IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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ようやく、かな?


災厄招雷 ~ 降臨 ~

Ichika View

 

 

「「届けええぇぇぇぇっっ!!!!」」

 

お互いの叫びと共に刃がぶつかる、そう思った瞬間だった。

 

 

 

ドガアァァァァァァンッッッ!!!!!!!!

 

 

 

何かがアリーナを覆うシールドを貫き、飛び込んできた。

俺達の刃は、ぶつかる事も無く、何も無い場所で止まった。

そして互いに刃を引き、轟音が響いた方向に視線を向ける。

 

「何が起きたの?」

 

「…さあな、あそこに何かが落ちた…いや、飛び込んできたのかもな」

 

アリーナを覆うシールドは凄まじく頑丈だ。

ISの戦闘により発生する流れ弾やミサイルのような実体兵装。

ビームやレーザーのような光学兵装。

それにIS本体の衝突などを想定している為、IS本体に発生させられているシールドとは比べ物にならない防御性がある。

噂じゃ隕石にも耐えられるとか。

だが、そんなシールドを『一撃』で貫くものなんて、この世にそうそう無い。

 

「土煙が晴れるわよ。

一夏、用心して」

 

「ああ、そうだな…!?」

 

一瞬、嫌な予感がした。

それを裏付けるかのように白式がアラートを鳴らす。

 

『熱源探知 ロックオンされました』

 

「まずい!」

 

「へ?ふぎゃぁっ!?」

 

鈴を抱えて即座に距離を開いた。

この際、鈴が猫のような悲鳴を上げるがお構いなしだ。

直後に凄まじい出力のレーザーが駆け抜けた。

 

「危ねぇ…!」

 

レーザーが撃たれた場所に視線を向ける。

そこには、黒い装甲に覆われたISが居た。

両腕が肥大したかのような、どこかいびつな機体だった。

それに…全身が完全に装甲に覆われている。

現存、全身が装甲に覆われるようなカタログの機体は存在しなかった筈。

 

「何よ、あいつは?」

 

「少なくとも、友好的じゃなさそうだ。

次の砲撃、来るぞ!」

 

 

更に続けて観客席のシャッターが立て続けに閉ざされていく。

 

『緊急事態発生!

一般生徒は速やかに避難しろ!

教師部隊はアリーナへの突入急げ!』

 

千冬姉の緊急放送が流れる。

だが、それも途中で掻き消える。

通信妨害か?

それも、あの侵入者が?

 

『織斑、鳳、聞こえるか!?』

 

ウィンドウが開き、音声通信が届く。

これは…プライベーチャネルだ。

 

「感度良好、とは言えないけどな。現状を通達するぜ。

アリーナに侵入者だ。こっちは既にロックオンされて交戦中。

速やかに生徒の退避を頼む!」

 

『それは既に対応している!

だが、システムがジャックされ、ゲートが封鎖され、避難も、教師部隊の突入が大幅に遅れている。

二人は、それが可能になるまで時間稼ぎを』

 

「一夏、ちょっと待って!」

 

俺と鈴の目の前にディスプレイが開かれる。

それも、真っ赤なディスプレイだ。

 

「あいつ、嘗めてんの…!?」

 

「かもしれないな。

こちら織斑、侵入者からのメッセージが届いた」

 

『こちらも確認した』

 

赤いディスプレイには、侵入者の兵装が全て表示されていた。

腕部に搭載された近接ブレード。

非固定浮遊部位の大出力レーザー砲。

そしてメッセージが一文とある兵装の表示。

 

『ジャマモノガハイレバ、コレデウツ』

その文と共に大型の機関銃。

 

援軍は望めないか!

 

「一夏!」

 

「…大丈夫だ、ただディスプレイの表示を見ただけだ」

 

「…本当に大丈夫なの?」

 

俺は重度の銃器恐怖症だ。

相手が展開してきたディスプレイに表示された銃を視認しただけで両肩と腹部の傷跡が疼く。

発作が起きそうになり痛む頭を軽く振るい、意識を保たせる。…よし、大丈夫だ。

 

「ああ…邪魔者が入らなければ…奴との戦いに水が入らなければ、いいだけだろ。

…いくぞ!」

 

俺達は双刀を構える。

生徒の避難が済むまで、何とか時間を稼ぐしかない。

 

「2対1の基本戦術。

奴を挟み撃ちにするわ、私が正面から!

