IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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簪ちゃん、発進!

皆様、ブラックコーヒーを用意してからスクロールして下さい。

用意出来た方から閲覧どうぞ!


災厄招雷 ~ 双眸 ~

Kanzashi View

 

「お姉ちゃん、私、行くから」

 

「待って!あまりにも危険過ぎるわ!

そもそも一夏君の意識があるのかどうかすら分からないのよ!」

 

「だからだよ」

 

一夏がアリーナで撃墜され、暴れている。

それは私も理解している。

でも、私には何故か、一夏が何かに恐れているかのように見えた。

 

何があっても怒らない一夏

 

どんな物を目にしても、決して恐怖もしなかった一夏

 

その二つの感情を失ってしまった彼が、今になって恐怖してる。

 

だから、私が側に居て守りたい。

一夏が私をいつも守ってくれていたように。

 

「…簪ちゃん…」

 

「大丈夫、行ってくるね」

 

私は機体を、『打鉄弐式』を展開し、カタパルトにのせる。

そのまま射出される。

スラスターを吹かせ、機体のバランスを取る。

 

アリーナのフィールドは、地獄絵図だった。

数え切れない武器に埋め尽くされ、襲撃者の機体は串刺しを通り越して針鼠だ。

そのアリーナの一角には鈴の姿が見えた。

機体のダメージが酷いのか、動きが鈍い。

 

「簪、来ちゃダメェッ!!」

 

鈴の叫びが聞こえる。

だけど、私はそれに首を横に振った。

私に気付いたのか、一夏が私に視線を向ける。

アイレンズの向こうには、『怒り』が確かに見えた。

そして…『恐怖』も…

 

『GURURU…GURUAAAAAAAAAA!!!!!!!!』

 

凄まじいスピードで接近してくる。

このスピードで激突されようものなら、機体諸とも粉砕される。

それくらいは理解していた。

それでも私は…

 

「一夏、…もう、大丈夫だから…」

 

此処は空中、それも30m以上の高さ。

それを理解しながらも、私は『機体の展開を解除』した。

その瞬間に一夏の動きが完全に止まる。

手も、足も微動だにしない。

 

私は空中で手足を延ばし、バランスを取り、一夏の元へ滑空する。

そして…一夏の首に両手をまわし、そのまま抱きしめた。

 

『…GU…UAAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

「安心して、もう、貴方を撃つ人は居ないから。

だから、もう怖がらなくていいの」

 

私が伝えられる言葉は、これくらいだった。

それでも、一夏に届くように、優しく語りかける。

 

「大丈夫、安心して。

私の目を見て」

 

瞬間、嫌な予感がした。

正面に居る一夏からではなく、背後から。

 

『GURUAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

龍の咆哮が響く。そして急速旋回。

視界の端には…串刺しになりながらも向かってくる襲撃者の左腕が…。

 

「ッ!?」

 

このままだと私に直撃していたかもしれない。

それを見越して、一夏は旋回したのだろうか…?

 

ガシャアアァァァァンッッ!!!!

 

右腕の兵装で襲撃者の残ったパーツに食らいつく。

ギシギシと金属が軋む音が続く。

かろうじて挟まれていない胴体が痙攣を繰り返す、それでも左腕を喰らう咢が緩むことは無かった。

 

『…GU…UAAAAAAAAAAA!!!!!!』

 

バキ…ゴギャァッ!

 

耳障りな音を起て、とうとう腕が食いちぎられる。

そのまま襲撃者の左腕を投げ捨て、再び龍の咢が開き、雷が繰り返し放たれる。

機能の限界に至ったのか、残る胸部は動くこともなく落下していく。

そして…再び地上の刃に串刺しにされた。

 

もう、暴れ狂うような事は無かった。

アリーナに広がる無数の武器が消える。

そこに残ったのは、穴だらけになった襲撃者、そして疲れ果てた様子の鈴だった。

気づけば私はしがみついていた筈なのに、一夏の左手に支えられていた。

 

『……カ…ン………ザ、シ…』

 

「うん、私は傍に居るから」

 

『…………』

 

アイレンズから光が消え、背部の非固定浮遊部位のスラスターが量子変換される。

腕も、足も、胸部の鎧も…そして頭部のフルフェイスも消えた。

 

「おいで、打鉄弐式」

 

私は私の機体を展開する。

そのまま、ゆっくりと地面に降下していった。

一夏は意識を失ってる。

あの機体の事を覚えているかは分からない。

でも、今はゆっくりと休ませてあげたかった。

 

「お疲れ様、一夏」

 

 

 

 

 

 

 

Lingyin View

 

あーあ、見せ付けられちゃったな…。

ちょっとだけ嫉妬した。

やっぱり、一夏は誰よりも簪に心を開いている。

あたしじゃ止められなかったのに、簪は語りかけるだけで一夏を鎮めた。

それに…あの機体は暴走していたのか分からないけれど、簪にだけは敵対視していないかのようだった。

最後には襲撃者から簪を庇っているように見えた。

でも、空中で機体の展開を解除するなんて無謀過ぎるわよ。

 

