IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

211 / 217
これが今年最後の投稿です。
それでは皆さん、よい年末年始を


獄雷冥魔 ~ 鮮血 ~

Ichika View

 

幾度かこの場所には訪れた。

荒れ果て、枯れ果てた広すぎる荒野。

闇色の雷を雨の如く降らせる雷雲。

 

だけど、そこには見慣れぬ光景が生み出されていた。

この領域には、数えきれないほどの剣が突き立っている。

そのすべては俺から切り離された、憎悪、憤怒、そういった感情が原因で生み出されたものだ。

だが今は…一刻一刻と時を刻む度に地に刃が突き立っていくのが見えた。今もまだ…食いそうになるほどの怒りがそこには存在するのだろう。

俺から切り離されたにもかかわらず、時を重ねるほどに、食い破らんとするばかりの怒りが。

 

「お前の気持ちは理解出来ないとは言わない。

だけど、お前はこの殺意を、誰に向けているんだ…?」

 

一時は篠ノ之を鎧袖一触にしていた時もあったが、今ではそれに関しては成りを潜めている。

二学期になっても、学園生活の中では黒翼天が俺の体を勝手に使ってやりたい放題とは言わないが、好き勝手している時もある。

そういう場合は強制的に後退しているような感じだったからか、俺には抵抗なんて出来るわけもなかった。

千冬姉はコントロールしろ、などと言ってくるときもあったが、無茶を言うな。

あいつは暴走しているわけではなく、確固とした自我を持ち、考慮までする知性体だ。

俺の肉体を勝手に使う場合もあるが、俺にはどうしようもない。

気分が落ち着けば、何らかの衝動が収まれば、勝手に元に戻るだろう。

諦めの境地、というやつかな、コレは?

 

そして、こうしている間にも、次々と剣は生まれ、雷は雨の如く降り注ぐ。

 

 

 

Tatensashi View

 

ガギャァァァァァァッ‼!

 

スコールの絶望したかのような絶叫の数秒後、彼女の顔面を覆っていた装甲が吹き飛ばされる。

その表情は、叫びの瞬間を象ったかのような絶望と、かつての美貌が失われたかのようにげっそりとしていた。

私が最後に見た表情といえば、コンソールやら機材を消し飛ばした瞬間に見せた嗜虐的な表情だったのに、そんな風貌など、欠片にも見えないほどに憔悴しきっている。

 

いやなことにも、一夏君の予想通り、あの機体は搭乗者の精神を追い詰めていくような代物らしい。

でも、それだけじゃあ、あの表情はの意味が…

 

「嘘…どうして、此処に…!?」

 

左腕の龍の顎からソレ(・・)は空中に投げ出された…。

 

腕も足も無い人の姿(・・・・・・・・・)のソレが

 

「オータム…!?」

 

学園地下の収容施設に収容され、声帯を破損しながらも声無き絶叫を繰り返し続けていた彼女が、唯一残された胴体に風穴を開いた状態で…。

あ、いや、オータムの幻に風穴を開けたのはスコールの鉤爪だけども。

 

「…まさか…まさか…」

 

彼の背後には、宵闇の眷属龍が控えている。

クラック能力だけでなく、擬似的な幻影を作り出すのを私は経験している。

今も…スコールに幻を見せているのだろうと察した。

だから、あの鮮血も幻なのだと見抜けた。

 

「オータムゥゥゥ!!!!」

 

投げ出された幻の遺体へとスコールが飛んでいく。

だけど、

 

「それを見逃すほど彼は(・・)甘くはないのよ」

 

雷の雨が降り注ぐ。

だけど、この時だけは、その狙いは正確無比なまでに一点を集中して…。

無論、その狙いは

 

ドガガガガガガガガガガガガガアァン!!!!

 

スコールを避け、オータムへと雷の雨が乱舞する。

狙いは空中、上下前後左右からの狙いたい放題。

それに対してスコールは身を挺することでしかオータムを守れない。

幻を幻と見抜けず、自分を楯にして。

あのブラックホールを使えば、彼女もまた巻き込まれかねないから。

けど、彼は(・・)それを理解したうえで雷を落とし続けている。

 

「アグッ!?がぁ、ギィィィ、い、ああっ、アアアァァァァァァァァァッ!!」

 

だから、雷が落ちる度に叫び声が響き続ける。

私には、それを見るしかできない。

私の周囲に、こうも剣が並べられてちゃ、指先の一つも動かせない。

ナノマシンの制御に移ろうかと思えば、それだけで喉元に突き立てられた刃がどう動くかわからない。

 

「…此処までする必要があるの?」

 

「……」

 

無論、なにも答えない。

あの二人を見下すだけ。

 

「…フン…呆気ねぇな…!」

 

「………ッ!?」

 

空中に現れたのは、真紅の槍だった。

それが、幻のオータムの左胸を貫く。

見るまでもない、それは完全に、致命的な…絶命の一刺し。

死体を見た経験が無いわけじゃない、それでも、少なくとも気分が良くなるものでもない。

それを改めて実感する。

たとえ、幻であると理解できていたとしても。

 

