IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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ついにあの子にも


双重奏 ~ 鵬翼 ~

Laura View

 

兄上との試合を終えて、私は簪達と一緒に教室に戻る事にした。

なお、兄上はいったん寮に戻ると言って、屋上から飛び降りていった。ドイツでヴィラルドが教えていたフリーランニングを今でもやっているらしい。

流石に屋上から飛び降りるとは、思わなかったが。

 

「なあ、簪」

 

兄上が日本に帰国してからも、文通をしており、それを通じて簪や鈴にマドカとも知り合っていた。

こうやって向かい合う日が来るとは思っていなかったが。

 

 

「どうしたの?」

 

「兄上なのだが…なんと言うか…食事をしている時も、試合をしている時も、表情がまったく変わらなかった。

…病状が悪化と聞いた、それも人為的に、と。

何処の誰のせいなんだ…?」

 

「銃を…突きつけられたの。

何処の誰なのかはわからないけど。

でも、その状況を作り出した人なら知ってる。

でも…箝口令が敷かれているから、その時のことは詳しくは話せないの」

 

いったい、何が有ったんだ。

教官に尋ねてみるべきだろうか。

 

「まあ、それは後にしましょうか。

もうすぐ予鈴が鳴るわよ」

 

致し方ないか。

放課後には一緒にISの訓練をしてみよう。

 

 

 

 

Ichika View

 

午後の授業も終わり、教材を鞄に入れる。

この後はISの訓練だ。

近い内に学年別個人トーナメントが開催される。

アリーナも使える時間もそうだが、使える更衣室も制限される。なので、とっとと教室を飛び出す為に窓に向かって走りだそうとした瞬間。

 

「待て、一夏!」

 

篠ノ之に呼び止められる。

視線は別に向けるつもりは無い。

もうマドカがナイフを抜いている筈だ。

 

「この前の話の続きをしたいんだが」

 

「…何か言ってたか?

そもそも俺はその話には興味が無いんだが」

 

「私がトーナメントで優勝したら!」

 

「時間が無い、じゃあな」

 

俺は窓から飛び出した。時間が無いのは確かな話だ。楯無さんに鍛えてもらっているから、時間に遅れるわけにはいかない。

後はマドカに任せよう。

 

 

 

Houki View

 

一夏は私の言葉を聞かずに窓から飛び出していった。

何故だろう、一夏が私に対してこんなにも距離を空けているのは…。

今日、転校してきた生徒相手にも、いきなり親しくしているのも気に入らない。

私が口にした約束も、まるで覚えていなかったと言わんばかりの対応。何故、幼なじみの私に…なんでだ…!

 

 

 

Laura View

 

「…兄上は、いつも窓から飛び出しているのか…?」

 

兄上が窓から飛び出す直前には、マドカが絶妙のタイミングで開いていたが…まるで慣れた作業のようだったな…。

 

「ええ、毎日あんな感じですわよ。

時間が勿体ないと言って、窓から飛び降りてますわ。

朝にはシャルルさんを肩に担いでましたわね」

 

「…私も真似てみるか」

 

兄上の後を追うように、私は窓から飛び出した。

生憎、兄上の姿はもう見えなかったが。

仕方ない、適当なアリーナに出向いてみようか。

 

 

 

Ichika View

 

全力疾走をして、アリーナの更衣室に飛び込む。続けて急いで着替え、グラウンドに飛び出した。

毎日毎日こんな事をやっていたら、いい加減慣れてきてしまっている自分に呆れていた。

『全力で駆け抜けた青春』

言葉にすれば、いい響きかもしれないが、物理的にそれをやっていれば、ただの珍光景でしかない。

そもそも俺の場合は毎日毎日走ってばかりだ。

この学園は俺をマラソン選手にでも仕立てあげたいのか?

