でも、これは皮肉なのだろうか…?

『467』のナンバーを持つコアが、そこに並んでいる。

でも、ちょっと違うかな。

『467のコア』と『467になれなかったコア』だ。

どうやらお互いに干渉する事はなさそうだから、心配する必要は無さそうだった。

まあ、それはそれとして

 

「で~きた♪これで完成!」

 

今、私の前には幾つもの新たな後付武装(イコライザ)が並んでいる。

いつの日か、あの子達に渡そうと思い、ある機体をバラバラに分解した後、後付武装(イコライザ)として作り直した。

 

「ちーちゃんといっくんの刀が『雪』を冠するのなら、この後付武装(イコライザ)に与える銘は…―――だね!」

 

いっくんが信頼しているであろう子に渡そう。

そう決めた。

箒ちゃんにはコアも機体も用意しない。それが私といっくんの間での約束。

その約束を破るつもりなんてなかった。

世界を引っ掻き回した罪…いっくんが感情を失った原因を作り出した私の罪が贖えるとは思っていない。

それでも、贖いたい気持ちは失われてなんていなかった。

 

「『Origin』、どうかいっくんを守ってあげて…そして…あの子達の声が君に届くのを祈ってる。

『Disaster』、君は…いっくんの心を守ってあげて…いつの日か、君がいっくんとも手を取り合えるのを願ってる」

 

いつの日か…いつの日か、また、いっくんが心の底から笑顔になれる日を…私はここで願い、祈り続けよう。

出来る事なら、いっくんの所に駆け付けたい。ちーちゃんにも謝りたい。

そして…夜空の向こう側に描いた夢について語り明かしたい。

それが…ISの始まりでもあった事を…。

 

欲を言うのなら…箒ちゃんとも手を取り合い、語り合いたい。

そして理解し合いたい。

その時には…いっくんとメガネの女の子との関係を語らなくてはならないだろう事は予想していた。

それでも…私は…

 

「ごめんね、箒ちゃん。

箒ちゃんがいっくんとも理解し合えると信じて…私はいっくんの背中を推してあげるの」

 

傍らに置いていたトレイの上に乗せられた食事を口に入れる。

くーちゃんは私の知らないところでいっくんが料理をしている風景を覗き見している時があったらしく、この四月からは急速に料理の腕が急上昇している。

以前の食事でも食べられないなんてことは無かったんだけどなぁ。

こういう所はいっくんの影響かな?

 

 

 

Ichika View

 

専用機持ちのタッグはやっぱり脅威みたいで、どんどん勝ち上っていく。

鈴&セシリアのコンビはフロントとバックに別れての典型的なパターンでの戦闘が多い。

ラウラ&シャルロットのコンビは互いの機体の性能を最大限に発揮しながらの抜群のコンビネーション。

マドカと簪も、互いの手の内を最大限に活かし、相手を入れ替えながらの高機動戦だった。

俺とメルクのコンビはトップクラスの高機動性能を活かしての戦闘だ。

ここまで専用機持ちとはぶつかっておらず、単一仕様能力『零落白夜』は使っていない。

六条氷華は幾度か使っているので、試合毎にエネルギー補充も小まめにしている。

正直に言うと、命中率はいまいちなのは変わらない。情けねぇ…。

 

「それじゃあ、全員の決勝トーナメント出場決定に祝して」

 

「「「「乾杯!」」」」

 

俺を含めて総勢8名による祝杯が挙げられることになった。

なお、準決勝までは昼休憩時間まで掛かった。

なので、一旦休憩の代わりに、準決勝以降は明日に持越しだ。

今日の午後は各自の機体の整備に追われることになるだろう。

そこで、食堂の片隅で俺たちはミーティングと言う名義の宴をしている。

宴会みたいに見えているかもしれないが、グラスの中身は全員ジュースだ。

俺だけ緑茶だが、ハブられているわけではない、俺の好みだ。

なので鈴からの視線が冷たい。

昼食の内容と言えば

 

鈴…炒飯セット

炒飯に餃子、更にミニラーメンがついているシンプルなメニュー

 

セシリア…ホットサンド

これまた適度に焼いたトーストに温野菜が挟まれている。

ポタージュも一緒になっているセシリアお気に入りのメニューだそうだ。

シャルロット…カルボナーラ

パスタにホワイトソースが掛けられたこれまたシンプルな一品だ

 