「オー、タム…?オータムゥゥゥゥッッ!!!!」

 

言うまでもない、この瞬間を狙っていたようね。

スコールの攻撃に対し、オータムを盾に使って受け止める。

無論、幻に向けての攻撃なのだから、物理的な衝撃は受け止めていたのかもしれない。

でも、精神的ショックはスコールのほうがあまりにも大きい。

邪魔になった死体を放り捨て、それを追うスコールに対し、今度はオータムを付け狙い、スコールを的にして狙い撃ち続ける。

落下し続ける死体のさらに下に、あの槍。

 

「鬼だわ、彼…」

 

知性を持ち合わせた怪物ってこういうのを指すのかもしれない。

 

「よくも、よくも…よくもぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」

 

スコールが私に視線を向け、手を向けてくる。

あのブラックホールを出現させるつもりらしい。

 

「やばっ!」

 

刃の先端が喉元皮一枚裂くのをかまわずにその場を大急ぎで離脱する。

あの場にそのまま留まっていたら消されてしまう!

そんな事になるなら、皮一枚くらいどうってことないわよ!

 

「なんで…なんで…『虚無の統括者(ヴァニティー・ルーラー)』が発動しない!?

どうして…どうして…!?」

 

「…え…?」

 

下の方の光景に視線を向けてみる。

あの灰色の機体、冥王と呼ぶに相応しい機体は…スコールは両腕を振り回しているだけ。

そこには、何も現れる事は無かった。

何も起きない、何も具現化されない。

それどころか、冥王自身も堕ちていく(・・・・・)

 

「そういう事か…」

 

一夏君が予想した通りだった。

あの機体はいわば搭乗者殺し。

その高すぎる性能への反作用により、使えば使うだけ搭乗者の意識が混濁していく精神汚染の作用がある。

精神汚染とはすなわち、シンクロ率の極端な低下(・・・・・・・・・・)も含まれているとしたら…?

彼は…黒翼天はそれを待っていたとしたら…?

いや、待つのではなく、加速させていたとしたら…?

 

「どうした?自慢の弾丸も出せないのか?」

 

「あ…あぁぁ…あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

ISとのシンクロ適正率は先天性のもの。

スコールはそれを機械で補っていたのかもしれない。

けど、それすら奪われている。

黒翼天の前では敵ですらない。

叩きつけられているのは、絶望、憎悪、殺意、憤怒、狂乱…そして、

 

「その身に刻め…!『死の恐怖』を!!!!」

 

混沌の眷属が咆哮と同時に狂い始める。

魔龍達が冥王を切り刻む。

 

目にした瞬間に吐き気がした。

あれはもう、惨殺なんて生ぬるい。

一方的なまでの鏖殺(おうさつ)だった

 

その姿は異形

 

その力は絶大

 

そしてその目的は復讐

 

「龍の逆鱗に触れたのが運の尽きよ、スコール」

 

幻のオータムが掻き消え、龍の鉤爪が悪魔の装甲をいとも容易く貫き、上半身と下半身とで斬り分けられた。

その断面から零れ落ちるのは血液ではなく、鋼の臓器ともいえる機械群とオイル。

 

「やはり、機械義肢(サイボーグ)…」

 

正直、想定はしていたけれど見ていて不気味だった。

あの状態でも平然と生きているスコールに疑いを向けていなかったわけじゃない。

むしろ、前回の状態で生きていたのが不思議なほどだったから。

 

「それがテメェの本性か…」

 

「お前さえ…お前さえ、居なければ…私達、は…」

 

残された上半身が空へと放り上げられた。

もう見ていられなかった。

目を閉じた矢先に襲い掛かってくる衝撃。

十中八九、あの闇色の奔流が空に向けられ放たれたのだと思う。

 

耳をつんざく轟音と、体を襲う衝撃が消えてから、そっと目を開く。

私を閉じ込めていた剣の鳥かごは消え失せ、巨大な龍の顎は既に閉ざされていた。

 

「…チッ…悪運の強ぇ女だ」

 

「まさか…逃げたの…?」

 

上半身だけになり、ISそのものも動かなくなっていた。

そしてあの闇の奔流、あれから逃げ切るだなんて考えられなかった。

 

「違う、…連れ去られた…」

 

…はぁ⁉あんな状態に自ら飛び込んでまでスコールを連れ去った人が居るっていうの⁉

 

「周囲には誰も居ない、か…クソが…!」

 

にしても…本当に口の悪い人ね、この魔龍は…。

 

 

 

????? View

 

「危ないところだったわね、スコール」

 

手につかんだ生首を見下ろし、私は呟いた。

 

「お前は…!」

 

「無様もいいところ、あんなにも簡単に情報を抜かれるは、貴重な潜水艦と培養工場を失い、貴重な『ハーデス・プルート』を盗んだ挙句に使えない状態になって、たった一日でどれだけ恥を上塗りすれば飽きるの?」

 