 

「やっと来たわね一夏君」

 

「なんでそんなに早いんですか」

 

全力疾走してきた俺よりも早くに楯無さんは到着しているのも、またいつもの光景だ。

ちなみに開いた扇子には『神出鬼没』

どうせSHRは代返しているのだろう。

 

「聞いたわよ~♪

簪ちゃんにお弁当を作ってあげたらしいわね。

明日はお姉さんにもご馳走しなさい」

 

「…お握りでよろしければ」

 

「もっと手間をかけなさい!」

 

頼む側がそんな態度って…いや、こんな事を言ってもこの人には通じないな。

 

「そうそう、今日はお客さんが居るのよ」

 

「客?誰ですか?」

 

「わ、私です!」

 

グラウンドに来たのは…桜色の髪の女の子だった。

見覚えはある。それもしばらく前に。

 

「しばらく振りです、一夏君!」

 

あ、思い出した

 

「一組三組クラス代表、イタリア国家代表候補生のメルク・ハースです」

 

「ああ、久しぶりだな」

 

「は、はい!」

 

口調も柔らかくなってほしいんだが…まあ、いいか。セシリアのような例も有るんだから。

 

「実はこの娘、専用機が与えられる事になったのよ」

 

専用機開発が遅れているとの話は4月に訊いていたが、今の今まで掛かっていたのだろうか。

スピードが自慢のイタリアにしては珍しい話だ。

 

「専用機…イタリアだから…『テンペスタ』でしたね」

 

扇子が閉じられ、再び開く。今度はそこには『大正解♪』の文字。

あの扇子、そろそろ分解して内部を調べてみたいかも。

 

「『テンペスタ』シリーズでも最新鋭機、『テンペスタ・ミーティオ』です」

 

直訳『嵐の流星』。

それはさぞかし速そうだ。

それに外見も気になるな、そして当然ながら武装はどんなものを載せているのやら。

 

「『テンペスタ・ミーティオ』、展開!」

 

メルクの体に最新鋭の機体が展開されていく。

それは確かに、スピードに特化しているようなフォルムをしていた。

白銀色のボディ、脚部は非常にスマートで加速のために限界まで重量を減らしているようだった。

更に背後には特徴的な非固定浮遊部位。鵬の翼のような大きなスラスターが展開されている。こいつが曲者だろう、大出力を備えているはずだ。

それも二対四基、出力は白式にも匹敵しそうだ。

武装は…まずは2連装のレーザーライフル。これはセシリアのブルー・ティアーズに搭載されている『スターライト』と比較すれば出力は劣るが、連射性能を引き上げている。

なお、サイズとしては片手で持てるサイズになっている。

続けてレーザーブレード。

実体剣ではなく、刀身の全てがレーザーで出力されている。

これもまた軽量化が重視されている。

そして腕部には杭状の装備が搭載されているが、あれは何なのだろうか?

しかし、だ。ここでまた疑問が一つ

 

「それで楯無さん、俺の訓練の筈が、何故メルクとテンペスタの説明を?」

 

そう、まだそれを聞いていなかった。

今日の放課後には俺の戦闘訓練のために使うとのことだった。

なのに何故?

 

「この子の機体が高機動特化型なのは理解したわよね?」

 

「そりゃあもう、この機体の姿から大体は」

 

「そして一夏君の機体である白式も同じく高機動特化型、速度は白式と同等よ。

だから、メルクちゃんに機動訓練をしてあげてほしいのよ。

訊いたわよ、友人の妹さんが来年にはIS学園入学希望なんですってね。

その時の予行演習だと思って頑張ってみて」

 

告げ口をしたのは多分、簪かマドカだな。

まあ、確かにそんな事を話していたよな、この前の休日には。

悪友の妹にあたる『五反田 蘭』、今は女子校に通っていて、生徒会長をやっているらしい。

IS適性検査では高い適性値を叩き出し、新学校への進路を捨ててIS学園入学を目指し勉強中だ。そして入学できた場合、俺に教わりたいとのこと。

…俺だって素人に毛が生えた程度なんだけどなぁ。

 

「更に言うと、この最新鋭機を今度のトーナメントで活躍させてほしいってのがイタリアの本音でしょうね」

 

それに関してはイタリア本国に苦情を出しても構わないと思う。

この機体を活躍させておきたいのなら、もっと早くに機体の組み上げを終わらせておくべきだろう。

トーナメントまで、そこまで時間があるわけではないのだから。

メルクもこの機体の操縦に慣れるまでそれなりに訓練が必要になるだろう。

 

「あの、よろしくお願いします!」

 

「お、おう」

 

やれるだけやってみるか。

結局、その日の放課後の時間の半分はメルクの訓練に費やした。

確かにテンペスタのスピードは凄まじいものだった。白式とは同等、この学園でこのスピードは見た試しがない。

途中から簪やシャルルも訓練に加わり、メルクはテンペスタのスピードに慣れていった。そして訓練をしていると

 

「速い…」

 

「凄い…流石テンペスタ…あれがイタリアの最新鋭機」

 

