IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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最近、スランプ気味です。
納得の出来る執筆がなかなか出来ない。
そんなわけで今回は駄作かも。


雅焔焉翼 ~ 暮笑 ~

Ichika View

 

…顔を見るが、見た覚えは無いと言い切れる。

夕暮れの光に染まってはいるが、腰まで届く長い髪は、ブルー系統なのだと察しがついた。

 

「そんなに用心なんてしなくてもいいのに、そもそも初対面じゃないんだから」

 

「初対面だろう、俺はアンタなんか知らないよ」

 

なんで初対面の相手に即席コントなんてしなくちゃならないんだ。

 

「あ、以前に逢った時には装甲を纏ってたからお互いに素顔なんて見えないよね、忘れてた。

なら、コレなら判るかな」

 

燐光が閃き、彼女の姿に重なっていく。

否、纏っていた。

 

そこに現れたのは、猛禽のような頭部を戴いた紅蓮に染まるISだった。

…確かに見覚えが在った。

倉持技研に襲撃が成された際に、支援を打って出た所属不明の機体だ。

まさか、彼女がもう一度接触してくるとは思えなかったが。

 

「アンタ、何者なんだ?」

 

「ふふ~ん♪やっと訊いてくれた♡」

 

紅蓮の猛禽のISが展開を解除し、再び素顔が明らかになる。

その舌から現れた表情は、どういうわけか満面の笑顔だ。

なんでコイツはこんなに楽しんでいるんだか。

まるで会話そのものをするのが本当に楽しいといわんばかりに。

 

亡国企業(ファントム・タスク)実働部隊副隊長(・・・・・・・)、『アキナート・O・ヴェルナー』。

気軽にアキナって呼んでね、お兄ちゃん(・・・・・)

 

お前のような妹を持った経験は無ぇよ。

 

「…んで、俺に何の用だ?」

 

なんだか一気に疲れが溜まったような気がした。

初対面…じゃないにしても自己紹介した途端に『兄』呼ばわりしてくる人間に出会うだなんて思ってもなかったんだ。

ってーか、そんな状態に陥るなんて誰が予想出来るって言うんだ、少なくとも俺には無理だ。

 

「ただ逢いに来ただけ、とは言ってもまた近いうちに逢えると思うけどね」

 

「何を根拠に言っている」

 

「根拠…う~ん、あ、じゃあコレ♡」

 

気軽にソレを引っ張り出した瞬間に流石にドン引きした。

この少女、アキナート改めアキナは笑顔を絶やさずにヒョイッと後ろ手に掴んでいたものを取り出す。

それだけならドン引きはしないだろう、なだが持っているブツがブツだ。

何せそれは…生首だったのだから。

しかもただの生首ではない、顔の右半分が皮が剥がされ、機械部品が大量に露出している。

…誰の生首だ、ソレは。

 

コレ(・・)はね、実働部隊の先代隊長だった人だ♡

あ、人じゃないか、何年も前から♪」

 

その生首の髪を掴んだままブンブン振り回す彼女は未だに笑顔のままだ。

挙句に振り回すのも飽きたのか、そのまま上空に放り上げ

 

「『霊鳳禽斬』発動」

 

上空に現れたのは紅蓮の…否、あれは劫火の円盤だった。

それがしめて200以上。

 

劫火の円盤が鋼の生首を焼き裂いていく。

そんな中、アキナートの手元に一枚のチップが落ちてくる。

 

「お兄ちゃんは知ってるよね、クローンの培養工場を。

何人もの肉体が培養されていたけど、中身は少ないの」

 

「どういう意味だ?」

 

「ううん…人格って言えばいいのかな。

たとえ一個体が死んだとしても、その意識を電波に変えて、別の肉体に移し替えるの。

培養するには多大なエネルギーこそ必要になるけど、意識をインプラントさせるのにはそんなに時間は掛からないんだよ」

 

なんでこの少女はこんな情報をホイホイと渡してくるのやら。

そもそも今回の接触は…それも素顔まで見せている理由は何だ?

