IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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え!?早くね!?と思う方はきっと多数居るでしょうね。
此処でも原作との相違点です。


双重奏 ~ 判明 ~

Ichika View

 

メルクの専用機『テンペスタ・ミーティオ』が届けられ、昨日の夕方訓練をすることになった。

正直、メルクが新しい機体にあそこまで早く慣れてしまうとは思わなかった。

楯無さんの提案による訓練ではあったが、これでメルクの技量も上がり、イタリアにも自慢が出来、更には俺の訓練にもなるのだから、一石二鳥どころか一石三鳥になる。

 

「実は…それだけじゃないんだけどね~」

 

などと含み笑いをしているのも気になるが…何か他に考えがあるのかもしれない。

考えつくとすれば、今度の学年別トーナメントだが…そこに何かがあるのだろうか?

 

途中からメルクと一緒になって楯無さんを相手に連携訓練をしてみたことも…ダメだ何も思いつかない。

 

 

 

早朝からの訓練も終わり、部屋へ戻る。

メルクからは訓練を一緒に行った事に、感謝をされたが、俺としてはそこまでしたつもりは無かった。

 

「あ、あの!今度、何かお礼をさせて下さい!」

 

「そこまでされるような事はしていないんだが…」

 

こんなやり取りをしていたが、まあ、いいか。

 

さて、俺は一旦シャワーを浴びてから朝食にありつくとしようか。

けど、その前に

 

「簪、そのままだと人にぶつかるぞ」

 

「…ふぁい…」

 

隣室から出てきた簪は寝ぼけ眼だった。

小さく欠伸をしている。もしかしたら夜更かしでもしていたのかもしれない。仕方ない、のほほんさんには悪いが…。

 

「お茶でも出す、それで目を醒ましとけ」

 

「…うん、そうする…」

 

このままじゃ食堂に着くよりも前に階段から落ちて怪我でもしそうだった。それは流石に見逃せない。なので、一旦俺の部屋に招き入れた。

そして、部屋の中には

 

「…あ…」

 

「…へ…?」

 

シャルルが居た。それも、バスタオル一枚の姿で。そして、その姿を見た途端、簪の意識が一気に覚醒した。

 

「一夏、少し部屋の前で待ってて」

 

「了解だ」

 

何故、そんな事になったのか。それは非常に簡単だ。シャルルはバスタオル一枚の姿。たかがバスタオル一枚でその体のラインは隠せる訳が無い。そしてアイツの体のラインは、男性にあるまじきものだった。それを視認した直後、簪の意識も完全に覚醒した、と言うわけだ。

ある程度は疑っていたが、これにて証拠を掴んだ形になる。

妙な形ではあったが。

楯無さんと千冬姉にメールで連絡を入れておいた。

 

5分程経過しただろうか。

 

「一夏、もう入っていいよ」

 

簪がドアを開いたので、俺はその言葉に従って入室した。部屋の中では、シャルル・デュノアがジャージ姿でベッドに座っている。そこに抵抗するような様子は何一つ無い。

 

「痛い、痛い、痛い、なんで背中を抓るんだ簪?」

 

「疚しい事はしてないよね、一夏?」

 

「何一つしてないから、だから抓るのを辞めてくれ」

 

俺の彼女は嫉妬する都度これだ。まあ、もう慣れているが。

 

「失礼する」

 

「お邪魔するわよ♪」

 

そして問答無用で部屋に入ってくる千冬姉と楯無さん。ノックくらいしてもらえませんか?もう手遅れだけどさ。

 

「立会人はこれで充分か。

さてと、事情を話してもらうか」

 

こうしてシャルル・デュノアへの尋問が始まった。

 

「本名は…後回しでもいいか。身分詐称を行った理由、学園潜入の目的、洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「…はい…」

 

シャルルの目は完全に諦念に満ちている。

そして虚ろだった。もう何も映していない。こんな目をした奴には今まで出会ったことは無かった。

 

 

そしてシャルルは語りだす。

今回の経緯を。

 

「…僕の今回の学園潜入の理由は…世界唯一の男性搭乗者である織斑 一夏の殺害、及び、その機体を強奪した上でのデュノア社への帰還です」

 

そしてシャルルは語り始めた。

動機は、フランスのIS開発企業であるデュノア社の危機を挽回する事。

世界有数の開発企業ではあるが、第三世代機開発におけるイグニッションプランにからはすでに除名されている。それ故に、再び企業を発展し、世界に遅れぬ必要があった。

優れた汎用性を誇るだけの第二世代機である『ラファール・リヴァイヴ』では限界を迎えていた。

だから、第三世代機開発の為にもデータが必要だった。そんな折りに世界でたった一人、男性搭乗者のである俺の出現が全世界に報道された。俺がIS学園に入学する事を知り、世界で二人目の男性搭乗者として偽り、IS学園に入学させ、俺に接触させようとしたらしい。

世界にたった一人だけ存在するイレギュラーなら、相応のスペックの専用機が与えられる事を見越した上で。

昨今、個人に与えられる専用機は第三世代機である事が多い。接触し、強奪するには都合が良かったのだ。

 

だが、疑問が幾つも残る。

 

「白式の強奪は置いといて、何故、俺の殺害まで目的に含まれているんだ?

