IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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タッグマッチトーナメント開催です!


双重奏 ~ Duo ~

Ichika View

 

そして、この日が来た。学年別タッグトーナメントが。会場となる第四アリーナは満員だ。

学園に在学する生徒は、国家や企業に自分を売り込む絶好の機会だ。それ故に一般生徒は凄まじい程の力を入れている。

国家代表候補生は、更なる上位の国家代表生になり、国家代表生は、世界にその名を轟かせる為に。

企業代表生は、世界に自身の企業を世界に響かせる為に。

なら…俺はどうだろうな。

俺は…自分の力を試す為に。

 

「始まりましたね」

 

「だな、凄ぇ熱気だ」

 

俺達に割り振られた控室にも、その熱気と観客の歓喜の声が届いてる。興奮が収まり切らないようだ。

 

「ちょっと外に出て来る。流石に暑苦しい」

 

「はい、でも対戦には遅れないで下さいね。対戦表が発表されるまで15分ですからね」

 

了解だ。

 

 

 

 

 

 

アリーナの外に出向いたが、観客の声が届いていた。だが、中に居るよりはマシ…だろうか。だが、熱気が無いよりは良いだろうな。

 

「あ、一夏…」

 

「よう、簪。気分転換か?」

 

「そんな所かな。騒がしくて、ちょっと辛いかな」

 

えへへ、と微笑む。その微笑みが眩しく思える。

感情が失われても、簪への思いだけは失われていない。失いたくない。

「トーナメントでどこかでぶつかったら、本気で闘おう」

 

「うん、私も本気でいくよ!

剣の勝負じゃ勝てなかったけど、ISの勝負じゃ絶対に負けないんだから!」

 

タッグでの対戦、それで重要なのはパートナーとの連携だ。俺とて、それで負けるつもりは無かった。

 

「本気で勝負しようね、一夏」

 

「ああ、お互いにな」

 

対戦を目指し、互いを鼓舞して、俺達はコツンと握り拳をぶつけ合った。

 

「じゃあ、アリーナに戻ろうぜ」

 

「うん!」

 

拳を開き、その掌を重ね、指を絡める。

小さな掌は、緊張の為か少しだけ震えていた。それでも、少しずつだったが震えはおさまっていく。その力になれたなら良かった。

 

 

 

 

 

「一夏!こんな所で何をしている!」

 

アリーナに向かうその途中、篠ノ之と遭遇しなければ俺の気分は優れていたかもしれない。

 

「…む…!」

 

「…ふん…」

 

何やら簪に視線を向けるが、簪はそれを無視して明後日の方向に向く。どうやら篠ノ之が俺の部屋の前でやらかした宣言を根に持っているらしい。俺としても同感だが。

 

「もうすぐトーナメント表が発表されるんだ、ぐすぐずするな!」

 

「待て篠ノ之」

 

俺の腕を掴もうとする手を避け、俺は簪同様に明後日の方向に目を向けた。視線を合わせるつもりなんて無かった。

 

「お前の我が儘に付き合うつもりは無い。

そもそも、なんで俺に拒否権が無い?

話を勝手に進めるな、そういうガキのような所は変わらないな」

 

「な…!」

 

「それに、お前は優勝なんて出来ない。剣道だけで勝てる世界じゃない」

 

そもそも、剣道はスポーツだ。この学園には軍事訓練を受けた者も居る。一時的にとは言え、俺とてドイツで軍事訓練を受けている。

そんな相手に剣道だけで挑んだ所で敗北は必定だ。

ISとて今はスポーツに分類されているが、その実は兵器だ。型に嵌まりきった剣道は活かせても、限界は見えている。

 

「そんな事は分からないだろう!」

 

「予言してやるよ。

お前は準々決勝にも進めず…そうだな…三回戦までに敗退する」

 

「い、一夏貴様ぁっ!」

 

「俺の予言が当たったら、俺もお前に命令する。

『お前は専用機を求めるな』」

 

「き、き、貴様あぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

その瞬間に俺は簪の手を引き、走り出した。先日の篠ノ之と同じ言い逃げだ。

これでお相子だ。なに、簪を連れていても逃げ切るのは簡単だ。それに人込みに紛れてしまえば殊更にだ。

 

「控室は…確か、隣だっよな」

 

「うん、トーナメント表、発表されてるかな?」

 

さて、最初は誰に当たるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、今年も始まりました!学年別トーナメント!

今年は何と!個人戦ではなく、タッグでの対戦になります!

それぞれどんな連携を見せてくれるのか!

実況はこの私!新聞部部長!黛薫子がお贈りします!』

 

控室のモニターには、黛先輩の顔が大きく映っている。

彼女の後ろにはトーナメント表らしきものが見え隠れしているが…はっきりと見せてくれよ…。

 

「黛先輩は、今回も絶好調だな」

 

「新聞部の場合、世界大会の実況として買われる場合も有りますよ」

 

そんなパターンも有るのかよ…。流石IS学園、世間は広い。

 

『タッグを組めた人はその人と!

