IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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もうすぐ原作1巻の終了です。


災厄招雷 ~ 転居 ~

Ichika View

 

「で、皆この部屋に来たんだな」

 

1025号室には全員が集合していた。

マドカ、簪は理解できる。むしろ俺から依頼したのだから。

鈴、セシリアの二人も協力してくれるそうだ。

なお、その二人と同時にメルクもこの部屋に到着した。

楯無さんは機体の修復を急ぎたいそうなので、整備課に早々に向かったとの事。よかった、労働が一人分減った。

 

「引っ越しの準備するんでしょ?だったらアタシ達も手伝おうと思ったのよ」

 

「そういう事ですわ。

それで新しい部屋はどこになりますの?」

 

寮に戻る際に新しいカードキーを受け取ったが、そういえば見てなかったな。ポケットに突っこんでおいた封筒から新しいカードキーを取り出し、ナンバーを確認してみる。

 

「…一年生寮の2016号室だ、ちょっと遠いな。皆が手伝ってくれるから本当に助かるな。

とは言え、荷物はそこまで多くはないけどな、もとよりまた引っ越すことになるだろうと思っていたからそこまで荷ほどきしていなかったのが幸いだな」

 

着替え全般は俺がまとめる。これは流石に見られるわけにはいかないだろうな。

後は携帯電話に、洗面器具、それからキッチンの…

 

「兄さんの包丁セット発見!これも運ぶよ!」

 

「助かるマドカ」

 

「一夏さん、自分の包丁セットを持ってましたの!?」

 

「いろいろと事情があってな、記念にもらったんだ」

 

「『ダブル』は私が持っていくね」

 

『ダブル』を抱えているのは簪だ。彼女になら預けられる気がするので、そのまま頼んだ。

 

「あれ?アンタが以前から気に入って使ってた湯呑が見当たらないわね」

 

「よく覚えてるな、湯呑の事まで…」

 

「そりゃぁね。で、何処なのよ?」

 

「もう無い、篠ノ之が木刀で叩き割った、弁償するように言ったが、それもされていない。」

 

酷く今更ではあるが、責任感がアイツには無いな。

湯呑は明日にでも新しいのを買いに行こうか、軍資金はいまだに結構あるんだし。

 

「教科書や参考書は私が持っていきますね」

 

メルクはニコニコと笑いながら参考書が詰め込まれた段ボール箱を荷台に載せていく。

こういうときに笑い返す事が出来るのなら、俺ももう少し交友範囲を広げられるかもしれないんだがな…。

そんな事を考えながら荷物をまとめるのは…8分程で終わりそうだ。

私物が少ないなぁ、俺は…いや、持ってきてないだけだが。

先に皆が俺の荷物を持って部屋から出た後だった。

 

 

コンコン

 

部屋の外からノック音。ドアを開いてみると山田先生が居た。

 

「引っ越し準備はもうすぐ終わるみたいですね。

先程、伝え忘れた事項がありましたので、伝えに来ました」

 

伝え忘れた事?何だろうか?

 

「織斑君の部屋に、近々転入生の方が入寮するようになります!」

 

転入生?何故、俺の部屋に?

また女子生徒と相部屋になれとでも言うのか?

冗談だろう?

 

「あの…男子の部屋に女子生徒を放り込むのは、問題になるのでは?」

 

「安心して下さい、決して問題になったりしません」

 

「…は?」

 

「転入してくるのは、『男子生徒』です」

 

…俺以外のイレギュラーが見付かったのか…?

そんなニュースが有っただろうか?いや、無かった。

新聞、ラジオ、テレビ番組、それらのメディアにも無かった筈だぞ。

妙な感じがする、後日に楯無さんに聞いてみるか。

 

「それでは、確かに伝えましたよ」

 

「…ご苦労様です…」

 

妙な感じがするが、残る衣服をとっととまとめよう。

残るのは…ISスーツだけだな。

これを袋に入れ、荷物の片付けは終わりだ。

そして俺は荷物を肩に担いで歩き出す。

向かうのは、一年生寮だ。…またここに引っ越すことになるとはな…。

…そう言えば、以前まで使っていた1025号室に置き忘れたものがあったな。

…面倒だが、取りに行くか、俺の私物なんだし。

面倒だと思いながら俺は階段の前を通り越、例の部屋に向かう。俺がドアノブを握る直前にドアが開いた。

現れたのは、今日までルームメイトだった女子生徒だった。

 

「あ、一夏…」

 

「…居たのか」

 

「引っ越しの件だが、無理に移らずとも、またこの部屋に―――」

 

「そう思うのなら篠ノ之が部屋を移動すべきだな」

 

そもそも最初に男女同衾を問題視したのは篠ノ之だ。

今更何を言っているんだか。

 

「一夏、何故、以前のように名前で呼んでくれなくなったんだ…?」

 

「心あたりが無いか。

よく思い返すんだな、自分勝手な振る舞いを」

 

スーツを袋に入れ、衣服は全て整理して終わった。

さて、行くとするか。

 

「じゃあな」

 

「ま、待て一夏!」

 

「…何だ」

 

「来月の学年別トーナメントの事だ」

 

学年別トーナメント、か。

毎年の恒例行事として行われているらしい。

来客者も訪れた中、参加希望をした生徒で対戦を行わせるものだとか。

一年生は、授業内容の確認の為。

二年生は、一年間の集大成の確認の為。

三年生は、企業や国家のスカウトの為。

言わば学生を対象とした品評会とも言える。

イレギュラーの俺も評価されるかは怪しいけどな。

 

だが、篠ノ之は、その行事の事を口にして、どうするつもりだ?

