IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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マドカ無双…というか、織斑家女性陣無双の回になります


発作 ~ 蝶の羽ばたき ~

俺が簪に抱えられながらピットに帰投してからの千冬姉の第一声は

 

「篠ノ之、お前は早急にクラスメイトの下に帰れ」

 

だった。しかも篠ノ之に視線も向けずに言い捨てている。

 

「な、何故ですか!」

 

「関係者以外立ち入り禁止と言った筈だ」

 

「私は一夏の幼馴染と」

 

「それで許可を出された訳じゃない」

 

マドカの冷たい声が響いた。

これは…完全にキレているんだろうな。篠ノ之、ご愁傷様だ。

それにお前は無関係の人間だろう、即刻退室…と言うか、この部屋に来るべきじゃなかったんだ。

医務室を抜け出した俺が言えたセリフじゃないけど。

 

「『幼馴染』と言えば許可が出ると思っていたか?私はお前が自主的に出ていくと思っていたのだがな。

お前がこの場に居るだけでもすでに規則をいくつも破っていることになる。

処分を受けたくないのなら即刻退室しろ」

 

「…い、一夏!お前からも何か言って――」

 

「退室しろ篠ノ之」

 

あの時と同じように、冷たい声が出ていた。

我を失う程に熱い感情は俺の中にはもう存在しない。だからだろうか、声が冷たいのは…?

 

「千冬姉の言うとおり、お前は無関係の人間だ」

 

「だったらそこのメガネの女だって無関係の人間だろう!」

 

「更識 簪は織斑の機体、白式と同じ『倉持技研』で開発された機体を扱っている。

無関係ではない、重要事項を伝える必要があったから私が呼び寄せた」

 

へえ、そうだったのか。

ん?白式と同じ開発元…?って事は…簪の機体開発がストップしたのって…俺のせいか!?

今になって知る真実。うわ…機体開発を手伝うとか言っても…これじゃあマッチポンプじゃないか…。簪や楯無さんが知らないはずもないし…ものすごい罪悪感だ…。

 

「い、一夏…私は…」

 

「織斑先生の言うとおりだ。

倉持技研所属でもなく、今回の模擬戦にも無関係なお前が居て良い訳が無い。

即刻退室しろ」

 

「そんな…一夏」

 

茫然とする篠ノ之の襟首を千冬姉が鷲掴みにして通路へと放り出した。

そんな彼女を探しに来ていたのか、相川さんと鷹月さんが連行していった。

その間にマドカは再度出撃していった。

で、俺はパイプ椅子に座らされている。

 

「先ずは…」

 

咄嗟に耳を塞いだ。

 

「この大馬鹿者があああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

耳を塞いで正解だった。

咄嗟の判断が出来るようになっている。楯無さんに感謝だ。

簪と山田先生は驚愕して腰を抜かしている、ご愁傷様。

だが俺も続けて拳骨が振り落とされると思い、頭頂部もガード。

 

「んぎ…!?」

 

だがダメージは頭頂部には降りかからなかった。

顎下からの見事なアッパーだった。

ボクサーも真っ青だろう。

 

その一撃で俺の体は吹っ飛ぶ。

鼻先が天井を掠め、そのまま空中遊泳を3.5秒程満喫した後、放物線を描くようにして落下した。

 

「ゲボォッ!?」

 

嫌味なほどに固く、冷たい床に背中から落下し、肺の中の空気をすべて吐き出し、呼吸すらままならない。

というか、立ち上がれない。

当たり前だ、顎が揺れれば脳も揺れる。平衡感覚を人間に持たせている三半規管も一時的にマヒし、視界だって大きく揺れている。

 

…千冬姉、手加減してくれ。簪も吃驚してるぞ。

いや、痛みで気絶することもできないのを察するに、手加減はしてくれていても力加減はしてくれていないようだ。

重症者からすれば、この上無いほどに迷惑極まる、そして傍迷惑な力加減である。

凄まじく痛い。

まあ、その後は予想通りのお説教だった。

この体調で出撃の事に関してとか、医務室からの脱走の件とか。

心配かけて悪かったと頭を下げて本気で謝罪した。

 

 

Madoka View

 

篠ノ之 箒 はピットから追い出してから私は再びアリーナへと飛翔した。

セシリア・オルコットは…なんだ、真っ青になっているようだな。

機体は予備パーツで組みなおしているようだな。

 

「BT2号機…何故、あなたがその機体を…!?」

 

「BT適正が高かったからに決まっているだろう。

お前よりもな」

 

セシリア・オルコットのBT適正は…なんだ、たかがAランクか。私よりも更に4()()()()()()()()じゃないか。

 

「あの日の賭けは覚えているんだろう?

