IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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三連休!?
だったら有効活用しないと!
…連休最終日のテンションじゃありませんでした


小さな隊長

一週間程経過した頃、千冬姉は駐屯地を留守にした。

どうやらドイツ軍の本部に呼び出されたのだとか。

手持ち無沙汰になってしまった俺は、黒兎隊の中でも随一の剣士を相手に訓練をしていた。

 

「おらおらおらおらおらおらあぁっ!!」

 

随一の剣士…その剣は豪剣だ。

休む事もなく襲ってくる豪快な剣に俺はすっかり苦戦してしまっていた。

 

「ヴィラルド中佐、よくスタミナがもちますね…」

 

「この程度、張り合ってみろ一夏!」

 

速さは千冬姉には劣るが、脅威なのは、その威力だ。

単発でも一撃必殺、それを連続で放ってくる。

まともに受けていたら腕の骨が折れそうだ。

受け流すので精一杯だ。

 

「ふぅ…ふぅ…」

 

バックステップで距離を空け、息を整える。

だけど…もう目が慣れてきた。

 

チャキン

 

鍔鳴りの音を起てながら俺は刀を鞘に戻す。

 

「…ふぅ…」

 

集中しろ。

次に剣を振るってくる方向を見極めろ…!

最速の刀を振るえ…!

 

「休んでる暇は無いぞ!」

 

「判ってますよ!」

 

一気に走りだす!

足元を狙って剣を振るわれる。

それを直感で悟り、俺は地面を強く蹴り、跳躍する!

 

「うおぉっ!?」

 

ヴィラルド中佐の剣が空振りし、バランスが崩れる!

チャンスは今だ!

 

刀を強く握り、一気に振るう!

 

刹那、俺の刀はヴィラルド中佐の右肩を確かに捕らえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっはっはっはっはっは!!

オレの負けだぁっ!」

 

あの後、二人揃って地面に大文字に寝転がっていた。

…と言うか、俺は上手く着地が出来ずに派手に転倒。

ヴィラルド中佐は大笑いしながら、これまた豪快に倒れただけだ。

…どっちかって言うと俺の方が惨めだ…勝ったのに…。

 

「ご指導、ありがとうございます」

 

「フン、礼なんざ要らねぇよ。

そうだ、黒兎隊の隊長が近々この駐屯地に帰ってくるそうだ。

仲良くしてやれよ」

 

黒兎隊の隊長?

そう言えば副隊長には会ったが、隊長に関しては顔も名も知らないな…。

 

「どんな人なんですか?」

 

「年は一夏と同じだ」

 

副隊長より年下、そして俺と同い年?

 

「性格は中々にキツいぜ?

なにせ『ドイツの冷氷』だなんて仇名がついてる程だ」

 

どんな同い年だよ、関わりたくないな…。

 

「仲良く出来るかどうか不安ですけど…」

 

「…まあ、なんだ。

その性格で孤立気味なんだよ」

 

孤立、か…それは何とかしてあげたいんだけど…居候同然の俺に何が出来るだろうか…?

 

「それと…事情も有ってだな…」

 

「事情?」

 

聞いた話は…凄絶な話だった。

それこそ、存在意義を失いそうになるほどの…。

このままでは黒兎隊隊長の名を剥奪だけでなく、命を失う程だと。

 

「頼んでいいか一夏?」

 

「…保障しかねます…」

 

まあ、やるだけやってみよう。

同年代の人間はこの駐屯地に大勢居るが…隊長の性格で孤立に近い状態だ。

ハルフォーフ副隊長にも限界は有るだろう。

 

「やるだけやってみます」

 

「頼んだぜ、一夏」

 

先程も言った通り、保障しかねますけど…。

こうなったら当たって砕けろ。

そうするしか俺には出来ない。

スポーツドリンクを飲み、空を見上げる。

俺の心象など知らず、空は青くどこまでも広がっている。

少しは雲でも見受けられれば俺の気分も良くなっていたかもしれない。

 

