IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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セカンドにゃん娘が張り切ります。


災厄招雷 ~ 約束 ~

Ichika View

 

「今日も一日の授業終わり、と…」

 

誰も居ない第5アリーナ更衣室にて息を休める。

今日の午後の授業はクラス全員でのIS訓練だった。

もののついでにSHRも終えているので、少しの時間だけ、俺は一人でこの更衣室にて息を休めていた。

 

この後は楯無さんによる訓練が待っている。だが、一冊の冊子を持ってこないといけない。

その為にも、一旦寮に戻る必要がある。

 

「一夏、お疲れ」

 

更衣室に入ってきた小柄な生徒が一人、鈴だ。

彼女の手にはタオルとスポーツドリンクと…それと、何か持っているようだ。

 

「はい、スポーツドリンク、ぬるめで良いのよね?」

 

「ああ、助かる」

 

疲れた体には冷たい飲み物が心地良いかもしれないが、逆に体に負担を与えやすい。

だからぬるめが丁度良い、後に困るのは自分とその家族だ。

一緒にタオルを受け取り、顔や体の汗を拭き、首から提げた。

 

「そうだ一夏、これプレゼントよ、再会の祝いにね」

 

そういって鈴が手渡してきたのは銀色のペンダントだった。

ロケットになっており、写真が入れられるようになっている。

 

「あたしの手作りよ、簪や楯無さん、虚さんや本音にマドカにも渡してあるわ、千冬さんにもね」

 

「律儀だな、だが嬉しいぜ」

 

「そうだ、ねえ一夏、アンタはまだ簪と交際してるのよね?」

 

「ああ、当然だろ。皆には言ってないけどな、簪がまだ恥ずかしがっているから公表はしてない」

 

「そっか、だと思ってアンタのペンダントには一夏と簪のツーショットを入れといてあげたわ、感謝しなさい!」

 

気が利いているな。なお、もう一枚入れられる仕様になっており、そこには、俺と簪を中心にしてマドカ、千冬姉、楯無さん、のほほんさん、虚さん、鈴が一緒に映った集合写真になっている。

あの日、空港で撮影したものだ。

本当に気が利いている。

しかも手作りのペンダントなのに中々に精巧な作りになっている。

 

「さてと、俺はこの後に訓練があるんだが…部屋に取りに行くものがあるんだ」

 

「じゃあ私もそこまで同行したげるわ、一人部屋じゃ寂しいだろうし」

 

ぼっちにされてるような言い方はやめてくれ。ただでさえイレギュラーであることを自覚してるんだからな…。

 

「いや、俺はルームシェアしてるぞ」

 

「…はぁ!?誰とよ!?あ、もしかして簪?」

 

「いや、違う、お前も知った顔だ」

 

「…ちょっとお邪魔するわよ」

 

で、アリーナを出た直後、鈴は何を思ったのか、全力疾走して寮へと向かっていく。

それに茫然としてしまうが、俺も寮に戻ってからアリーナにとんぼ返りなんだ、俺も全力疾走をすることにした。

一時的に部屋を借りている三年生寮の1045号室で冊子を掴み取ったが、鈴の事が気にかかり、一年生寮へと赴く。

そして暫く前まで使っていた1025号室前に到着すると

 

「ルームメイトを変わってほしいんだけど」

 

仁王立ちになっている鈴が中に居るであろうルームメイト(仮)に挑戦的な視線を向けて言い放っていた。

鈴の肩には小さな鞄が一つのみ、それが鈴の全ての荷物らしい。

フットワークが軽い奴だな…

 

「な、なんなんだ!いきなり!」

 

「あら?聞こえなかった?ルームメイトを、交代、して、ほしいん、だけど」

 

区切って言わなくても良いだろう。とは言え、この部屋を使っている俺もこの騒ぎを無視すべきかどうか…。

まあいいや、先ほど話せなかった件を伝えて、とっととアリーナへ向かうことにしよう。

謂れのない騒ぎに巻き込まれるのは御免被る。

 

「一夏、アンタも女の子と同じ部屋で過ごすのは苦痛でしょ?

