IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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モッピーの裁きの時です


災厄招雷 ~ 制裁 ~

Ichika View

 

俺達全員、更衣室にて制服に着替えてから取り調べ室へと出向く。

マドカと簪と鈴が少々時間が掛かっていたようだが、それに関しては触れないでおく。

 

「失礼します」

 

入室し、部屋の中を見回してみる。

奥には千冬姉と山田先生、更には厳馬師範も楯無さんも居た。

…篠ノ之もいるようだが、アイツはどうでもいい。

簪とマドカと鈴が鋭い視線を向けているが…まあ、今はいいか。

それと…怪我でもしたのか、頭に氷嚢を乗せているメルクもだ。

 

「…怪我をしたのか?」

 

「まあ、少し。

あ、でも心配はないですよ、すこし頭を打っただけですから。

診察は受けましたが、今後の生活にも訓練にも支障はないそうです。

心配をおかけしてすみません」

 

「大丈夫ならいい」

 

そうこうしている間に千冬姉が俺たちに視線を向けてくる。

 

「では、取り調べを行う。

まあ、考えは大方理解しているが、形式上訊いておく。

織斑、何故アリーナの外壁を破壊した?それも外縁部に近い場所まで破壊していたようだが」

 

「ちょっと長ったらしくなりますが、俺が考案した作戦と一緒に全て話しておきます」

 

それから俺は作戦の内容を全て伝えた。

山田先生、そしてその場に居た楯無さんも驚いていた。

破壊を行うと同時に退路の確保、生徒の避難を促す行動に。そして4段構えの戦略に。

 

「理由は理解した、だが学園の設備を破壊した事に変わりはない、反省文を提出してもらうぞ」

 

「分かりました」

 

「それと、戦闘に参加した者は全員、自身の専用機をメンテナンスしておくように。

整備課には話を通しておいてやる」

 

これには全員が頷いた。むしろ願ってもない話だ。

だが俺は更なる重労働を強いられるんだろうなぁ。

まあ、これは頑張るしかなさそうだ。頑張れ、俺。

 

「それと、今回の件については箝口令を敷いている、その対象はお前たちも含まれる。

決して口外しないように、口外した場合は代表候補だろうと重罰が与えられることになっている、それをしっかりと自覚しておけ。

明日にでも誓約書にサインをしてもらうのでそのつもりでいろ」

 

「分かりました、みんなも良いよな?」

 

マドカも簪も、鈴もセシリアも頷くのを確認して千冬姉に向き直り、了解の意思を伝えた。

そし皆の視線は、取調室に居た一人の人物に収束する。

 

「姉さ…じゃなくて、織斑先生、まだ話すべきことが残っていると思います」

 

「言ってみろ」

 

「篠ノ之 箒の処罰です」

 

マドカよりも鈴が先に口を開いた。

千冬姉もそれを止めようとしない辺り、全員に発言許可を与えているってことか?

なら、俺もいうべきことはどこかしらで言っておこうか。

 

「な、私が何をしたというんだ?」

 

「箒ちゃん?自覚が無いのも一つの罪よ」

 

パチンと扇子を閉じ、楯無さんもまた視線の鋭さが変わる。

静かな気配が、刀のように変化していく。

 

「襲撃者は管制室にもメッセージを送っていたのは貴女も知っていたはず。

なのに、貴女は無人になった放送室を占拠して、無謀な行動を行った。

他の生徒の危険も考慮しないで」

 

「気づかない筈はありませんわよね、出入り口は『放送室の真下』にありますのよ。

そこを撃たれようものなら、甚大な被害が出ていましたわ、重傷者が出ていたのは勿論、最悪の場合は死亡者が多く出ていましたわ」

 

楯無さん、簪、セシリアの正論に箒も言い返す言葉なんて無い筈だ。

 

「あの時、お前が邪魔さえしなければ兄さんの作戦が成功していた。

兄さんが発作を起こさず、苦しむこともなかったんだ!」

 

「それに、別の作戦を考え、実行するのにも時間が掛かったわ、ほかの生徒の事も考えながらだったから本当に危なかったんだから」

 

誰が作戦を考案してくれたのかは分からないが、感謝に尽きる。

この中で指揮官役が務まりそうなのは…楯無さんだな。

 

「な…私は一夏に喝を入れようと…」

 

「その行動に何の意味があるの?

