IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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お待たせしました
『奴』の登場です。


災厄招雷 ~ 暴龍 ~

Tabane View

 

「なんで…こんな事に…」

 

人工衛星をハッキングしてみていたIS学園のアリーナ。

そこに…私が作り、封じていた存在が出現していた。

ゴーレム…私がしばらく前に開発した無人機。

アレは私が起動したりしないようにセットしていた。

あのまま眠り続けるだけの存在だったはずなのに…。

それだけじゃない

 

「いっくん…」

 

あの子の左手にインプラントされていた十字架。

私はそれを二年前から知っていた。あの日、いっくんの家でいっくんと遭遇した日から。

あの日、私が連れていた小型のロボットでいっくんをスキャンした時から、その存在は予感から確信に変わった。

私にもあの十字架をいっくんの体から取り除くことができない。

なら…目覚めなければいいと思い続けていた。それから…なにも出来なかった。

違う…何もしなかった。ただ願い続けただけで…

その結果がコレなら、すべては私が原因になるのかもしれない。

 

「束様…?どうされたのですか?

何故、泣いておられるのですか?」

 

「くーちゃん…」

 

私が世界を放浪している間に拾った小柄な女の子。

クロエ・クロニクルと名付けたその子は、今は私の娘であり、大切な助手、そして家族だった。

くーちゃんが私を心配してくれるのが、今の私には救いなのかもしれない。

だから私はくーちゃんを抱きしめて呟く。

 

「…『災厄』が…目覚めたから…」

 

「…災厄(『The Disaster』)?」

 

くーちゃんは、あの存在を知らない。私がくーちゃんを迎え入れるよりも前に、機密情報にしておいたから。

ずっとずっと秘密にしておいたから。絶対に話しちゃいけない、怖がらせてしまう、そう思ったから。

いっくんにも話すのが怖かった。あの時には、いっくんは左手の十字架をISの待機状態だなんて思ってもいなかったから。

怖がらせるのが怖かった。恋人ができて、幸せそうにしていたいっくんを怖がらせたくなかった。

 

「モニターに映っているものが、束様の言う『災厄』なのですか?」

 

「そう…なによりも…いっくんにとっても、私にとっても……なんで…なんでこんな事に…」

 

だって…だって、あのコアは…!

 

 

 

 

 

Tatenashi View

 

一夏君が左手に右手を添えた瞬間から、私も視線を奪われていた。

セシリアちゃんも、マドカちゃんも、鈴ちゃんも、ピットに居た簪ちゃんも…

 

 

また雷が幾つも落ちてくる。

最初の一条は襲撃者に直撃したけれど、降り注ぐ雷は誰にも落ちない。

それどころか、一夏君を隠すかのように堕ちている。

立ち上る土煙が更に彼の姿を隠す。

 

「何が起きているのよ…!?」

 

土煙が晴れる。

そこに居たのは…『龍』だった。

それも、雷をまとった魔龍だ。

足には、鋭いエッジのような爪が、足は全て装甲に覆われ、膝からは長いスパイク、胸部に至ってはまるで生体装甲のよう。頭部もフルフェイスの装甲に覆われて表情は一切見えない。その形状は、正に龍そのもの。

肩も鎧をまとっているかのように見える。右腕には、頭部と似た形状の兵装。そしてマニピュレーターの指先からは、鋭い鉤爪が延びている。背後の非固定浮遊部位は、四対八機の翼の形をした薄くも大出力を持つであろうスラスター。

そして、その全ての装甲のカラーは黒に染まっている。

更織が所有する全世界に存在するISのカタログスペックにも存在しない。

龍と人、そしてISを融合させしまえば、あの姿になるのかもしれない。

それに、大きさも異様だった。

世の中に出回っているISよりも大きく、全高は7メートル近くもある。

 

「何よ、あれ…?」

 

背筋に寒気が走る。

手が震え、歯が噛み合わない。

顔から血の気が引けていくのが分かった。

 

『恐い』

 

楯無の名を襲名してから…違う、今までに感じた事も無い程の圧倒的なまでの恐怖を、私は感じていた。

 

『…GURURURURU…』

 

龍の声、けれど、それは一夏君の声じゃなかった。龍の嘶きそのものだった。

そして龍の目に光が宿る。

すぐに離れるべき。第六感が告げるままにスラスターを全開に吹かせ、その場から急速後退をした。

 

『VULUUOOOOOOOOOOO!!』

 

一瞬でも遅れてしまえば、機体もろとも体すら粉砕されていた。

 

「一夏君!?」

 

彼が飛んだ先には、襲撃者の機体。

鈴ちゃん達が三人がかりでも、何とか互角に持ち込むのが限界だった襲撃者の、首を鷲掴みにしていた。

 

「みんな!すぐに離れて!

