IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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体調は最悪クラス
それでも頑張る一夏君です。


発作 ~六条氷華~

Ichika View

 

背後に回った瞬間には左腕は白式本来の腕に戻っていた。

そしてウィンドウが展開される。

『敵機 メインスラスター大破 サブスラスター大破 PIC中破』

その証拠にブルー・ティアーズは一気に地面に落ちていく。

スラスターもPICも言う事を効かず、姿勢制御も不可能。

だが、それを見逃す筈も無い、これは絶好の好機!

 

 

『ロード完了 第一形態移行完了に伴い、新たな武装が展開可能になりました』

 

武装一覧を確認する、そこには

 

「『雪華』…?」

 

雪片よりも短い。これが第二武装だというのか?そして表示される『第三武装』を確認する。ウィンドウで表示されるのを確認すると…これは皮肉だ。

だが、その第三武装を使用するのは後回しだ。

腰部にマウントされた脇差型武装『雪華』を抜刀し、逆手に握る。

スラスター最大出力、距離を開けようとするオルコットに一気に接近する。

 

「い、いや、!来ないで!」

 

残るビットが射撃攻撃をしてくる。

高熱のせいで歪む視界に入れながらも、俺は二つの刃をしっかりと握る。

雪片弐型と雪華を縦横に振るう。

青い刃が交差し、残るビットも爆散する。

 

絶影(たちかげ)流…!」

 

左手の脇差を逆手から順手へと持ち替える。

ブルー・ティアーズのミサイルビットがその砲門を俺に向ける。

だが、それすら俺にはスローに見えた。

 

ただでさえスラスターは最大出力。

此処から更なる加速。

今までとはスピードが段違いだ。白式の本来のスペックは此処まで高かったのかと実感する。

瞬時加速による更なる加速。

たった一発限りの奇襲攻撃。

 

「ひ…!」

 

「穿月!」

 

二度目の高速刺突。

この技は再び命中。ライフルを貫通し、心臓部に命中。

絶対防御が発動され、シールドエネルギーが一気に減少していく。

まだだ!まだ逃さない!

スラスターをさらに吹かせる。幾重にも続く加速『連装瞬時加速』

それを真下、地面に向かって行う。

 

そして『穿月』に続く脇差による『追撃』

 

「イ、インター・セプター!」

 

オルコットが近接戦闘用の武装を取り出す。

だが、お前が近接戦闘の素人であることは知っている。

そしてこの落下中で、満足に刃を振るうことも出来ないのは分かりきっている!

 

「『填月(うずめづき)』ィッ!」

 

脇差による高速の刺突でオルコットの短剣を圧し折り、腹部に直撃。

またも絶対防御が発動され、シールドエネルギーが一気に減少していく。繰り返される刺突により、オルコットは地面に直撃。

俺は完全停止をさせた直後に後退加速、一定の距離を開く。

 

雪華をを再び逆手に握り直し『雪片弐型と雪華を連結』させた。

二振りの刀は弧を描く。

第三武装『六条氷華(りくじょうひょうか)』の誕生した瞬間だった。

二振りの刀は弧を描く。ダブルセイバーなのかとも最初は思ったがその実は違う。

二振りの刀を連結させて生まれたのは、一張りの『弓』だった。

ウィンドウに表示されたのはそれだけではなかった。

『単一仕様能力』…ワンオフアビリティだ。

限られたISとコア、そしてその二つと最高状態にシンクロしなければ使えない力だ。

 

「よく覚えておけ、オルコット」

 

六条氷華を構える。エネルギーの奔流が迸る。溢れだし、正六角形を描くようにエネルギーが展開されていく。

確かにこれは氷の結晶のようだ。いや…文字通り、『六条に開く氷の華』だ。

 

「男だろうが女だろうが関係ない」

 

氷の華の花弁の先端にエネルギーが収束し、矢になる。

 

「人は守るものがあるから強くなりたいと思うんだ。

お前が守りたかったのは、『自分の矜持』だけだ。

他を守ろうとしない人間は、すぐに限界を迎える。

守るものが多くある人間は、どこまでも強くなり、限界を超える」

 

照準を白式にサポートさせる。

彼我の距離は40m、今の俺には当てる事すらできないだろう。

だが、システムアシストができるようになった今なら…!