ラウラ…パエリア

…何故朝食向けのメニューをお昼に頼んだのかは敢えて問うまい

 

俺&マドカ&簪…日替わり和食定食

今日の日替わりメニューの内容はサバ味噌だ。

 

メルク…ヴィシソワーズ

ジャガイモの冷製スープだ

 

この光景の中、絶対にメルクだけ浮いている。

スープだけって小食なのか、お前は。

周囲の生徒が妙な視線を向けてきているが、あえて無視する。

 

「決勝トーナメントでは…鈴&セシリアVSラウラ&シャルロットが最初だな。その試合後に俺とメルクVSマドカ簪の試合になるんだな。

優勝まで残り少ないが、頑張っていこう」

 

俺としては相性がとことん悪い。マドカと簪は射撃と砲撃がメインだ。

近接格闘しか能の無い俺がどこまで逃げ切れるか…機動性にものを言わせるしかない。

それでも簪の機体『打鉄弐式』に搭載されているマルチロックオンシステムが脅威となる。

回避ルートまでロックオンしてくる。たとえそれを掻い潜ったとしても、今度はマドカが操る『偏向射撃』がミサイルとは比べ物にならないスピードで追尾してくる。

対射撃攻撃訓練は積んでいるものの、弓矢とレーザーでは速度が段違いだ。

銃を相手にできない俺がどこまで立ち回れるか、それが鍵になってくる。

だが…無策で挑む訳でもない。

 

「シャルロット、次のフォーメーションだが…」

 

「それに関してだけど…」

 

こっちは早くもミーティングを始めてしまっている。この二人は本当に決勝に進みそうだな。

本格的な軍事訓練を積んでいるラウラと、順応性が高く、万能な対応が可能なシャルロットでは、鈴とセシリアはどこまで立ち回れるのやら。

けど、俺は目の前の対戦相手に対応しないとな。

 

 

 

Laura View

 

その日の放課後、機体の整備が終わってから私は中庭に訪れた。

暇つぶしも兼ねてだが、私はこの日、ある人物に呼び出されていた。

「待たせて申し訳ない、兄上、それに簪も」

 

「大丈夫だ、そこまで待ってはいない」

 

中庭の一角のベンチにて、その二人は待っていた。

兄上(織斑 一夏)と更識 簪が。

兄上とは2年前にドイツで、簪とは、兄上が出してくれていた手紙で知り合っていた。

鈴も、楯無も、蘭、数馬、弾も同じように手紙で知り合っている。

直接出会っているのは、簪、鈴、楯無くらいだ。

この学園に編入した後からも良くしてもらっているので感謝は絶えない。

ただ…兄上が感情を失ってしまっているのが悲しかった。だが、私は軍人だ、ポーカーフェイスを時には貫かなくてはならない。

「シャルロットの件だが…兄上達が心配している事は何も無いようだ」

 

「そうか、杞憂で済んだのなら、それで良いさ」

 

兄上は危惧していた。

シャルロットに与えられていたという任務は、『白式強奪』と『兄上の殺害』だった。

私も軽い審問をしたものの、シャルロット自身には殺意など無かった。

デュノア社総帥夫人から押し付けられたという毒物も、暗器も、フランスからの道中で捨ててしまったらしい。

不法投棄になるのではないのかとも思ったが、こんな事まで堂々と言う程だ。

信用はできたので、それ以上の追及はしなかった。

 

「ラウラも座って。今日は午前中だけでも何度も対戦をしたから疲れてるよね。

カップケーキを焼いたから一緒に食べよう?」

 

「う、うむ。では同席させてもらおう。む、マドカは?」

 

「まだ機体の整備に時間がかかるそうだ。

サイレント・ゼフィルスで今まで以上に本気を出すつもりなんだろう」

 

マドカの本気というのは私も目にした覚えが無い。

12基のビットの一斉操作出来るらしいが、ソレはまだ本気の内には入っていないだろう。

何より今回のトーナメントでは偏向射撃(フレキシブル)も使っていなかった。

BTシリーズでは偏向射撃(フレキシブル)以外にも更なる技術があるのだろう。マドカの見立てではセシリアは未だその領域には届いていないとか。

 