巻き込まれるわよ!」

 

通信を開き、三人へ警告を伝えた。

すぐに伝わり、三人が離れた。

そこから先は…一方的な蹂躙だった。

 

『GUOOOOOOAAAAAAAAAA!!』

 

首を力ずくで引き千切る。

非固定浮遊部位のレーザー砲を鉤爪で貫き、そのまま引き裂いた。

見た事も無いブレードを握り、胴体と下半身を寸断、続けて残った胴体を地上に向けて凄まじい勢いで投げ、叩きつけた。

 

「落ち着きなさい!一夏君!」

 

龍が視線を私に向ける。

それだけで背中に悪寒が走る。圧倒的なまでの恐怖に手が震える。

歯が噛み合わない。

 

「きゃぁっ!?」

 

龍は私を無視して飛び立つ。すれ違っただけでもすさまじい衝撃だった。

直撃していたら…機体諸共粉砕されていたかもしれない。

 

「あの方向は…!」

 

『GURUAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

龍が右腕をその方向に向ける。

その先は…放送室!?

 

 

右腕の兵装が展開される。

龍の咢が開かれ…雷と同時に大出力レーザーが発射される。

急いでアクアクリスタルに命令を送り水の障壁を発生させる。

 

 

ズガアアアアァァァァァァァァンッッッッ!!!!!!

 

 

「なんて出力なのよ…」

 

防ぐどころか軽減させるので精一杯。シールドが粉砕される直前だった。

ミステリアス・レイディの全力でもあの攻撃は防ぎきれない。

あそこまでの大出力なのに、あの龍は平然としている。

 

「楯無先輩!」

 

「鈴ちゃん!気を付けて!

まだ暴れるみたいよ…!」

 

それに…嫌な予感はまだ途絶えていない。

 

 

『GURUAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 

 

咆哮と同時に上空に飛び立ち、右腕を振り上げる。

それ応えるかのように周囲の空間が歪む。

その歪みから現れたのは、無限の刃だった。

 

短剣

 

 

長剣

 

薙刀

 

大鎌

 

 

大剣

 

 

 

ありとあらゆる武器が現出していた。

中には蒼流旋、ラスティー・ネイル、夢現、雪片弐型、雪華の姿も見える。

 

「…どういう事…!」

 

なんで…専用機だけに与えられている固有の武装まで展開を…!?

 

数はまだ増える。

既に現出した刃は百を軽く越え、千を越える。

なのに、一種類の刃が二つ以上は現れない。

でも…あんな数、一つのコアで容量で足りる筈がない。

 

こうしている間も、刃は無限に増えていく。

 

「みんな逃げてえええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!」

 

龍が腕を振り下ろすと、刃が雨となって降り注ぐ。

そしてその隙間を縫うように、数えきれない程の雷が轟音を起てながら迸る。

刃と雷の嵐…あれは地獄のような攻撃だった。

マドカちゃんも、鈴ちゃんも、セシリアちゃんも、顔を真っ青にしてアリーナのピットの方向へと飛んでいく。

私も必死にスラスターを吹かせる。

刀が装甲を掠めただけで貫通する。

ナノマシンを使っても防ぎきれない!

 

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

ピット上に移動するだけでも精一杯だった。

よく見ればメインスラスターが片方全壊している。

後で整備課に顔を出した方が良さそうね…。

 

「状況は…さっきよりも最悪ね…」

 

手の震えが止まらない。

右手を見れば、蒼流旋が半ばから圧し折れている。

メイスラスターと武装の破損だけで此処まで飛んでこれたのは奇跡に近かったのかもしれない。

 

「…あら…?」

 

アリーナを見渡して何か違和感を感じた。

先の襲撃者は地面に転がっている。

だけど…

 

「さっきまで居た場所とは違う場所に転がっている…?」

 

どういう事…?

それに…フィールドは刃に覆い尽くされて地獄絵図になっているのに、観客席側には目立った損傷どころか、シャッターに焦げ目の一つも見受けられない。

 

「何が…何が起きているのよ…!?」

 

茫然とする中、私は背後から近づく足音に気づくこともできなかった。

 

 

 

 

 

Chifuyu View

 

「なん…だ、アレは…」

 

モニターに映る光景を私は信じられなかった。

凄まじい数の武装を展開させ、雷と同時に撃ち出す龍の存在を。

 

「あんなIS…全世界のカタログスペックには存在しませんよ…」

 

「そんな事…私とて理解している…」

 

一夏の左手には十字架がインプラントされていた。

それは私とて理解している。

だが、それがISの待機状態だったなど、私は予想だにしていなかった。

ドイツでも『正体不明』とされていた代物だった筈だ。

それが今、ここで目覚め…暴れている。

 

無限の刃が降り注ぐ数秒前、襲撃者が起き上がり、再び飛び立とうとしていた。

左腕と胸部しか残っていない状態でも動こうとするあたり、やはり無人機のようだ。

そして飛び立った直後に刃の豪雨が襲い、再び地上に叩き落され、縫い付けられる。

更には雷が幾つも落ち、襲撃者は真っ黒焦げだ。

それでも執念深く動こうとしている。

 

「…まさか…」

 

あの龍がやろうとしている事に何か予感めいたものを感じ取った。

だが、確信には至らない。それに、この場にいる私には何もできない。

 

「…一夏…」

 

