IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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本日二度目の投稿。
皆様の予想の斜め上の内容となっていればと思っております。


発作 ~ 激痛 ~

 

Ichika View

 

「…疲れた…」

 

今日の一日の訓練はすべて終わった。

『瞬時加速』、通称『イグニッションブースト』

『後退加速』、通称『バックイグニッション』

『連装瞬時加速』通称『リボルバー・イグニッションブースト』

これら三種類の加速訓練に

『射撃攻撃対応訓練』『全方位射撃対応訓練』『全天周確認訓練』『近接戦闘訓練』も加わっている。

明日からは『加速訓練応用編』だ。

『瞬時加速』と『後退加速』を連続で放つというトリッキー、そしてピーキーな訓練らしい。

 

「私も明日からは機動訓練に加わるから」

 

「私もだ兄さん」

 

「それはまた楽しみだ」

 

もうそろそろ夕食の時間も近い。

汗臭いISスーツは洗濯機に放り込んだ。

食事が終わったら回収しよう。

それと、食事の前にシャワーを浴びておこう。

 

「じゃあ一夏、マドカ、あとで此処に集合しようね」

 

「また後でな、私もシャワーを浴びておこう。

一緒にどうだ兄さん?」

 

「アホな事を言うな、さっさと行って来い」

 

デコピンを一発、それも軽くやってからマドカが部屋に入っていくのを見送った。

じゃあ、俺もシャワーを浴びてこよう。

 

そう思い部屋の扉を開け…留まった。

一応、一時的にだろうとしてもルームメイトが居るんだ。

またこの前のように面倒なことになったらそれこそ面倒だ。

 

コン!コン!

 

…返事はない。

 

コン!コン!

 

…やっぱり返事は無い。

なら良いだろう、とっとと部屋に入ろう。

扉を開くと…そこには箒が居た。

それも…俺の『ダブル』を勝手に触っている。

それだけならまだ良いだろう、あまつさえ、天井の通気口を開き、そこに隠そうとしている。

 

「…何をやってるんだ、お前…」

 

自然と声が低くなるのが判った。

俺にはもう、熱くなるほどの『あの感情』が無い。

だから代わりに冷たい『何か』がそこにはめ込まれているのかもしれない。

 

「い、一夏…」

 

「答えろ…俺のダブルをどうするつもりだ」

 

ヴィラルドさんがわざわざドイツの刀鍛冶に頼み込んでまで鍛えてくれた俺の為だけの刀『バルムンク』、そして俺に戦い方を叩き込んでくれたラウラが俺に託したナイフ。

そのどちらもが俺の相棒でもあり、宝でもある。

それを触られるのは好まない。

そしてこいつは今…それを俺から奪おうとしている。

 

「お、お前にまた剣道をさせようと思って…」

 

「それで泥棒の真似事か、見ない間に随分と醜女(しこめ)になったな、お前」

 

「なっ…!」

 

俺は剣道を捨てた。

未だ辿り着けない高みに辿り着く為に、『俺だけの剣』で辿り着くと誓った。

どれだけの時間がかかっても…!

 

「二度は言わせるなよ、『ダブル』を渡せ」

 

「な、なんでだ!昔は剣道をしていた…まっすぐなお前はどこに行ったんだ!?」

 

当たり前の話だ。

人は時間とともに変わる、それは成長か変貌かの違いだ。

 

剣道はただのスポーツだったと悟った、それで得られる力には限界を感じていた。

目指している目標がすぐ目の前…それも自分の家族だった。

世界最強の名を手にした人が俺の最大の目標だった。

追いつき、追い越すためにも『剣道』では足りなかった。

『剣術』が必要だったんだ、俺の憧れの人はそれで世界最強になった。

でもそれは『その人だけの剣』だった。だから俺も欲した、『俺だけの剣』を。

そして俺が握る刀が、その二振りなんだ。

 

「俺は何も変わっていない」

 

「嘘だ!今のお前は何人もの女に囲まれてヘラヘラとしている!

剣道を辞めたのだって…お前の性根が周囲の女に変えられたからだ!」

 

「他人を非難するよりも前に、自分の行いを振り返ってみるんだな」

 

箒が持っている『ダブル』を掴み、引っ張る。

それでもコイツは離そうとしない。

渾身の力で掴んでいる。

 

「離せ一夏!こんなものが有るからお前は弛んでしまったんだ!

お前が手に持つべきはこんなものなんかじゃない!