この勝負にお前が負ければどうなるか」

 

「ま、負けなければいいだけですわ!」

 

戦闘はゴングよりも前に始まっているんだ。それをお前は知らないのだろう。

嫌というほどに味あわせてやる。兄さんを侮辱した罪は…それでは贖えないほどに重いのだと思い知らせてやる。

 

「この勝負に負けた側は…相手に機体を差し出し、更に国家代表候補生の称号の破棄。

既にお前は一敗しているんだ、もう後が残っていないのを理解していないのか?」

 

「…………」

 

「そして…機体も称号も失ったお前をイギリス政府はどう迎えるか…考えてみろ」

 

オルコットの顔がどんどん青ざめていく。見ていてなかなかに気分がいい。

 

「いや…いや…いや…いや…」

 

心理戦。

既に一度は敗北している人間相手にはかなりのプレッシャーを強いる事も容易い。

兄さんは知っているけれど、あまりコレを使わない。好みじゃないとか。

 

「マトモに戦うことすらできないような病人に敗北したなんて知られたらどうなるだろうなぁ。

お前が抱えている企業は倒産、財産は総差押、貴族爵位は剥奪、家も…取り潰しだろうなぁ…。

貴族様にとって最大のピンチだな、私からすれば知ったことではないけど」

 

「イヤアアアアアァァァァァァッッッ!!!!」

 

耳をふさいでも無駄だ。これはプライベートチャネルからの通信だ。

耳で聴いているのではなく、脳に直接音声が叩き込まれている。

 

「…フン…!」

 

まあ、からかうのはこの辺にしといてやろう。

本当の仕打ちはこの後だ。

 

試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「お、落ちなさい!」

 

オルコットがライフルを構える。だが…私からすれば遅すぎる(・・・・)

 

「遅い」

 

瞬間、私はライフル『スターブレイカー』を撃つ。

速射性能はこちらが上だ。スターブレイカーから放たれたレーザーは、スターライトmk3の銃口に吸い込まれ、ライフルを内部から爆散させた。

 

「そ、そんな…スターライトが…」

 

「さて、次はビットでの勝負といくか?」

 

私は射撃ビットを展開させる。

オルコットも得意としているビット勝負。だが、私には遥かに届いていない。

 

「そ、そんな…そんな数のビットを一度に操るなんて…」

 

私が展開したビットは常時展開されている6基だけではなかった。

拡張領域に入れている予備のビットも展開させている(・・・・・・・・・・・・・・)

先に展開させていたものも含めて、合計12基。

 

「BTシリーズを扱っているのなら…これくらいやって見せろ!」

 

私の手による一方的な蹂躙が始まる。

12基のビットを扱いながらライフルでの射撃も同時に行う。

それも一か所に留まりながらではない。サイレント・ゼフィルスの高い機動性を活かしながら縦横無尽に空中を飛び回る。

ブルー・ティアーズの射撃ビットを撃ち抜くなど、3秒もかからない。

それでも決して射撃は緩めない。ビットは未だに駆け回っている。

12基全てが射撃を繰り返している。

ただし、わざと命中はさせない。

ジワジワと…逃げる範囲を狭めていく。一瞬駆け抜けていくレーザーは幾重も繰り返される。

決して同じ角度からは撃たない。もっと…もっと恐怖させてやる。

 

「…フン、弱すぎる…!」

 

相手にもならない。

もうこれ以上時間をかけるのは面倒だ。

 

「終わりにしてやる」

 

3発のレーザーを連続でスラスターに叩き込む。

爆発、そして姿勢制御が崩れる。

 

「スラスタ-が…!?」

 

まだだ、今度はサブスラスターを狙い撃つ。こちらも爆発が起きる。

兄さんとの戦いと同じ状態だ(・・・・・・・・・・・・・)

姿勢制御が出来なくなり、落下していく。

それを確認しながら私はスターブレイカーを収納し、両手にナイフを抜刀する。

今度はISでの戦闘を想定した近接格闘用のナイフだ。

その煌めきを見たオルコットが更に真っ青になっていく。

それを確認しながら私はオルコットを追うように瞬時加速を行った

 

「ま、まさか貴女は…!?」

 

「兄さんの剣術を、私が扱えないと思ったか?」

 

扱える種類は少ないけどな。

 

「イ、インターセプター!」

 

「だから、遅い!」

 

左手で握るナイフでインターセプターを弾き飛ばす。

それすら容易だ。余程の動揺と恐怖でブレードの握り具合が緩すぎる。

右手に握るナイフを突出し

 

「絶影流…穿月!」

 

「あぐ…!」

 

これでもまだ逃がさない。

更なる加速、連装瞬時加速を行う。

続けて左手のナイフで行う

 

「填月ィッ!」

 

その追撃にオルコットは再び地面に直撃する。

これで二度目だな。

 

私は後退加速を行い、ビット12基の砲門をすべてオルコットに向ける。

両手のナイフを収納、続けてスターブレイカーも展開。更に予備のスターブレイカーも展開させ、これでライフルを二丁構える事になる。

 

「ゆ、赦して…」

 

「今になって赦しを請うのか?貴族の頭っていうのは随分と都合の良い様に出来ているんだな。

だが生憎だったな…私は兄さんを愚弄する輩には…優しくしてやる気は無い」

 

「そ、そんな…」

 

フルバースト

そう小さく呟く。

全てのビットとライフル二丁、合計14条のレーザーが迸る。

その全てがブルー・ティアーズに命中。シールドエネルギーが根こそぎ損失。

左手のスターブレイカーを僅かに遅らせて発射させていたため、それが僅かなタイムラグを発生させて命中、機体の展開が強制解除され、オルコットがクレーターの真ん中に落ちた。

 

「そ、そんな…」

 

「その程度で私に勝つつもりでいたのか?

