IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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お待たせしましたセカンドにゃん娘の登場です。


親友

 

Ichika view

 

セシリアの一件後、数週間が経った。

今ではクラスの殆どがセシリアに普通に馴染んでいる。

髪を短く切り落としてまで気持ちを入れ替えたことをアピールしているし、それも当然かもしれない。

まあ、他のクラスになったら別問題だからどっちでもいいけど、後はセシリアの努力次第だ。

でも、今は別の噂が立っていた。

曰く、どこかのクラスに転入生が来る、とか。

原則、この学園へは余程の事でない限り、転入や途中入学は無理。

…俺のような『イレギュラー』ともなれば話は別かもしれないが、俺に続く『男性IS搭乗者(イレギュラー)』は未だに世界の何処にも発見されていない。

発見されてしまえば、『更識家』の情報網に触れる筈だが、それすら無かったと教えてもらった。

となれば

 

「『国家代表候補生』か、もしくは『国家代表生』、『企業代表生』になるんだろうな」

 

「聞いた話ですと、中国からだそうですわ」

 

中国、か…。その国名を聞いた途端にある人物を思い出す。

時にはマドカ同様に、まるで妹のようにさえ思えた恩人を…。

 

「一夏、もしかして『鈴』の事を思い出してたの?」

 

簪の言葉に俺は頷いた。

 

「…ああ、懐かしいな」

 

あの『元気』の申し子は今でも元気にしているのだろうか…?

いや、きっと元気にしているだろう。俺の勝手な推察…願望でしかないけどさ。

 

「国家代表候補生…わたくしの存在を危ぶんでの事でしょうか?」

 

「それは無い」

 

マドカは即答となかなかに辛辣だ。

 

「ともなれば専用機持ちなのかもしれないな、どんな(機体)なんだろうなぁ」

 

中国でのIS開発でのコンセプトは『パワー重視』と『安定した燃費』の二つ。

それを主体に開発されている量産機が(ロン)だ。

だが、その二つを兼ね添えた第三世代機体だとしたら非常に興味をそそられる。

 

「で、ですが一夏さん、国家代表候補生でも、専用機を持っていないパターンもありますわよ」

 

「そ、そうだぞ一夏!それにクラス対抗戦も近いんだ!

専用機所有者は1組と4組のコイツだけだ!」

 

また篠ノ之は人を指さす…。

だから簪を『コイツ』呼ばわりするな。そう注意しようとした時だった。

 

「その情報、もう古いよ」

 

声は、教室の前方のドアの方向から聞こえてきた。そこには茶髪をツインテールにした小柄な少女が一人…似合いもしないのにドアに寄りかかるという姿勢をしていた。

 

「久しぶりだな、鈴」

 

「久しぶり、一夏、簪もマドカも元気そうで何よりだわ」

 

噂をすれば影、雑談にも出ていた幼馴染がそこに居た。

 

「手袋をし続けてるって事は…まだ治ってないのね…」

 

「…まあな、簡単に治るようであれば『PTSD』なんて言わないだろう。

ついこの前も発作を起こしたばかりだしな」

 

「発作を起こした!?アンタそれ、どういう事」

 

その話もしてもいいんだが、時間を見てくれ、ついでに後ろもな。

バシン!!

 

「痛ッ!?ちょ…何す…る…」

 

鈴の顔が次第に青く染まっていく。派手な音の正体は出席簿で鈴の頭を叩いたからだ。

では、そんな事をするのは誰なのか?問うまでもなく

 

「ち、千冬さん…」

 

バシン!

 

「んぎっ!?」

 

なんつー悲鳴だよ。

 

「『織斑先生』、だ。授業時間だ、とっとと教室へ戻れ、更識もだ!」

 

「は、はい!」

 

「一夏!逃げるんじゃないわよ!」

 

「とっとと戻れ!」

 

三発目をスウェーバックにてギリギリ回避しながら鈴は走り去っていった。

それを追うような形で簪も教室へと戻っていく。俺はその背を視線で追いながら手を振って見送った。…見えてないだろうけどさ。

さて、授業に集中集中!

 

 

授業に入ったまでは良かったが…そこから先はあまり宜しくなかった。

何故か知らないがセシリアと篠ノ之が授業とは全く関係の無い事ばかり考えていたようで、繰り返し千冬姉のボコスカと教科書にて頭を叩かれていた。

昨今、教師による学生への暴力が危険視されているのに、千冬姉はお構い無し。

『此処では私がルールだ』と言わんばかりに叩きまくる。

まったく、どこの暴君なんだか。

 

バシン!