デュノア社の怨みなんて買った覚えは無いぞ」

 

「デュノア社総帥婦人が女尊男卑主義者なんだ。

今はその人がデュノア社総帥である父さんを蔑ろにして掌握しようとしてる。

IS開発技術が進み、女性優遇社会が成り立ちつつあるこの世の中で、世界でたった一人だけだったとしても男性搭乗者(イレギュラー)の存在が気に入らなかったんだと思うよ」

 

とんだとばっちりだ。そんな理由で俺を殺そうとしていたのかよ。『気に入らなかった』なんて理由で殺されるこっちの身にもなってくれ。

そもそもデュノア社総帥夫人なんざ俺は顔も知らないぞ。

 

「ふぅん、一夏君に接触しようとした理由はそういう事だったのね」

 

「酷い…そんな理由で…」

 

楯無さんは疑問が解けたといった具合に、簪は俺の代わりに激昂する寸前だった。

だが、話はそれで話は終わりではなかった。

 

「総帥婦人からの命令では期限は一ヶ月。

それ以上は性別詐称を疑われる可能性が高い。

だから、強奪と殺害が不可能だった場合は、速やかに自害するように婦人から命令されていたんだ。

この一ヶ月は…僕にとっては余生だったんだ」

 

気に入らない。

何もかもが気に入らなかった。

たかが15か16のガキにこんな命令を下す大人が。そしてそれに唯々諾々としたがう目の前の人形が。

 

「千冬姉、どう思う?」

 

「気に入らんな」

 

だと思った。眉間に皺が寄っているだろうな、見なくても分かる。きっと楯無さんもだろう。

 

「シャルル、お前はこれからどうしたいんだ?」

 

「これから…か…正体もバレて、動機も知られた…なら…速やかに自害して、次のデュノア社の密偵が放たれるのを促すか、投獄されるかだろうね」

 

諦念に満ちた目はそれが原因か。だが、そんな話など知ったことではない。

俺が聞き出したいのはそんな話ではない。

 

「アホか」

 

「あ、アホって!?な、なんで!?」

 

「『これからどうなるか』なんて訊いてない、『お前がどうしたいか』を言え。

デュノア社の命令か、親父さんの命令か、総帥夫人によるものかは知らない。

だがそんな事はどうでもいいし、知ったことではない。

正直な事を話せ」

 

シャルルの目元に涙が滲む。

僅かにだが光を取戻しつつあるようだ。

 

「僕は…総帥夫人に君の殺害を命じられて…父さんから、IS学園への転入を言い渡されて…」

 

成程、親父さんからは暗殺の命令は出されていない、か。

俺の殺害は総帥夫人からの命令、親父さんからは転入しろとの命令、と分化されているようだ。

 

「いい親父さんを持ったな、総帥夫人とやらには悪いが、このIS学園は治外法権が成立している場所だ」

 

「治外、法権…」

 

「よく聞けシャルル、お前にはこの学園に在学している間は自由が確約されている。

IS学園は、世界の何処にも属さず、企業、団体にも縛られない。

外部からの干渉が有ったとしても、お前が拒否すれば、全て断れる」

 

「…………」

 

「お前だって将来やりたい事は有るだろう。

在学期間に、対処方法を考え、実行すればいい。

卒業と同時に…いや、この一ヶ月間よりも早くに、だ」

 

 

 

方法はこれから模索するしか無い。それでも俺はこいつに協力してやりたかった。親の都合に振り回されるのは、いつも子供だ。

子供の喧嘩に、親は仲裁以外に干渉しようとしない。

なのに、大人同士のいさかいに子供を巻き込むのは納得出来なかった。

だから、大人の呪縛に縛られているシャルルを助けたい。

 

「…僕は…君を殺そうとしていたのに…なんでそんなに優しくしてくれるの…?」

 

「人が人に辛く当たる理由なんて知った事じゃない。

だとしても…」

 

「人が人に優しくするのに、理由は必要なの?」

 

俺の言葉の後半を簪が代わりに言ってくれた。

俺にとって、簪もそうだった。あの日、空港で出会った彼女に、悲しそうな表情をしてほしくなかった。儚い笑顔を見た時に、その笑顔を守りたいと思ったように…。

 

「対処方法は必ず有るわ、それを一緒に捜しましょ♪

織斑先生も良いですよね?」

 

「私まで巻き込むか。…まあ、勝手にすればいい、邪魔はするつもりは無い」

 

生徒会長と学年主任のお許しも出たんだ。試行錯誤をしていこう。

そして、シャルルを苦しめる呪縛から解放するんだ。

 