一夏は奴の背後から攻撃よ!」

 

「ああ、分かった!」

 

六条氷華を展開、出力を半分にしてエネルギー弾を撃つ。

牽制ではあるがアリーナの外壁に着弾し風穴が開く。

この隙に奴の背後に回り込む。

そしてもう一射、これも回避され、正反対側の外壁に穴が開く。

…始末書確定かもしれない。

 

「抜かるんじゃないわよ!」

 

「お互いにな!」

 

六条氷華の展開を解除し、二刀流の構えに戻る。

 

雪片で切り掛かる。

近接ブレード受け止められる。

鈴の双天牙月も同じく。

 

「鈴、生徒がまだ避難出来てない。

長期戦にはなるが」

 

「アタシ達が被害を大きくしたりしないように、出力を抑えて戦うしかないって事か…。

面倒だけど仕方ないわね!」

 

 

 

 

Chifuyu View

 

アリーナでの試合の最中、一夏が全力が初めて発揮される筈だった場への侵入者。

私としても怒りを堪えるのが難しかった。

管制室のデスクを一発殴り、鬱憤を晴らす。

 

「お、織斑先生…」

 

「何をしている山田先生。

アリーナ全体への指揮を急げ。

専用機持ち、代表生と代表候補生は生徒の護衛だ。

アリーナへの突入は控えさせろ。

織斑と凰を無視して一般生徒を襲う可能性がある」

 

「了解しました」

 

「続けて、奴が提示してきた兵装を全世界のISカタログスペックを参照。

何処からの侵入者なのかを調べる」

 

「はい!」

 

考えろ、最善策を。

アリーナ全土を見渡し、この状況を覆す方法を!

 

「織斑先生!わたくしに出撃許可を!」

 

生徒の声、一夏が発作を起こした際の為にと来ていたオルコットか。

何のつもりだ。

 

「お前の機体は一対多が前提だ。

多勢側になるだけ邪魔になる。

それに連携訓練は積んでいるのか」

 

「そ、それは…」

 

「分かったのなら今は大人しくしろ。

冷静に状況を見ろ!

最善の戦術を編み出せ!」

 

此処まで言えばこいつらも分かった筈だ。

 

「…そうか!」

 

最初に理解したのはマドカだった。

なら、この三人の指揮官は私ではなくマドカだ。

 

「簪、セシリア、耳を貸せ!」

 

私の意図を理解したらしく、マドカが的確な指示を出しているようだ。

一夏が作ったアリーナの外壁の穴、それも向かい合うように作られている。

そして、それを行う為の布石。

ドイツでラウラに学んだ方法の一つを思い出したようだ。

 

「こういう事だ」

 

「一夏、その為に…」

 

「凄い人ですわね、あの状況で作戦まで考えるだなんて…。

早速動きますわよ!」

 

管制室を飛び出す三人、今はあいつらに任せよう。

そうするしか…

 

「山田先生、篠ノ之は何処に?」

 

「え?さっきまでそこに…あ、あら…居ない?

避難したんでしょうか?」

 

「あの小娘が真っ先に避難すると思うか?」

 

『否』だ。篠ノ之箒が真っ先に避難などする筈が無い。

一夏がアリーナに居るとなれば殊更だ。

 

「後で顛末書ものだな」

 

やれやれ、頭が痛い。

コーヒーでも飲んで気分を休めるか。

さて、砂糖を…お、調度良い所にシュガースティックがあったな。

私はそれをコーヒーに流し込む。

 

「織斑先生、それ、シュガースティックじゃなくて『味の素』です」

 

………なんでそんなものがこんな所に有るんだ!

 

 

 

 

 

Ichika View

 

「こいつ、強い…」

 

「へこたれるなよ、鈴…」

 

この襲撃者を相手に、どれだけ刀を振るっただろうか。

挟み撃ちにしても、こいつは反応が遅れる事無く対応してくる。

時には、肩の関節を外しているんじゃなかろうかとさえ思わせる動きまでしている。

他には

 

「こうやって会話をしている間は傍観している、か」

 

「一夏、何を考えてるの?」

 

「確証は無い。

あくまで予想でしかないんだが…『無人機』じゃないのか、こいつ?」

 

荒唐無稽な発言だとは自分でも思っている。

無人、なおかつ自律稼動。

そんな技術は未だに何処にも開発されていない。

けど、こいつの場合は動きがあまりにも機械的過ぎる。

 

「仮に無人だったら、アンタは何か考えはあるの?」

 

「策はもう用意している」

 

「…え…?」

 

「後は、俺達次第だ」

 

陽動作戦を、な。

 

「鈴、衝撃砲を最大出力で構えてくれ」

 

「え?あ、うん、分かった」

 

雪華と雪片を改めて構え直す。

 

「もうそろそろか」

 

アリーナの外壁に空けた穴に二人が、そしてそれを決め手にする為にも、ピットに一人、もしくは過保護な人がもう一人、それぞれ散会し―――

 

『一夏ああぁぁぁぁっっ!!』

 

刀を構えた直後、アリーナ全体にそんな声が響いた。

 

「な、何よこの声!?」

 

「…放送室だ!」

 

俺の真後ろ、その方向には放送室がある。

だが、これは黛先輩の声じゃない。

 

『男なら!

その程度の輩を伐てないでどうする!』

 

「何をやってんのよ、あいつは!」

 

『武士なら、背後から刀を振るうなどするな!

正面から向かい合って戦え!』

 

…の馬鹿!

なんで避難をしてないんだ!

 

『しっかりしろぉっ!

それでもお前は男なのか!』

 

『何をしているんですか!?

避難命令がだされているんですよ!?

すぐに避難をしてください!』

 

この声はメルク!?アイツまで居るのか!?

 

『五月蠅い!無関係な奴は黙っていろ!

私は一夏を』

 

『こんな所から何が出来るっていうんですか!