 

そんなアホな事を考えたのがバレたのか、俺も教育的指導を一発受けることになるのだった。手加減してくれよ。

周囲は俺がなぜ叩かれたのか理解が出来ていないようだったが…察したりしないでほしい。

なお、午前中の最初の授業だけでも篠ノ之とセシリアは20発以上叩かれていたりする。

そしてその午前中のすべての授業が終わった後

 

「お前のせいだ!」

 

「一夏さんのせいですわ!」

 

なんという理不尽か。授業中にて叩かれていたのは自業自得だろう。

 

「お前らが授業に集中していなかったからだろうが…それを他人のせいにするな」

 

バッサリと斬って捨てた。

 

「兄さんの言うとおりだ、なぜ集中していなかったのか知らないが、それを他人のせいにするのは烏滸がましいぞ」

 

付き合ってられないとばかりにマドカは歩き出す。俺もその隣に並ぶようにして足を運ぶ。

目指す先は食堂だ。昼休み時間は限られている。効率よく移動をしないと、座る席が無くなり、用意した食事が冷めてしまう。最悪立ち食いになる。

そんな女子生徒をこの数日で幾度か目にした。同情はしている。

 

「遅いわよ一夏!」

 

「待ち合わせをしてたわけじゃないだろう。それにそこに立っていられると食券が買えない。それと、ラーメンが延びるぞ。…席の確保をしといてくれないか?」

 

「オッケー!」

 

お盆に乗ったラーメンのスープを一滴も零さずに鈴は走り出す。器用な奴だよな。

それにフットワークは相変わらず軽い。あいつ、中国でも結構鍛えてるのかもしれないな。

中国からの転入生は鈴と見て間違いない、なら、鈴はどんな理由で転入してきたんだろうか?

 

その疑問は一旦置いておき、俺とマドカと簪は日替わり定食を注文した。

今日の目玉は鯛の刺身だ。だけど山葵は…普通の合わせ山葵みたいだな。

ほんわさは間に合わなかったのか、それとも量が切れてしまったのか…次回以降の楽しみにしておこう。

セシリアはホットサンド、篠ノ之は…和食定食か。

 

「えっと…鈴は…」

 

食堂の中を見渡すと、こちらに向けて大きく振っている手が並んで二つ。

別に両手を振っているわけじゃない、手を振っている人物が二人居ただけだ。

鈴と…楯無さんの二人が。

「さてと、何から話せばいいかしらね」

 

席に着くなり鈴は語りだそうとするが

 

「食べてからだ、さっきも言ったけどラーメンが延びるぞ」

 

「それもそうね」

 

ズルズルと音を起てながらラーメンを食べていく様子を横目に、俺も日替わり定食を食べていく。

鯛の刺身が美味い。流石は世界を股にかけた学園なだけある、素材もいいものを取り揃えている。…全額日本政府が負担しているのが釈然としないが。

そして食事も終わり、俺はお茶を飲む。

その頃には他の皆も食事を終わらせていた。

 

「で、急に転入してきたのはどうしてなんだ?こっちは驚いたぜ」

 

「それよりもアンタはどうなのよ?男子でありながらISを動かせるなんて世界の常識を引っ繰り返すようなことをしでかしちゃって」

 

「不可抗力だ」

 

バッサリと斬って捨てた。千冬姉とマドカは知ってはいるが、『道に迷った挙句にISを置いてある部屋に入って動かしちゃいました』なんて言えない。

知れば鈴は大笑い、俺は新たな理由で針の筵だ。ようやくこの学園にも慣れてきたんだ、後ろ指を指されるのはお断りだ。

 

「まあ、いいけど。あたしは中国政府からの指示なのよ。IS学園に転入して来いってね。

それで」

 

「一夏さん!」

 

「そろそろ教えろ!ソイツとはどういう関係なんだ!?」

 

だからソイツ呼ばわりを辞めろ。そして指をさすな。

 

「あら一夏君、紹介してなかったの?」

 

「時間がなかったので仕方ありませんでしたよ。

最初に鈴が教室に来たのは授業開始直前でしたから、紹介する時間がなかったんです」

 

これに関しては事実だ、紹介する時間も無かったし、時間に厳しい千冬姉が授業時間を削ってまで紹介する為だけに暇を与えてくれる筈もない。

だから紹介をしていないんだ。

 

「じゃあ、紹介しようか。

凰 鈴音だ。時期的にはそうだな…篠ノ之が転校して行った直後に、日本に転校してきたんだ。

俺が発作を起こした時には幾度も助けてくれた恩人の一人、そして親友だ。

で、いまは中国所属の国家代表候補生、で合ってるのか?」

 

「そうよ♪あらためて、凰 鈴音よ、よろしく」

 

