IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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2巻分始まりです。


黒翼天の世代分別を『13』とした理由に関してですが、西洋では『13』を『忌み数』だとか『非調和的な数』と扱われているそうです。
なので『Disaster』には相応しいものと判断したので採用させていただきました。

今後とも黒翼天の凄まじい面々を見せられたら、と思います。


金と銀

Ichika View

 

俺が感情を失ってから数週間が経過した。

だが、俺の感情は相変わらずだった。

剣の稽古では、千冬姉を相手に数週間続けた。

それでもまだあの高みには届かない。

だが渡り合える時間が長くなってきたのも事実だ。

残る一歩が足りない。

まだ訓練をしないとな。

部屋に戻り、シャワーを浴びる。

それから、俺、千冬姉、マドカ、簪の弁当を作る。

更には今日は転入してくるラウラの弁当も用意する。

この人数の弁当を用意するのも手馴れてしまっている。

弁当をクーラーボックスに入れてから食堂に行こうとしたが

 

「一夏!一緒に食堂に行こう!」

 

篠ノ之が駆け寄ってきた。軽く無視する。

こいつの謹慎は政府の臆病腰により、先々週に解除された。それから毎朝、部屋の前にて待ち伏せをしている。この行動力は別の方向に向けるべきだと思う。

 

「今日の授業内容は…」

 

楯無さんの話が確かなら、転入生は今日来校してくるとの事。

俺に続くフランスの『国家代表候補生』であるイレギュラーだが、情報は何も無い。

男性に扮装した女子、との予想だ。

そして、もう一人の転入生の情報ももらったが…

 

「まさか、あいつが転入してくるなんてな…」

 

あの小柄な少女が、ドイツからやってくるらしい。

しかも扱いは、こちらも『国家代表候補生』だそうだ。

しばらく前にメールを出したが、返信一つないのは、この学園に転入する為の準備期間だったのだろう。

 

「一夏、聞いているのか!」

 

ナイフの扱いを俺に教えてくれたが、あいつは…軍に与えられた機体、『シュヴァルツェア・レーゲン』を使いこなせているのだろうか。

いや、ラウラの事だから大丈夫だろう。

手合わせをしてみるのも悪くなさそうだ。

 

「無視をするなぁっ!」

 

殺気を感じ取る。

バルムンクを抜刀し、背後から振るわれる木刀を切断する。

続けて胸元を蹴り飛ばす。

そのまま吹っ飛び、廊下に転がった。

「げほっ…げほっ…な、何をするんだ…」

 

「こっちの台詞だ」

 

そして後ろにご用心。

 

「兄さんに近付くなと言った筈だ」

 

ナイフを引き抜いたマドカがそこに居た。

目が完全に据わっていた。

あ~あ、俺はもう知らない。

 

「一夏、おはよう」

 

「おりむ~!やっほ~!」

 

隣室からは簪とのほほんさん。だが廊下の光景を見たらしく…簪の目が鋭くなる。

視線は、折れた木刀、ナイフを抜いたマドカ、そんなマドカに取り押さえられた篠ノ之、そんな順番だろう。

事態を把握したらしい。

状況確認が早くて何よりだ。

「マドカ、そろそろ行くぞ」

 

「分かった」

 

ナイフを量子変換し、マドカは跳びはねるようにして篠ノ之から離れる。

 

「早く行こう、兄さん!」

 

「ああ、そうだな」

 

簪は俺の右腕に、マドカは左腕に、それぞれ腕を絡ませてくる。

…歩きにくい…。

なんでこうなった…!?

 

「あ、一夏…おはよ…って何やってんのよマドカと簪は?

それも一夏も」

 

「途中から俺も分からなくなってきた」

 

篠ノ之を追っ払った後から、俺には理解出来なくなっていた。

何故、腕を絡ませているのだろうか。

わざとか天然なのか、…多分後者だが、二人揃って胸部を俺の腕に押し付けてきている。

マドカも簪もそうだが、成長期故だろう、より女性らしいフォルムになっている。

俺たちが入学する直前に楯無さんが更識家にて凄まじい落ち込み様をしていたが…「簪ちゃんとマドカちゃんに越された…」等と言っていた。

何を越された、とまでは尋ねなかったが…あの時になんとなく理解してしまっていた。

俺の両腕に触れている温もりがそれだな。

…決して口にするつもりは無い。

感情が出ない事にも、今は黒翼天に感謝だ。

 

