IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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本日最後の投稿です


発作 ~ 初陣 ~

 

Madoka View

 

翌朝の朝食は、私たちの雰囲気はお通夜みたいな感じだった。

兄さんがいないだけでこれだ。

簪の気持ちは私だって理解できる、私だって兄さんが好きだし(あくまで一家の兄妹として)、姉さんの事も好き(姉妹として)。

たった三人の家族なんだ、それに害する人が現れたら、私だって怒るし、姉さんも怒るだろう。

『何があっても決して怒らない』兄さんに代わって。

 

「教室に行こう、皆…」

 

「…うん…」

 

「おりむ~…お昼には様子を見に行こうよ…」

 

保険医の阿頼耶識先生に聞いた話だと、兄さんの容体はかなり悪かった。

体温は今朝でも42.5℃、解熱剤も効かず、このまま安静にしておくしかなかったとの事。

兄さんが左手を殴られるなどして発作を起こしたのは、私が見ていた間だけでも今回が初めてだった。

銃器を見せられて錯乱した瞬間は幾度か目にしたけど、その時とは次元が別だ。

 

「兄さん…」

 

兄さんの症状は一週間程でよくなると姉さんには聞いたけれど、それでも私は心配だった。

あんな高い熱を出していれば兄さんだってかなり苦しい、なのに私には何もできないのが悔しい。

簪もきっと同じ気持ちのはずだ。

 

朝のSHRが始まる。

 

「朝からだが悪い知らせだ。

織斑が昨晩発作を起こし、医務室に搬送された。

クラス代表を決める模擬戦に出られるかは判らない。

オルコット、過剰な反応をするなよ」

 

「!?」

 

流石は姉さん、先に釘を刺した。

私もナイフを抜く手間が省けた。

 

「続けての連絡だ。

篠ノ之は寮の中で生徒に暴力を振るい、一週間の停学処分となった」

 

「あの、織斑先生、その件なんですが…」

 

「どうした山田先生?」

 

それは驚愕の知らせだった。

 

「政府からの命令で篠ノ之さんは明日には懲罰房から出すように、と」

 

「そういう事は先に言え」

 

「は、はいぃ!ごごごごごゴメンナサイィッ!」

 

納得出来なかった。だけど仕方のない話かもしれない。『篠ノ之 束』博士からの報復なんてものがあるかもしれない。それに政府は怯えているんだ。政府の臆病者どもが!

でも反省文提出までは制限されていないだけマシか。

お昼には兄さんの容体を見に行こう。

それと、昼食を持って行ってあげないと!

 

 

 

Ichika view

 

暇だ。とにもかくにも暇だ。医務室に搬送されてから目が覚めれば翌日のお昼前だとか。

12時間以上の就寝って…体に悪そうだよな…。

鍛錬もバイトもできねぇよ…。

この高熱もこれで二度目だなだとか、マドカはちゃんと授業を受けているだろうかだとか、簪はどうしてるのかなだとか、俺の『ダブル』はどうなったんだろうかだとか、そんな事ばかり考えてしまう。

要は自分よりも他人の心配ばかりしているわけだ。

暇潰しに体温計で自分の体温を測ってみたりするが、そんなもの暇潰しになるわけでもなく二度目で飽きてしまった。

体温は相変わらず体温は42℃代をキープしている様子だ。

額に乗せられたタオルなんて『温い』を通り越して『暖かい』なんて言える状況だ。

保険医の阿頼耶識先生なんて、それこそ早朝から早々に退室して姿を見せない。

今朝の教室はどんな風になっていたんだろうか。

どうせオルコットが「決闘をする手間が省けましたわ!」とか言いそうになったところで千冬姉が事前に黙らせたりしたんだろうな。

マドカがナイフを抜くのを見越したうえで。

 

それにしても…体温がものすごく高いのに、汗なんてとっくに止まってしまっている。

もう体から出せる汗なんて出し切ってしまったんだろうか?