「わたくしはイギリス所属の国家代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

 

「ん、宜しく!『鈴』って呼んでくれて構わないわ」

 

「篠ノ之 箒だ」

 

「へぇ、アンタが一夏の言ってた女の子なんだ」

 

なお、鈴に箒の事はさわりだけ紹介していた。鈴がやってくる直前まで居た女子生徒、と。

そんな古い話を覚えているだなんてな、思い出ってやつを大切にしてくれているらしい。

俺としても嬉しい限りだ。

 

「そして私がIS学園の生徒会長、更識 楯無よ。

ちなみにロシアの国家代表候補生よ」

 

便乗して名乗り出る楯無さんだった。

 

「一夏、アンタは訓練とかはどうしてるの?あたしはクラス代表をしてるし、訓練くらいは」

 

「ダメよ鈴ちゃん」

 

やんわりと断ったのは楯無さんだった。笑顔のままだが、妙な迫力がある。

この迫力には鈴は抗えた試しが無かったな。すでに一歩引いて逃げの体制に入っている。

 

「クラス対抗戦は近いのよ、互いに手の内を明かすのは良くないわ」

 

「その通りだ鈴、訓練はクラス対抗戦が終わってからにしよう。

そうじゃないとクラス対抗戦でもフェアじゃない」「分かったわ、それじゃあクラス代表トーナメントでは負けないんだから!

一夏も全力で戦いなさいよね!」

 

当然だ。とは言え…『フェア』とは言えないかもしれない。

中国でのIS開発上のコンセプトの二つは知っているんだからな。

そして、入学前にマドカに手伝ってもらった暗記、その中でも出ていた『空間圧縮兵装』が脅威になるかもしれない。

訓練を積もう。

 

「それはそうと…」

 

鈴がグラスに注がれていたお冷を飲み干した後、奇妙な視線を簪とマドカに突き刺した。

 

「マドカ、簪ぃ…アンタ達ねぇ…」

 

何故か知らないが、鈴の額には青筋が十文字に浮かんでいた?

…あれ?こいつを怒らせるような要因って、今までの会話の中で有ったか?

 

「なんでアタシが中国に帰ったたった一年間でそこまで育ってんのよ!

嫌味か!?アタシが小さいからってそこまで一気に育ったって言うの!?」

 

「ち、違うから!」

 

「ぎゅ、牛乳を飲んで適度な運動!

それから適切な栄養と睡眠!それだけしかしてない!」

 

「アタシだって同じよ!

アンタ等と変わらない事を続けてるのになんでそんなにも差が出るのよ!」

 

…もういっその事、窓から飛び出して逃げてしまおうか。

だが俺の両隣に簪とマドカが座っているから、逃げるに逃げられないわけで…。

 

「一夏ぁっ!」

 

「なんだ?」

 

「この二人!いつからこんなに大きくなってんのよ!?」

 

「…それは俺に訊くべきことじゃないだろう…」

 

俺はグラスに残っていたお冷を飲みながら左手で鈴を席に座らせた。

鈴は再びマドカと簪に視線を突き刺してくる。

 

「えっと…去年の今頃から、急に…」

 

「私も同じ頃からだ…」

 

「なんでこんなにも世界は不公平なのよおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!」

 

鈴の凄まじい罵声が食堂を中心に響き渡った。

流石に喧し過ぎたからだろう、千冬姉がトレイで鈴の頭頂部をブン殴っていた。

フチではなく面での打撃である分、加減はしてたが、15回はやり過ぎだろう。

 

 

 

「あ、そういえばアンタ、さっき発作を起こしたって言ってたわよね、それってどういう事なの?」

 

「どうもこうも、後遺症の残る左手を殴られてな、数日はベッドの上での生活を余儀なくされていたんだ。

付け加えて高熱も出てたよ、42℃程な」

 

簪、マドカの視線が篠ノ之の方向へ収束する。それで一瞬にして鈴は悟ったらしい。

ふ~ん、そういう事ね。と呟きグラスに残った水を一気に飲み干す。

 

「ねえ一夏、アンタは今でも剣の特訓をやってるんでしょ?」

 

「当然だ、あの頃と同じように楯無さんに鍛えてもらってる。

お前も何度か見に来ていて知っているだろう」

 

更識家に厄介になっていた頃にも特訓を積んでいたが、そこに鈴も幾度か見物に来ていた。

俺の異色の二刀流も目にしている。その過酷さも。

俺の『ダブル』の存在も。

 

「その剣技のお蔭で今は1組のクラス代表になったって事か」

 

「相応の条件はあったけどな。

けど、多くの人を纏めるなんて俺には向いてないだろ?