その日の夕方から、俺は料理のレシピと睨み合いを始めた。

隊長がどういう人物かは知らないが、もし出会ったとしても悪い印象は持たれないようにしたい。

なら、俺の得意分野からだ。

隊長は俺と同年らしいし、此処は…

 

「スイーツとかが良いかな。

此処は手軽に作れるものが調度良さそうだ。

だから…よし、これにするか」

 

これなら夕飯を作る仕事のついでに作れそうだ。

さてと、それが決まったら早速仕事に取り掛かろう。

 

 

 

 

 

 

厨房に入り、シェフに頼むとあっさりOKを貰えた。

なので必要な道具と材料を拝借し、仕事を始めた。

 

そしてその間も隊員が食事を凄まじい勢いで注文してくる。

目が回りそうだが、そんな事にうかうかしていられない。

 

「イチカ~、リゾットをお願い!」

 

「私は洋風パエリア!」

 

「地中海風パスタ!を」

 

「は~い、ちょっと待ってくれ!」

 

シェフは年輩の男性なのだが、ここ最近は注文を言う際には俺に飛んでくる。

同年代だから、なのだろう。

…シェフの視線が痛い。

 

「リゾットにパエリアに…パスタか」

 

目が回りそうだな…。

ちょっとは休ませ…いや、俺にはそんな暇も無かったな。

 

で、その後はと言うと…。

 

「ハルフォーフ副隊長、注文されていたホットドッグとコーヒーを持ってきました」

 

そう、毎日これだ。

クラリッサ・ハルフォーフ副隊長の昼食はこれだけの量で終わる。

もうちょっとマトモな食事にすればいいと思うんだが…。

 

「ご苦労、入ってくれ」

 

「失礼します」

 

手袋をしている左手でドアを開く。

部屋の中では…日本のコミックを読み耽る副隊長殿がそこに居た。

 

「…何だ、その目は?」

 

「いえ、もう見慣れた光景だな、と思いまして」

 

「そうか、日本ではパソコンを操作しながら軽食を摂るのが普通だと聞いているが?」

 

…ネカフェだとかの事だろうか。

それとも引きこもりの事だろうか。

どっちだとしてもそれを『日本の当たり前の光景』にしないでほしい。

 

「いえ、違いますから…」

 

「何を言う、日本が発祥の地で世界各地に広まったのだと私は知っているぞ」

 

「だから違います!」

 

副隊長が引きこもりって、それが原因で黒兎隊が瓦解したらどうするんだよ!

何とかしてこの誤解を解かないとヤバイ!

 

「ところで、この部隊にはそろそろ慣れたか?

一週間と少し経過したが…?」

そういえば、もうそんなに経つのか…?俺が此処で世話になり始めてから…。

最初は悔しさから始まったけど…

 

「今は楽しくやってますよ。

千冬姉の特訓は激しいですけど俺が望んだ事ですから」

 

「そうか、それは何よりだ。

部隊の皆はどうだ?」

 

「親しくしてくれてます。

…女子ばかりで居心地は少し悪いですが。

その代わり荒熊部隊の人とも親しくさせてもらてますよ」

 

ヴィラルトさんがその筆頭だ。

…後になって知ったけれど、ヴィラルトさんは荒熊隊の副隊長だったらしい。

やべぇ…不敬罪とかになってなきゃいいけど…。

 

「そうだ、今日の夕方に織斑教官が戻ってくる。

その際に我が部隊の隊長も一緒にだ」

 

「話は聞いています、俺と同い年だと」

 

「そうか、だが隊長は軍の上層部からは…その…疎まれていてな…。

理解者と言える者は私しか居ない。

出来れば、一夏には他の隊員と同じように親しくなってほしいのだが…」

 

そこでハルフォーフ副隊長の視線が俺の右手に突き刺さる。

そこにはバスケットがぶら下がっている。

まあ、何というか…言われるまでもないのだが…

 

「そのつもりで用意してましたよ。

俺に出来る事をやってみようかと」

 

「そうか、では頼もう。

しかし…隊長は好みの味とかは何も無い」

 

…は?何だそりゃ?