「まあ、結果オーライかな」

 

でも、様子が気になるわね。

後で見に行こう。

 

 

 

Madoka View

 

セシリアは兄さんに撃たれたけど、幸い命に別状は無かった。

機体のダメージはBランクだけど、修復は可能みたいだった。

 

「やっぱり、あの兄さんを鎮めたのは簪か…。

私には無理だったのにな…」

 

そこの点はちょっと悔しいけど、簪なら当たり前だと思える自分にビックリだった。

兄さんは今は眠ってるみたい。

今は休ませてあげようかな。

 

 

 

 

 

Chifuyu view

 

「やれやれ…何とかなったか」

 

モニターに映されている光景を目にしながら、私はコーヒーを啜った。

ちゃんと砂糖を入れたコーヒーが乾ききったのどに心地良い。

私の眼下で何故か味の素を入れたコーヒーを飲んでしまった山田先生は少々顔色が悪そうだが…まあ、そこまで気に留める必要性はないだろう。

 

「あの、織斑先生、織斑君はいったい、何者なんですか?

それに、あの黒い全身装甲の機体は…?

全世界のISカタログを見ても、あんな機体は世界のどこにもありません。

それに、『他の機体の兵装を無限に作り出す』能力は…?」

 

私にも分からない。あの機体がなんなのか。何故、一夏があんな機体を展開出来たのか…そもそも、あんな機体を所有している筈が無い。

まさかとは思うが…左手の十字架、あれは『ISの待機形態』なのか?

だが、生体にインプラントさせる技術など、この世界には無い。

それは束くらいなら可能だろうが、一夏にそれを施す理由がない。

ならば、一夏を誘拐した連中とは無縁…?

いくら考えても答えなど出るはずもないか。

 

「あいつは私の弟、たった一人のイレギュラーだったとしてもそれは変わらない。

変わらない。

その答えで満足か?」

 

「織斑先生がそう仰るのであれば、信じます」

 

「では後片付けだ。

政府には『侵入者を無事に撃退した』と報告する。

教師部隊は侵入してきた機体の残骸回収を急げ、後に解析を行う。どこの誰が送り込んできたのか、コアナンバーも含めての解析だ。

なお、生徒には箝口令を命じる、『二機目の無登録機体は存在しなかった』として、だ」

 

「了解です」

 

「そして医療班を急がせろ、織斑兄の意識がないようだ」

 

「はい!」

 

さて、私にはまだやる事があるな。

そっちを片付けるとするか。

残ったコーヒーを飲みほし、私は管制室を後にした。

アリーナのフィールドに行きたいが、それより先にやる事がある。

残る確認作業は移動しながらでも出来る。

 

「私だ、一般生徒の避難状況を急ぎ確認してくれ」

 

他の教師に端末越しに連絡を交わす。

そして避難状況は…予想していた通り、『一般生徒と国家代表候補生が一人ずつ避難していない』との事。

場所は既に知れている、だから反省させるためにも管制室から放送室をロックした。出入りができないように。

だが反省の一つでもする気概を見せるかと思ったが、期待外れだったようだ。

放送室では『避難しなかった一般生徒一人』が居る。もう一人はイタリアの国家代表候補生である『メルク・ハース』のようだが気絶しているようだ。

そこで起きたことは監視カメラを用いて把握している。

篠ノ之がハースを突き飛ばし、機材に頭をぶつけて気絶してしまったらしい。

あの馬鹿者め…今度は国際問題でも起こすつもりか…。

そして篠ノ之は、どうやら今は一夏が更識の腕の中にいるのが気に入らなくて罵声を浴びせているようだ。

放送室のマイクを管制室からの遠隔操作で切っておいたから、聞こえる筈もないのだが、いや、そもそもコイツは放送室がロックされていることに気付いているのか?

…いや、気づいていないな。

だが、それ以上にコイツは危険だ、この短い期間で一夏に二度も害を与えている。

これ以上は見逃すわけにはいかない。

 

「教師部隊、誰でもいい、一人を放送室へ寄越してくれ」

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「痛…っ…!?」

 

「一夏、気が付いた?」

 

目の前には、心配そうに見つめてくる簪の顔が見える。

角度的には膝枕をされているようだ。

その…

頭が少し痛い。だけど我慢が出来ないほどじゃなかった。

だが…左わき腹が酷く傷む。

…応急処置はされているようだが…。

だとしても、えっと…

 

「何があったんだ?発作を起こした後、何も覚えてないんだけど…」

 

アリーナを見渡してみれば、…なんだ、この光景?