「む…美味しいな…」

 

「えへへ…良かった…」

 

簪が作ったというこのカップケーキ。

抹茶が入っているらしいが、それほど苦くはない。

私の味覚でも好みの味と言える。

私は未だに厨房に入った事が無い為、作り方はサッパリだ。

兄上がドイツ軍駐屯地で厨房にて働いていた頃も、遠くから眺めるだけだった。

簪も厨房には入っていることが多いのだろう。そうでなくてはこの様に美味な菓子など作れないだろう。

 

「確かに、美味いよな。

俺も料理を得意と自負しているが、こういう菓子には挑戦したことは無かったからな」

 

「えへへ…」

 

兄上の言葉に簪が照れている。クラリッサの言う『お似合いな二人』という奴だろう。

ただ、やはり兄上は感情が表には出ない。

私が初めて兄上と出逢った時もそうだった。

今となっては私としては恥じているのだが…ナイフを突きつけた。

その時には…兄上は恐怖しなかった、そして怒りもしなかった。

兄上は…私に呆れていた。

正直に言う。私はその様子に恐怖していた。

そうでなければ、早々に串刺しにしていたはずなのに、手が動かなかった。

まあ、昔の話は置いておこう。

 

「それと兄上、私にも理解できなかった点があるんだ」

 

「何だ?」

 

「フランス政府の早急な対応と、デュノア社への強制捜査だ。

兄上からの推薦でシャルロットとタッグを組んで一週間で、シャルロットは『デュノア』から『アイリス』へと姓名を変えるに至った。

それがあまりにも早過ぎると思わないだろうか」

 

「あ、言われてみればそうだよね」

 

「…確かに…」

 

シャルロットが何かを仕組んだのではないだろうかと思い、部屋の端末を調べてみたものの、その形跡も無い。

そもそも、部屋のPCに触ってもいなかったのだという。確かにその部屋のPCは、4月からは一切の使用履歴もなった。

ともなれば…

 

「第三者からの干渉、か?」

 

「それは私も兄上と同意見だ」

 

第三者がデュノア社やフランス政府に干渉したのだろうが、その目的も動機も見えない。

何かが起きているのだろうが、何が起きているのかがわからない。

 

「深く考えても何も答えは出ないかもしれないな。

シャルロットには殺意も害意も無い、それだけわかれば充分だ。

面倒な役を押し付けてすまなかったな、ラウラ」

 

「構わない、それに代金ももう貰っているからな。

先日の弁当とこのカップケーキで、な」

 

一つ目を食べ終えたので、二つ目に手を伸ばす。

簪もニコニコと差し出してくれた。さっそく二つ目を齧る。うむ、美味い。あ、そういえば以前から疑問に思っていたのだが、この事も訊いてみるとしようか。

 

「兄上、今度は私から問いたい事がある」

「何だ?」

 

「将来の事を考えて、今の内から簪の事を『姉上』と呼ぶべきなのだろうか」

 

「ブウウゥゥゥッッ!!??」

 

簪が口に含んでいたであろうお茶を盛大に噴き出した。

更には顔が真っ赤になっていく。

ん?なんだ?私は何か変なことを聞いたのだろうか?

 

「ラウラ…俺にはお前の思考回路がよくわからん」

 

………????????

 

 

 

 

 

簪はしばらく咽ていたが、それが回復してから、私は二つ目のカップケーキに再び齧りつく。カップケーキを堪能している間、簪は顔を真っ赤にしていたが…何故だろうか?

 

「一夏ぁっ!」

 

このタイミングで無粋な客人が来たようだった。

…篠ノ之 箒だな。

 

「それで、ラウラ。

楯無先輩の話だとドイツからも来訪者が来ているそうだが」

 

兄上は篠ノ之を無視している。ならば、私もそれに応じるとしよう。

 

「うむ、ドイツのIS開発機関のスタッフが来ている。

だが、それだけではない、明日は兄上も驚くような訪問者が来てくれることになっている」

 

「それって誰なの?」

 

「簪にも秘密だ、明日を楽しみにしていてくれ」

 

「話を聞けえぇっ!」

 