甘いのが好きだとか、辛いのが好みだとか、それ位は有るんじゃないのか?

 

「相応のカロリー等を必要最低限度摂取出来れば良い。

それが隊長の考えでな、レーションやサプリメント等しか口にしていない」

 

食生活が悪いにも程があるだろ!?

そんな食生活でよく今までやってこれたな!

ハルフォーフ隊長以上に…いや、それ以下の食生活してる人って居たのかよ!

食生活を改めさせてやるべきだな。

…まずは薄口のスープから作るべきか。

 

「入るぞ」

 

そんな声と同時に背後の扉が開いた。

 

「クラリッサ、私だ」

 

そこに居たのは背丈の小さい銀髪の少女だった。

年は俺よりも下…だろう。

左目に眼帯をしているのを見るに、黒兎隊の隊員だろう。

俺も隊員の全員を把握している訳じゃないけど。

 

「む、何だコイツは?」

 

「…最近雇われたシェフです」

 

「ふん、そうか。

なら、そろそろこの部屋から出ていけ」

 

口の悪い奴だな…。

こっちから歩み寄る必要すら感じさせない。

 

「それでは失礼します。

ハルフォーフ隊長、このバスケットをお預けします。

隊長殿にお渡し下さい」

 

「要らん」

 

は?…なんでこの小さいのが応えているんだ?

 

「との事だそうだ一夏、すまないが持って帰ってもらうしかなさそうだ」

 

なんでだよ…!?

 

「貴様が!」

 

瞬間、急に息が苦しくなった。

状況を確認してみる。

ハルフォーフ副隊長が俺の名を呼んだ途端にこの少女が俺の胸倉を掴んで床に押し倒したみたいだ。

オマケとばかりに喉にはコンバットナイフが突き付けられている。

途端にこんな事をされ、我慢が出来る程、俺だって人間が出来ていない。

 

「いきなり何しやがる?」

 

俺の反応として真っ先に出たのは『呆れ』だった。

まあ、この反応は仕方ないだろう。

 

「黙れ!

…私は認めない!

貴様があの人の弟であるなどと!」

 

こいつの目には憎悪が宿っている。

完全に初対面…だと思うが、俺はこいつに何かしただろうか?

 

「…ふん!」

 

ナイフは仕舞われ、そいつは部屋を出ていった。

…もののついでとばかりにバスケットを蹴飛ばしてまで。

 

「誰ですか、今のあいつ」

 

起き上がり、ドアに視線を向けながら俺は副隊長に疑問をぶつけた。

軍人といえども一般人に刃を向けるのはやり過ぎだろう。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長だ」

 

「あいつが…?

何と言うか…

第一印象は最悪でしたね。

ヴィラルトさんが言っていた通りだ、孤立するのも、理解が出来る」

 

 

微かな痛みに喉を触れてみると…僅かに出血を起こしていた。

絆創膏を貼るのも億劫だ、それにほっとけば治るだろう。

 

「上手くやっていけるか早速自信が無くなってきましたよ…」

 

「そう言わずに頼む。

部隊の為だと思ってほしい」

 

俺としても残る三週間をこのままで過ごすのも苦痛だしな。

はぁ…やるしか無いのかよ…。

 

「どうなっても恨まないでくださいよ」

 

それが最低条件だ。

 

 




こんにちは、スカイレインです。
はい、皆様も予想していましたね、早くも黒兎隊隊長のお出ましです。
となれば、…はい、たぶん、今後の展開も皆さんの予想している通りだと思います。
…予想していた展開だからと言って、皆さんが飽きたりしないでください!お願いします!

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