IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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典型的かもしれませんね


刃をぶつけて

「ほう、ラウラ・ボーデヴィッヒに遭遇したのか」

 

その日の夜、俺は千冬姉と今日の事を話した。

ナイフを突き付けられた事も含めて。

 

「一夏、お前はあいつの事情は知っているのか?」

 

「ヴィラルトさんから聞いた。

で、部隊の風紀の為にも親しくなってくれ、だなんて無茶振りされたよ」

 

流石に無理が有ると思うけどな…。

そもそもなぜハルフォーフ副隊長に心を開いているのかも判らないんじゃ手段も思い浮かばない。

それだけ優秀な副隊長だからかもしれないが…。

 

「いっその事、勝負してみたらどうだ?」

 

「誰と誰が?」

 

「ボーデヴィッヒとお前が、だ」

 

「現役軍人のあいつと勝負して勝てる訳ないだろ千冬姉…?

そもそも、例の件が有ったから、あいつは…」

 

『遺伝子強化素体』

通称『アドヴァンスド』

戦闘の為に開発された試験管ベイビー。

その目的に応じたかのように、あいつは戦闘能力が特化した…が、それはISの登場により意味が失われた。

適性が高くなかったらしい。

それを上昇させる為に肉眼にナノマシンを植え付けられたが、意味を成さなかったそうだ。

だからこそ、『役立たず』の烙印。

今回は千冬姉に指導を受ける事になったのは、上層部の皮肉らしい。

俺からすれば、それすら気に入らない。

あいつが俺を憎悪しているのは、モンド・グロッソ決勝を棄権してまで俺の救助を優先したから。

二度目の栄光を俺が妨害したと思っているらしい。

 

「それに…あいつは間違ってるだろ。

役立たず扱いされたからって、他の誰かに八つ当たりをしていいわけじゃない。

孤立して…空しいだけだ…」

 

それを教えてやらないと…。

だが、どうやって?

 

「夕日をバックに殴り合うなんて御免だぞ」

 

ハルフォーフ副隊長のコレクションにそんなものもあったか…。

真似はお断りだ。

 

「どうすればいいんだか…」

 

 

方法その1(第1プラン)

料理で餌つけ

 

「要らん」

 

蹴飛ばされてた

 

 

方法その2(第2プラン)

真正面からぶつかる

 

「貴様あぁぁぁぁっ!!」

 

今度こそナイフで刺される

 

 

 

方法その3(第3プラン)

隊員達を頼る

 

「差し金は貴様かあぁぁぁっ!!」

 

騒ぎを起こしてどうする、俺

 

 

 

方法その4(第4プラン)

訓練に一緒に参加

 

「何故貴様が訓練を受けているんだああぁぁぁぁっ!!」

 

解決出来ない

 

 

 

方法その5(第5プラン)

ハルフォーフ副隊長のコレクションの方法を使う

 

「私に何をさせるつもりだあぁぁぁっ!!」

 

間違いなく死ぬ!(THE DEAD END) 

 

 

 

 

「…詰んだ…」

 

駄目だ、方法が思い付かない。

 

「お前も面倒な事を頼まれたものだな」

 

今になってそれを言わないでくれ。

それこそ今更過ぎるだろ!

 

「仕方ない、私が何とかしておいてやる」

 

「何か良い方法が有るのか千冬姉?」

 

「ああ、一番手っ取り早い方法が、な」

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

正直に言おう。

「任せろ」だなんて言っていた千冬姉を今になって疑った。

なにせ

 

「いい度胸だな貴様…!」

 

目を爛々と怪しく輝かせる銀髪の黒兎がそこに居た。

殺意と殺気を剥き出しにして…。

 

だから言わせてもらおう。

 

「なんでこうなった…?」

 

千冬姉の言う方法。

それは『一対一の決闘』だった。

 

千冬姉、昨晩も言ったけど…現役軍人を相手に喧嘩を売るなんざ自殺行為じゃありませんか?

貴女は『自ら死地に赴け』とでも言いたいのですか?