やはりその速度に簪とシャルルも驚きの声を隠せずにいたようだった。

二人の視線は、白式にピッタリとついてくるテンペスタ・ミーティオに向けられている。

 

「機動性に関しては問題なさそうね。

瞬時加速(イグニッションブースト)とかのような高度機動訓練はまた後日にして

なら戦闘訓練に移りましょうか

それじゃあ、メルクちゃんの戦闘訓練は簪ちゃんに任せて、一夏君、かかってらっしゃい!」

 

「了解!」

 

テンペスタ・ミーティオから離れ、俺は双刀を抜刀する。いつものように右手に雪片、左手に雪華の構えだ。そして楯無さんはラスティー・ネイルを右手に握っている。

今回こそ…勝つ!

 

 

 

 

 

Laura View

 

放課後になり、兄上は窓から飛び出していった。私も真似してみたが、兄上程上手くはいかなかった。少々擦り傷を作ってしまったが、気にするほどでもないだろう。

そのまま適当なアリーナに入り、ISスーツに着替えてからグラウンドに向かおうとしたが

 

「あ、ラウラ、アンタも特訓?」

 

これまた兄上の手紙で知り合った友人である鈴と遭遇した。確か、中国の国家代表候補生だったか。身長は私よりも少し高いくらいか。

 

「うむ、軍人たるもの、日々の訓練は決して怠ったりはしない。

とは言え、友人を作るのも大事だとは思うがな、このアリーナには訓練に熱心な者が多く居るだろう。そういう者と触れ合うのも悪くはなさそうだ」

 

「一夏と知り合ったばかりの頃の話も訊いてたけど、随分と印象が違うわね」

 

「『孤立』と『孤高』は違う、私はそれを学んだだけだ」

 

そう、教官と兄上のようにな。それに、兄上の傍には簪も居る。

…今になって思ったが、近い将来、簪を姉上と呼ぶべきなのだろうか…?これは兄上と簪に尋ねてみるべきだな、そうしよう。

 

「それと…訊き辛い事になるのだが…、兄上が銃で撃たれたと聞いた。

そしてその状況を作り出した者が居ると。

それに関しては教えてもらえないだろうか」

 

「箝口令が敷かれてるから詳しいことは言えないのよね…。その最中に、どっかの馬鹿が余計なことをしでかした所為で一夏は銃で撃たれたのよ。ISを展開してたけど、シールドエネルギーが切れて脇腹に負傷をしているわ。

それと…発作…というか錯乱してね。

で、その時のショックで感情を出せなくなったのよ」

 

そんな事があったのか。しかし…鈴の言う『馬鹿』とはどんな奴なんだ?

そもそも、何故兄上はPTSDの事を他の人間には言っていなかったのか?

いや、そんな事は無いだろう。しかし…まだ、治っていなかったのだな…。

まあ、簡単に治るものだとは思っていない、それに関しては教官も言っていた。

兄上は両肩と腹部を銃で撃たれ、傷が今でも残っているらしい。

肝心な『撃たれた記憶』は兄上の中には存在していないらしい、だが正確には失っているというべきか。

失った記憶に恐怖している…?

 

「と、噂をすれば…」

 

「ん?」

 

鈴の視線の先には、一人の女子生徒が居た。打鉄(うちがね)を纏い、訓練をするわけでもなく周辺をキョロキョロと見回っている。

…何をしているんだ、アイツは?

隣を見れば、鈴の視線が徐々に冷めていき、今では冷たくなっている。

まるで蔑むかのように…

 

「あの女子生徒、見覚えがあるな。確か同じクラスの生徒だった筈だ。

今日の訓練の授業では兄上をリーダーとしたグループから教官の手で引き離されていたが…まさか…!」

 

シュヴァルツェア・レーゲンのハイパーセンサーだけを起動させる。

集音機能を高め、音を収束させる。集音するのは、妙にキョロキョロとしている女だ。

更に学園の端末に接続し、校則に触れない程度にデータ収集を行う。

 

「生徒名簿参照…『篠ノ之 箒』、学園内では既に二度も問題行動を起こしている。

…ん?どちらも兄上に関与しているのか」

 

集音は…よし、もう少しで…

 

『…くそ、此処にも一夏は居ないのか…』

 

兄上を探している?

 

『剣道を捨てたなど…絶対に許さんぞ…私の手で改心させてやる!

