IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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試合終了後の出来事と、翌朝の出来事になります


発作 ~ 和解 ~

Madoka View

 

試合を終えてからのシャワーは格別だった。

それを終えてから鏡を見てみる。

…姉さんのスタイルに追いつくにはもう少しだと思いながらも、服を着る。

それから兄さんとの待ち合わせを守るようにアリーナの出入り口に向かう。

その途中

 

「ヒィッ!あ、貴女は…」

 

「なんだ、お前か」

 

セシリア・オルコットとの遭遇した。

 

「自分の愚かさ加減が身に染みてよくわかっただろう」

 

「…ええ…嫌と言うほどに」

 

そうか、なら何よりだ。

そして私は右耳に飾ったイヤーカフスを見せる。

それを見た途端にセシリアが真っ青になる。

 

「なら後は…、…イギリスでせいぜい懲罰を受けることだな。

他国への無断でのISの譲渡がどれほどの重罰かは知っているんだろう?

もう自慢の故国に居場所は無いな。

よくて国外追放、悪くて公開審問の後に永久の投獄だな。

国際IS委員会による厳罰に国際裁判所による審判、どうなるのか楽しみだと思わないか?」

 

「……わ、わたくしは……」

 

もう見ていても気の毒なほどに真っ青だが、生憎同情なんてしてやらない。

こいつは兄さんを馬鹿にし続けていたんだから。

 

「それと」

 

「…?」

 

「私は、お前が兄さんを侮辱したことを許したわけじゃない。

だが兄さんなら水に流せと言うだろう。

だとしても」

 

私は普段の訓練に使っているナイフを展開する。

それを左手に掴む。

鞘を左手で掴み、右手で柄を握る。

 

「落とし前は必要だ」

 

「ま、まだわたくしに何を要求するつもりですの!?

何が足りないと言うんですの!?」

 

「兄さんに尋ねることだな」

 

兄さんが幾度か見せてくれた抜刀居合。

その中の一つが、太刀筋がとても綺麗だと思えた技があった。

だから私はそれを真似てみた。最初は失敗して派手に転んでは兄さんに手当てをしてもらったっけ。

 

「絶影流…!」

 

「いや、いやぁっ!」

 

幻月 双華(げんげつ そうか)!」

 

駆け抜けざまに袈裟斬りに一閃。

そして背後に回った瞬間に逆袈裟斬りに刃を振るいXを描く太刀筋。

これが私が真似られる最後の技だった。

 

バサリと音が聞こえる。

この技で斬ったのは衣服でも肉でもない。

 

「か、髪が…わたくしの髪がぁっ!?」

 

ナイフを鞘に納める。

う~ん、兄さんなら『幻月 双華』じゃなくて、『幻月』の一閃だけでもっと短く切りそろえていたかも。

 

「これで水に流してやる。

後は兄さんの機嫌次第だな」

 

 

 

Ichik View

 

更衣室で着替えてからアリーナの出入り口に向かうと…宣言通りにマドカが居た。

そしてオルコットも居た。

 

「何か用か?」

 

「その…散々侮辱した事を謝りたくて…本当に申し訳ございませんでした!」

 

「気にしていない、それでも気にしているんだったら、自分なりに研鑽を積み続けろ。

先日にも言ったが、『国家代表候補生』、『国家代表生』、『企業代表生』の称号は軽いものではないんだ。

その称号を失えばお前はイギリスから見れば何の価値も無いどころか『イギリスの恥』として未来永劫に名を刻んでいた。

全世界からイギリスが糾弾される中でもな。

これも先日に言ったが『発言には気をつけろ』、いずれ何もかもを失うぞ」

 

「肝に銘じますわ」

 

なら、良い。それが今のオルコットの外見にも見えている。

気持ちを入れ替えるためだろう、長かったその髪はバッサリと切られていた。

今の髪の長さは、肩に触れるか否か、といった長さ…というか短さだ。

随分と大胆に切ったみたいだな。

 

「それと、明日はクラスの全員に頭を下げて謝罪をした方がいい。

孤立は避けるべきだろうからな」

 

「は、はい!そういたしますわ!」

 

「まあ、それだけ出来たら友人として一からやっていけるだろう、俺も君もな」

 

「…はい!!」

 

まあ、此処まで言ってやれば充分に反省するだろう。

そして今後の立ち振る舞いも考え直すはずだ。

 

「マドカ、ブルー・ティアーズを返してやれ」

 

「はぁい」

 

右耳に着けていたであろうイヤーカフスを取り外し、セシリアに手渡す。

何やらオルコットがオドオドしていたが、何かあったのだろうか?