「簪とマドカが両腕を塞いでるなら…じゃあ、あたしは此処をもらった!」

 

そう言って鈴は背中に飛び乗ってくる。

おんぶ状態だが…こいつ軽いな。

ウェイトトレーニングにも足りないぞ。

 

「一夏~?何を考えてんの~?」

 

「今日の授業の内容だ」

 

適当に言っておいた。

 

 

 

 

Houki View

 

信じられなかった。

一夏が私を蹴るなど…。取り調べの時もそうだ、私は一夏に蹴られ、指の骨にヒビが入り、しばらく竹刀も握れなかった。

今でも多少の無理をして握っている。

 

あいつは昔は優しかった筈なのに…何故、私に対してあんなにも冷たい目を向ける…?

何故、あの頃のように名前で呼んでくれないんだ!?

それどころか…今のあいつは女に囲まれてヘラヘラしているだけじゃないか!

 

そうだ…私は一夏を誰よりも理解している。だから、あいつに悪い虫のような女が寄ってこないようにしないといけない。

昔のように、真っ直ぐな一夏に戻してやらないといけないんだ!

私と同じように竹刀を振るい続けていたように!

今のあいつが道を誤っているのなら、正すのが幼なじみである私の義務なんだ!

 

「一夏…必ず私がお前をあの頃のように戻してやる…!」

 

 

 

 

 

 

Ichika View

 

朝食も充分に食べ、教室へ向かう。

その時には、腰に『ダブル』を提げ続けている事に、すっかりと慣れてしまっていた。

こいつらは、生身で戦う際の相棒とも言える。

白式も俺にとっては相棒だけどな。

黒翼天に関してはどう言えばいいのやら。

 

「私はやっぱりハヅキ社製が良いかな」

 

椅子に座り、鞄の中から教材を取り出し始めた頃、そんな言葉が聞こえた。

 

「ハヅキってデザインだけっぽいじゃん」

 

「デザインが私は気に入ってるの♪」

 

どうやらISスーツの話らしい。

スーツに関しては生徒の中でも、機能優先派だとかデザイン重視派だとか色んな派閥があるらしい。

「私は…ミューレイかな~」

 

「でもミューレイって高いんだよね~」

 

値段に関しても企業や国によって差が大きい。学生の懐には寒風吹きすさぶ金額とて珍しくないとか。

だが、この学園の一般生徒が着用するスーツは、入学初期は学園の備品をレンタル。

その後、生徒の要望を取り、学園側からあちこちへ注文し生徒へ支給、その際には日本政府が全額負担する事になっている。

これまた釈然としない。

 

「織斑君とマドカちゃんのISスーツって、何処の企業のものなの?

見た事が無いんだけど」

 

と、俺のスーツにまで興味を持ってきたか。

 

「俺のは特注品だよ。今までは男性用のスーツなんて存在しなかったからな。

イングリッド社謹製の『ダイバーモデル』をベースにしたカスタム品だ」

 

最初はストレートアームを薦められたが、断った。腹にも銃で撃たれた傷が残っているから、ストレートアームモデルのような腹部露出のデザインはお断りだった。

だからダイバーモデルベースを依頼していた。

これに付け加え、手袋を着ければ全身の殆どを隠せる。

なお、これは余談ではあるのだが、その企業の従業員にもいい加減な奴も居るとかで、好奇心半分で男性用スーツを前以て作っていた輩が居たのだとか。

企業の金を使って、だ。横領として企業側から告訴されたらしい。俺のスーツがそれだったのではなかろうかとも思った時期も有ったが、どうやら違うとのこと。

 

「ダイバーモデルか~、そんなのも有るんだ~」

 

「特注品だからな、男性用って事も含めて二つと存在しないだろうな。

余程の事じゃない限り、依頼しても受け付けてくれないだろうな」

 

男の俺がISを稼動させられる事にもそうだったが、ISスーツの注文をした時にも妙な視線を向けられた覚えがある。

今となっては何も感じないが。

なお、マドカはISスーツまで俺とお揃いにしている。

 

 

俺がそんな風に思い返していると、山田先生がISスーツの事をスラスラと説明しながら入ってくる。

…友達感覚でからかわれているのは問題だとは思うが。

そしてそれを千冬姉が一喝し黙らせる。毎日こんな事が続き、早くも二ヶ月が経っている。

俺の知らない間にもこんな事が続いていたのなら、一年間の経験があるだろうな。

もう慣れてしまっている様子だ。

 

