IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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双剣の交わる時


災厄招雷 ~ 絶影 ~

Ichika View

 

クラス対抗戦の当日が来た。

第5アリーナには全学年の生徒が集まっている。

満員御礼の状態だ。

観客席に居ないのは、室内の数人の教師、そして放送室に陣取っている新聞部とかだろう。

 

「体のコンディションは良し、白式のメンテナンスもしてもらって、以前よりも燃費は良好、訓練も可能な限りした。

残るは本番だけか」

 

鈴の専用機に関しては情報は一切無い。

ただ、中国の開発コンセプトが盛り込まれた機体だと予想しているだけだ。

状況に応じて臨機応変に対応するしかないな。

 

 

試合の順番は籤引きで決まった。その結果、第一試合は4組の簪と、5組のコロナ・ビークスだった。

その試合の勝者がシード枠の3組代表であるメルク・ハースとの試合になっている。

 

そして、第二試合が1組代表の俺と、2組代表の鈴の試合だ。

 

「3組のメルクはまだ機体が完成していないから、訓練機を使用。

使用するのは、フランス製第二世代量産機である『ラファール・リヴァイヴ』。

5組代表のコロナ・ビークスも訓練機か。

こちらは日本製第二世代量産機の『打鉄』か。

いずれにしても簪の敵じゃないだろうな。

決勝の枠は、俺か鈴、そして簪になるだろうな」

 

それが妥当なところだが油断は出来ない。世代差は搭乗者の技量で埋められる。

その代表的な例が千冬姉だ。

千冬姉の専用機だった『暮桜』は第一世代機だ。

そんな機体で世界各国の第二世代機をも打倒して世界の頂点に上り詰めている。

そしてその理由は千冬姉の剣術の技量、そして単一仕様能力『零落白夜』と、それを使うタイミングを生み出す『瞬時加速』だった。

駆使し、絡み合わせたのは間違いなく本人の技量だと言い切れる。

 

「織斑兄、アリーナ前に来い、客人だ」

 

「…客?」

 

このタイミングでか?

いったい誰だろうか?こちらは来たるべき試合の為に集中していたんだが…?

思い当たる節は…無いとは言わないが…こんなタイミングを狙っていたんだろうか…?まさかな。

 

首を傾げながらも千冬姉の後を追い、アリーナ前に向かう。

その先には何故か簪も居た。

 

「あ、一夏」

 

「よう、簪。俺と同様に簪も呼び出されたのか?」

 

「う、うん。お客さんだって言われて…誰だろうね?」

 

…俺と簪の共通の知り合いとかかな…まさか、な。

いや、もしかして…。

 

「いやぁ、待たせてしまって悪いね二人とも!」

 

野太い…とまでは言わないが、壮年男性の声が聞こえてきた。

聞き覚えはある。それも俺からすればよく聞いている声だ。

更識家先代当主16代目『楯無』であった御仁だ。

そして更識に伝わる武術の師範、更識 厳馬さんだ。

 

「久し振りだねぇ、一夏君、そして簪も」

 

「お、お久しぶりです」

 

「ひ、久し振り、父さん」

 

こうやって挨拶をしている間にも厳馬さんは俺と簪の頭をワシャワシャと撫でまくる。

こういうのは嫌いだとは言わないが、厳馬師範の場合は遠慮が全く無いので、髪がボサボサになってしまう。

30秒程でようやく手が離れたので、右手で自分の頭を確認してみる。…やっぱりボサボサだ。

簪を見てみると…うん、やっぱりボサボサだ、わかってたけど。

そして お互いに苦笑いを浮かべる。

 

「それで、師範、今日は何故このIS学園に来たのですか?」

 

「一夏君と簪の試合を見るためだとも。その為に仕事もほっぽってきた!」

 

…そう、この人は基本的に親バカだ。

愛娘の為に、ともなると仕事も他人に押し付けて駆けつける。

楯無さんに対する簪のコンプレックスが解決した後は、それが顕著になってしまっている。

なお、それが何故かはわからないけれども、その対象として俺やマドカも含まれている。

無論、千冬姉もその対象に入れようとしているのだが

 

「千冬君もそう思わんかね?って、千冬君?」

 

人間離れしている千冬姉の危険察知能力はこれまた鋭いので、厳馬師範を前にすると音もなく姿を消す。

今だってそうだ、俺の左隣に居た筈の千冬姉の姿が何処にも見えない。

アリーナに戻ったのだとは思うが。

 

「う~む、苦手意識でも待たれてしまっているのだろうか…?」

 

単に面倒がっているだけです。

 

「まあ、後で挨拶をしておこう。

今はそれよりも、簪と一夏君の試合を楽しみにしているよ。

特に簪にとっては今回のクラス対抗戦は初陣同然だ。だが私は簪の勝利を信じている、頑張ってくれ」

 

「は、はい!」

 

「一夏君、君の健闘も祈っているよ。

君は他の生徒とは比べ物にならないほどのハンデを背負っている。

それでも君は私が見込んだ弟子だ、我が更識に伝わる『影踊(かげろう)流』を独自に改良した君だけの剣である『絶影(たちかげ)流』の真髄を見せてほしい」

 

「全力を尽くします」

 

言われるまでもない。それに今回の試合では鈴が最初の相手だ。本気で挑まなければ勝ちは無い。

だから…最初から全力でぶつかり、そして勝つ!