まあ、いいか。

 

「今までの事はまとめて忘れる、付け加えて、賭けは無しだ。

それと、俺からの忠告、忘れるなよ」

 

「はい!それはもう!

このセシリア・オルコット!貴方の言葉は忘れませんわ!」

 

やけにいい返事をしながらオルコットはスキップをしながら去って行った。

そこまで気分を良くするとは、思ってもみなかっ―――

 

「痛い、痛い、痛い、簪、なんで俺の腕を抓るんだ?」

 

「一夏、浮気はダメって言ったのに」

 

「してないって!俺は簪一筋…痛い痛い痛い痛い、マドカなんで蹴るんだ?」

 

「兄さん、浮気はダメだって言ったのに」

 

「だからしてないって!」

 

病人に対して行う振る舞いじゃないだろコレは!?

だが支えてもらわなければ歩けない俺は医務室に辿り着くまで抵抗の一つも出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、目覚めると体調は完全に回復していた。

前回よりも回復が二日ほど早い、その理由はまったく分からない。

俺の視線は左手へと向かう、左手の甲にある十字架へ…。

今も手袋をしているから直接的には形は見えないが、模擬戦の最中に聞こえてきた声の正体はコイツだったのではなかろうかとさえ思えてしまう。

だが気にしていても答えなんて見つかる筈もない。

寮監室に連絡を入れ、回復した旨を伝え、今度こそ正式に退室許可をもらった。

早朝から叩き起こされたことについて千冬姉は少々機嫌が悪そうだったが、目を瞑ってもらおう。

それと、今日の放課後からは暫定処置として、三年生寮に引っ越すように言われ、カードキーも受け取った。

寮監室に入り、『ダブル』を返却してもらい、向かった場所は懐かしい修練場。

 

「一夏君!?体調はもう大丈夫なの!?」

 

「ご心配おかけしました楯無さん、もう大丈夫ですよ」

 

そう言いながらダブルを構える。

右手に刀、左手にはナイフを

 

「そう、寝込んでいる間に腕が鈍っていないかどうか、確かめてあげるわ!」

 

「上等!」

 

双刀を構え、一気に詰め込んだ。

出し惜しみは無しだ、今の俺の全力を!出し切る!

 

でも結局勝てずに終わった。

部屋に戻ると、相変わらずのルームメイトが居たが、スルーして着替えを取出しシャワールームへ直行する。

だがその前に

 

「言っておくが」

 

「な、何だ一夏」

 

「俺の『ダブル』に触れるな。

それに、俺はお前を許したわけじゃないからな」

 

それだけ言って俺はシャワールームに入った。

まとわりつく汗を全て流して終わり、素早く着替える。

制服を上から着て、財布や携帯端末を確認。

携帯からメールを飛ばす。送信先は簪とマドカとのほほんさん、それと虚さんも忘れずに、と。

その間に篠ノ之は部屋を後にする。

部屋の中に俺一人だけが残された。

あ、山田先生にも連絡を入れておこうか、それと…後はだれか居たかな?

クラスのみんなには教室で連絡できるか。

 

PRRRRRRR!

 

メールを送信しようとした矢先に、『非通知』の表示が現れた。

…誰からだよ、コレ?

まあ、怪しいが出てみるか。

 

「はい、こちら織斑」

 

『は~いオハヨー!みんなのアイドル束さんだよ~!』

 

全世界国際指名手配犯からだった。

篠ノ之が居ないタイミングで助かった…。

 

「どうしました束さん?」

 

『う~ん、箒ちゃんが大きな迷惑かけてしまったみたいだから、代わりに謝ろうと思って』

 

妹想いなお姉さんだと思うが

 

「俺は別に怒ってませんよ、それどころか、今は何も感じていません」

 

『そっか、突き放してるんだね』

 

「お互い様でしょう、それは。

それに俺は怒っていないのだとしても…赦したわけじゃない」

 

今じゃ束さんは妹相手にだけでなく、家族だけでなく、全世界から離れている。

浮世人と言えば聞こえはいいかもしれないが、実際は『歩く災厄』だ。

 