あの機体が展開される直前、一夏の意識は失われていた筈だ。

言わば、龍を模した機体は暴走している状態と言っても良いだろう。

だが…どこか利己的な動きをしているように見える。

 

「何が…何が起きているんだ…アレは…!?」

 

 

 

 

 

 

Lingyin View

 

楯無先輩の指示のままにピット方向へ飛ぶのが限界だった。

長く続く轟音が静まってから恐る恐るフィールドを見てみた。

そしてアリーナのフィールドは…

 

「…何、この光景…」

 

「フィールドが…刃で覆われてる」

 

足の踏み場なんて何処にも無かった。

全て刃で覆われ、その中心には襲撃者が串刺しを通り越して針鼠になり、倒れていた。

血は流れていない、一夏が予想していた通り、あれは無人機だったんだ…。

 

「終わり、ましたの…?」

 

「分からない、それに兄さんは…?」

 

「あそこよ…」

 

あたしが指差す先には、雷を纏った黒龍が居た。

睥睨するようにフィールドを見下ろしている。

 

「一夏あぁぁっっ!!」

 

私は飛び立ち、あいつの名前を呼んだ。

それが間違いだったのかもしれなかった。

 

龍の目にまがまがしい光が宿った。

 

『GULUAAAAAAAAAA!!!!』

 

「ひぃっ!?」

 

咆哮と同時に刃を…大鎌を引き抜いて接近してくる。

それも

 

「速…!?」

 

白式よりも遥かに速過ぎる!!

 

「こんの…!!」

 

双天牙月を構えられたのは奇跡に近かった。

それでも、パワーは甲龍よりを上回っている!!

 

「一夏!アンタ何をやってんのよ!?」

 

『GAAAAAAA!!』

 

恐い

 

龍の目を見るのが。

双月牙天を握る手が震えた。

 

「一夏、ごめん!」

 

衝撃砲を発射した。

期待していたダメージは与えられない、か。

あ~もう!襲撃者を撃退したのに!

今度は一夏を伐てって言うの!?

 

「鈴さん!援護しますわ!」

 

セシリアがビットを飛ばし、射撃攻撃をしてくる。

それに反応したのか、一夏が視線をセシリアに向ける。

 

「まずい、セシリア!逃げ――」

 

て、と言い切るよりも前に龍の右腕の兵装から雷撃が撃ち出され、セシリアに直撃

 

一撃で撃墜され、ピットのカタパルトに落ちた。

 

「マドカ!セシリアを!」

 

「分かった!」

 

楯無さんは動けない。

セシリアは戦闘不可能、マドカはセシリアを庇って動けない。

あたしだけで何とかしないと!

 

『GURURURURURU…』

 

「ちょっと大人しくしてもらうわよ!一夏!」

 

距離を開き、双天牙月を構える。

 

「うぁっ!?」

 

やっぱり速過ぎる!

目で追いきれない!

ハイパーセンサーでも追えない程の速さ…!

 

「…ぐ…この…何処に…」

 

一瞬、黒い雷とは別の色の閃光が見えた気がした。

 

「まさか…『単一仕様能力(ワンオフアビリティ)』!?」

 

ただでさえ、あの龍のような機体は強すぎる。

なのに…単一仕様能力なんて使われたら…勝ち目なんて無い!

 

姿は完全に見えない。

時折、雷が迸るかすかな音が聞こえてくるだけ。

 

 

突如、真下からの衝撃がアタシを襲った。

 

「何が…!」

 

 

続けて左!タイムラグも無しに右上から!

瞬時加速、後退加速、それ超連続で続けてる!

上下の感覚すら失せてきた。

攻撃はタイムラグすら一切無い。

攻撃されている瞬間すら見えない…!

右腕破損、左足大破、スラスター中破、PICももうすぐ限界。

ハイパーセンサー…大破…。

機体損傷レベル…Cレベル…これ以上は…動けない…!

 

『GAAAAAAA!!』

 

背後から凄まじい衝撃

 

それをかろうじて感じながらあたしはピットへと叩きつけられた。

 

「…一夏…アンタは、そこに居るの…?」

 

機体を何とか立て直す。

とうとうPICも作動しなくなった。

体が凄まじく重い。

双天牙月を持ち上げられない。

もう、成す術が無い…!

 

『GURUAAAAAA!!!!!!』

 

咆哮と同時に、何か音が聞こえた気がした。

これは…ピットのカタパルト!?

向かい側のピットから誰かが出撃しようとしてる!?

まさか!?

 

「一夏あああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

ピットから飛び出してきたのは…簪だった。




おはようございます。
ついに出ました『黒翼天』です。でも出番が短くなるかもしれませんね。
完全に『オレツエー』な機体です。
執筆者の文才はそこまで恵まれている方ではありませんので、外見的には『FF13-2』に登場する召喚獣『バハムート・カオス』を思い描いていただければ簡単です。
そこに、右腕にバハムートの頭部の形状をした武装をくっつけ、足にも鉤爪をくっつけてみましょう。
それで『黒翼天』の出来上がりです。

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