だから、今日からアタシがルームメイトになってあげるわ」

 

「いや、お前もその『女の子』に入っていると思うが…そもそも寮監に申請したのか?」

 

「これからよ!」

 

そうかい、まだなのか。しかし、だ。

 

「許可の無いルームメイト変更は出来ないだろう」

 

「そ、そうだ!そんなもの認められるか!」

 

篠ノ之、お前も人の事を言えた立場じゃないぞ。

 

「それと鈴、最後まで話を聞いてくれ。

ルームシェアとは言え、今現在は名前を貸しているだけの状態だ。

俺は暫定的に三年生寮を借りている状態だ。

どのみち、近い内に俺とソイツのルームシェアは正式に解除される。

『早急に』依頼しているし、そう遠くないんじゃないのか」

 

事実だ。入学初日に即日入寮を言い渡され、寮の事に関してはノータッチ。

結果、なぜかコイツが同じ部屋になってしまっている。

『イレギュラーだから仕方ない』では済まされないのは明白だ。

日本の国で建てられた学園である以上、男女同衾は教育界側から見ても良くはないだろう。

そこでルームシェアの解除も申請しているが、一週間以上何の知らせが無いのはどういう事か。

 

「それを先に言いなさいよ!」

 

「言うより先にお前は走り出してたんだろ」

 

「あ、そうだったんだ…」

 

まあ、お前らしい話だとは思うけどな。

 

「じゃあね、お邪魔したわね」

 

興味が無くなったと言わんばかりに鈴は1025号室前から寮の入り口方面へと歩いていく。

まあ俺もこの部屋に用が無いので、とっとと立ち去ることにする。

背後から篠ノ之がが何か叫んでいるが、極力無視する。

 

「ねえ一夏、一つ賭けをしない?」

 

「内容次第で乗るか反るかを決める、で、賭けの内容は?」

 

この前のマドカもそうだが、切った張ったが好きな奴が多いのだろうかこの学園は?

いや、身内だけの問題かもしれないな。

 

「クラス対抗戦で私が勝ったら、ルームシェアが解除されるまで私の部屋に泊まりなさい!

私のルームメイトのティナは了承済みよ!それとマドカや簪も本音も一緒にね!

一緒にお泊りになるけど!」

 

「おいおい、すでに承諾をとってるのなら、もう事後承諾と同じじゃないのか、それ」

 

やられたな、さっき鈴が全力疾走していたのはこれが理由だったのか。

つーか、話が広まるのが早すぎるだろ。

俺に逃げ場は無さそうだ。

付け加えて言うと、一つの部屋でそんな人数が寝泊まり出来るのか?

 

「なら、俺が勝ったら…そうだな、早朝の剣術訓練に付き合ってもらおうか。

時間は4時起きで、4時30分に修練場だ」

 

「相変わらず早起きしてるのね、アンタは…」

 

まあな。これでも健康には気を使っているんだ。それにバイトをしていた頃の名残で。

 

「で、乗るか反るか?」

 

「当然乗るわよ!」

 

なら話は決まりだ。それにクラス対抗戦では、優勝したクラスには『デザート無料券半年分』が配布される。

なので自分のクラスの代表を応援する際には私欲丸出しで応援する人も居るんだとか。

女子高って凄ぇ…。

 

「だが鈴、そういうのは先に言ってくれよ」

 

「サプライズも必要でしょ?」

 

おっとこんな事をしてる場合じゃなかった。

冊子を掴み、俺は全速力で部屋を飛び出した。

なお、訓練時間にはかなりギリギリになったが間に合った。

 

 

 

 

 

鈴とはお互いに対等な状態で訓練を行いたい。

なので、今回は楯無さんには情報を要求しなかった。

 

「そう、つまり、自分の力がどれだけ通じるかを試してみたいのね」

 

「はい、あいつも必死に訓練を積んでいるでしょうけど、それでも俺は負けたくない。

全力でぶつかって勝ちたいんです」

 

「いいわねぇ、その表情は素敵よ♪

じゃあ、今日の訓練では今までに教えたものを総復習する気概で…かかってらっしゃい!」

 

楯無さんも本気だ、本気で俺を倒す目でいる。

修練場で俺を熨しているとき以上に…!