体の水分も出し尽くしてしまったのだろうか、そんな風に考えると喉が渇いてきたな…水道水でもいいから誰か飲み物でも持ってきてくれないだろうか。

トドメとばかりに視界が揺らぐ。マトモに歩けるか怪しいくらいだ。

 

コンコン

 

ノックの音が聞こえる。

 

「開いてるよ、どうぞ」

 

「失礼します」

 

来てくれたのは簪にマドカにのほほんさんに楯無さんに虚さん、更には千冬姉に山田先生に連行されたかのような阿頼耶識先生も居る。

って千客万来か!?

 

「大勢で押し掛けてゴメンね一夏」

 

「暇だったから良いさ」

 

寧ろ「新しい暇潰しが出来てラッキー!」くらいには思っています。

簪の笑顔は眩しいなぁ…。

 

「兄さんのお昼ご飯も持ってきたんだ」

 

お盆の上には所狭しと並んだお握りが…あの…俺一人じゃ食べきれませんからねマドカさん?

見た感じでも40個は並んでますよ?

「夕飯の分も一緒に持ってきた!」的な事は辞めてくれよ?病人とは言え、お握りばかりは食べられないからな。炭水化物地獄ですよ?

 

「安心しなさい、お姉さん達も一緒に皆で食べる予定だから」

 

「中身は~、梅干しに~、おかかに~、昆布に~、沢庵に~」

 

沢庵はお握りに入れるものじゃありません。

 

「お茶は一夏さんがよく飲んでるものを用意していますから」

 

「ありがとうございます虚さん」

 

態々お茶の葉と一緒にポットや急須まで持ってきてくれている所とか、まさに使用人の鑑だ。

どれだけ手際が良いんだろう。手間暇かけてるなぁ…。

 

「食事のついでに、昨晩の経緯を訊いておきたかったのも確かな話だ。

だいたいはマドカが推理していたが、本人にも訊いておきたくてな」

 

「ああ、構わないよ」

 

先に空っぽになった胃袋に食事を放り込むのが先だった。

でもまあ、俺でも3個で限界だったし、食っちゃ寝のは健康に悪いのも当たり前の話だ。

 

「昨晩、訓練が終わってから部屋に戻ったら箒…いや、篠ノ之が俺の『ダブル』を天井裏に隠そうとしていたんだ。

それを止めようとしたら『ダブル』を放り捨てたんだ、落とし前は着ける必要があったから一発殴るくらいはしておこうと思ったんだが、アイツが木刀を振り回してきた。

避けられないこともなかったんだが、携帯電話が鳴って注意がそれてしまった。

その隙を突かれて左手を殴られこのザマなんだ」

 

「マドカが察していた通りか。

だが状況がより詳しいことが分かった。お前の『ダブル』だが、今は寮監室で預かっている。

もう盗まれることは無い」

 

「感謝するよ」

 

阿頼耶識先生が新しい保冷剤を取出し、俺の左手に宛がう。

少し冷たいが耐えられないほどじゃない、むしろ心地良い。

左手にはギプスなんてしていない。

骨折なんてしていなかった。

篠ノ之の木刀はピンポイントで左手の十字架を殴っていた。

『十字架を殴っていたから骨には何の異常もなかった』んだ。

この十字架の正体は今になっても判らない。

皮肉な話だが、この十字架のおかげで俺の骨は無事だったんだ。

この十字架は誰にも見られていないのだろうか。

そんな心配が込み上げてくる。

 

「安心しろ、その左手は誰も見ていない」

 

千冬姉、本当に読心術でも使えるのか?

俺が言おうと思っていたことを先に言い当てるとは…。

 

「織斑君、体温の方は測っていますか?」

 

「暇潰しに二回測りましたが、変わっていませんよ」

 

42℃代をキープしているんだ。

冗談じゃないが、前回…ドイツで発作を起こした時よりも上昇している。

どうせ病院に行っても『原因不明』として今度は別の意味でモルモットにでもされてしまうだろう。それはゴメンだ。

こうやって普通に会話をしているのも辛かったりする。

 

「今は安静にしておけ。

昼の休憩時間も終わりが近いんだ、我々も戻るぞ」

 

「出来たら…暇潰しになりそうなものも持ってきてくれると助かる…精神的にも…」

 

「それじゃあ…お姉さんがテト〇スでも持ってきてあげるわ♪」

 

古すぎるだろ!?