『いっくんから見れば箒ちゃんはどんな子に見える?』

 

「言いようもないですが、わがままなガキのように見えますよ。

束さんとは違う方向で、そして悪い意味でね」

 

この際だから弩ストレートに言い切っておいた。

 

「人の話は聞かない、自分の話を最優先させようとする、聞き入れられなければ暴力を振るう。

やる事なす事ガキの振る舞いです。

IS学園に入学したのは政府からの命令でしょうけども、此処での言い方では…そうですね…『代表生』に、『代表候補生』に相応しくない。

専用機を持つに値しないと思いますよ」

 

『う~む、本当に弩ストレートな言い方~♪

でもでもいっくんの言うとおりだね~。

箒ちゃんが多大な迷惑をかけちゃったし、しばらくは束さんはいっくんのいう事を聞いたげる♪』

 

…正気かこの人は?

自分の手綱を自ら他人に預けるとか…。いや、この人の事だ、結構本気かもしれない。

 

「動機が見えませんね」

 

『え?さっきも言ったよ。あ、付け加えて言うと、箒ちゃんがいっくんの大切な人も侮辱したから、じゃ足りないかな?』

 

「…今はそれで良しとしておきますか」

 

全面的に信頼できるわけじゃない。何よりこの人は気紛れだ。そして篠ノ之と同様にコミュ障だ。

 

「ついでに幾つか頼んでもいいですか?」

 

『何かな何かな?』

 

「篠ノ之が『専用機を要求』してきた場合は問答無用で断ってください」

 

『あはは…いっくんからの頼みなら仕方ないかな…』

 

「それと…依頼はまた別の機会にでも、この番号は登録しておきますので」

 

『はいは~い、またね~♪』

 

さて、これにて束さんのコントロールが出来るようになったわけか。

『窮鼠猫をかむ』なんてことにならなければいいんだけどな…だがまずそれより先に

 

「朝食だな…」

 

さすがに俺の胃袋も限界が来ているようだった。腹の虫が五月蠅いほどに鳴っていた。

 

身支度を整え、俺は部屋から出る。

で、廊下に居たのはマドカと簪、そしてオルコットだった。

 

「よう、おはよう」

 

「兄さん、おはよう!」

 

「どわっ!?」

 

いきなり飛びつかれてバランスを崩す。取れそうになるが、何とか持ちこたえた。

 

「一夏、もう治ったの…!?」

 

「ああ、心配かけて悪かったな簪。なぜかはわからないが、発作も治まった。

今日から完全復活だ…成績以外はな」

 

俺が休学していた数日の間にどれだけ授業が進んでいたのだろうか。それが少し不安だ。中学に在学していた時だって一か月のブランクがあった、その分に追いつくには苦労させられたものだ。

眠る時間を割いて勉強、早朝には新聞配達のバイト、典型的な寝不足になってしまったものの、それにすら慣れてしまい、それが日常と化している。

 

「勉強ならまた私が見てあげるから」

 

「ありがとな、簪」

 

その優しさに感謝しながら俺は簪の頭を撫でた。

何故かはわからないが、そうしたくなった。

 

「そうだ、オルコット」

 

「『セシリア』とお呼びくださいな、これからはわたくしも対等な友人で居たいんですもの」

 

どういう心変わりがあったのかは知らないが…まあ、良しとしようか。

 

「さてと、今日の朝食は何にするか…」

 

背中にマドカをおぶったまま俺は食堂へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

そして今日も朝のSHRが始まる。

最初に通達されたのは

 

「それでは一年一組のクラス代表は織斑 一夏君に決まりました。

あ、『一』繋がり語呂が良いですね♪」

 

山田先生、人の名前で遊ばないでください。

そんな風にツッコミを入れるべきかどうか少々悩んだ、その結果は頭痛薬を飲むことで誤魔化す。

そんな俺を千冬姉は冷めた目で見ていた、篠ノ之も何故か同様に俺を冷めた目で見ている、どうでもいいが。

 

「そしてクラス代表補佐には織斑 マドカさんが就任です。

兄妹そろって頑張ってくださいね」

 

「クラス代表、クラス代表補佐、就任に一言くらい言っておけ」

 

なんつー無茶振りを要求してきてるんだよ…まあ、仕方ないか。

 