SHRが始まり、その内容としては『実戦訓練の開始』とか、ISスーツの注文だとかに関してだ。

 

「スーツを忘れた者は代わりに学園指定の水着を着用、それも無いものは…そうだな、下着で構わんだろう」

 

そんな女子が一人でも居ようものなら、俺はその日の訓練を全力でボイコットするだろうな。

千冬姉やマドカと暮らしていた頃もそうだが、ドイツ軍駐屯地に居た頃も、女性用下着なんて見慣れてしまっているから今更何も思わない。

付け加えて言えば、更識家に下宿させてもらっていた頃も、楯無さんが『水着エプロン』なんて格好で部屋に侵入してきた場合も有るので、見慣れてしまった。今なら女性が下着姿で歩き回っているのを見たとしても、表情一つ動かさないでいられる自信がある。

というか、確信している。

 

篠ノ之が睨んでくるが、至極どうでもいい。

 

「それでは続けて転校生の紹介に移ります。

なんと!二人も居ます!」

 

…来たな、この時が。

一人はドイツのラウラだろう。

曲者は、もう一人だ。

フランス出身の代表候補生。

そして、俺に続く『イレギュラー』。

更識家の情報網でも見付からなかった『男』。

それ故に、楯無さんも、簪も半ば確信している。

『イレギュラーを装った女子』だと。

そしてその目的は、俺と白式だろう、と。

さて、どんな奴なんだか。

 

「それでは入ってきて下さい」

山田先生の合図に、教室の扉が開かれる。

入ってきたのは…やっぱりラウラだった。

そして…金髪の『男子』だ。

 

「それでは自己紹介を」

 

先に口を開いたのは金髪の男子だった。

 

「『シャルル・デュノア』です。

出身はフランスです。この国では不慣れなことも多いと思いますが、宜しくお願いします」

 

今の所、教室は静寂に包まれている。

この教室にも情報通は居るだろうが、それすらかい潜っての『男子の転入』だったからな。

 

「だ、『男子生徒』…?」

 

「はい。僕と同じ境遇の人が居ると聞いて、フランスより転入を――」

その瞬間に俺は両耳を塞ぐ。

 

「きゃあああああああ―――――っ!!!!!!」

 

「男子!二人目の男子!」

 

 

「うちのクラスに二人目の男子!」

 

「線が細くて守ってあげたくなる系の人!」

 

「この年に入学出来てよかった~~!」

 

凄まじいソニックウェーブだった。さながら音響爆弾か。朝早くから女子高生のテンションが高いよな…至極今更だが…。

耳を塞いでいてもこれだ。

塞いでいなければ…山田先生のように目を回していただろう。

俺とてこうなっていた可能性があった。

『感情』が消失しても『感覚』まで消え失せた訳じゃないんだ。

 

「静まれ貴様等ぁっ!」

 

そしてそんな無駄に高いテンションを鎮静化出来るのは千冬姉だけだった。

とは言え、千冬姉の傍に座っているマドカが今度は目を回している。

…大丈夫だろうか。

 

「もう一人の自己紹介が終わっていないだろう、騒ぐのは後にしろ」

 

後でも良くないと思う。

せめて昼休憩にすべきだ。

 

なお、ラウラは沈黙したままだ。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

まだ千冬姉を教官と呼んでいるのか、一年間もそう呼んでいたんだ、癖になっているんだろう。

呼び方に注意されているが…この癖は早々に直せないだろう。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

ドイツ軍IS部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』隊長。

階級は中佐だ」

 

階級が上がっている、出世したらしいな。

最年少記録として残るだろう。

数年後にはドイツ軍の頂点に君臨するかもしれない。

 

「趣味は鍛練だ、宜しく頼む」

 

以前に比較しても随分と柔らかくなっている。ハルフォーフ副隊長の影響はそこまで受けていないようだ。

隊員の皆とは、上手くやっていたんだろうな。

 

 

そしてラウラは俺の所にツカツカと寄ってくると

 

「……………」

 

「……………」

 

互いに互いの目を見る。

ラウラの左目は、あの頃と変わらず黒い眼帯に隠されている。

事情を知っているのは俺と千冬姉、それにマドカと簪に楯無さん位だな。

 

「……………」

 

「……………」

 

視線の衝突は続き

 

刹那

 

 

ガギイィンッ!