組めなかった人は抽選によってランダムで決定したので恨みっこ無し!

決まった相手と連携を組んでみましょう!

そして~!気になるトーナメント表は~!

こちら!』

 

ようやくトーナメント表が発表される。

第一回戦での俺達の出番は…

 

「中盤からだな」

 

「頑張りましょうね!」

 

それまでは、観客席、もしくは控室や官制室で試合を見ていよう。

 

「簪さんは…最後みたいですね」

 

「暇だろうな、簪とマドカは…」

 

 

モニターに移されるのは、3組の生徒二人と、4組の生徒二人のタッグだった。

前衛と後衛に別れ、オフェンス、バックサポートがきっちりとこなされているが…それ以降に変化が見受けられない。

型に嵌まり過ぎた戦闘だった。想定外の状況になれば応用が出来そうにない。まあ、即席でのタッグだから仕方ないか。

続けて第二試合では、早くも鈴とセシリアの出番だった。

そしてまたもや此処で黛先輩のマイクパフォーマンスが炸裂する。

 

『さあ、第二試合です!

まずはAピット!

1年2組のクラス代表にして中国の国家代表候補生!

トレードマークはお手入れに時間をかけてるツインテール!

妹にしたい女の子ランキングにて堂々の3位!

凰 鈴音 選手!』

 

「そんなランキング知らないわよ!」

 

俺だって聞いた事が無い。そんなランキングなんて何処でやっているんだか。

だが…随分と上位に入っているんだな。

分からなくはないが。

 

「IS関連の雑誌が有るのは知ってますか?」

 

「まあ、存在くらいはな」

 

「『インフィニット・ストライプス』です。そこで代表候補生とかは紹介される場合が有るんですよ。

先程のランキングでは、他にもマドカちゃんやラウラさんも…それと、何故か私も名前が載っています」

 

…絶対無断で出馬されているな。

 

「ちなみに一位は簪さんです」

水増し票が疑われるな。

簪へやたらと投票しそうな人が今頃何処かでドヤ顔で居ることだろう。

 

「私は4位で、鈴さんが3位、マドカちゃんが2位でした」

 

見事に知った顔ばかりだ。

鈴がそういう雑誌にて紹介されたのか…。だが性格からしたら自ら名乗りたがるような事はしないだろうしな…

 

そんな事を考えている間に、黛先輩のマイクパフォーマンスは続く。

 

『そしてタッグは!

イギリス代表候補生!

インフィニット・ストライプスでもモデル界人気NO.1!

若くも貴族爵位を継ぐ少女!

セシリア・オルコット選手!』

黛先輩の情報はどうやら雑誌から来ているようだ。

セシリアがモデルか…似合わないとは言うつもりは無い。

貴族の嗜みとか言われるものなのだろうな。

 

「髪を切ってからは、少し人気が落ちたそうですよ。

それでも再びNO.1に返り咲いたみたいですが」

 

「…メルク、定期購読でもしてるのか?」

 

「実は…その…」

 

してるらしい。

 

 

『Bピットからは!

1年1組所属、影に咲く可憐な花!

夜竹さゆか選手!

自称[特徴が無いのが特徴です]!』

 

なんつー紹介だよ。

だが本人はそんな紹介など何処吹く風、冷静にラファール・リヴァイヴの武装『ブラッド・スライサー』を展開する。

『同じく1年1組所属!

家庭的な料理は如何ですか?

谷本 癒子 選手!

将来の夢は幸せな家庭を築く事だそうです!』

 

一般生徒の情報なんて何処から手に入れた。谷本さんは暴露された情報にて顔を真っ赤にしている。

あの人は近い将来プライバシー侵害とかやってのけそうだ。

 

「黛先輩、その内には実況どころかパパラッチになったりしないだろうな…」

 

「どうでしょう…」

 

『プライバシーの保護』『個人情報保護法』と『報道の自由』『知る権利』の醜い闘争は今に始まった事ではない。昔から続いている話だ。

後者にてタチの悪いのがパパラッチだ。

時には自宅にまで張り込んだり、公共の施設に侵入したり、時にはターゲット周辺の人間に迷惑をかける事を厭わない。

俺も被害に遭ったからな…。

非常に不本意だが、俺の実家は観光地の一部として雑誌に紹介された事がある。

その観光会社は千冬姉の手によって倒産させられ、パパラッチは片っ端から書類送検されていたりする。中には逮捕された輩も居る。同情はしない。

 

「お、始まったな」

 

Bピット側は二人揃ってラファール・リヴァイヴだ。打鉄よりも防御性は劣るが、汎用性に優れている。使い易さを優先したが、どうなるか。

 

「上手い連携だな」

 