俺は、右手をシャルルに差し延べる。

視線は決して反らさなかった。

 

「俺の手を取れ、今はそれでいい」

 

「…一夏…ありがとう…」

 

迷いながらも、シャルルは手を延ばし…その華奢な手を、俺の手にのせた。

契約は、成立した。俺にはまた、護るべきものが一つ増えた。

 

「…ぅ…」

 

「…?」

 

「…うあああああぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」

 

大きな声で泣き始めた。まあ、今はそっとしておこう。今の今まで我慢していたんだろうし、その涙は誰にも止められないんだ。

 

「なかなかにヘビーな話だったな…」

 

「けど、知ったからにはほっとけないだろ」

 

「そうね、お姉さんも頑張っちゃおうかしら♪

シャルロット・アイリスちゃんの為にね」

 

楯無さんが言うには、それがシャルル…もとい、シャルロットの本名だったとの事。

『シャルロット』→『シャルル』

…捻りが無いにも程がある。まるで使い捨ての駒のようだ。

後に楯無さんの調査で分かったが、シャルロットはデュノア社総帥の愛人の娘だったらしい。

だが、彼女の母、旧姓『メリッサ・アイリス』が事故死後、デュノア家に引き取られ、企業にてテストパイロットをしていたとか。その頃には、正妻からは、酷い仕打ちを受け続けていたらしい。個人的にも、世間的にも許されないだろう。

 

「デュノ…アイリスに関してだが、近い内に書類不備として転入させなおす。

他は…お前達で何とかしろ」

 

「そんなアバウトな…」

 

とはいえ、学生でしかない俺達には限界もある。使えるものは使うしかないが…

 

「専用機は、組み上げからカスタムまでシャルロットちゃんがやってるから、デュノア社は彼女から奪えないわ。

けど、強化パッケージは…フランスにも更織家に協力的な企業も有った筈ね、そこを頼りましょうか」

 

凄ぇ…俺が見ているだけの間にどんどん話が決まっていく…。

 

「デュノア社はどうするんですか?

一応、とは言え総帥夫婦はシャルル…シャルロットの両親ですよ。親権云々なんて言われたら」

 

「問題無いわ、シャルロットちゃんを蔑ろにしていたのは正妻だけよ。父親は今は療養、との事になってるから。

問題があるとすれば…『療養』は便宜上のものであって、どこかに幽閉されているらしいのよね…簡単に死なせたりはしないだろうから、この三年間は大丈夫でしょうけど…フランス政府に貸しを作ることになるのは避けられないかしら」

 

要はシャルロットの親父次第か…どんなオッサンだか知らないが、不器用な親父のようだ。

 

時間を見てみる。…今日は朝食は抜きになりそうだな。

SHRには遅刻しないようにしなければ…。簪と千冬姉には先に行ってもらう。

念には念を入れてSHRへの遅刻を見逃してほしいとは言ったが、出席簿で一発叩かれた。

…先に制裁を下すとの事だろう。

 

「どうしたいのかは見つかっていないようだし、冷静になって考えてみろ。

見つかったのなら…教えろ、とまでは言わない。

そこに向かって歩いてみろ、お前の人生はお前だけのものだ。

考えをまとめるにも期限は…そうだな、今度のトーナメント終了までだ」

 

「そうそう、ここで一夏君にお知らせよ」

 

人が話している最中に横槍が入る。

無論、楯無さんの横槍だ。遠慮も何もあったものではない。今更だが。

 

「今度学年別トーナメントだけど、『個人別』から『タッグマッチ制』に変更になるのよ。

つまり、二人一組での試合として執り行われます」

 

タッグマッチ、か…。連携訓練も必要に…あ、メルクと合同で訓練をさせたのはこの為か。

公式試合では未だに目立った成績を残せていないメルクに活躍の場を与えようとしてるってことか。

さらには俺にとっての初めての連携訓練にも使える、と。

一石三鳥どころか『一石五鳥』だ。

 

「シャルル…じゃなかった、シャルロット、お前はラウラとタッグを組んでみろ。

あいつは明確な目標を持っている、参考になると思うぞ。

俺からもラウラに一報を入れておく」

 

「…うん…そうしてみる」

 

なんだその不満そうな表情は?

 

 

だが、そんな事を思っても仕方なかった。

『学年別個人トーナメント』改め、『学年別タッグマッチトーナメント』は、再来週に迫っていた。




おはようございます。
雨男のレインスカイです。
転入二日目の朝に正体判明、早すぎですかね。

そして一夏君はまたも無意識でフラグを立ててしまっています。
総帥夫人には原作以上に腐ってもらいました。
出番については考えてはいませんが。

なお、先日の『テンペスタ・ミーティオ』の紹介でコアナンバーを『467』と設定していますが、これにはある意図を含めています。
何故、同じナンバーを持つコアが二つ存在しているのか、それはまだ先の物語で明らかにするつもりですので、今はスルーしてください。
では次の投稿にてお会いしましょう。

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