 

 

 

 

Kanzashi View

 

試合の時間が来た。私はピットで『打鉄弐式』を展開する。

そして右手には私が得意とする獲物である『夢現』を掴む。

この試合は私にとっては初陣。緊張はしてる、だけど負けたくない。

 

「簪、応援してるぜ」

 

「頑張れ、簪!」

 

一夏とマドカの二人が応援に駆け付けてくれているから。

この二人はいつもそうだった。私が中学生の頃、薙刀の試合をする際には駆けつけてきてくれた。

今回も同じように。

 

「うん、頑張る!」

 

この二人の応援に応えたい。そう思っていつも頑張った。そして結果を残した。だから。

 

「いきます!」

 

カタパルトから射出される。この感覚にももう慣れてしまっていた。

この一週間はマドカと訓練をしてきた。近接格闘訓練も、砲撃訓練、そしてマルチロックオンシステムを使いこなせれるように。

もう、お姉ちゃんにコンプレックスを抱いていた私じゃない。私は私なんだから。

 

「5組代表のコロナよ。専用機所有者なのは知っているわ、悪いけど、勝たせてもらうわよ」

 

「4組クラス代表の更識 簪です。

専用機所有者だからと言って私は驕ってなんかいない。勝つのは私」

 

軽い睨み合い。

その合間に相手を観察する。

機体は『打鉄』。後付武装として高機動パック、更に機体の脚部にも高機動用のスラスターを搭載している。

能力的に防御特化から機動特化に変化していると見ていい。

手には近接格闘用ブレードの『葵』を展開させている。

瞬時加速を行っての近接戦闘に持ち込むつもりかも知れない、警戒しておこう。

 

『それではぁ!試合開始ぃっ!』

 

黛先輩の声が聞こえてくる。

今回、実況をしているのはあの人らしい。

 

「ひいぁあああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!????」

 

ドガッシャアアァァァァァァンッッ!!!!!!

 

「………………えっと………」

 

『コロナ・ビークス 意識消失

勝者 更識 簪』

 

 

 

 

Ichika View

 

状況をまとめてみよう。

試合開始直後だった。簪の対戦相手であるコロナ・ビークスは瞬時加速をしようとしていたんだろう、機体の各所に取り付けていたスラスターを最大出力にしたようだが…あまりのスピードに驚愕し、コントロールができなかったらしい。

そして簪とすれ違う形になり、アリーナの壁面に衝突、その衝撃で気絶している。

なお、試合開始の合図から簪は指一本も動かしていない。

この状況に既視感を覚える。そうだ、入学前に一度IS学園に連れて行かれ、山田先生と模擬戦をやらされたんだが、その時と同じような状況だったんだ。

あの時には山田先生が突っ込んできたから、それを避けたら壁に激突して気絶していた。

…酷いデジャ・ヴュだった。

 

「えっと…た、ただいま…」

 

奇妙な試合結果に俺も簪もマドカも茫然としていた。

 

 

「あ、ああ…お疲れさん…」

 

「…なんて言ったら良いのかな、こういう場合…」

 

善戦してきて結果を出したのならともかく…こういう結果は…ダメだ、思いつかない。

誰でもいいから対処方法を教えてほしい。

 

「次は一夏の試合だよね?応援してるから」

 

「おう、勝ってくる」

 

簪が機体を展開解除したのを確認し、今度は俺が白式を展開する。

ともかく俺は先の試合(笑い話)を忘れて気合を入れなおそう。

今回の試合は厳馬師範が観客席から見ているんだ、下手な戦いは許されない。

 

「兄さん、行ってらっしゃい」

 

「ああ、行ってくる」

 

「デザートフリーパス半年分、楽しみにしてるね!」

 

思わず豪快にずっこけそうになった。

マドカ、お前も私欲丸出しで俺を応援するつもりだったんだな。

ちょっと悲しいぞ。

だが、デザート半年分ともなれば俺が使い切れるわけでもないし、マドカに渡してしまっても良い気がする。

 

『試合開始2分前です、出撃してください』

 

おっと、もうそんな時間だったか。

なら出撃しないとな。

 

俺は白式を展開し、カタパルトに乗る。

一瞬、Gを感じたがそれもつかの間、空中に打ち出された。

スラスターを吹かせ、指定位置まで移動した。

 

『さあ、クラス代表トーナメント第二試合!

Aピットからは、世界にその名を知らぬ者は無し!

たった一人の男性搭乗者!1年1組代表!

またの名を!《現代に甦った白騎士》!