いいからとにかく避難を!』

 

『黙れぇっ!』

 

その叫びの直後だった。

また、目の前に赤いディスプレイが現れた。

そこに表示された言葉は

 

『ジャマガハイッタ

ジャマモノハ…ウツ…』

 

侵入者の手に展開された銃。

それが放送室の方向に向けられる。

だが、その前には…俺が

 

「一夏!逃げて!」

 

「…う…ぐ…」

 

目の前に銃口

 

 

「一夏!見ちゃダメえぇっ!!!!」

 

「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

やめろ撃つなそれを俺に向けるな何故俺を撃った嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だそれを俺に向けるな辞めろおおおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!

俺にそれを向けるな嫌だイヤだいやだイやダいヤだイヤダいやダいヤダ

 

『恐怖』しているだろう』

 

ウルサイダマレ

 

『  ったらどんな教育をしてきてたのかしら』

 

  ヤメロキキタクナイ

 

『   も実験には使えないから  を使うしかないね』

 

ヤメロヤメロヤメロヤメロ

 

 

 

『サア、メヲソラサナイデ』

 

 

 

「ぎ…が…ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

 

 

Lingyin View

 

「一夏!見ちゃダメえぇっ!!!!」

 

私の叫びは間に合わなかった。

放送室に居た生徒の正面に居た一夏は、銃を見てしまい、発作を起こした。

錯乱し苦しむ一夏に、侵入者は銃口を向けたまま、引き金を引いた。

助けようと、銃撃を止めようとした。

だけど…間に合わなかった。

 

凄まじい勢いで銃弾が撃たれる。

発作を起こしている一夏が対処なんて出来る筈もない。

 

ガシャアアァァァンッッ!!

 

轟音に次ぐ土煙。

そこには、白式を纏った一夏が横たわっていた。

 

『白式 シールドエネルギーエンプティ

勝者 凰鈴音』

 

試合に使われる筈だったであろう無機質な合成音と一緒に、白式が自動解除された。

脇腹のあたりからは赤い液体が流れ出している。

白式が守りきれなかった傷…

 

「一、夏…?」

 

一夏が撃墜された

 

ナゼ?

 

銃で撃たれたから

 

ナぜ?

 

発作を起こしたから

 

なゼ?

 

銃を見たから

 

なぜ?

 

銃が展開されたから

 

ナゼ?

 

戦いに邪魔が入ったから

 

ソれハだレだ?

 

「…の……き……!」

 

今のあたしは、醜い顔をしてるかもしれない。

いや、間違い無く醜い。

それでも、もう我慢出来なかった…!

 

「一度ならず二度までも…!

篠ノ之箒いいぃぃぃっっ!!!!」

 

双天牙月を連結。

今のあたしに出せる全力で投擲した。

シールドに防がれるのは分かりきってる。

それでも、あたしは怒りをぶつけずにはいられなかった。

 

「待ちなさい、鈴ちゃん!」

 

双天牙月が射撃によって弾かれ、あたしの手元に返ってくる。射撃が行われた方向には

 

「楯無さん…」

 

「怒るのは尤もよ。

でも、それより先にやる事がある筈でしょう!

しっかりしなさい!貴女は『国家代表候補生』なのよ!」

 

歯を食いしばる。

楯無さんの言う通りだった。

あたしは国家代表候補生。

こういう事態は、私達の手で対処しないといけない。

私怨で動いちゃいけない…!

 

ごめん…一夏…!

 

「あいつのせいで!

兄さんの作戦が全部水の泡だ!」

 

「過ぎた事ですけれど、今はこれからの事を考えないといけませんわ!」

 

「マドカ、セシリア……。

そう、よね…今度はあたし達が一夏を守るんだ!」

 

数にして4対1の状況。

一夏がどんな作戦を立てていたかは分からないけど、あたし達で対処しないと!

 

「ごめん、一夏、少しだけ待って…――?」

 

ガシャアアァァァンッッ!!!!

 

晴天の霹靂

 

その言葉が最も相応しい一瞬だった。

一条の雷が襲撃者を貫いた。

それも…『黒い雷』が…

 

「何が、起きたの…?」

 

視界の中で、何かが動いた。

アリーナのフィールドに倒れていた筈の一夏が、音を起てる事も無く、起き上がっていた。

 

「…一、夏…?」

 

様子がおかしい。

 

目が虚ろだった。

 

そして、手を突き出す

 

『左手を前に突き出す』

 

簪から教えてもらった話では、待機状態の白式は右手にしている。

右手首の白式に手を添えて、展開を命じているのだと。

でも、今の一夏はそれとは逆だった。

『突き出した左手に、右手を添える』

そして…

 

 

災厄(漆黒の雷龍)が現れた。




こんにちは、レインスカイです。
都合があって本日の投稿はここまで。
久々にメルクに登場してもらいましたが、扱いが不憫でゴメンよぉぉぉ。
そしてようやくアレが暴れだします。
待たせすぎましたね、その際にはスペックデータも束さんに書いてもらいましょうか。
今度は引き裂いたりしないか心配ですが。
では、また明日!アディオス!

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