笑い話も良いところだ、尤も、お前にとっては笑えないかもしれないがな」

 

見下ろしながら私はオルコットに接近、無造作に長ったらしい金髪の中に手を突っ込み、イヤーカフスをもぎ取った。

 

「…ぁ…ぁ…ぁ…」

 

「コレは貰っていく、正当な対価だ」

 

顔が真っ青を通り越して紫色になっているオルコットを背にしながら私は再び飛び立つ。

向かう先はピット、兄さんは私の勝利を知ると何て言って誉めてくれるだろうか、今から楽しみだ♪

 

 

Ichika View

 

「ただいま、圧勝してきた」

 

「マドカ、容赦無いなぁ」

 

「兄さんを侮辱してたんだから当然だよ」

 

俺はさして気にもしてなかったんだがな。その代わりにマドカが八つ当たりをしてきた、と。

リザルトを見ると…うわ、マドカはノーダメージだ。

これがBT適正オーバーSSSランクの闘いか…。

 

トドメはライフルとビットを使っての一斉射撃。えげつない。

これにて終幕だ。

そしてこの後は俺とマドカの対戦なんだが

 

「私、辞退するから」

 

「…は?」

 

「言ったでしょ?クラス代表は兄さん、私はその補佐だって。

オルコットとの賭けの事は覚えてない?」

 

…こいつ、俺がオルコットと戦って負ける事は考えてはいなかったのだろうけど…最初からこの結果を予想してたんだな。

どんな計算してるんだよ…。

 

「俺の勝率はマドカの辞退を考慮しても100%。

マドカの勝率は辞退の件を加えて50%。

で、オルコットは俺とマドカに敗北しているから0%、か」

 

結果的に見てもクラス代表は俺だ。そしてその補佐はマドカになる。

しかし、だ。此処で訊いておこう。

 

「俺がオルコットに敗北していたらどうするつもりだったんだ?

マドカが俺を相手にする際に辞退してもその時点で三人揃って一勝一敗、勝率は50%になっていたんだぞ」

 

「その時には延長戦に持ち込めばよかった。私が再びオルコットと対戦をする時には圧勝し続けてれば精神的にも勝てなくなるでしょ?

そうしたら兄さんだってオルコット相手に余裕で勝てるようになるから」

 

えげつない。

 

「それに、兄さんがオルコットに負けるわけないもん♪

その為の訓練だったんだからね!」

 

「まあ、そうだな」

 

「じゃあ私は先に戻るよ、兄さんと簪にはまだ大切な話があるだろうから。

倉持技研所属機でもない私が居たら話はできないよね!じゃあね!アリーナの出入り口で待ってるから!」

 

最後まで元気にふるまいながらマドカは飛び出していった。

 

「さて、ここから先は二人に重要な話がある。白式の事も含めてな」

 

単一仕様能力である『零落白夜』の事、そして完成されたマルチロックオンシステムの事だった。

授業でも習ったように、無許可の展開は禁止、そのほかにも多くの規約があり、それに関しては冊子として纏められているが…

 

「分厚過ぎるだろ」

 

どこの国の電話帳だよ、コレ…そして付け加えて言うのなら…めちゃくちゃ重たい。

まあ、ベッドで寝込んでいる間の暇潰しくらいにはなるか。

気長に読んでいこう。

 

「では、これにて解散だが、最後に織斑兄」

 

「何ですか?」

 

「その…なんだ…初めての対戦だったが、慣れない機体でよくやった」

 

俺に背中を向けながら千冬姉は言っているが…この行動は間違いなく照れ隠しだ。

その証拠に髪の隙間から見え隠れしている耳が真っ赤だ。だがそれを指摘したならば病人相手だろうとしてもこの人は手加減が無い。

 

「今後も研鑽を積み続けますよ、簪と一緒にね」

 

「ああ、そうしろ。

だが今日は…ゆっくりと休め」

 

千冬姉からの賛辞を背にしながら俺は簪に肩を支えてもらい、管制室を後にしようとしたのだが。

 

「織斑先生、褒めるのが慣れていないんですね、顔が真っ赤に…イイヤアアアァァァァァァァッッ!!!!」

 

山田先生の悲鳴が聞こえてきた。こうなるから照れ隠しをしている千冬姉をからかうのは辞めた方が良かったんだ。簪も苦笑いしていた。

ヤレヤレだ。




今回は織斑家女性陣無双の回でした。
千冬さん、病人相手にアッパーは…しかも凄まじい威力…。
一夏君、ご愁傷様…。
今日はもう少し投稿しますのでお楽しみに

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