喝を入れる事によって力を発揮するだなんて空想の世界の出来事でしかないわ」

 

「貴女が撃たれなかったのは、一夏が偶然前に居たから。

そうでなかったら貴女は今頃は死体になって転がっていた。

それも貴女だけじゃない、他の一般生徒の多くも負傷し、死んでいた筈。

そこに居るメルクだって例外じゃない」

 

「アンタの行動は、アンタの命だけじゃなくて!一般生徒も!

それを守ろうとしているアタシ達も危険に晒す愚行だって事よ!」

 

「…わ、私は…!」

 

視線を俺に向けてくるが、俺はその視線から目を反らした。

俺もトドメを刺しておくべきだな。

 

「山田先生、先日から頼んでいた部屋割りの件はどうなっていますか」

 

「へ、部屋割りですか?それはこの後にでも伝えようと思っていたんですが…織斑先生、関係のない話になってしまいますが構いませんか?」

 

「ああ、よかろう」

 

空間ディスプレイが空中に開かれる。

そこに現れたのは一年生寮の部屋割りに関係する表示だ。

 

「織斑君は今日まで三年生寮への入居を暫定処理として、名義は一年生寮にて篠ノ之さんと同じ部屋の扱いでしたが、今日を境に引っ越しをしてもらうことになります。

一年生寮の2階に二人部屋が一室空きましたので、その部屋に二人の内、どちらかが引っ越してもらうようになります」

 

「俺が移動します、コイツとの相部屋は精神的にも、肉体的にも苦痛でしたから。

名前だけは貸しているという状況とて嫌になっていましたから」

 

「はい、分かりました、それではこの取り調べが終わった後に荷物の整理を行ってくださいね。

お手伝いに誰かが同行するのも認めます」

 

「それなら簪と…マドカに頼みますので」

 

その段階で新たなカードキーが与えられた。部屋は…後で確認しておこうか。

さて、この後は引っ越し作業になるな。整備課の仕事は明日に延長だ、今日はゆっくりと休もう。

 

「一夏、私は…」

 

「お前の馬鹿な行動のせいでとんだ迷惑だった。精々反省して今後の行動を考えるべきだな」

 

俺はもう視線も向けなかった。

もう向ける理由も無い、必要も無い。

この瞬間、篠ノ之がどこからか持ち出した木刀を持ち出して俺を殴ろうとしているのも察していた。

その標的は…俺だ。

 

「貴ッ様あああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

大上段から振り下ろされる様子に、俺は相変わらず何も感じていなかった。

 

影踊(かげろう)流」

 

絶影(たちかげ)流」

 

動いたのは厳馬師範と俺の二人だ。

俺達二人の動きは完全にシンクロしていた。

師範は上段回し蹴り。

俺は後ろ回し蹴り。

 

烙陽(らくよう)!」

 

昇月(のぼりづき)!」

 

師範と俺が狙って蹴ったのは篠ノ之が木刀を掴む手の()だった。

師範の爪先が左手の指に、俺の踵は右手の指に突き刺さる。

俺達が放ったのは、カウンターだけの意味合いではない。

相手の身体を負傷させ戦闘続行不可(・・・・・・)にさせる技術だ。

こちらの足と、相手が掴む武器で挟み、指の骨を折るという、一種の隠密技だ。

 

「~~~~~!」

 

骨が折れたか、それともヒビが入ったのか篠ノ之が蹲る。

だが、俺は同情なんてしなかった。

 

「…薙月(なつき)

 

蹲る篠ノ之を真下から蹴り上げる。

鳩尾を蹴ったようだが、問題は無いだろう。

その衝撃で篠ノ之の体が浮き上がる。

先ほどの蹴りよりも更に加速させた回し蹴りを叩き込む。

 

「…………」

 

バキィッ!ドガァンッ!