…ああ、俺はこの決闘の後はどこかで身を潜めていたい…。

 

なんて現実逃避をしている間に、隊長殿はナイフ片手に詰め寄ってきていた。

頭を抱えたくなってきた。

ISを使わなくても、俺に勝機なんて塵一つ無いだろ。

どうしろってんだよ、この状況!?

 

「落ち着け二人共」

 

幸い、千冬姉が間に入って止めてくれた。

 

「決闘は今すぐにするわけではない。

一週間後だ、それまでは私闘は禁ずる。

判ったな」

 

「了解だ千冬姉」

 

「教官がそうおっしゃるのなら…」

 

隊長殿にも最後の理性は残っていたらしく、コンバットナイフを収納する。

だが殺意と殺気は未だに隠そうとしない。

その証拠に、食堂の片隅でまずそうなレーションをかじりながら、厨房に居る俺を睨んでくる。

…他のシェフも、俺が問題を起こしたのだと思っているのか妙な視線を向けてくる。

 

…誰でも良いから助けてくれ…。

 

その日、俺は久しぶりに料理を失敗し、リズとマリーにまで妙な視線を向けられた。

少しは同情くらいしてくれ…

 

 

 

 

 

それから、俺の剣術の訓練は更に過酷になった。

より速く、より鋭く、より正確に切り裂くように。

例え全力疾走している途中でも、速度を緩めずに抜刀出来るように、と。

なかなかの無茶振りだった。

更には、剣術だけでなく、武術まで習得するようにまで仕向けられた。

軍隊格闘にまで対応させるつもりなのか?

まあ、決闘をやるしかないのなら、これに関しては仕方ない。

 

そんな感じでの一週間だった。

決闘の時を迎えても、これから刃を交える事に、あまり緊張をしていなかった。

 

「織斑一夏…逃げずに来たみたいだな…!」

 

目が据わってるぞ、あいつ…。

そして相変わらず凄い殺気だ。

所持している武器は…例のコンバットナイフを逆手に持っている。

当たり前の話だが、模造刀じゃなさそうだ。

 

「此処で逃げたら、それこそ俺は負け犬だ。

…あの時から成長していない事になっちまう」

 

もう、あんな悔しさは二度とごめんだ。

 

「私が勝てば、織斑一夏!

貴様には即刻この駐屯地から退去してもらうぞ!

今から荷物をまとめておくんだな」

 

随分な言いようだな。

だったら売り言葉に買い言葉だ。

 

「なら、俺が勝ったら…そうだな。

…お前の食生活を改めさせてやるよ!

俺が滞在する期間…まあ、14日間、一日三食、合計42食は当然だが、それ以降も俺の指示したメニューを口にしてもらうぞ。

更にはレーションやサプリメントは摂取禁止だ」

 

「余計なお世話だぁっ!」

 

その言葉と同時にゴングが鳴り響く。

俺はすぐさま鞘から刀を抜いた。

隊長はナイフを右手に突っ込んでくる。

 

「武器を握った経験も碌に無く、戦闘経験も無きに等しい貴様相手に軍隊格闘など不要!

このナイフだけで片付けてやる!」

 

やれるものならやってみろよ。

そのナイフだけでな。

 

俺は横薙ぎに刀を振るう。

当然だが、この程度は簡単に躱わされる。

背後に回られ、ナイフで突かれるよりも前に、サイドステップで回避する。

 

今のは危なかった…!

 

 

着地と同時に袈裟斬りに振るうが、これも回避された。

すばしっこい奴だな…。

隊長はナイフを順手から逆手に持ち替え大きく踏み込んでくる。

 

ガギィッ!