中学に在学していた頃だって、クラス委員長なんてやってなかったからな」

 

「兄さんは辞退しようとしてたけど、私としては兄さんにクラス委員長をやってほしかったな」

 

マドカのその願望が叶って、今はクラス代表だけどな。

正直、肩が凝りそうなんだよな。

だが必要となれば窓から飛び降りて逃げるだけだが。

 

「この学園に入学する少し前まで、いつもの所で鍛えてたの?」

 

「ああ、弾や蘭もよく見学に来てたよ。

あくまで見ているだけだったけどな。

でもまあ、俺が鍛錬をしている間は決して目を逸らそうとはしなかった。

蘭は半泣きになってた時もあったけどな。

初めて師範から一本を取った時にはマドカも弾も蘭も大声を上げてたよ」

 

まあ、その時には俺も疲労でブッ倒れていたけどさ。

あの時の瞬間は決して忘れない。

 

「そうなんだ…アンタの二刀流、そこまで完成してたのね。

その瞬間にはアタシも立ち会いたかったわ」

 

「兄さんの剣技は凄いぞ、剣道なんて目じゃないからな!」

 

「それはアタシも知ってるわよ。

マドカは相変わらずのブラコンにシスコンよね」

 

「それは誉め言葉だ!」

 

断じて違うと思うぞ。

 

 

 

 

Lingyin View

 

一年振りに出会った親友は相変わらずだった。

相変わらず左手を手袋で隠している。

それはいい、一夏が事故に巻き込まれ、その左手に後遺症が残っているのをアタシは知っている。

PTSDを負い、銃器を目にしただけで錯乱する現場も何度か目にした。

その都度、アタシ達親友は必死になって助けてきた。

何度だって助ける。

日本に来て、右も左もわからなかった頃にイジメを受けていたアタシを助けてくれたんだから。

初恋は簪の登場で諦めたけど、親友のポジションに立っていられるのなら、とアタシはアタシの中で折り合いをつけた。

それから更識家での二刀流の特訓だって何度も見た。

アタシ達はお互いに認め合った場所に立っている、それでいい。

 

アタシが日本に戻ってきたのは、また一夏と一緒に過ごしたかったから。

中国でISの訓練ばかりしていたのが飽きたから、なんてのも有るけどね。

それでも、あの楽しかった時間に…それに近い空間で過ごせたらと思って、このIS学園に転入してきた。

そこで見た幼馴染は、やっぱりとても強くなってるみたいだった。

一夏、アンタなら、目標にしている高みに必ずたどり着けるわよ。

アンタだけの剣でね。

 

「一夏だけの剣、それも対戦の時に見せなさいよ」

 

「ああ、負けないぜ」

 

当然よ。アンタがどれだけ強くなってるのか、見せてもらうからね、親友!

 

 

 

「ところで鈴さん?」

 

「ん?何よ?」

 

「随分と一夏さんと仲が宜しいようですけれど」

 

「ま、まさか、そ、その!つ、付き合っているのか!?」

 

…うわぁ…今になってこんな質問が飛び出してくるなんてねぇ。

一夏と簪に視線を向けると…アイコンタクトをしてくる。

『黙っていてくれ』、と。

アンタ達ねぇ…いい加減に限った人以外にも公表しなさいよね…これは貸しにしとくわよ。

 

「友人、親友としての付き合いってだけよ。

それ以上の関係にはなってないわ」

 

…求めてた時が有ったのは否定しないどね。

 

「ふぅ…そうでしたの…」

 

セシリア・オルコットだったかしら。こっちは安堵してる。

…一夏、アンタ、また無意識で女の子をオトしたわね。

 

「う、うむ、それならば、いいんだ」

 

篠ノ之 箒、だったわね、コッチも考えてるのは同じらしい。

けど、コイツは一夏の左手を殴るなり何かやらかしているようだし、警戒しておこう。

それに、さっきの呟き声は聞こえてるわよ、なんでそんなにも上から目線なのよ。

 

 

もう一度一夏に視線を向ける。

『感謝する』だって…二人分って事で貸し二つだからね。

夕飯に何か一品奢ってもらおうかしら。

 




こんばんは、と言うには少しだけ早い時間に新たに投稿です。
また今度にしようかな、なんて思ったけど、セカンドにゃん娘の投入です。
一夏君と簪ちゃんの関係を知っていますので、一夏君と簪ちゃんの味方です。
仮にも親友ですのでね。
この二人のバトルシーンを早く描いてみたいものです。
その際には、出番を端折られた黛先輩にも登場してもらいましょうかね。
それではまた後日にお会いしましょう!

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