「わ、私が優勝したら…私と…」

 

「寝言は寝て言え。

そもそもお前は3か月の謹慎なんだろう。

出場自体できるわけもない」

 

「いや、謹慎が短くなった。三日間だそうだ」

 

「くだらない…」

 

俺は部屋に置き忘れていたお茶の葉を荷物に放り込み、部屋を出た。

もののついでに足でドアを閉める。

行儀が悪いが、両手が塞がっているんだ。

大目に見てもらおう。

 

謹慎が短くなった要因はまた前回と同じだろう。

学園上層部、もしくは国際IS委員会が束さんの報復を恐れたのだろう。

そもそも篠ノ之が優勝など出来るはずもない。故国で厳しい訓練をしてきている猛者が大勢居るんだ。

更には専用機所有者も今年は1年には多く居る。

マドカ、簪、鈴、セシリア、そして俺。

俺以外は中・遠距離攻撃を得意とする機体だ。

俺とてまだ素人に毛が生えた程度だが、それ以下のアイツが訓練機で勝てる道理など無い。

訓練機で専用機を落とす事とて不可能とは言わないが、その為の訓練の時間すら制限される一般生徒の中にそれだけの技量を持ち合わせている生徒がどれだけ居ることか。

その対象には篠ノ之は入ることは無いが。

 

 

 

 

「…また全員集合してるんだな」

 

新しい部屋、2016号室には荷物整理を手伝ってくれた皆が、今度は荷解きをしていた。

ベッドの上に置いてくれるだけでも良かったんだがな。

 

「見られたら困るものを持ってるわけじゃないでしょ?」

 

「まあ、そうだけどな」

 

空港にて苦労したものなら所持してるわけだが。

包丁とか、『ダブル』とかだが。

 

「荷解きくらいなら、わたくし達でも手伝えますわ」

 

セシリアが持っているのは、正に包丁のセットが入った鞄だ。

しかし、何故それをベッド下に入れるのか。

 

「私からしたら、兄さんの部屋が遠くなるから、ちょっと不満かな」

 

「気が向いたら来ればいいさ」

 

マドカは冊子を机の上に置いて、本棚に並べてくれている。こういう所でも千冬姉とは差が出ている。

 

「なら、お泊り会とか開いてみるのも楽しそうだね」

 

簪は『ダブル』をベッドの傍に立て掛けている。

即座に抜刀が出来る場所だ。

 

「お泊り会、か。

それも楽しそうではあるな」

 

だが、あまり騒いでいると寮監が飛んできそうだ。

一年生寮の寮監は千冬姉だ、どんな仕置きが待っているやら。

 

「一夏君!冷蔵庫の中身の整理も終わりましたよ!」

 

「ああ、ありがとなメルク」

 

そこまで気を遣わなくても良いんだが…。

冷蔵庫の中身って…。

 

「参考書と一緒に料理の本も入れていたんですね。

いろんな分野の料理に手を出されているのもわかりました」

「IS学園に入る前は料理人になろうとしていた時期もあったからな」

 

それがどうなればIS搭乗者になるのやら。

料理をする合間が無いわけではないのだが。

 

 

少ない荷物の荷解きは、5分で終わった。

その間の雑談として、鈴や簪、セシリアの部屋の事も出ていた。

鈴は、この部屋の丁度真上の3016号室。

ルームメイトはアメリカ出身のティナ・ハミルトン。

これは先日教えてもらったな。

 

セシリアは、鈴の部屋の近所になる3024号室だとか。

そして簪は隣室の2015号室だった。ルームメイトはのほほんさんらしい。

 

メルクは鈴の部屋の更に上、4016号室との事。ルームメイトは5組のコロナ・ビークスだとか。…ドジやって自滅したアイツか…。

そして話は来月の事に移る。

 

「学年別トーナメントだが、皆は出場するのか?」

 

「あたしは当然参加するわ!

