IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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一年間も放置してすんません。
今回もあまり納得のいかない出来映え。
あんまりストーリー進んでません。


雅焔焉翼 ~ 蠢動 ~

Ichika View

 

ひとまず、話の内容を伝えるだけ伝え、信用を得られたのか二刀を返却された。

たかが十数分だけだったというのにも関わずこの腰に感じられる重みが懐かしく感じられた。

それをほんの少しだけ嬉しく思いながらも、俺は包丁を手に取る。

料理はまだまだ残っているんだし、さっさと片付けて早く眠りたい。

そうでなくても最近は料理をしてばかりで、他にやる事が無くなっているような気がしてならない。

 

「ってか、なんで俺はいつもいつも料理ばかりしてるんだろうなぁ…」

 

幼少の頃からの日常の延長線上のものであるというのに、今更な疑問が口をついて出てきた。

そうだよな、みんなだって料理が出来る筈だし、自炊がブームになってただろう。

俺が料理する必要性は薄れてきてしまっているというのに、なぜ俺にばかり料理のお鉢が回ってきているというのか。

 

今になって思い返す。

千冬姉が家事全般が赤点どころか落第どころかマイナス方面一直線だったからというのもあるが、俺が家事全般を預かることになった。

炊事を任せれば小火を起こし、洗濯をすればあたり一面泡だらけ、掃除をすればアチコチがズタボロになり、裁縫をすれば赤い染みが目立つことに。

うん、俺がこうなっちまったのは間違いなく千冬姉のせいである。

マッサージは…まあ、バイトで覚えたわけだが。

 

「それにしても一夏君ってば家事上手よねぇ。

きっと教える側も上手だったのね」

 

…いや、殆どが我流なんだが…。

 

「お婿にもらう人が羨ましいなぁ」

 

…簪の怒りの琴線に触れる人がどうなるか、それを身をもって経験した人がこの言いざまって…。

また雪像と氷像に抱擁されたいのだろうか、この人は?

 

 

 

翌日、早朝の訓練を終えた後、俺は千冬姉に駅にまで連れてこられていた。

訓練に同行してくれていた簪も少しばかり混乱していたが、「すぐに帰る」とだけ言ってこのザマだ。

 

「弁当は完成しているんだろう?

なら、その受け渡しはここでしても構わんだろう?」

 

「あのなぁ千冬姉、俺を配達に出向く弁当屋か何かと勘違いしていないか?」

 

バシン!

後頭部を叩かれた。

ああ、はいはい、織斑先生と呼べとか言いたいわけか。

 

「まあ、茶番はここまでにして、だ。

…居ると思うか?今、此処に」

 

言葉が冷たく、そして鋭くなる。

周囲には通勤ラッシュを控えているであろうサラリーマンだとかが多くいる。

そんな中、俺たちに殺気を向けてくる者は居るかどうかというと…居ない、か。

 

「視界に収まる範囲には居ないな」

 

言いたいことは何となく理解できている。

油断が生じやすいのは移動中か、移動の前後だという点だ。

みんなが来る前にバイクに二人乗りしてまでここまで来させたのはこういう理由だったのだろう。

 

「となると…やはり向こう側で待ち構えているか…」

 

「それに関しては俺も同意見だ」

 

大方、新幹線を降りた直後に…だろう。

新幹線だとかだと金属探知機を通らせることもしないわけだからな、ちょいと大きな荷物を持っている程度では怪しまれることもないだろう。

ポケットピストルともなれば、手の中にでも持っておけるだろうから、発見だってされにくいだろう。

人込みも相まって逃げることも容易だろう、後は…

 

「ああ、クローンソルジャーは死を恐れる事も無いから、新幹線が来たタイミングでターゲットと一緒に飛び出して道連れというのもあり、か」

 

「お前、何でもない事のようにえげつないことを平然と言ってくるんだな…」

 

京都の拠点を潰し、みんなが不在の間にやってくる政府と敵勢力の壊滅。

それを早急に済ませる必要性が出てくる。

叶うのなら、互いに連絡を取られる危険性を考慮し、ほぼ同時に、だ。

 

「今回の作戦を成功させないと、学園の生徒が全員そうやって利用される使い捨てどころか使いまわしの兵士にさせられるんだ。

『最悪のことは少しでも想定しておかないといざというときには動けなくなる』、ドイツでそう教わったんだ」

 

「あの熊どもめ、いつか皮を剥いでやる…」

 

おいおい、ブリュンヒルデが狩人みたいな目をしてるぞ。

…いや、北欧神話のブリュンヒルデともなると戦士の魂を天へと葬送し、悪しき魂は生者から刈り取っていく『採魂の女神』でもあるんだったかな…。

物騒なのも納得だ。

 

「で、俺たちはこのまま待ちぼうけか?