谷本さんのバックアップがなかなかに上手い。

夜竹さんは二刀流にて、鈴の剣を受け流そうとはしているが、重量の差で吹き飛ばされている。それでも、隙の少ない突きを繰り出すが、それも虚しくカウンターを受けている。更にはセシリアの精密射撃により攻撃のタイミングを逃している。結果、最初は上手く出来ていた連携は崩れている。夜竹さんが戦闘不可能になった後は、ビットと衝撃砲により弾幕の雨霰。この容赦の無さ、流石だった。

 

 

 

Lingyin View

 

「勝ちましたわ!」

 

あたしの背後でセシリアが大喜びしてる。

まあ、初戦はこんな感じだと思う。相手チームと握手してからピットに戻る。

 

「さてと、使った分だけエネルギー補充しとこっと」

「そうですわね」

 

さっきからセシリアはご機嫌。その内情としては…あの噂に流されているんだと思う。

優勝出来たら一夏と交際出来るとか。

 

知らないって幸せよね…一夏は簪とずっと交際してるってのに…。

あたしにとっては一夏は初恋の人、それはずっと変わらない。でも、もう折り合いは着いてる。

一夏と簪は、あたしの親友。それでいい。何処から噂が流れ始めたのか知らないけど、一夏も苦労人よね…。

噂に流されてる人がどれだけ居るんだか。それでもあたしは一夏と簪の事を口外するつもりは無い。

それが二人との約束だから。

親友との約束を反故したりしない。

 

「セシリア、次の対戦相手に合わせて作戦を練るわよ」

 

「そうですわね、目指せ優勝!ですわ!

そして一夏さんと…ウッフフフフフ…」

 

見事に噂に流されてるわね…セシリア…。

 

トーナメント表を見てみる。あたし達と入れ代わって対戦をするのは…あの女、篠ノ之 箒。

一夏と簪を苦しめた奴。

あの一件が無かったら友人くらいにはなっていたかもしれないけど、今となってはそれすらお断りね。

アイツは私達の敵、そう判断しておく。

 

対戦が始まったらしい。

けど、そのリザルトとしては、良好な対戦とは思えなかった。

タッグパートナーを考えず、連携なんて一片も無い。打鉄で真っ直ぐ突っ込んで行き、ブレードで殴るようにして斬りかかる。

あれで剣道全国大会優勝経験者だなんて、笑い話もいい所ね。

あれは剣道選手というか

 

「猪武者、だな」

 

後ろからそんな声。

振り返ると

 

「一夏、そろそろ出番だっけ?」

 

「まだ暫く後になる。

少し早いが、もうそろそろピットに行こうと思ってな。

鈴のパートナーは何処に行った?」

 

「セシリアなら今はエネルギー補給中よ。

あたしは先に済ませたからね。

この試合、どう思う?」

 

モニターに映っている試合を指差してみる。

あいつのせいで、タッグパートナーを努める相川さんが苦労してる。フォローに回ろうとしても、箒が睨んで黙らせてる。

「技術らしい技術が無いな、連携も出来てない、そんな所か」

 

あたしと変わらない事を考えていたらしい。

 

「三回戦までに敗退、俺はそう予想してる。

だがトーナメント表を見た感じ、あいつは二回戦にのぼったとしてもラウラとシャルロットのタッグとぶつかる。

勝ち目は無いから二回戦止まりで終わるだろう」

 

「準々決勝まで届かないって事?」

 

「次はシャルロットとラウラの対戦がある。

あの二人の連携の前に、無謀な突貫は自滅行為だろうな」

 

シャルロットとラウラを信じてるらしい。

ちょっと羨ましいわね。

 

「…と、終わったみたいだな。じゃあ俺はBピットに行くからな」

 

「決勝トーナメントで待ってるわよ」

 

「クラス対抗戦での決着、必ず着けようぜ」

 

コツンと拳をぶつける。

部屋から出ようとしたが、丁度エネルギー補充から戻ってきたのだろうセシリアが姿を見せる。

 

「態々来てくださいましたのね、嬉しいですわ!」

 

「一回戦お疲れさん、この後も勝ち残れよ」

 

「勿論ですわ!一夏さんとの再戦、楽しみにしてますわ。

今度はわたくしが必ず勝利しますわよ!」

 

「俺の体質上、出来れば避けたいところだが、そうはいかないみたいだな。俺も負けるつもりは無い。

今度は全力を出すさ、そして勝つ」

 

こうやって敵に塩を贈るのも悪くはないわね。一種の宣戦布告だけど、互いに鼓舞しあうのも確かなんだし。

 

「私も!頑張ります!」

 

「頼りにしてるぜ、メルク」

 

「はい!」

 

一夏もメルクも気合い充分ね。応援してるわよ。でも、ぶつかったら手加減しないんだから!

 




セシリアと鈴の対戦ですが、あんまり熱くははなりませんでした。
もうちょっと文才が欲しいです。

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