IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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雅焔焉翼 ~ 応報 ~

Chifuyu View

 

京都に向かう事になり、全専用機所持者がその作戦に投入される事になった。

だが、一夏は自身の機体の火力を理由に辞退している。

なにか私の知らぬ所で考えがあったのかもしれないが、私としては都合がよかった。

 

嘗ては慕った

 

あの日を境に憎悪した

 

だが、その憎悪を無理やりに断ち切った

 

それでも、その憎悪と殺意を一夏が拾い上げてしまった

 

幸いなのは、一夏がそれに関しての記憶を失っていることだった。

 

「荷物は…コレで良いな…刀は…」

 

一夏との修行の中、使い続けた刀も今は少しだけ草臥れてしまっている。

刃毀れも目立つようになっている。

だから新たな刀を拵えた、それも一刀だけでなく複数の刀を。

 

「『織斑 四季』『織斑 未帰』…貴様らは…私が斬り殺す…!」

 

そんな折だった。

私の携帯電話に着信が入ったのは。

 

「相手は…絹江さんか…何の用だ?」

 

更識姉妹の母である彼女とは幾度も面会したこともあり…その…師範よりは会話をしやすい。

 

「はい、織斑です」

 

『暫く振りですね、千冬さん』

 

相変わらずのおっとりとした喋り方。

だがこの喋り方に誤魔化されてはいけない。

更識家の良心ではあるが、怒らせると結構ヤバい。

休学していた頃に簪と一夏はその瞬間を目の当たりにしてきたらしい。

話を聞いた際には私としてもドン引きした。

訓練の話も聞いてはいたが、そちらもすさまじかったと記憶している、何せあの一夏が全力で挑んでも一歩たりとも動かすには至らなかったらしいのだから。

 

『娘から話は聞きました、明後日から京都に向かうのだと』

 

「ええ、敵勢力…兵器量産拠点が京都に存在するのだと情報が入り、更識のエージェントによる裏付けが出来ましたので。

その節は感謝しています、貴女達の情報裏付けがなければ今回の作戦は組めなかったでしょうから」

 

『いえいえ、私としても今回の件は見過ごす事なんて出来ませんから。

完成された兵士を量産し、それを戦場に投入する。

その総数に上限がなく、足りなくなければ補充する。

そういった兵站も戦争の概念を根本から崩壊させ、多くの人命を危険に晒す技術は消し去らなければなりませんが、今回は場所が…』

 

京都の市街地の真っただ中、しかも地下だ。

下手に吹き飛ばそうものなら地上にも被害が及ぶ。

だが、その深度が不明だからこそ破壊工作も多少は出来るが…。

 

『それで、作戦の準備は出来ていますか?』

 

「ええ、各自調整を急がせています。

明後日の早朝にまでは済ませられる筈です」

 

『そうですか。

どうか皆さん無事に帰ってきてくださいね。

どうにも政府の動きもキナ臭くなってきていますので、私としても心配なんです』

 

「お気遣い痛み入ります、政府の動きに関しては、私としても今後調べてみようと思いますので。

では、夜分遅いですし今日はこれで」

 

そこで私としては通話を終えようとしていたが

 

『ところで…千冬さん、私から貴女へ訊いておきたいことがあるんです』

 

私に訊いておきたいこと?

珍しいな、普段はこちらから質問をしているのが多いのだが…。

 

『PCにもう一通のメールを届けておきました。

それも確認しておいてほしいんです』

 

その言葉と同時にメールの着信音が届く。

開いてみれば、中身は写真が同封されているものだったらしい。

だが、問題はその写真に写っている人物だ。

 

見覚えは在る。

過去の私が殺意を向け続けてきた男女だった。

 

私やマドカに似た女性、一夏に似た男性。

そんな二人が写真の片隅に写っていた。

 

『配下の者が撮影した写真に写りこんでいたそうです。

ですが、周囲の監視カメラを用いて確認したところ、その二人の姿はなく、その後に関しては行方が知れません』

 

「…撮影した場所は何処になりますか?」

 

『京都駅です』

 

そうか…貴様等…そこに出向いていたのか…。

間違いなく宣戦布告であると予感した。

 

良いだろう…コレは、私の復讐だ…。

京都の街で…最後の決着をつけよう…!

 

「判りました、この件は、私が決着を…」

 

『千冬さん?婚活サイトに登録されてまして?』

 

…何ということを訊いてきているのだろうか…。

その…何だ…私とて将来を心配していなかったわけではないしな…興味は多少在ったが…覗いてみるだけにしていたんだ…。

だが何故この人にバレてしまっている…?