簪にはすぐに帰ると言ってきてるんだけど」

 

「已む無し、だな」

 

そうかい。

已む無しか…。

 

「じゃあ、俺は学園に戻るよ」

 

椅子から立ち上がった瞬間、肩をつかまれた。

掴みかかってきたのは言うまでもなく我らが担任の先生だ。

 

「問いたいことがある」

 

「奇遇だな、俺も千冬姉に問いたいことがあるんだ」

 

どうやら、腹に一物抱えているのはお互い様のようだ。

これには互いにため息をつく、ついでに頭を抱えるしぐさは姉弟だからか…。

無意識にミラーコントをしていては周囲の目が痛いので、さっそく本題に入るとしよう。

 

「千冬姉からどうぞ」

 

「では、問おう。

人格の複製技術…しかも知識、記憶、経験を内包したままの人造複製兵器を始めた組織。

その本拠地もお前は知っているんじゃないのか?

先日お前が提供してきた情報で一部が欠損している部位が発見されたと更識から言われたのだが」

 

…やっぱり隠し事は辛いな…。

しかも一部が欠損しているという点も見抜いてきたか。

 

「…お前のことだ、国際情勢なども気にしているのだろうが、お前一人だけで解決しようなどと考えるな。

それほど、我々が頼りにならんわけではないだろう」

 

「ああ、当てにしてるよ。

情報の一部を欠損させたのは確かに俺が意図的にやったよ。

何処から情報が洩れるかわからないからな。

だから、多くの国家から生徒が集う学園内では言えなかったんだ。

助かったよ、朝っぱらから学園外に出してくれて、さ」

 

そう、俺からも訊きたいことがあった。

それを問うには学園の外である必要性が生じてしまっていた。

 

「質問には答える。

だけど、俺の問いに答えてくれ、それが条件だ」

 

どうしても俺が気にしているのは、身内が増えすぎた学園内、そしてまだ潜んでいるかもしれない教師部隊の内通者がいる場所では話せないからだ。

 

「…で、お前の問いとは何だ?」

 

「『アキナート・O・ヴェルナー』、という人物に関して知っていたら教えてほしい」

 

表情を見るがわが姉の鉄面皮は微かにも揺らがない。

その名前を聞くのは初めてだったのか、それとも隠しているのかは知らないが…。

 

「その名前の人物を既に知っているのか、なぜ私に問う?」

 

「今となっては日常になってるから忘れがちかもしれないが、俺たちの身近にも『O』のミドルネームを持っている人物がいる」

 

俺と千冬姉の脳裏に浮かんでいる人物は共通しているだろう。

俺はほんの二年前までその存在すら知らず、千冬姉は幼少の頃からずっと存在を秘匿し続けていた人物だからだ。

 

「…マドカ、だな」

 

オーストラリアで暮らしていた頃のマドカのフルネームは『マドカ・O・ウェイザー』。

その『O』の部分に当てはまるのは元来の姓名である『織斑』だ。

こじつけに近いかもしれないが…。

 

「なあ、何か知っているんじゃないのか?」

 

「アキナートも、ヴェルナーという姓名も私は知らない。

それ以外は…お前には…知られたくない話だ…。」

 

ファーストネームもラストネームも知らない。

けど、ミドルネームに関してのことは俺には知られたくない、と。

凡そではあるかもしれないが、予想がついたかもしれない。

けど、それはあくまでも予想だ、確信を得られるわけじゃないんだが…が…アキナートの俺への呼称を考慮すると胃が捻じ切れそうだ。

極端な話、あいつを確証に持ち込むなど嫌だ、生理的に嫌だ。

 

「じゃあ、今度は俺の番だな。

敵勢力の本拠地なら把握しているよ。

アメリカの…とある一角の地下だ。

本拠地は、四つの州に接している場所だ」

 

ユタ、ニューメキシコ、コロラド、アリゾナ。

その四つの州に跨りながらも、ほとんど放置されている場所。

俗称を言うのであれば、『フォー・コーナーズ』。

オカルト業界では、アメリカが秘密裏に異星人と技術開発をしている場所だとかなんとか言われている場所。

実際には、荒野の真ん中に、地面に黒い蓋がされているだけの場所だ。

場所が場所なだけに、人なんて誰も来ないだろう。

倉持技研を襲撃してきた連中が使用していたような音も熱源も感知させない光学迷彩なんて必要最低限度あれば衛星カメラからも隠蔽が出来るだろう。

無論、このリークされた情報ですらダミーの可能性も十分に考えられる。

だがたとえ少量でも情報を求めているこちらからとしては、見え透いた釣り針であろうとも食いつかないわけにはいかない。

 