外野がうるさいが、私も兄上も簪もスルーしている。

「それと兄上、二年前とは比べ物にならない程に太刀筋が速くなっていたが、兄上の技量はアレだけではないのだろう?」

 

「…まだ見せていないってだけだ。

一刀だけでこのトーナメントを勝ち抜いてきたが、それだけで終わるつもりは無い。

なにぶん、俺がタッグを組んでいる相手の目標が高いからな」

 

イタリア出身のメルクだったか。

機体は高機動特化のテンペスタ・ミーティオ。

あいつもあいつで何かを隠している気がしてならない。

 

「準決勝では私が相手だね、負けないよ」

 

「それは俺も同じだ」

 

「兄上、私は先に決勝で待っているぞ」「鈴とセシリアを相手にして、もう勝ったつもりでいるんだ…」

 

鈴とセシリアのタッグに対しての対応策ならば、もう既に幾つも用意している。

それを使えば、ものの相手ではない。

 

「兄上の戦闘方法に関してだが、情報は集めていない。

あの時と同じように、お互いに対等な条件で戦いたいからな」

 

「ドイツでの喧嘩の事なら『対等』といって怪しい話ではあるんだが。

そもそも経験が違っていたからな。さらに俺には剣道をやめてからのブランクもあった」

 

む…改めて言われると対等どころか兄上が圧倒的に不利ではないのか、コレは。

兄上はISに触れてから半年未満。経験の少なさを持ち前の剣技で埋めているものの、それとは正反対に私は経験がそれなりにある。

…兄上相手に対等条件など難しいのではないのか?

 

「今回、俺が準決勝まで勝ち進んできたのも、メルクのサポートがあってこそのもの。

俺はまだ素人に毛が生えた程度でしかないんだ。ただ単に、機体と相方があってこその結果だ」

 

「…自惚れたり、しないのだな…」

 

「それが一夏だよ、ラウラ」

 

う、うむ。不本意だったのかもしれないが、この学園に入ればそう考えることもあるのだろう。

 

 

 

 

 

「…………」

 

一瞬、背筋に寒気が走った。

 

 

ドガアアァッァァン!!!!

 

「!?」

 

兄上の姿が消えた。

凄まじい速度で移動したのだと考えが至るまでに数秒必要になった。

あの動きは…人間のものではない…!

 

音がした方向に視線を向けると…兄上の姿と…兄上に殴り飛ばされたであろう篠ノ之が近くの木に背を預ける形で悶絶していた。

ピーピーとなにか音が聞こえる。それは簪の左手首から。通信機か何かなのか。

 

「…随分前から鬱陶しいんだよ…テメェは…!」

 

それは…怒りだった。私すら見たこともない…兄上の怒り…。

「何のつもりだ、テメェは…『コイツ(織斑 一夏)』はテメェが好き勝手していい奴じゃねぇんだ…」

 

兄上が篠ノ之を蹴り飛ばす。

篠ノ之は痛みによるものか、声一つ出さない。

 

それを見越した上でか、兄上が左手を振り上げる。

瞬間、異形の左腕が現れる。あれは…ISの左腕なのか…!?

 

「一夏、ダメ!止めて!そのまま殴ったら死んでしまう!」

 

「だから何だ?お前とてこの女が鬱陶しかったんだろう。

消えてほしかったんだろう」

兄上が私達に視線を向ける。

見間違いだろうか…兄上の双眸が…『赤』に変色しているように見えたのは…?

 

「だからと言って死んでほしいと思ったことは無いよ!

お願いだから、それ以上はダメ!一夏…お願いだから…『黒翼天』!」

 

今、簪は兄上を何と呼んだ…?

『黒翼天』と…言ったが…?ソレは何だ?

 

「…お願い、だから…一夏に…人殺しなんてさせないで…!」

 

中庭の入り口から人の足音が聞こえてくる。

あれは…織斑教官にマドカ、それに…楯無のようだが…。

 

「人が来たか。

致し方ない、か。…『(名付け親)』、アンタにコイツ(織斑 一夏)を任せる。

今回の事は覚えていないだろうがな。

この醜女(しこめ)を殺す気は失せた。

何よりアンタが望んでいないようだからな。

俺とてコイツ(一夏)が望まない事をやらかす気は無い。

どういう訳かコイツ(一夏)は俺を理解しようとしているようだからな」

 

そして赤に染まった目で視線を今度は私に向ける。

「そこの小さいの」

 

「だ、誰が小さいか!」

 

「この醜女(しこめ)コイツ(一夏)に近づかないように極力見張っていろ」

 

今、なんと言った…?