いや、更識は情報のエキスパートなのだから私のパソコンの通信履歴程度調べるのは朝飯前かもしれんな。

 

『上の娘が興味本位でアクセスした際に見つけたらしいのですが…そのサイトに貴女の名前が登録されているんです』

 

「…は?」

 

いや待て、私は興味で見ていただけだ、登録なんぞしていない。

 

『その情報を貴女が使っている寮監室に送信しておきましたから確認をしてくださいな』

 

「は、はい…」

 

再び私のPCにメールが届いてくる。

確認をしてみれば、スクリーンショットも同封されていた。

 

「な、なんだコレは…⁉」

 

『その反応からして覚えが無いようですね。

当時の3サイズや体重や身長に足の大きさなどのプライバシー情報は私どもでも把握はしていますが』

 

なんでそんなところまで把握しているんだ⁉

プライバシー侵害をしているのは更識も同じではないのか⁉

 

『履歴も遡って調べましたが、二年前の四月頃だったようです。

間違いなく貴女のノートパソコンからの投稿です』

 

「に、二年前の四月…⁉」

 

待て、その頃はといえば私はドイツに出向していた筈だ。

なら一夏は…いや、アイツも自らの意思でドイツに残っていた。

なら私の部屋に無断で入り込めるのは…

 

(アイツ)か…!」

 

 

 

Ichika View

 

会議が終わり、俺と簪は部屋に戻った。

俺の不参加も決まり、話に関しては一件落着したかのようではあるが、政府の不興を買っているのは間違いないだろう。

 

「ねえ一夏、なんであんなにも不参加を強調したの?」

 

「仕方ないさ、輝夜は火力が抜きんでて強すぎる機体だ。

市街地で暴れようものなら焦土の荒野と地平線が出来る事になる。

それに、万が一にも黒翼天が出てこようものなら猶の事だ」

 

そう、京都で何か起きそうなのも俺の直感が告げているし、今回は冗談抜きでドンパチやらかそうというのだ、あいつの出番を作るわけにもいかない、何が何でも。

俺が学園外に出れば、もしくは外部から帰還する場合は大橋の所で待ち受けている時も在ったし、これ以上の騒ぎが起きるにしても、俺を要因としないでほしいということだ。

 

尤も、ソレは建前だ。

今回は政府の行動がキナ臭いにも程があるから、俺が門番の真似事をする必要性が出てきているという訳だ。

戦力のほとんどを外部に追い出した状態であれば、政府介入を遮れるものが存在しない。

しかも複製施設を無傷で入手をもくろんでいるようだから猶の事だ。

政府の後押しを受け取っている俺が反旗を翻そうとしているのだから、今後の扱いはどうなるのやら、その不安もあったりするんだよな…。

けど、譲れないものがあるのも確かだ。

 

お前はどうだ、相棒?

 

『……フン…』

 

相変わらず、か。

 

「本音は…それだけじゃないんだけどな…」

 

ポツリとつぶやいた言葉は簪には届いていなかった…と、そう信じておこう。

 

さて、俺は京都にまで視察の旅に同行する必要は無いし、このぽっかりとあいてしまった時間をどのように有効活用しようか。

 

「そうだな、要望の多い料理教室を開いて…だが剣術の指南も在ったな、基本五教科の教授も頼まれているものがあったし…それから各部活動からのマネージャーの依頼も在って…あ、学園長に教師陣からのお弁当の発注も大量に来ていたか…」

 

「一夏?そのスケジュールについて詳しく教えてくれる?」

 

頭の中だけで情報整理していたのだが、うっかりと口から出てしまっていたらしく、簪の耳に届いていたらしい。

 

「誰からそんな大量の依頼が来ていたの?」

 

「のほほんさんからだよ。

ほら、俺への依頼とかは生徒会を仲介するようになっているけど、そこに大量に来ているんだよ。

それを先日のほほんさんがメールで教えてくれてさ、それを印刷したものがコレ」

 

机の引き出しから依頼書を大量にどっさりとだし、簪に見せてみた。

編入直前に送られてきた参考書も真っ青の大量の依頼書だ。

もはや『部活』だとか『クラス』単位の量ではない、『個人』でバカバカしい量を書いている人もいるのだろう。

その熱意を別方向に回してもらいたいものである。

それをのほほんさんから受理している俺とて人の事を言えた口ではないのだが。

 

「一夏って変なところで杜撰だよね…」

 

言うな、死にたくなってくる。

それに多少は自覚しているのだから尚更だ。

 

「コレは私が処理しておくからね」

 

「すまない」

 

会議で上がっていたが、皆の出発は二日後だったな。

…新幹線の中でも食べれる駅弁代わりの弁当作成の予定でも入れてみようか。

さてと、ならさっそく全員分の献立を考えておかないとな。

 

その日の夜、簪からは俺が同行できないという事に関しては、溜息をつかれながらも納得してもらえた。

とは言え、部屋に戻った途端に

 

「学校の計画していた修学旅行とは言っても、一緒に行けないのは残念かな。

ほら、視察だったら皆とは散開するから…その…久しぶりに二人きりになれると思ってたから…」

 

顔を赤らめながら可愛い事を言われてさすがに俺も、赤くなりそうだった顔を隠すのに必死になった。

弁当はいいものを作ってやるからな。

豪勢にバスケットか重箱を用意しておこう。

季節外れだがおせちでも作るか?