 

「今のお前ではすぐに全てを失う。

自分の首を自分で絞めている事に、そろそろ気づいた方がいい」

 

「…あ…」

 

「言っただろう、『お前のためを思って言っておく』ってな」

 

「わ、わたくしは…」

 

話はこれでお終いだ。この戦いも終わらせよう。

 

「『零落白夜』発動!!」

 

千冬姉から受け継いだのは刀だけではなかった。

刀に込められた『力』もだった。そして…『大切なものを守る』意思もだ。

これで、ようやく全てを受け継いだことになる。

 

零落白夜のエネルギーが氷華に収束される。

そして発射された。

氷華の花弁の先端から計6発。氷華の中央部からは計3発。

合計9本のエネルギー矢が撃ち放たれ

 

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!????」

 

セシリア・オルコットに直撃した。

零落白夜の脅威、それはバリアー無効化にある。

大概のエネルギー攻撃でもシールドに阻まれる。物理攻撃も同じ運命をたどる。

よほどの大質量でもない限りは。

もしも、そのエネルギーシールドでも阻めなかった場合は『絶対防御』によって防がれる。

だが、『バリアーを通り抜ける攻撃が存在した場合』は絶対防御が強制的に発動される。

そしてそれが発動した場合、シールドを構成するシールドエネルギーが大幅に削られる。

『零落白夜』は、それを無理矢理に発動させる能力だ。

ただし、強すぎる力には代償が必要だ。

零落白夜の代償は『自分のシールドエネルギー』だ。

言わば『諸刃の剣』だ。

六条氷華で放った零落白夜の矢も、その例外ではない。

その証拠に白式の残存シールドエネルギーは57%。展開を解除していないため、今も減少を続けている。

エネルギー分配率が今後の課題だ。

整備課とも相談してみよう。

 

アナウンスが流れる。

 

『ブルー・ティアーズ シールドエネルギーエンプティ。

勝者 織斑 一夏』

 

放送の内容は上手く聞こえなかった。

 

まあ、こんなもんか。

でも限界、だな…。

俺ももう、意識を保っていられなかった。

景色が上下逆転する。そんな中、マドカと簪が飛んでくるのが微かに見えた気がした。

 

 

 

Kanzashi view

 

「間に、合ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!」

 

落下していく一夏に全速力で飛んでいく。

このまま落下してもシールドに守られているから大丈夫かもしれない。

だけど、落ちて行ってしまうのを見ていられなかった。

一瞬で打鉄弐式を展開し、スラスターを最大出力にする。

連続個別瞬間加速を使い、更に加速!

地面までのこり2.5メートルの所で白式をキャッチした。

そのまま地面を削るようにして減速させた。

 

地面を削った距離は30m。そこでようやく完全にストップした。

 

「一夏!大丈夫なの!?ねえ、起きて!一夏!」

 

「か、簪、か…?」

 

「うん、そうだよ!」

 

よかった、大丈夫だった…。それを確認しただけで泣きそうになったけど我慢する。

きっと一夏は私の泣き顔なんて望まないだろうから。

 

「結果は…どうなった…?」

 

「うん、一夏の勝ちだよ!おめでとう!」

 

だから、私は今の私に出来る笑顔を見せてあげた。

 

「な、何故、わたくしは負けましたの…?」

 

すこし離れた場所にオルコットさんが居た。

でも、どこか茫然とした様子だった。

 

「むしろ、俺が敗北する要因の方が多かったさ。

だけど、あえて言うのなら慢心だな」

 

「ま、慢心…?」

 

 

 

Ichika view

 

そう、慢心だ。

 

「今の世の中に広がりつつある風潮に乗せられているようだけど、それを正しいと証明するものは何かあるか?

ISは女性にしか使えないのは世の中の常識になってるけど、『それだけ』だろう。

個人差はあれど、生身での戦いなら五分五分にだって持ち込める」

 

「それは…」

 

「次に二つめ。

これは稼働時間の差だ。俺はしばらく体調不良で稼働が出来ていない。

検査の時も合わせても5時間程だ」

 

「そう、でしたわね…」

 

「三つ目と四つ目は…まあ、同じだな。俺の体の事だ。

体調不良もあるが…PTSDを患っている。お前が持っているそのライフルも含め、俺は『銃器恐怖症』なんだ。

今でも自己暗示をしていなければ…発作が起きている」

 

その瞬間にオルコットの顔は真っ青になっていく。

PTSDを負っている事を知っていても詳細を伝えていなかったから当然かもしれない。

ISを使う上でも致命的なハンデを負わされている相手に、その症状に大きく影響を与えてしまいかねないものを向けていたのだから。

 

「わ、わたくしは…必要以上に貴方を追い詰めていた…?」

 

「反省できていれば変われるだろう。

そして五つ目は…抱えているものの数だな。

まあ、これは先ほども言ったからそれ以上は言わなくてもいいだろう。

だけど、反省するのは後回しにした方がいい」

 

俺たちの上に次の対戦相手がきているからな。

 

「簪、兄さんを頼む」

 

「うん、わかった」

 

白式が待機形態に変化する。見てくれは…ガントレット。

無骨だな、俺の相棒は。

 

「さあ、帰ろう一夏。織斑先生はカンカンだろうけど」

 

「…このまま気絶でもできれば楽なんだけどな…」

 

そんな儚い現実逃避をする俺は些か締らなかった。

 




本日の投稿は此処まで!
次回投稿する際には白式のスペックデータを掲載しようと思いますのでお楽しみに!
弓を構える一夏君、なかなか素敵だと思います。
ではまた後日!

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