 

「行きます!」

 

白式を一瞬で展開、即座にスラスターを吹かせ、双刀を抜刀する。

楯無さんはラスティー・ネイルを抜刀している。

雪片で斬りかかろうとしたが、容易に食い止められる。

逆手に握る雪華で斬りかかるも振るう腕を払われる。

雪片で薙ぎ払う。

そして…ここからが絶影(たちかげ)流の本領だ…!

 

「まったく、お行儀が悪いわね一夏君は」

 

「以前から知ってるでしょう」

 

「そんな悪い子には」

 

…やべ!もうナノマシンを周囲に散布してる!

 

「お仕置きよ!」

 

パチン!と指を鳴らすとほぼ同時に凄まじい衝撃。

水蒸気爆発『クリアパッション』だ。大気中の水分をナノマシン経由で幾らでも操作出来るのが楯無さんの専用機『ミステリアス・レイディ』の恐ろしい所だ。

海洋に面したこのIS学園では風に運ばれてくる水分が都合のいい環境を作り出してくれる。

地上だからと言って油断は一切出来ない。水上戦闘ともなれば勝てる人はこの世界に片手で数えられる位しかいないだろう。

 

「あっつ!」

 

後退加速でかろうじて水蒸気爆発から回避したが、今のでシールドエネルギーが87パーセントから31パーセントにまで一気に激減している。どんな威力だよ!?半分以上削られてるじゃねぇか!?

こうなったら『零落白夜』は使えない。

あの攻撃は、自分のシールドエネルギーを大幅に削る。

相手に攻撃が当たらなければ、ただの自滅攻撃だ。

 

「だったら!」

 

雪片弐型と雪華を連結させ、六条氷華を展開する。

すると楯無さんは、蒼流旋を展開。

マニュアル制御で俺を中心にして、こちらに照準を合わせたまま機関砲を撃ってくる。

 

「ちぃっ!」

 

仕方なく展開を解除して双刀にして構えなおす。

六条氷華は射撃武器ではあるが、形状は『弓』だ。

だがあの状況では『照準を合わせられない』そして『撃てない』。

これが射撃武器の欠点か!

 

「悟ったでしょう、BT兵装でもない限り、そして連射が出来ない射撃武装は、相手が立体的な動きをしている限り発砲は出来ない!

貴方の武装は弓だけれど、9発の矢を『同時に発射』しているのよ!

その特徴が分かれば欠点も理解できるでしょう!?」

 

「的を止める必要がある、そういう事でしょう!」

 

「それが出来ない限り、一夏君は近接特化でしかないわ!

慣れない射撃に頼るのは辞めたほうが身のためよ!」

 

「了解!」

 

白式は機動特化と近接戦闘特化の機体。停止してからの射撃は向いていないんだ!

思い出せ!セシリアに六条氷華による射撃を命中させられたのはセシリアのブルー・ティアーズが行動不能の状態になっていたからだ!

それに白式のサポートがあったからだ!

そもそもまともに射撃訓練も受けていないのに、射撃武装なんてマトモに扱える道理が無い!

 

「さあ、訓練再開よ!」

 

「全力でいきます!」

 

双刀での連続攻撃に、隠し弾にしている『アレ』、白式のスラスターをマニュアル/オートを切り替えながら手数の多さで一方的に攻める。

だが…『受け流されている』のが現実だ。

ここで意表を突かなければ、勝ち目さえ浮いてこない。

一か八か…!マドカ、お前が見せてくれた技術を真似させてもらうぜ!

 

瞬間加速!

 

一気に接近する、そしてそのスピードを維持したまま

 

「…なっ!?」

 

青刃一閃

 

雪華を投擲した。

それによって発生した隙を突き

 

「『零落白夜』発動!」

 

雪片の刀身がスライドし、レーザー刃が展開、青白い刃が金色に染まる。

そのまま一閃する!

 

ガギィッ!