材料は後で購買で購入して、それとも洋風にランチセットでも作るか?

 

「えっと…一夏?

どうしたの?なんでそんなに大量に材料を用意してるの?」

 

「簪のための弁当だよ。

ほら、駅弁とかじゃ味気無いからな、しっかりとしたものを作っておきたいんだよ」

 

後でみっちりと怒られた。

いや、冷静になって考えたらそうだよな。

簪一人だけで重箱一つ分平らげられるわけないんだから。

俺も冷静さを失っていたようだ。

 

 

 

 

翌日の夕方。

授業が終わってから、調理実習室を貸し切り、視察団体の弁当を作ることにした。

とは言え今回は先日の体育祭のようなバカな量じゃない、たかが数人前だ。

徹夜はせずに済みそうだった。

 

「さてと、取り掛かるか」

 

今回のご注文は

 

『焼き鮭定食』

 

マドカ

『サンドウィッチ弁当』

 

メルク

『ハンバーグ定食』

 

『中華セット』

 

ラウラ

『カツレツ弁当』

 

セシリア

『ロールキャベツ弁当』

 

シャルロット

『海鮮定食』

 

千冬姉

『幕ノ内弁当』

 

注文内容がバラバラだから調理するのも大変だ。

 

「よし、楯無さんの弁当はコレでいいな」

 

新幹線の中という事もあり、重箱だのバスケットでは荷物が過剰に増えるだけ、というか邪魔だ。

普通の弁当箱でも、食事が終わった後も荷物の中に入れて持ち運びしなければならない制約も発生してしまう。

なので今回使用するのは紙製の弁当箱だ。

購買にはいろいろと売られていてありがたい話だ。

 

「ね、ねぇ…それが私のお弁当って…お願いだからもっと手間暇かけて…」

 

しばらく前の会話を思い出し、サンドウィッチ弁当を作るその並行作業で完成させていた。

すなわち

 

「今度から、お姉ちゃんのお弁当だけバターサンドウィッチにするね」

 

「バター塗るのも面倒だ、パンのミミでいいだろ」

 

そんな会話を思い出したからだった。

故に、その弁当箱に入っているのは…パンのミミだ。

揚げていない、焼いてもいない、切ったそのままのものを弁当箱に入れただけという、日の丸弁当以上にお手軽な弁当だった。

いやぁ、簡単で良いわ、コストなんて有って無いようなものだし、サンドウィッチ作るついでに作れるし。

名前を付けるとしたら、『パンミミ弁当』かな。

 

「そっちの焼き鮭の確認を、つまみ食いしないでくださいよ。

それから、豚肉をミンチにしてからキャベツに包みます。

それと」

 

「ちょっと待ちなさい!」

 

何なのだろうか。

数が少ないといえども、弁当を作るのに人手が欲しかったから比較的暇だったという楯無さんに依頼を斡旋した。

報酬は後日の視察に向かう際に新幹線の中で食べるお弁当だ。

…釣り餌と報酬が同品という事ではあるのだが、受領してもらえて助かった。

 

「どうしました?」

 

「以前から言おうと思ってたけど…私への扱いが…ぞんざいよね…?」

 

「気のせいですよ」

 

「だったら目を合わせて言いなさい!」

 

「すみません、今は目が離せないので」

 

ホント、こういうスルースキルが上達するのもどうなのだろうかと最近では少しばかり思う。

おっと、カツレツが焦げたりしないように気を付けないとな。

 

それから合計2時間。

全ての弁当を並行作業で調理していき、ようやく終わった。

後はクーラーボックスに入れておいても常温保存が可能だ。

 

「つ、疲れた…」

 

楯無さんはといえば、ヘロヘロになっているが俺は平然としている。

慣れた作業なんだしどうという事もない

それに先日なんて全校生徒分の弁当まで作ってのけたのだから、今回のこれは完全に遊びのレベルだ。

さてと、後は片づけをして、と…。

 

「先の会議で一夏君は京都へは行かないと言っていたけれど、その本音を教えてもらえないかしら?」

 

片付けを始めようとした途端に楯無さんのこのペースの変わりよう、流石は暗部といったところか。

 

「会議で言ったとおりの話ですよ。

戦闘になったら輝夜は市街地での戦いが出来ません、焼け野原を作るよりかは」

 

「建前は良いから、君が隠していることを教えてもらいたいのよ」

 

…俺ってそんなにも顔に出てしまっているのだろうか…?


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