私と同じように竹刀を握っておくべきなんだ!」

 

「ふざけるなよ、俺には俺の剣がある。

鍛錬はそれこそ毎日積んでいる、お前が何も知らないだけだ」

 

「うるさいうるさいうるさい!」

 

俺の腕を振り払い、『ダブル』を放り投げる。

床に落ち、ガチャンと音を起てる刀に目を奪われた。

だが今は『ダブル』には悪いが目の前の莫迦に一発くれてやるのが最優先だ。

見ればすでに木刀を握っている。

だが錯乱しているからか木刀の軌道が丸見えだ。

 

~~♪

 

着信音が耳に届いた。俺の携帯電話だ、この着信音は簪からか…!

 

そこに視線と気を取られたのが隙になり、判断が遅れた。

楯無さんの言うとおりだ、咄嗟の事で反応が遅れ―――

 

左手の甲に凄まじい痛み。よりにもよってそこを木刀で殴られたのだと気付き

 

「う…グ…ガ…ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

Madoka View

 

「マドカちゃん、お疲れ様?」

 

部屋に戻ってきた私を出迎えてくれたのは兄さん…ではなくて、ルームメイトの相川清香だった。

日本人然とした黒髪のクラスメイトだ。

 

「ああ、さっきまでISの訓練を兄さんや友達と一緒にしてきたんだ」

 

「織斑君か~、やっぱり必死になってるんだ~。

クラス代表決定戦では織斑君とマドカちゃんのどっちを応援すればいいんだろ…」

 

私は兄さんを全面的に応援する。

クラス代表は兄さんが、そしてその補佐を私がするんだ。

ISの稼働時間は兄さんは誰よりも短い、だけど努力で結果は幾らでも変わる。

刀の特訓だって朝早くからしているのを知ってる。

ISの訓練だって今は一緒にやっているんだ、そして今日からは簪も一緒にやっている。

明日からは本格的な訓練が始まる。

 

「2組から4組はもうクラス代表は決まっているらしいな」

 

2組のクラス代表はアメリカの一般生徒『ティナ・ハミルトン』

3組のクラス代表はイタリアの代表候補生である『メルク・ハース』

5組のクラス代表は…そういえば知らないな。

国家代表候補が居ないらしいから一般生徒が受け持つのだろう。

 

脱衣場で服を脱ぎ、服や下着は洗濯機に入れてしまう。

替えの服は朝から置いているし、問題ない。

問題が有るとすれば…私のスタイルだ。

私の数値は簪とほぼ同じ数値だ、だが姉さんのスタイルには僅かに届いていない。

兄さんに頼んでアルバムを見せてもらったが、私と同じくらいの年齢で姉さんはスタイルが整っていた。

牛乳だって飲んでいるし、食事の栄養バランスだって、運動量だって問題はないはずなのに…。

また簪と一緒に相談してみよう。

 

「マドカちゃんのISって専用機なんだよね?

名前はなんて言うの?」

 

「サイレント・ゼフィルスだ。

イギリスとオーストラリアによる共同開発機。

イギリスの代表生の機体の発展機だからな、あいつには絶対に負けない自信があるぞ。

ただし、他の皆には口外厳禁だぞ!」

 

「よし、私もマドカちゃんも応援しよう!」

 

シャワーで汗を流し、バスタオルで体を拭く。

着替えも終わらせた頃。

 

「ねえ、隣室がなんか騒がしくない?」

 

「兄さんの部屋の方か?」

 

話には聞いたが、何やら初日から木刀で殴られそうになったとかどうとか。

その時の状況も聞いたが、兄さんに非は無かった。

あれ以降も篠ノ之 箒…だったか?ソイツが兄さんに突っかかってばかりだった覚えがある。

剣道部に無理矢理に入部させようともしてしてい――

 

私の耳に凄まじい声が聞こえた。

私だけにじゃない、目の前の清香にも、…そしてこの寮に居る全員…もしかしたら学園全体に…兄さんの叫び声が

 

「兄さん!」

 

こんな声、尋常じゃない!

部屋から飛び出し、私は隣室に向かった。

なぜかは分からないけれど、扉は開け放たれたままだった。

 

「兄さん!」

 

部屋へ飛び込むと、そこには左手をかばうようにして倒れている兄さんの姿があった。

自分の顔が青白く染まっていくのが自覚できる程だった。

 

兄さんの左手の事は千冬姉さんから聞いていた。

ある事故に巻き込まれ、その後遺症が残っているのだと…直接見せてもらったことは未だに一度もない。

兄さんが見せないようにしているのは知っているから、私が興味本位で見てはならないものだと理解していた。

IS学園に入学した際に自己紹介でも、左手の事を言っていたから、それに関しては私も注意していた。

叩かれたり、殴られたりしたら、それが原因となり発作を起こす。

…今、その発作が起きているのだとしたら…。

 

「兄さん!」

 

体を必死に揺さぶる、それでも、私の声が聞こえていない。

聞こえないほどに痛みが凄まじいものなのだとしたら…。

 

「清香!ストレッチャーを準備してくれ!それと千冬姉さんと簪を!」

 

「待ってて!すぐに準備するわ!」

 

清香に指示を出してから私は兄さんの様子を見る。

顔が赤い…?まさか、熱が…

 

「…熱っ…!?」

 

額に触れた手に、すごい熱さを感じた。

間違いない、かなりの高熱だ。

何が原因で?発作だ。

なら、何故発作が起きた?左手の事は兄さんも極力注意していた。

なら、注意しても対応しきれない何かが起きた。

それは何だ?