 

「受けてばかりで勝てると思ったか?」

 

「いや、そんなつもりは無いんだけどな」

 

見るのは二度目になるが、…本当に目が据わってるな、こいつ…。

隊長がこんなにキレやすくて本当に黒兎隊は大丈夫なのだろうか。

 

隊長の左手が腰の後ろに隠れる。

一瞬、陽光が反射するのを感じとり、俺は後ろに向かって跳躍した。

 

「ふん、気付いたか」

 

「二本目のナイフ、か」

 

コンバットナイフの二刀流。

これがこいつの本領なのかもしれない。

千冬姉に視線を向ける。

これを知らない筈は無いだろう。

だが千冬姉は視線で

 

「構わん、続けろ」

 

…マジですか。

…やるっきゃないのかよ…。

 

刀を鞘に納める。

集中しろ、より速く刀を振るうイメージを持て…!

 

「降参のつもりか?

なら、これで終わりだ!」

 

少しだけ腰を落とす。

地面を強く踏み締め、刀を今まで以上に強く握る。

あいつはナイフを小さな手に逆手に握っている。

俺の間合いまで…もう少し…。

 

間合いに入った。

その瞬間!

 

「はぁっ!!」

 

抜刀と同時に横薙に振るう。

続けて下段からの振り上げる。

最後に大きく踏み込んでからの突き!

 

「…な…!今のは…!」

 

「浅かった、か」

 

千冬姉直伝の居合も僅かに掠めただけだった。

左目を隠す眼帯が吹き飛んだ。

 

隠された左目が露になる。

その左目は右目とは瞳と色が違っていた。

ナノマシンの植え付けの後遺症らしい。

 

「貴様…貴様…貴様………貴様あああぁぁぁぁっっ!!!!」

 

完全にトサカにきたらしい。

やべぇ…!

 

ナイフが今まで以上に速くなって襲ってくる。

受け止めるのも刀だけじゃ間に合わない!

 

ベルトから鞘を逆手に引き抜き、二本目のナイフを受け止める。

タイミング的には危うかった…。

 

「よくも…よくも…!」

 

今まで以上に目が憎悪に燃えている。

 

もう錯乱のレベルだ。

なりふり構っていられない程だろう。

ナイフを振り回すのもかなり太刀筋が荒い。

完全に我を忘れている。

だったら…

 

「そこだっ!」

 

刀の峰で手首を叩く!

左手からナイフが抜け、俺は返す刀で弾き飛ばした。

続けて襲ってくるナイフを鞘で受け止める!

逆手に握った鞘で力任せに押し切る!

 

「このっ…!」

 

「負けるか…よ…!」

 

鞘を持つ手の力を抜く。

敢えてナイフが俺の方向へ向くように。

だが、その勢いが早過ぎたら…

 

 

狙い通りだった。

 

隊長の軽すぎる体重で、その勢いにより、体勢が不安定になる。

俺は一歩大きく踏み込み、踵を隊長の足に引っ掛ける。

倒れ込もうとする体勢から、今度は仰向けに。

しかも既に両足が空中にある今、こいつはもう何も出来ない。

刀と鞘を投げ捨て、両手でこいつの両手を掴む。

 

「おおぉぉぉっ!!!!」

 

今度は俺が大きく倒れ込む。

互いの胸板を密着させ、そのまま俺の体と地面とで挟み込む。

 

柔道の技、『燕返し』

 

一か八かだが、上手く成功した。

まあ、俺も多少は体が痛むが、気にする程じゃない。

そして当の隊長は…

 

「…か…こほっ…」

 

俺の体と地面にプレスされ、肺の空気を全て出してしまったらしい。

しばらく呼吸もままならないかもしれない。

 

「さて、と…俺の勝ちだな…。

そうだよな、千冬姉?」

 

「ああ、そうだな。

見事だった」

 

剣術→居合→柔道

この流れ(奇策)で来るとは予想もしてなかったのかもしれない。

俺の悪い頭で精一杯考えたやり方だった。

けど、なんとか勝てたな。

 

「さて、約束だ。

今後二週間は俺の作った献立だけ食べてもらうぜ、隊長」




早くも一夏VSラウラでした。
で、この後に続くのは?
…はい、判りやすいですよね。
でも一夏の手元にアレが無いわけですが、どうなるのでしょう?
それは次回の投稿をお待ちください。
感想、コメントも待っています。

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