一夏が振るうべきはあんな奇妙な剣であっていい筈が無い…!

絶対にあんなものなんて捨てさせてやる!』

 

そんな声が確かに集音出来た。様子を見れば周囲の女子に兄上の行方を訊いて回っている。

情報が手に入れられなければ悪態をつく。見ていて気分が悪い。

アイツは兄上の努力を否定しているようだ。

ドイツで私と試合をするまで教官の手で鍛えられていた。日本に帰国した後は教官の模倣ではなく、自分だけの剣を探していたとも教えてもらっている。

今日の昼の時間とてそうだ、お互いの刃をぶつけていたが、あの時の兄上は本気じゃなかった。まだ決め手となる何かを隠して戦っていた。それに関しては、簪からも教えてもらった。尋常ではないほどの努力で培った剣だと。

それを知らずに、ヤツは兄上の剣を否定するのか!?

 

「鈴、私はこれからこのアリーナで模擬戦を行う」

 

「へ?」

 

「間の抜けた声を出すな。手続きを頼む、相手は『篠ノ之 箒』だ。

急いでくれ、ヤツがこのアリーナを出てしまえば時間切れだ」

 

「ちょっと待ってなさい」

 

鈴がピットの方向へ走っていくのを確認する。これであの女に灸を据えてやれることだろう。兄上は…怒ることはないかもしれないが、ドイツで私が嫌いになったゴーヤ料理を食べさせてくるかもしれない。教官は鉄拳、クラリッサは…なんと言うだろうか。

だが、どうなった所で構うものか。

 

「展開」

 

右足のレッグバンドが私の声に反応する。

黒い装甲が私の体を包んでいく。

両手、両足、更に背後に非固定浮遊部位、右肩には大口径のリボルバー・カノン。

これが私の専用機、ドイツ製第三世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』だ。

 

スラスターを作動させ、アリーナへと飛び込む。それとほぼ同時に

 

『当アリーナにて模擬戦が開始されます。一般生徒は至急退避してください。

繰り返します』

 

鈴の手続きは早かったようだ、感謝しよう、友よ

 

『試合が開始されます。

Aピット ラウラ・ボーデヴィッヒ。

Bピット 篠ノ之 箒

この両名により試合が開始されます』

 

スピーカーから合成音声、これで場は整った。さあ、灸を据えてやる。

 

 

 

 

 

Houki View

 

「な、試合だと!?私が!?」

 

思わず耳を疑った。私は試合の申請などしていない。つまり、これは誰かが私を指名してきたということなのか?だが、何故私に?

一夏を探すのに私は忙しいというのに、なんで邪魔が入るんだ!

 

「篠ノ之さん、指名されてるよ」

 

誰かが私の名前を呼んでくるが私は無視した。構っている暇は無い。

一夏を見つけ、改心させる。そうでなければあんな奇妙なことを続けていれば一夏が落ちぶれてしまう。そんな事にはさせない。それに、勝手に剣道を捨てるような根性を叩き直してやらねばならない!それは幼馴染である私の責務であり義務だ!

 

「逃げるのか、臆病者め」

 

背後から蔑む声。

臆病者だと?この私が!?

 

「お前は…!」

 

「構えろ、模擬戦が始まるまで時間は僅かだ。それに放課後とて時間は有限だ」

 

そこに居たのは、転入してきて早々に一夏に纏わりついている女だった。

それだけでも気に入らないが、あいにく構っている暇など無い。一夏を探すことが最優先だ。

 

「お前に構っている暇は無い」

 

兄上(織斑 一夏)に戦い方を叩き込んだ者の内の一人が私だ、と言ってもか?」

 

「な…!?お前がだと!?」

 

一夏にあんな曲芸を教えたのがこの女、なら…こいつを倒せば一夏とて少しは改心するかもしれない…。

 

「剣道全国大会優勝者、だったか。接近戦に多少の自信があると見た、かかってこい『ルーキー』」

 

「貴様…舐めるのも大概にしろ!」

 

試合開始のブザーが鳴った。私はブレードを引き抜き、大上段に振りかぶって突撃していった。

例え代表候補生が相手だろうと、接近戦に持ち込んでしまえば勝てる自信があった。

私を侮っているのが見え見えのその表情、今に叩き潰してやる!

 




とうとうメルクにも専用機が渡されました。
なぜ一夏と訓練をしたのか…もう予想できている方も居ることでしょうね。
それではまた次回にて!

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