 

「…貴様か…!」

 

部屋の中に居たもう一人の人物。

『篠ノ之 箒』を置いて他には居ない。

現にその両手には木刀が握られている。

 

「ち、ちが…私は…そんなつもりじゃ…」

 

「この期に及んで自分の非を認めないのか…ならその手に持っている木刀は何だ!?」

 

「…こ、これは…」

 

まあいい、この女の事はどうでもいい。

それよりも兄さんの事が先決だ、発作を起こしたのなら一刻も早く対応しないといけない。

 

「マドカちゃん!ストレッチャーを持ってきたよ!」

 

「一夏!一夏は無事なの!?」

 

清香と簪がストレッチャを持って一緒に来てくれた。

その後ろには千冬姉さんも来てくれていた。兄さんの発作の事を聞いて飛んできたのか、かなり息が荒々しい。そして顔が真っ青になっている。

それに、楯無先輩も来てくれていた。あの通信機を通して、兄さんの発作を知ったんだ…。

 

「…いち…相川!更識!急いで織斑を医務室へ搬送しろ!担当の阿頼耶識先生にも連絡を入れておけ!」

「はい!」

 

「分かりました!」

 

私と清香と簪の三人掛かりで兄さんをストレッチャーに乗せる。

この間にも兄さんの顔色は悪くなっていく。

それを姉さんが手刀を振りおろし、兄さんを気絶させる。

これでストレッチャーから落ちる心配も無いけど、些か乱暴。

だけど今は見逃そう。

 

「織斑妹、篠ノ之はこの場に残れ。事の経緯を聞く必要がある」

 

「わ、分かった…なら、その後に兄さんのところに行きたい」

 

「よかろう、だがそれも経緯次第だ」

 

それから私達は床に正座させられ、事の経緯を話すことになった。

 

とはいえ、私には兄さんの悲鳴の前には何があったのかが判らない。

でも、だいたいは察することくらいなら出来た。

天井の通風孔が開き、その下には備品の椅子。

そして床に無造作に置かれている…というか、放り投げられたかのような兄さんの『ダブル』。

それから導き出した答えは

 

「こいつが兄さんの『ダブル』を隠そうとしていた。

それを見つけた兄さんが制止させようとしたけど、コイツが兄さんを殴って発作が起きた」

 

「まるで見ていたかのような推察だな」

 

「状況から推理してみただけです織斑先生。

それに兄さんの大声よりも前には私は部屋に居た。清香が証人、確かめてみればいい」

「分かった、確認はしておこう。

で、篠ノ之、織斑の推察の通りなのか?」

 

姉さんの気迫が強くなった。

視線がものすごい怖い、これに耐えられるのは兄さんをおいてこの世には誰もいないと思う。

兄さんに聞いた話では『篠ノ之 束』博士も耐えられるとか。

でもこの状況下でそんなどうでもいいことを思い出せる私も少しは慣れてきているのかもしれない。

 

「何故、織斑兄の刀を隠そうとした?

織斑があの二振りを大切にしていることくらい理解できている筈だ」

 

「どの道、無理やりにでも兄さんに剣道をさせようとしてたんじゃないの?」

 

「…あ…ぐ…」

 

 

応えは帰ってこない、沈黙は肯定ととるべきだ。

 

「織斑は自分の意思で剣道を破棄し、自分だけの剣を見つけた。

ただそれだけだ。

織斑、お前はもう行って良いぞ」

 

姉さんの了解もとれたし、私は立ち上がる。足が少しだけしびれてるけど、これくらいは何ともない。

部屋を出る前に篠ノ之に言うべきことを言っておこう。

 

「私はお前を許さない、兄さんに危害を加えたお前を、兄さんにはもう近づけさせない。

お前は兄さんの敵だ」

 

それだけ言って私は兄さんが運ばれたであろう医務室に走って行った。

後に聞いたけれど、篠ノ之は懲罰房に謹慎一週間、反省文50枚提出の処分が下ったとか。

けど、私にはそんな事は関係無い。

 




本日二度目の投稿と相成りました。
モブかと思っていたモッピーが悪い意味で大暴れです。
そひて楯無先輩、チョロッと登場してもらっていたのにセリフが無くてごめんなさい。

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