「じゃあ…この度、クラス代表に就任した織斑一夏だ。

経験不足ではあるけれど、精一杯頑張っていこうと思う。

足らぬ面があればみんなからのサポートを要求したりするかもしれないけど、宜しく頼むよ」

 

「クラス代表補佐に就任した織斑マドカだ。

兄さんを全力でサポートしていくから、みんな宜しく!」

 

「まあ、今後は二人は忙しくなるだろう、ほかの生徒も二人の面倒を」

 

ガタン、と音がした。

その音源は突如起立したオルコ…じゃなくてセシリアだった。

 

「あの…非常に不躾ですが、発言の許可を頂けるでしょうか…?」

 

「許可しよう、なんだ?」

 

深呼吸を大きく一度、二度、そしてセシリアは直角に腰を曲げ

 

「この度は!差別をする発言をして申し訳ございませんでした!

これからは心を入れ替え、まじめにしていこうと思います!

本当に申し訳ございませんでした!」

 

真摯な謝罪だと俺としては思う。当然な話ではあるが、この謝罪を受け入れる人も居れば、そうでない人も居る。こればかりはどうしようもない、人の心の問題だ。

相手を受け入れる心、受け入れず、拒絶する心。

それはその心の持ち主以外にはどうすることもできない。

そして心の問題は時間の経過に任せるしかない、突発的な何かが起こりうるのでなければ。

 

「セシリアもこうやって謝罪していることだし、皆も受け入れてくれないか?

今後は自分の立ち振る舞いを改めると言っているんだし、この前のような事はもう発言したりしないさ」

 

「織斑君はどう思ってるの?いきなりあんな暴言だったのに…」

 

「俺か?まったく気にしていない、世界で唯一のイレギュラーなんだ。

これくらいの事は起こりうると思っていたからな。それに…」

 

俺の代わりに怒ってくれる人が居るんだ。

だから俺は何も感じない、それが俺なんだから。

 

「まあ、俺がどう思うかはみんなは気にしなくていい。

それよりも、セシリアと仲良くなってやってくれないか、折角のクラスメイトなんだからな」

 

するとクラスのあちこちから色のいい返事が返ってくる。

そこには否定するような声は無い、受け入れてくれるようだ。この心の広さには感謝しよう。

 

「まあ、魔女裁判にならなくて良かったなオルコット。

これからは精々努力を積み重ねることだ、今回の事はイギリス政府には黙っておいてやる」

 

「は、はい!」

 

「SHRを続けたいが、授業時間も近い!この後は第4アリーナに集合だ、全員遅れるな!」

 

第4アリーナか…えっと…今日朝から昼までの間に使用されないアリーナは…確か、…一番遠い第9アリーナか…。

学園唯一の男子生徒である俺は使用されていない別のアリーナにて更衣をしてから、さらに別のアリーナへ急がないといけない。

遅刻すれば都合云々などお構いなしに出席簿でブッ叩かれる、それは俺としてはお断りだ。

 

「では解散!」

 

その合図と同時に俺はISスーツが入った手提げを持って窓から飛び出した。

クラスメイトも千冬姉も山田先生も今となっては驚かない。

これも今では日常風景だ。

『廊下は走るな』と言われたが、『木の上』を走るなとまでは言われていない。

そして着地してしまえば、こっちのものだ。

下駄箱でシューズを履きかえ、今度は野外を全力疾走だ。

SHRが終わったばかりの時間帯であれば誰も外には出ていないから、人との衝突なんて考える必要性もない。

白式を使いたいが、許可の無い展開は禁止されている。

緊急事態や、模擬戦、放課後の訓練時間、あとは授業くらいだろう。

 

「さてと、さっさと着替えを済まさないとな」

 

態々一番遠いアリーナにて着替えて、また別のアリーナへ移動。

なんという効率の悪さか、だがこれも仕方ない。

俺は世界唯一のイレギュラーである『男性IS搭乗者』だ、女子と着替えをともにするだなんて倫理上出来る筈もない。

つーか、俺自身お断りだ。 なので今日も俺は学園の中を走り回る。

これがこの学園の日常風景となるかも知れない。…なんか嫌だ。




今回は少し長くなりました。
一夏君…君には簪ちゃんがいると言うのに…。
無意識でやっちゃったな…。
ではまた次回にて!
次回にはセカンドにゃん娘が登場予定です!

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