 

悲鳴のような金属音。

その正体は、ラウラのナイフと、俺のナイフがぶつかった音だった。

 

「貴様っ!一夏に何を――」

 

篠ノ之が喚くがスルーした。

 

「あの頃よりも速くなったな、ラウラ」

 

「そちらこそ、腕を衰えさせていないようだな、『兄上』」

…誰が兄上か。

 

「「「「兄上えぇっ!!??」」」」

 

ほら見ろ、周囲の生徒が騒ぎ始めたじゃないか。

 

「えっ!?織斑君の妹さん!?」

 

「マドカちゃん以外にも妹さんが居たの!?」

 

「って事は織斑先生の妹!?」

 

「でも明らかに外国人よね!?」

 

「そもそも苗字も違うよ!?

どういう事なの!?」

 

…ハルフォーフ副隊長の洗脳を受けていたか…。

学園に転入すると知った直後から心配はしていたんだがな…悪い予感は裏切られることはないようだ。

いや、裏切ってほしかったんだが…

 

「む…皆が騒がしいようだが…」

お前のせいだ、ラウラ。

 

「静まれぇっ!」

 

今朝二回目の千冬姉の罵声が響いた。

ようやく意識が戻りかけたマドカが、復帰直後に再び昏倒した。

加減してやれよ千冬姉…。

 

「この後、着替えて第二グラウンドへ集合、二組と合同で模擬戦闘を行う、解散!」

 

鈴のクラスと合同か。

…質問責めに遭う気がするな。

前途多難だな、俺の人生は。

今日使用されていないアリーナは第二アリーナらしい。

その情報を集め、スーツを持って走り出そうとしたが

 

「織斑兄、デュノアの面倒を見てやれ。

同じ男子なんだ」

 

とは言うが、千冬姉も実際には察しているんだろう。

『シャルル・デュノア』が女子ではないのか、と。

だが面倒だから俺に押し付ける気が満々かもしれないな、あれは。

『形式上は』面倒を見ておくけどさ。

 

「了解です」

 

早くも意識を取り戻したマドカが窓を大きく開け放つのを確認しておく。

廊下からは足音が大量に聞こえてくる。

 

「一夏!あの転入生とはどういう関係なんだ!」

 

「一夏さん!二人目の妹さんが居ましたの!?」

 

ラウラの事はマドカや簪に鈴も知っているが、この二人には教えていなかったからだろう、早速突っ掛かってきた。

 

「マドカ、後を頼む」

 

「仕方ないなぁ」

 

「デュノア、こっちに来てくれ」

 

「何かな、織斑…うわぁっ!?」

 

悲鳴を聞き流しながら俺はデュノアを肩に担ぎ

 

「ひあああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!????」

 

勢いよく窓から飛び出した。

ちなみに此処は三階だ。

だが俺にとっては既に慣れたもの、木々を跳び移りながら地面へと近付いていた。

 

 

 

Madoka View

 

「兄さん、無茶するなぁ…」

 

稼動訓練の時には、兄さんは窓から飛び出していく。

最初は大丈夫かな、なんて思ったけど

 

「今じゃすっかり見慣れちゃったね」

 

「うん、そうだな」

 

ルームメイトの相川は苦笑していた。

ちなみに、私は兄さんの真似はしてない。

肩に担がれて道連れにされた覚えは有るけど、少し怖かったから遠慮させてもらっている。

初日は特に、夜になってから屋上から飛び降りたから本当に怖かった。

簪と一緒に気絶してしまったけど、私は悪くない。

 

「…やっぱり来たか…」

 

教室の外、廊下にはあちこちの教室から来たのか、女子生徒が集まってきている。

目的は兄さんとデュノアだろう。

まったく…呆れた連中だ。

 

「二人目の男子が来たから、みんな男に飢えてるんだねぇ」

 

「兄さんは誰にも渡さないぞ」

 

私が認めたのは簪だけだ。

浮気は許さないぞ兄さん。

 

「マドマドは~、ホントにおりむ~が大好きなんだね~」

 

「当然だ、私の兄さんなんだからな!」

 

ブラコン!なんて声も聞こえてくるが、私にとっては誉め言葉だ。

 

やいのやいのと喧騒は続くが、スルーする。

早々とISスーツを鞄から取り出し私は、彼女の方向に足を向ける。

ラウラも取り出すのが早い。

でも見てくれは白いスクール水着だ。

 

「こうやって直接向かい合って話をするのは初めてだなラウラ」

「…マドカか?