「その情報を共有しているのは…誰だ…?」

 

「更識家と束さんだけだ。

あくまでも直感だけで言うが…千冬姉には言わないほうが良いと思ったんだよ」

 

千冬姉の視線がわずかにそれる。

やはり…隠し事をしているのは俺だけではなかった。

 

「その反応でおおよその話は察したよ。

千冬姉が何を隠しているのかが…。

俺をその点から引き離そうとしていたのは感謝はしている。

けど、ちょっかいを出されている側としては、皆を巻き込みたくないっていうのもあるからな、そろそろ正直に話してくれないか」

 

だが、返ってきたのは

 

「………」

 

沈黙だった。

フェアではないと思うのだが、これは俺の予想の裏付けに近い形になった。

やはり、俺達の敵ともいえる勢力の中には、俺たちに近しい存在が居るという事になるんだろう。

それが誰になるのかは俺だけには教えられない、といったところか。

 

「良いよ、判った。

言いたくないのなら言わなくて良い。

俺はこのまま学園に帰るよ、防衛は何とかするけど、京都の方は頼むぜ?」

 

そう言って、俺は弁当を千冬姉にまとめて渡しておいた。

周囲を見回してみれば、通勤だとか観光客が多く居る。

流石にこんな場所でやりあおうとする馬鹿は居ないらしく、いたって平和なものだった。

まあ、視界の端にはこの時代の風潮任せに無意味に威張り散らしているような連中も居る。

ああいったところからテロリストに加わっていく輩も居るのだろうと思う。

 

「…風潮が在るからこそ、権力が正義と同義に扱われるようになったんだろうな…」

 

女尊利権団体の中には、ひどい経験をした者も居るかもしれない。

だが、それに関しては俺としては何も思わない。

自身が体験した事をそっくりそのままやり返すというのは半ば八つ当たりに近い。

それこそ何の意味もない、そこに暴力が合わさっていれば殊更に質が悪い。

 

「それがいつのまにか『力』と『正義』が同じになっていくんだろうな」

 

『正義は勝つ』とはよく言ったものだと思う。

正確には『勝者が正義の定義を書き換える』というものだろう。

実際に連中は、目的の為に手段を択ばない。

目的で手段を正当化する、その目的が世間的に見ても倫理的にも、人道的に見ても間違いであったとしても。

そして、自分に歯向かうものがいたとするのなら、奴らは嘲笑いながら社会的抹殺を行ったという話も昨今珍しくもない。

実際、無関係な人間を陥れるような輩も居るくらいだ、10年前から見れば時代が狂ったと思う。

 

Prrrrrr

 

そんな思考に陥っていたからか、携帯端末が鳴っているのを感じ取った。

 

「どうしました、束さん?」

 

『お待たせ~、そろそろバスがそっちに到着するからお弁当の受け渡しを頼むよ♪』

 

「弁当なら千冬姉に渡しています、そっちから受け取ってください。

それと…クロエの調子は如何ですか?」

 

ここで急に束さんが口を閉ざした。

だがそれもわずかな時間だった、返ってきた言葉は

 

『うんうん絶好調♪

いっくんのお陰で、くーちゃんってばすっごく料理に関心を持ってくれてね♪

もう束さん以外の人をも舌を唸らせるほどだよ♪』

 

その料理に使用する食材は束さんが捜してきていたのを思い出す。

それを使って何を画策しているのかは俺はまだ察しがついていない。

 

『あ、そうそう、束さんとクーちゃ、今はスイスに居るから♪』

 

気軽に国際電話してきてんじゃねぇよ、この人は。

通話代を気にしているのか、この人は?

一般人からしても秒/数百円単位の通話なんぞお断りなので。

 

プツッ!

 

容赦なく切っておいた。

要件はメールで伝えろってんだ。

で、みんなを搬送しているバスは業者にでも頼んでいるんだろうな。

 

「ったく、面倒なことが続きそうだ」

 

そうぼやきながら俺はバイクに跨り、エンジンに火を叩き込んだ。

これから学園の大橋にて拠点防衛戦をやらなきゃならないんだ、無駄な体力を使いたくない。

さて、帰ろうか。


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