あの異形の左腕もそうだが…今の兄上は…兄上の姿を借りた別人のような者、なのか?

 

「しょ、承知、した…」

 

異形の左腕が霞となって消えていく。

それと同時に兄上の体が倒れた。

簪が兄上の体を揺さぶる。兄上は…ものの数秒で目を覚ました。

 

「…?何があった?」

 

目覚めた兄上の第一声はそれだった。体にも、精神にも異常は無さそうだった。

篠ノ之だが、近くに転がっていた木刀から、『また』兄上に危害を加えようとしたものと判断され、懲罰房へ連行されていった。

 

「簪、教えてほしい。

…『黒翼天』とは、いったい何なんだ?」

 

「…左手に手袋をしているのは気づいてる、よね?」

 

「無論だ」

 

ドイツでもそうだった。例え厨房で仕事をしていようとも、決してあのオープンフィンガグローブを外そうとはしなかった。

手紙に同封されていた写真でも、ソレを外していた様子は見えなかった。

妙だと思い、知っている人間を探し回った覚えもある。

知っている人間、それはドイツの最先端医療技術施設だった。

そこで簡単に説明してもらったが、兄上の左手には正体不明の存在がインプラントされているとの事。

その施設でもインプラントされた物質を兄上の体から切り離すことができなかったと聞かされた。

それに…それがISだったのだと、私も初めて聞かされた。

だが…妙だ。

 

「ISが搭乗者の体を乗っ取り、言葉を話し、自律稼働したというのか…?」

 

「これは…二回目なの。

先にもクラス対抗戦でも黒翼天は意識を失った一夏の体を使って自分の体を…機体を展開させた」

 

ISコアには人格に似た何かがある。

それは搭乗者とシンクロしていく事で成長していくとも言われている。

だが、兄上の体を乗っ取った黒翼天なる機体は、既に人間に限りなく近い自我が存在し、それを表に出している。

これは、いったい何を指し示しているんだ…?

いや、シンクロする以前に自我が完成されていたのか…?

「あの機体を展開した後からだった。

一夏が感情を失ったのは…」

 

…そうか…箝口令が敷かれたのも、それが理由だったのかもしれないな。

 

「話してくれた事、感謝する。

カップケーキ二つ分で丁度な情報だった」

 

「…そろそろ一夏の精密検査が終わる頃合いだね、医務室に行ってみよう」

 

それから私は簪と一緒に医務室に行くことになった。

マドカが先に来ていたが、まだ検査は終わっていないのだろうか…?

 

「それでは失礼します」

 

タイミングが良かったのだろう、兄上が医務室から出てくる。

 

「兄さん!大丈夫なの!?通信機がなって心配したんだよ!?

また発作が起きたんじゃないかって…」

 

「大丈夫だ。何が起きたのかは俺自身よくは判らないが…」

 

「一夏、その…」

 

「通信機がなった以上、発作が起きたのかもしれないが…今回は何ともない。

大丈夫だ、今度は何も失っていない」

 

「よかったぁ…」

 

マドカも簪もそろって泣き出す。

兄上は…相変わらず仏頂面だ、感情が無いというのは相変わらずのようだ。

 

「あの女…どうやら私との約束を反故にしているようだ。

今後は兄上に近づかせないように私が目を光らせておこう」

 

「…?ああ、頼んだぞ」

 

契約成立だ、黒翼天。

お前が何者なのかは判らないが、頼まれた以上は仕事はキッチリとこなして見せよう。

それに、お前は兄上や簪が望まぬことはしないようだからな。

 




ちょっと投稿のタイミングが遅くなりました。
ストックには無い完全描き下ろしのストーリーと相成っています。
久々に登場の黒翼天でした。
今回は部分展開だけですが、暴れてくれています。
そして黒翼天の意志もしっかりと見せくれていました。

はてさてモッピーですが…アンチのタグをつけるか悩みどころです。
警告ダグとして『アンチ・ヘイト』を付けてはいますが…。
それではまた後日にお会いしましょう。

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