手紙は幾度も交わしていたな」

 

軽い会話に、握手。

兄さんには秘密にしていたけれど、ラウラが兄さんの事を『兄上』と呼んでいるのは、手紙を介して知っていた。

なんでも、ラウラが率いる部隊の副官からの影響なんだとか。

 

ラウラはどこか妙な表情をしている。

 

「マドカ、その…兄上は…一夏はどうしたんだ?

何故、あんなにも無表情なんだ?

私がナイフを向けた時も、その後も表情一つ変わらなかったぞ」

 

「…病状が悪化したんだ。

それも、人為的に」

 

「…すまない、気の悪くなる話をしてしまった。今は移動を急ごう」

 

そう言いながらラウラが向かった先は…さっき私が開け放った窓だった。

 

「ちょ、まさか…!?」

 

「ついてこい、マドカ!」

 

兄さんの後を追うようにラウラは窓から飛び出していった。

 

「ついて行かないから!」

 

兄さんもそうだけど、ラウラも無茶をし過ぎだ!

それよりも前に…ラウラは第二グラウンドの場所を知ってるのかな…?

…案内くらいしないと!

 

「待てラウラァッ!」

 

結局、私も窓から飛び出していた。

…簪には見せられないな、この光景は。

簪も真似してしまいそうだ、出来ないのに。

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「よし、到着だ」

 

「む、無茶し過ぎだよぉ…」

 

デュノアは俺の肩の上で目を回していた。まあ、意識があるだけマシかもしれないが。

 

「俺達男子は、稼動訓練や実戦訓練を行う場合は、使用していないアリーナの更衣室で着替えてから指定された場所に向かう。

遅れたら織斑先生に派手に叩かれるからな、間に合わせろよ」

「あ、うん。分かったよ」

 

「ならとっとと着替えるぞ。

向こう側のロッカーを使ってくれ」

 

俺の両肩には傷がある。こんなものを見られたくない。家に居た頃もマドカや千冬姉に見られないように気をつけていたんだ。

簪には見られてしまった覚えはあるが…。

 

とにかく、ISスーツに素早く着替えようとするが…

 

「…引っ掛かる…」

「引っ掛かるって何が!?」

 

ロッカーの向こう側からデュノアの反応。

独り言にまで反応するなよ。

 

 

 

 

「デュノア、もう準備は出来たか?」

 

「う、うん。もう大丈夫だよ」

着替えて終わったらしく、デュノアが姿を見せてくる。首からはペンダントが提げられている。

あれがISの待機状態のようだ。

どんな機体なんだか。

フランスと言えば、汎用性に優れた『ラファール・リヴァイヴ』が有名だが…。

楯無さんから聞いた話では、いまだに第三世代機が開発出来ておらず、イグニッション・プランからは除名されているらしい。

更にはデュノア社の株価は最近下落が続く一方だとか。

俺としては、ここら辺の事情はいまだに理解していないのが確かな話ではある。

『シャルル・デュノア』が男装をしてまでIS学園に転入してきた女子生徒と言うのであれば、大体の事情は俺も理解はできている。…揺さぶりをかけておくのも悪くさなさそうだ

 

「へぇ、着やすそうなISスーツだな。

それ、何処の企業のだ?」

 

「これはデュノア社製のスーツだよ」

 

「『デュノア社』、ね。

企業と名前が同じみたいだな」

 

「うん、僕の父さんが会社の社長だから」

 

その瞬間に、デュノアの目が寂しげな風に見えた。

…やっぱり何か事情が有りそうだな。

 

「…時間が無い、行くぞデュノア」

 

「『シャルル』って呼んでよ」

 

「了解だ、シャルル。

俺の事は名前で呼んでくれ、妹や千冬姉も居るからな、紛らわしいだろうから」

 

「うん、分かったよ一夏」

 

さて、授業に向かうか。

遅れるわけにはいかない。

 

「案内する、遅れずについてこい。

遅れると判断したら担いでいくからな」

 

「ぜ、全力でついてい…って、待ってよ!」

 

返事は必要最低限度を耳にしながら俺は走りだした。

 




原作2巻が始まりました。
弾君、省いてゴメンよ。
そして一夏君はラウラが転入してくる日にダブルを帯刀していました。
たとえ鞄とクーラーボックスを抱えていても抜刀するのにタイムラグも無しでした。
うん、居合の名人かもしれませんね。
それではまた次回!

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