腕試しにも調度良いもん!」

 

「わたくしもですわ!」

 

「私も。打鉄弐式の戦闘データが欲しいから」

 

「私も参加します!ほかの方の技量も見てみたいですから!」

 

此処に居るメンバーは参加する気は満々らしい。

なお、俺は強制参加だ。データ収集の為、こういったイベントには必ず参加するようにと仰せつかっている。

拒否権は無い。国際IS委員会に殴り込みでもしてやろうかと思ったこともある。

とはいえ、その大会で勝利出来たのなら上々。

どこかで敗退したなら、それによって学べる事も多くある筈だ。

俺は周囲の生徒に比べれば大きなハンデを負っている。

それを乗り越え、勝利出来るだろうか。

 

「…俺は、どんな結果を残せるかな…」

 

登録は来週以降からだ。とはいえ、俺は既に登録されているのだが。

…厳馬師範はまた仕事をほっぽってまで応援に駆け付けてきたりしないかどうかが不安ではある。

…まあ、頑張ろう。

 

新しい部屋に集まった皆が解散し、俺はとっとと入浴を終わらせ、千冬姉から言い渡されていた報告書と反省文を書き終え、学内ネットワークを利用して寮監室に送信する。

続けてドイツに居るラウラにメールを入れておく。

『ラウラへ。

IS学園での生活にも随分と慣れてきた。

それどころか、今では何も感じないほどだ。

違和感とて無くなってきている。

そちらの駐屯地で世話になっていた頃には、下着姿でウロウロとする隊員も居たが、こっちも似たり寄ったりだ。

男への警戒心も全然無いのは今更で、それを偶然にも目にしてしまった場合、俺は例外無くマドカや簪に背中を抓られてばかりいる。

それと、依然はメールに便乗していた中国人の幼馴染である鈴もまた国家代表候補生としてIS学園に転入してきた。

相変わらず騒がしいくらいに元気な奴だったよ。

 

そうそう、このメールを出している今日だが、クラス対抗戦があった。結果は奇しくも引き分けで終わった。対戦相手は鈴だったけどな。

そして今度は学年別個人トーナメントが開催される。

俺はデータ採集の為に、こういったイベントは参加が強制されてはいるが、精一杯の結果を出してみようと思う。

 

今回教えられる事はこれくらいかな。

またメールを出すよ

 

織斑 一夏より』

 

 

 

 

「まあ、メールの内容はこれくらいかな」

 

流石に病症の悪化だとかPTSDによる発作を起こしたとかはメールでは伝えられないだろう。

文面をもう一度確認し、それから送信する。

寝ようかと思った時に

 

コンコン

 

来訪者が来たようだった。

このノック音から察するに簪だ。

 

「どうした、眠れないのか?」

 

「う、うん、実はそう」

 

こう言うのは、以前から時折あった。

更織の家にて世話になっていた頃も、だ。

枕を抱えて部屋に訪れていたよな…。

断る理由も無いので、俺はドアを開く。

そこに居たのは、やはり簪だった。

なお、簪の寝間着は俺に合わせてシンプルな白いパジャマだ。

 

「迷惑、だったかな?」

 

「そんな事は無いさ。

廊下は冷えるだろ、入ってくれ」

 

「お邪魔します」

 

怖ず怖ずとベッドに入る簪に続き、俺もそれに続く。

ベッドの中心から少しずれた場所に体を預け、右腕を延ばす。

その右腕に、簪が頭をのせる。

簡単に言ってしまえば、腕枕だ。

 

「久しぶりで落ち着く」

 

「そうか、そりゃ良かった」

 

頭を撫でると柔らかく微笑んでくれる。

以前の俺であれば、その微笑みを見ただけで、胸の内が穏やかになっていくのが実感できていた。

なのに、今の俺は…何も感じられない。

 

 

「体はもう大丈夫なの?」

 

「ああ、どこも痛みは無い」

 

「本当?」

 

「本当だ、だから安心してくれ。

さあ、そろそろ寝よう」

 

「うん」

 

明かりを消し、部屋は真っ暗になる。

一度、大きく息を吸う。

それを吐き出した時には、俺はすっかり眠りに落ちていた。

 

 

 

 

Kanzashi View

 

一夏が無事だった。

私はそれだけでも安心した。

だけど…あまりにもその代償が高かった。

 

「どうして、こんな事になるの…?」

 

一夏はまた、感情を失っていた。

ドイツで保護された時には『怒り』と『恐怖』の二つを喪失してしまっていた。

そしてこの学園に来て左手を殴られ、また発作を起こした。

そして…あの黒い龍のような機体を展開してからは…本当に、『感情』が失われた。

「どうして…どうして一夏ばかり、こんな目に遭わなくちゃいけないの…!?」

 

返して…!

一夏から奪っていった心を返して…!

 

「…ぅ…あ…」

 

涙が止まらなかった。

大好きな人が心を失っていく事に。

まるで、知らない誰かになっていく気がして怖かった。

でも…変わらないなにかもきっとある。

私は一夏が好き。その思いだけは失わない。これまでも…そして、これからも…。

 




三回目の投稿になりましたねレインスカイです。
冒頭にも書きましたが、もうすぐ原作1巻の終了です。
ここまで書いてみても長かったな…。
もうすぐラウラの登場ですね。
ドイツに居た頃には一夏君を「お前」呼ばわりを続けていましたが、今作ではどうなるのか。
ハルフォーフ副隊長に洗脳されていないか一夏君は少々不安だったりします。
それではまた次回にて!

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