 

一瞬の刹那で充分過ぎる程だった、指の骨を蹴り砕き、篠ノ之を蹴り飛ばす。

吹っ飛んだ先には…あ、備品の机とかがあったけど壊しちまったみたいだ。やべぇ。

 

「今回は大目に見よう、織斑兄。だが破壊活動は自粛、自重しろ」

 

いや、望んで壊してるわけじゃないんですけどね。

 

「肝に銘じておきます」

 

「一夏君、今日はゆっくりと休んでおきなさい。

私は実は妻から電話がかかってきてね、無断で仕事をほっぽってきたのがバレてしまったようだ、急いで戻らんとならん」

 

そういえば厳馬師範は仕事をサボッてまでIS学園に来ていたらしいな。

今になって思い出したが、とうとう奥さんにバレた様子だ。

…俺は将来はこんな風にはならないようにしよう。

こういう点では反面教師になる人なのかもしれないな、師範は。

 

「そうします、引っ越しが終わった後で、になりますけどね」

 

篠ノ之に与えられたペナルティは、反省文50枚提出と、3か月の自室謹慎処分になったと後で聞いた。

まあ、俺からすれば他人事だ。

 

「あの…私は、どうなるのでしょうか」

 

思い出したかのようにメルクが小さく手を挙げている。

一応、取り調べに参加はしていたものの、先ほどから黙り続けていたが、…まあ、入れる雰囲気ではなかったのだろうな。

 

「む…そうだな。結果はともかくとして、お前は国家代表候補生としての責任を理解して行動をしていたんだ。

それに関しては咎める気はない、しいて言うのなら、自分の命を粗末にするな。

それを肝に銘じておけ」

 

「は、はい!」

 

「懲罰の代わりだ、この後で織斑兄の引っ越し作業を手伝え」

 

「了解しました!」

 

なんとも緩い始末でお釣りが出ているかのようにも思える。

まあ、引っ越し作業の要員として手伝ってもらうとしようか。

手早く引っ越しが終わるのなら俺はそれでいい。

 

「一夏君!引っ越し作業を全力でお手伝いしますね!」

 

「その前にせめて着替えてこい、ISスーツのままウロウロするな」

 

「…は、はいぃ!」

 

そのままメルクは桜色の髪を揺らしながら取り調べ室から走って飛び出していく。

…今の今までISスーツでいた事を忘れていたらしい。

女子校育ちの悪い点だな、アレは。

 

「では取り調べはこれにて終了だ、解散しろ」

 

 

千冬姉の指示に頷いて返し、俺達は取り調べ室を後にした。

厳馬師範が俺達を追い越して走っていく。

 

「ああ、スマン!これから急いで帰るから!堪忍してくれ!」

 

携帯電話の向こうに居るのは奥さんだろう。

相当カンカンなのかもしれない。更識家で世話になっていた頃には師範は威厳が溢れていたが、こういう時にはとことん弱いんだよな…。

 

「お父さん…」

 

「まったく、父さんってば、こういう時には情けないんだから…」

 

簪も楯無さんも苦笑している。

 

「相変わらずね、あの人は」

 

「ギャップが酷い…」

 

鈴も呆れ、マドカは異様なものを見る目で見ている。

 

「えっと…あの方は誰ですの?」

 

「セシリアは初対面だったな。

あの人は楯無さんと簪の親父さんだ。

で、俺の師匠みたいな人だな」

 

「あの方が…」

 

「普段はもっと厳格な人なんだが…身内にはどうにも甘いんだ。

武術関連にしてもな。

俺も徹底的に鍛えてもらったよ」

 

俺の絶影流が成り立っているのも、あの人のお蔭だ。

だが…今のあの人みたいにはならないでおこう、そう決めた。




取り調べはあっという間に終わってしまいました。
そしてメルクは本人が苦笑いで済ませられる程度の軽傷でした。
この後には引っ越し作業の要員として使われることに。

それと厳馬師範も取り調べには同席していただきました。
師弟のコンビネーションが炸裂です。
モッピーへの処罰は…軽かったかな?
まあ、世間体ってのもあるのかもしれません。
それではまた次回にて。

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