 

「だけど、もう一人…お兄ちゃんに敗北してから複製兵器になって狙ってる人が居るのは気づいてる?」

 

「ああ、気づいてるよ。

便宜上、俺達は『ジャック(不特定の何者か)』と呼称しているけどな。

で、俺に敗北した者ってのは誰だ?」

 

「ダリル・ケイシー」

 

即答されただけにまたもや呆れた。

…おい、完全に故人として扱われている人物じゃねーか。

彼女が死んで、遺体の確認も行われて埋葬までされてる情報を俺は確かに聞いてるぞ。

まさかとは思うが…。

 

「お兄ちゃん達が『ジャック(不特定の何者か)』と呼称しているクローン体を何体か相手にしてきたと思うけど、そのすべての中身が彼女なんだよ」

 

…ああ、そうかよ。

これで暫く抱えていた疑問が氷解した。

「殺しに舞い戻ってやる、幾度、幾度でもだ」

 

その言葉が脳裏に過ぎる。

あいつは既に死を超越し、機械仕掛けの死者蘇生を手にしていたのか。

で、俺を殺すためだけに幾度もそれを繰り返している、と。

嫌だなぁ、だとしたらそれこそ何度相手にしなきゃならないのかが判らない。

 

「クローン製造工場、その拠点は幾つある?」

 

「正直、残り少ないんだよ。

製造にも時間がかかるし、維持、運搬、それらにも常にコストがかかるんだもん。

そのくせ、あの二人が一括管理してるわけだから、気に入らなきゃ中身ごと壊してたりするから。

私が知ってるのは、アメリカ本土と、日本の二つかな」

 

信じらんねぇ…あっさりと吐きやがった。

口が軽いとかいうレベルじゃねぇよ、蛇口捻ったら水が出てくるレベルだ。

 

「あ、でもこれ以上は教えられないかな、なにせ秘密にするように言われてるから」

 

へぇ…一応は服務規定は最低限度は心得ているのか。

むしろそうでなければ組織なんてものには属していられないだろうからな。

 

「お兄ちゃんは他人事みたいに聞き出すんだね」

 

「そりゃそうだろ、お前が属している組織の内情なんか知ったことかよ。

むしろその組織のせいで迷惑をこうむっている側だ気遣いなんかしてやれるわけがないだろう」

 

これは偽らざる本音だ。

ダリル・ケイシーとか死んでもなお刃を向けてくるとか正気の沙汰を疑う所を遥かに飛び越え過ぎていて、狂気の沙汰そのものだ。

しかもその都度その都度複製した肉体を使ってくるなんざこっちの頭も狂いそうだ。

潜水艦の中でイーリス女子にとっつかまっていたのもダリル・ケイシーだったのだろう。

それにこの少女も、だ。

 

「他人事なんて言ってられないよ、お兄ちゃん」

 

「何を言ってるんだ、お前は。…俺は…」

 

その少女は柵の上から飛び降り、テラスへと足をつける。

それだけでなく、俺の前に跪く。

…何をしたいんだ、彼女は…?

 

亡国企業(ファントム・タスク)実働部隊隊長(・・)、織斑一夏様、お迎えに上がりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいやちょっと待て、ちょっとどころじゃない、かなり待て。

実働部隊隊長って先に切り刻まれた挙句に焼かれたスコールとか言われていた女じゃなかったか?

って、もう除名されてるんだっけか。

で、この少女、アキナートは副隊長だったんだろ⁉

じゃあ隊長格は空座だったのか⁉

だとしてもなんで俺が隊長なんだっつの⁉

 

「そんな話呑み込めるわけがないだろう、俺はテロリストなんざお断りだ。

誰からの推薦だか知ったことじゃないが他に回せ他に」

 

心の中身がそのまま口から飛び出した。

だとしても俺は悪く無ぇ。

テロリストなんぞに何故隊長扱いされなきゃならないんだ。

 

「ウッフフフフフ…推薦したのは満更他人とは言えない人なんだよ、お兄ちゃん♡」

 

一度深呼吸をして刀とナイフを構えなおす。

この少女に、アキナには恨みは無いが、最悪此処で斬って捨てる。

それに…これ以上は認められない何かを聞き出してしまうことになりそうだった。

 

「お兄ちゃんを実働部隊隊長に推薦したのはーーー」

 

ギャギィンッ‼

 

横薙ぎの一閃はディスク状の刃に防がれた。

焔を纏っていない状態であればこういう姿か。

アメリカ上空で飛行機が切り刻まれた映像に映っていたのはこれか…!