織斑 一夏君!』

 

アナウンスをしているのは新聞部部長の黛先輩だ。

念の為に後で訊いておこう。

『その二つ銘を誰がつけたのか』と。

当たり前な話ではあるが、俺はそんな二つ銘を自称した覚えは無い。

そして、今までそんな風に呼ばれた覚えも無い。

あらかた、どこかで捏造したのかもしれないな。

 

「一夏、アンタは随分と恥ずかしい事を自称してるのね…」

 

出撃してきた鈴は、異質なものを見るような目で俺を見てくるが、酷く心外だ。

 

 

「知らねーよ。

俺だって、今この場で初めて訊いたぞ」

 

そして次に鈴の紹介に入った。

 

『続けてBピットから入ってきたのは、中国出身の国家代表候補生、転入してきて早々に学園の人気者!

1年2組のクラス代表!

鳳 鈴音さん!

そしてついたニックネームは《三毛猫ガール》!』

 

「誰が三毛猫かああぁぁぁっっ!!」

 

…あ、こっちは何となく理解出来る。

妙なあだ名をつけたのは楯無さんだな。

あの人の意地悪そうな笑みが思い浮かぶ。

叫びたくなる気持ちは理解出来る。

ハイパーセンサーで見る限り、観客席の一角に座っている楯無さんは楽しそうに笑っている。

ピットに簪が居るのも見えたが、目を輝かせて俺を見ていた。

集音してみると「一夏、かっこいい…」等と呟いているらしい。

少し恥ずかしい。

 

『手元に届いた資料によりますと、二人は親友だそうです。

今回はその親友同士で殴り合いというコミュニケーションは、どのような形になるのか!』

 

その紹介の仕方は絶対におかしいと思います。

 

『さあ、試合開始!』

 

グダグダなスタートかよ。

 

「…お互いに苦労してるわね」

 

「今更過ぎるだろう、それは」

 

互いに溜息を一つ零しながら、お互いの獲物をその手に握った。

俺は普段通り、右手に雪片弐型、左手には雪華を。

鈴の武装は…青龍刀を両手に。

どうやら互いに二刀流のようだ。

 

「さあ、いくわよ!」

 

「かかってこい!」

 

スラスターを吹かせ、一気に接近。

雪片と青龍刀がぶつかる。

やはり鈴の機体はパワー重視。

なかなかの膂力に腕が少しだけ痺れた。

 

「まだまだぁっ!」

 

パワーに対抗するには…!

 

「せぇやぁっ!」

 

青龍刀を受け止め、そして

 

「…っ!」

 

雪片の峯を雪華で支えながら青龍刀の刃を受け、刃に沿って刃を流した。『柔よく剛を制す』

これは楯無さんが俺を相手によくやっていた事だ。

力任せの太刀筋は容易にあしらわれるので、その技術を俺も取り入れることにした。

 

「…な…!?」

 

全力の振り下ろしを流され、鈴の体勢が崩れる。

その瞬間にスラスターをマニュアルに切り替え、白式を旋回。

 

「吹き飛べ!!」

 

側面から鈴の機体をピット方向へ蹴り飛ばした。

だが、流石は国家代表候補生、錐揉みしながらも体勢を整え、こちらに視線を向けてくる。

 

絶影流 『風月(かざつき)』。

相手の刃を受け流し、回し蹴りを叩き込む単純な技術だ。

もともとは影踊流『影刺(かげさし)』をベースにしたもの。

回し蹴りを行う際に、靴に仕込んだ刃で相手を串刺しにする暗殺技術だったとか。

だが、俺はそれをしないので、ただ単に単純な技になっているが、それを補うのに使っているのが『スピード』だ。

蹴る際に足を振りぬく速度が速ければ、その分威力も上がる。

今回のように旋回するスピードを利用して、吹き飛ばす事も可能だ。

 

『決まったぁっ!!

先にダメージを与えたのは、織斑君だぁ~!』

 

黛先輩の実況が響き渡る。

あの人、実は体育会系らしい。

そして観客席も湧き上がる。

 

「驚いたわね、ホントにISでもアンタの戦い方そのままでやれるなんて」

 

「そっちこそ、そのパワーには驚かされた。

様子見の必要もなさそうだ、いくぜ!」

 

試合はまだ始まったばかりなんだ。

そう簡単に終わらせたりするかよ!

 

刀とナイフ…今は脇差ではあるが、二刀流と高速の蹴り技を併用する絶影流の真髄、ここで見せてやるよ。

 




簪ちゃんの対戦相手になった『コロナ・ビークス』は使い捨てキャラです。
今後は登場の予定はありません。
そして一夏君の本来の戦い方がついに登場。
二刀流と高速の蹴り技を入れ替えながらの戦闘です。
…早い話が、抜刀居合は『君子殉凶』、絶影流は『双天来舞』を合わせているわけですね。
格闘複合剣術とまで言ってしまえるかもです。

一夏君が大暴れするのはまだまだこれから。
また次回もお楽しみに!

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