暇潰しに…精神的にも疲れますよ先輩…。

食えない人だと思う。

…そう言えばクラス代表を決める模擬戦…あと4日か…。

何とかしないとな…。

 

 

 

 

 

 

 

そして早くもその日がやってきた。

俺は…アリーナの通路を壁に手を添えながら歩いていた。

歩くのが辛い、視界は半ばぼやけて見える。

近くはまだしも10m先はぼんやりとした状態だ。

ISスーツを自力で着替えたのも半ば力ずくだった。

けど、ここまで来るのは辛かった。

やべ、倒れそ…

 

「兄さん!なんでこんな所に!?」

 

倒れそうになった体を支えてくれたのはマドカのようだ。

そんな真っ青になるなよ、俺は大丈夫だから。

 

「なんでって…今日は模擬戦の当日だからだ」

 

「そんな体調でISに乗るつもりなの!?

兄さんの専用機はもう到着してるけど…こんな状態で模擬戦をしようだなんて姉さんだって許可しないよ!」

 

そうかもしれない。こんな状態でなら千冬姉は激怒するだろう。

拳骨程度じゃすまないかもしれない。それで終わるくらいなら後悔は無い。

でもな、

 

「それ以上に後悔する奴が居るんだよ」

 

「兄さん…?」

 

「ピットに向かう、すまないが少しだけ肩を貸してくれ。

千冬姉には俺から言い訳しとくから」

 

「兄さんの…バカ…」

 

ああ、バカだよ。

けど、それ以上の大馬鹿女に言うべきことは言っておかないとな。

 

ピットには、簪と山田先生が居た。

俺が到着したのを確認すると一気に顔を真っ青にしていく。

これも当然かもしれない、重病人が目の前に…こんなところに来ていると理解してしまえば。

 

「山田先生、俺の専用機は何処に?」

 

「こ、このコンテナになります」

 

青い大きなコンテナが開放される。中にあったのは

 

「…白…?」

 

どこかくすんだ白に染められた機体だった。

装甲の殆どは白色だが、マニピュレーターや非固定武装、それに装甲の端部は青に染まっている。

機体の銘は

 

「白式…これが俺の機体。

初期化と最適化を行います、マドカ、簪、サポートを頼む」

「む、無茶よ一夏!?今のあなたの状態じゃ…」

 

四肢はすでに白式に固定した。

システムを起動させたと同時にALERTとDANGERの文字が周囲に発生する。

機体ですら俺の体調を心配しているのかもしれない。

 

「すまない白式、少しの間でいい、見逃してくれないか?」

 

その言葉に白式のアラートが消える。

俺の意思を尊重してくれているようだ。

『初期化と最適化をスタートします。完了まで』

 

IS Core No、『The Origin』 Boot

 

その言葉が何を示すのかは分からない。

だが、動くのなら今はそれでいい!

「30分必要か。

すまない簪、マドカ。行ってくる」

 

カタパルトに足を乗せる。システムを再度確認する。ハイパーセンサーが起動し、視界が360°まで一気に開く。

PICも異常は無い、パワーアシスト、これも問題ない、マニピュレーターも大丈夫、俺の意のままに動く。

でもシステムアシストは期待出来そうにない。

初期化と最適化にシステム制御が大幅に使われており、機体の制御はすべて自分の手で行わなくてはならない。

ハイパーセンサー越しに見れば簪もマドカも心配そうな表情をしている。…ああ、俺が見たかった表情はそんなものじゃなかったんだけどなぁ…自業自得か…。

そして管制室に千冬姉が飛び込んでくるのが見えた。今にも怒鳴りそうになったのが見えたけど、その瞬間にカタパルトから白式と俺は射出された。

 

「すまない相棒、お前のパートナーがこんな大馬鹿野郎でさ…今は全力で戦おう、俺とお前で…」

 




一夏君の初陣は不完全な形になりました。
そして山田先生の久しぶりの出番、セリフが少ないですね。もう背景になりつつあります。
それではまた後日に会いましょう
次回もお楽しみに

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