フィールド全体がズタズタだ、観客席側には何一つ破損したような形跡は見当たらないけど…。

 

「そうだ、侵入してきた奴は!?」

 

「何とか撃破出来ましたわ。

一般生徒も一夏さん考案の作戦でアリーナ外に避難ができていますわ。

あの短い時間で作戦まで思いつくなんて流石ですわね」

 

「ただの受け売りだ。咄嗟に思い出したってだけだ」

 

「でもさ、あたしに位は教えてほしかったんだけど、あの時にはアンタのすぐ傍に居たんだから。

そこの所も説明してもらうわよ」

 

「ああ、分かったよ」

 

俺が思いついた作戦はこうだ。

アリーナの外壁に六条氷華で穴を開く、とはいっても、アリーナの外縁部にまで穴は開けていない。精々一番外の壁に亀裂を入れて脆くさせるだけの出力だ。

だが多くの穴を開けるわけにはいかないから、最大二か所だ。そこを誰でもいい、訓練用の『打鉄』で殴るか、アサルトライフル『焔備』で壊してしまえば、ロック不可能な緊急用避難通路の出来上がりだ。

そして、出口ができたと同時に『入口』もできる。

二つの出入り口に、マドカとセシリアを待機させる。

それまで俺と鈴が時間稼ぎを行う。

準備が出来たら、瞬時加速を行い、侵入者に接近、『零落白夜』を使って攻撃を行う。

その際には逃げられない程の速度が必要になる。

だから鈴には衝撃砲を最大で撃ってもらう必要があった、『俺ごと』だ。

機動エネルギーを更に得るために、そして更なる加速を行うために。

これで侵入者を撃退出来たら御の字だ。

それが出来なかったとしたら、『零落白夜』を危険と判断し、使わせないように俺を力ずくで取り押さえようとする。だが、それでも良い。

そのタイミングを狙い、マドカとセシリアがアリーナの外壁地点からの精密狙撃。

これでもダメなら簪の出番、上空から48発のミサイルの雨を降らせる。

マルチロックオンシステムを使い、相手の回避ルートすら完全に封じてしまう。

そして、簪がピットに向かえば、楯無さんもピットに向かうのも予想していた。

簪の手によって回避不可能になれば、今度は楯無さんの出番、

『水蒸気爆発』(クリア・パッション)を使うなりして地上に叩き落とし、その瞬間を狙ってBT兵装にて奴の兵装を破壊し、全員での一斉攻撃。

合計4段構えの作戦だ。ラウラ直伝の、集団による一人の襲撃者への対応方法だ。

もっとも、成功するかどうかは、俺の行動がトリガーとなる。

時間を稼げたら上々、時間稼ぎが充分に出来なければ失敗の可能性が濃厚だ。

そして、今回は失敗した。『邪魔』が入ってしまったから。

 

「とは言ってもな、鈴は顔に出やすいから言えなかったんだよ」

 

「…あぐ…それを言われると言い返す言葉もないわ」

 

「落ち込むなよ、良い言い方をすれば、表情豊かだってことなんだからな。

…俺と比べれば、な…」

 

お前が居てくれたから、表情を出すのが苦手だった簪も、今もこうやって笑ってくれるようになったんだから。

簪の膝枕も心地良いんだが…そろそろ起きようか。軽い頭痛ももう止まっていた。

俺が居なくてもみんなは新たな作戦を考案し、成功させてくれた。

それに比べて俺はまだまだ未熟者だ、PTSDのハンデに、この左腕の十字架のこともあり、俺は皆と比べても遅れてしまっている。研鑽を積み重ねないとな。

 

「兄さん、姉さんが呼んでたよ。

兄さんの意識が戻り次第、取調室に来るようにって」

 

「そうか、分かったよ。

じゃあ、全員着替えてから校舎に戻ろうか、面倒な取り調べと…それと報告書だとか顛末書も書かされるかもしれないけどな」

 

体の調子は…よし、もう問題はなさそうだ、一人で歩ける…と思ったが、やっぱり左脇腹の傷が痛む…無理をすれば大丈夫だろうか。

 

「一夏、もう大丈夫なの?」

 

「ああ、平気だ。とは言っても、相棒はメンテに出す必要があるかもしれないけどな。

各自の機体もメンテナンスに出しておこう。

特に鈴は損傷が酷いだろう、衝撃砲も片方壊れてるし」

 

「それはアンタのせいでしょ!まったく、整備課に行くときには約束通り同行してもらうからね!」

 

それに関しては言葉をたがえるつもりは無いさ。

 

「あ、でしたらわたくしも!」

 

「兄さん!私も一緒に行く!」

 

「じゃ、じゃあ私も!」

 

「分かった分かった!全員で行こう…俺は忙しくなりそうだけどな」

 

簪の専用機『打鉄弐式』組み上げの時の事を思い出した。あの時も本当に忙しかった。

それが今日か明日には、えっと…『白式』『打鉄弐式』『サイレント・ゼフィルス』『甲龍』『ブルー・ティアーズ』、それに今は此処には居ない楯無さんの『ミステリアス・レイディ』か。

…単純に考えても、労働力は前回の5倍。過労死するかもしれないな、俺。




黒翼天は早くも引っ込みました。
ですがアリーナはズタボロ、当分は使えないことでしょう。
まあ、フィールド限定ですが。
皆様の記憶の中に爪痕を残せたのなら幸いです。
近々、スペックデータも記すつもりなので、お楽しみに!
またどこかで登場させてあげたいと思っているのは本心です。

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