 

その攻撃も蒼流旋で受け止められた。零落白夜が有効なのはレーザー刃部分のみ、鍔を受け止められたら、意味は無い。

 

「…今のは危なかったわ…」

 

零落白夜を解除する。そして腰部にマウントされた『雪華』を抜刀する。

先程投擲したばかりの脇差が、いつの間にか手元に戻ってきている。

それに楯無さんが驚愕していた。

 

これはマドカが見せてくれた技術だ。

投擲したナイフを即座に量子変換する技術。高速で武器を入れ替えるのが『高速切替』(ラピッドスイッチ)と言うのなら、さしずめこれは『高速変換』(ラピッドチェンジ)もしくは『高速送還』(ラピッドリターン)といったところだ。

 

雪華を順手に持ち全力で振るった。

手応え…あり!

 

「ふぅ…危なかったわ、今のは…」

 

「み、水の障壁…!?」

 

雪華が触れたのはナノマシンで制御された水の塊だった。

冗談だろう!?

『雪華の太刀筋に合わせて水の塊を展開させて障壁にした』のかよ!?

 

「流石は奇策でドイツ軍将校を打倒しただけはあるわね!」

 

「…どんだけ昔の話をしてるんですか。ってかそんな話まで知ってるんですか…」

 

以前から思っていたけど、更識の情報網は凄すぎるだろ!?

 

「押し倒したらしいわね♪」

 

思い出させないでください!

 

「はい、隙だらけ!」

 

クリア・パッション再び。今度こそ白式のシールドエネルギーは根こそぎ奪われた。

0距離だったにも関わらず、ミステリアス・レイディのシールド減少量は0%だ。

大方、水の障壁を防御用に展開していたんだろう。

だけど、今回の模擬戦で理解した。『ミステリアス・レイディ』は防御主体の機体だ。

戦闘に関しては、搭乗者自身のセンスがそのまま活かされている。

 

 

『クリア・パッション』や蒼流旋のガトリング・ガンはオマケに近いんじゃなかろうかとさえ思えてくる。

訓練は次第に厳しくなっていく。

楯無さんとの勝負では、近接戦闘なら何とか互角に渡りあえるようになった。

だが未だに白星の一つも奪えない。

射撃に関しては、俺はまだまだ素人だ。

六条氷華での射撃は、白式のサポート無しでは、固定された的への命中性は8割に届くかどうか、だ。

エネルギー消費量は、整備課に相談してみた所、驚愕の15%良好にまでなった。

整備って馬鹿にならないよな…。

今後は、小まめに相談をしてみよう。

 

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」

 

「ふぅ…この一週間の訓練で…そうね、以前よりはずっとマシになってきたわね。

一夏君、明日の対抗戦は頑張りなさいね。

応援してるわよ」

 

「…善処します」

 

「よろしい!

あ、でも~、デザート無料券はお姉さんも欲しいわね」

 

いや、貴女なら簡単に奪っていくと思いますが。

何せ生徒最強なんだから。

などと思っても口には出さない。

虎の尾を踏むのは好ましくない状況に転がり落ちてしまうのは目に見えている。

 

一先ず、出来る訓練は全てやった。

近接戦闘訓練、加速訓練、飛行訓練、射撃訓練。

 

後は鈴との試合だ。

 

「部屋に戻って休むか、明日はいよいよ試合だ」

 

鈴、先日にも言ったが、俺は簡単に負けたりしないぜ。

それだけじゃない。

俺の本来の戦い方が国家代表候補にどれだけ通用するのか試すには絶好の機会なんだ。

 

「…ようやく、だな…!」

 

俺の我流剣術は、その本領をずっと周囲に隠していた。

知っているのはマドカと簪、楯無さんくらいだったか。

それと先代更識家当主兼師範の厳馬さんか。

ほかには弾と数馬と蘭が居たな。

そして勿論千冬姉も知っている。

 

「…必ず、勝つ…!」




こんにちは、多種多様のラーメンを食べてきて胸焼けを起こしているレインスカイです。ゲップ…。
さて、今日と明日は少々立て込んでいるので1話ずつの投稿になります。
そしてようやく一夏君の本気が執筆出来ます。
更に…もうすぐ『アレ』も登場の予定です。
この上ないほどに大暴れしてもらう予定ですのでお楽しみに。

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