 

「おお、速いねぇお兄ちゃん」

 

「あっさり受け止めておいて良く言うぜ」

 

そこから先の言葉は紡がせない。

嫌な予感がうんざりする程に感じてならない。

悲しい事にも、こういう『嫌な予感』というものは裏切られた試しが無い。

何故か知らんが現実になるのが常だったりする。

特にハルフォーフ副隊長とか、ハルフォーフ副隊長とか、ハルフォーフ副隊長とか、ついでに楯無さんも。

 

「でも数が増えたらどうなのかな?」

 

「関係無ぇな!」

 

周囲から襲ってくるチャクラムが一気に数が増える。

目の前のチャクラムを弾き、刃を彼女の首輪に突き付けた。

 

「詰みだ」

 

武装の大量動員なら俺にも可能だ。

質はどうだか知らんが、量で負ける事は無いだろう。

だが今はそれをするつもりは無い。

武装が大量に在ろうと、使い手までは使い回しには出来ないのは当たり前の話だ。

 

「そっか…私達のところに来てくれないんだ…」

 

「当たり前だ、こっちはテロリストなんざお断りだ」

 

「ふぅん…」

 

首の皮一枚程度は刃が食い込んでいる。

貫くにも、裂くにも苦労する事は無い。

これ以上情報を吐き出させるには…

 

「あっはははは…お兄ちゃんを引き留めてるのは誰なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

………は?

 

俯き気味だったアキナートの口から洩れてきた言葉に再び絶句した。

続けて

 

「織斑千冬?

それとも妹のマドカ?誰なの?

そんなのお兄ちゃんと私には必要無いよね?

お友達も居るの?お兄ちゃんってば外国人のお友達が多いんだよね?

その人達も居なくなれば私と一緒に来てくれる?

家族も友達もクラスメメイトも何もかも居なくなれば一緒に居られるよね?オ ニ イ チャ ン」

 

刀を突き付けられながら、よくまあ喋れるものだな。

驚愕と呆れたの二重の絶句にアキナートのシャウトは更に壮絶な域にまで走っていく。

 

「大丈夫だよお兄ちゃん、私とお兄ちゃんの住まいには誰も入ってこれないから。

私とお兄ちゃんの家には誰も近付けないようにしてあるから。

そこで二人で暮らそうよ、誰にも邪魔されない場所で幸せに過ごせるから。

だってお兄ちゃんの瞳には私以外を映す必要なんて…」

 

ドガァッ!!

 

「………無理。

あんなの生理的に受け付けられねぇ」

 

今までに見た事も無いタイプに、刀を振るうのではなく、足を振り上げて、胸板を蹴り飛ばしていた。

顔面を蹴らなかったのは慈悲だとか気遣いではない。

あんな妙なシャウトを平然と続ける者の顔に触れたくなかったからだ。

朝飯も昼飯も抜きの状態だった事を思い出したが…あんなの聞いた後だと、晩飯は胃袋が受け付けてくれそうになかった。

 

「…帰ろう…疲れた…それこそ色んな意味で…」

 

鬱憤と疲労と溜め息と共に魂まで吐き出しそうだった。

 

テラスに背を向けた時、背後から声が聞こえた。

 

「また、迎えに来るからね…私は諦めないよ……お兄ちゃん」

 

振り替えるも、そこにはもう誰も居ない。

 

胃袋に穴が空きそうだ…。

俺はお前には会いたくないよ、アキナート…。

周囲を見渡せばディスク状の刃も一つたりとも残さず消えてしまっている。

…帰ったのだろう、帰ったのだと思わせてくれ、そうでなきゃ胃潰瘍だとか胃炎にでもなりそうだ。

 

「疲れた…必要以上に疲れた…」

 

一応センサーを使用して周囲の情報も簡単に調べてみる。

先ほどの紅蓮の機体の反応も無い。

どうやら本格的に帰投したのだろう、安堵にため息をこぼす。

さてと、帰ろうか。

 

今度こそバイクに跨り、エンジンに火を叩き込む。

アクセルを吹かし、一気に来た道を駆け抜けていくことにした。

 

報告なんて…出来ないよなぁ…。

 

 

 

 

Akina View

 

「ちぇ~っ、フラれちゃったか…でも諦めないからね」

 

断崖絶壁から蹴り落とすだなんて思わなかったな。

 

のど元に触れてみれば、今でもあの冷たい刃の感覚が蘇るようで唇の端が吊り上がる。

斬られなかったのは助かったけど、蹴り落とすだなんてスマートじゃないなぁ…。

まあ、良いか、生きていれば次の機会だって訪れるだろうからその時に…。

 

「フフフ…また逢おうね、隊長(お兄ちゃん)♡」


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