冥王『ハーデス・プルート』の稼働データは生憎と回収できなかった。

まあ、だとしても問題は無い。

なにせあの機体は搭乗者殺しを主眼とした機体。

スコールは絶大な力に目を眩ませていたのかもしれないけど、それはあくまでも『盗ませる』のを予定していただけ。

だって、こんな機体があったら隊長(お兄ちゃん)も引いてただろうし。

あ、折角だしこの後で会いに行ってみようかな。

 

 

 

Ichika View

 

意識が現実に引き戻されるのが理解出来た。

双眸を開き、眼前に広がるのは、虫食いのように穴だらけになった港の跡だった。

 

「えっと…どうなってんですか?」

 

大体の状態は大雑把に把握しているつもりだ。

また黒翼天が暴れたのだろう、その都度に俺の意識はあの領域へ放り込まれている。

暴れ終わったから現実に戻ってきたのだ、と。

 

「えっと…ひとまず戦いは終わった、と言った方が良かったのかしらね」

 

あ、やっぱりな。

んじゃ、もう一つ質問しておこうかな。

 

「あの機体に黒翼天はどう対処したんですか?

正直、俺では『回避』以外に手段なんて講じてられなかったんですけど」

 

この質問に楯無さんは顔を曇らせる。

え?何?そんなにも奇想天外の方法でも講じたっていうのかよ?

 

「えっと…強行突破していってたわ」

 

胡散臭い。

あんな問答無用の消滅を起こすブラックホールに特攻だの吶喊に意味があるとは思えない。

VTシステムを応用したものを搭載していたようだったし、正直に言うと時間経過による疲弊を狙うしかないと思うのだが。

まあいいか、楯無さんもこれ以上口を開きそうにない。

 

「それで、一夏君はなにか収穫はあったのかしら?

お姉さんとしては、あそこでノビてる振牙(ファング・クウェイク)の搭乗者の事で聞きたいことがあるんだけど?」

 

ああ、そういえば居たな。

虫食いの穴に見事にはまったらしく、上下逆の状態で気絶している御仁が見えた。

なんであんな状態で気絶したんだか。

あ、原因は俺だったか。

 

「収穫は…証拠はなくなりましたが多少は。

あの人、『イーリス・コーリング』とは道中知り合いまして」

 

「…………」

 

なぜだろうか、凄く疑いの目を向けられている気がする、酷く心外なんですけど。

 

「まあ、そういうことで理解しておくわ。

女の子を気軽に引っ掛けるのが一夏君の性分だものね」

 

「それについては異議があるんですけど。

見境なしに女性を引っかけるような三枚目の扱いに関しては撤回を要求します」

 

いや、本当に。

なんでそんなジゴロな扱いを受けなきゃならないんだよ⁉

俺は一途な男ですよ⁉出会ってからは簪に一辺倒ですってば!

 

ンなことを言ってるからこの人は周囲に置き去りにされているんじゃなかろうか。

まあ、こんなことを思っても口には出さないのが吉なんだろうけど。

 

「じゃあ、帰りましょうか。

あ、バイクを回収してから帰らないと、場所が場所なだけに飛んで帰るか。

じゃあ楯無さん、学園にその人を連行しておいてもらえませんか、俺としては収穫は多少あったんですけど、その人は証人にもなってもらえるので」

 

「へえ、そうなの、ならそれに関しては判ったわ」

 

これ以上の口論、舌戦は無駄だと断じたのか、あっさりと対応してくれた。

けど、最後に妙な視線を俺に向けながら

 

「一夏君、黒翼天の制御はしっかりとしなさいよね」

 

いやいや、無理言わないでくださいよ。

あいつの制御だなんて流石に無理だって。

予兆もなしに意識を刈り取られて入れ替わるだなんて感覚、当事者の俺以外には誰にも理解なんて出来ないだろう。

そこに『抗う』だなんて概念はそもそもとして一切通じない。

出来るのは対話程度、だがそこに完全な相互理解だなんてものは存在しない。

制御だなんてものは、出来ないんだ。

そもそものあいつは…俺自身が制御できなくなった精神をより合わせた存在なのだから。

 

イーリス女史に関しては楯無さんに丸投げし、俺は輝夜を展開してから別方向へと飛翔した。

向かう先はあの寂れて朽ちた展望台。

こんなところには正直来たくはなかったのだが、バイクを駐輪したままなのだからどうしようもない。

 

「良かった、駐輪の違反切符はきられてないらしいな」

 

まあ、こんな寂れた多ところにまで取り締まりをしに来る警察官も居ないだろう。

居たとしたらソイツはサボリ常習犯の可能性が在る。

 

早速シート下の収納スペースにしまい込んでいた制服をISスーツの上に重ねて着る。

あの十数キロの遠泳の後から着ると妙に暖かく感じるが、そんな感慨に浸っていられない。

 

「さて、帰るか」

 

そう呟いた刹那だった。

 

「えぇ?もう帰っちゃうの?」

 

(バルムンク)ナイフ(無銘)を引き抜き構える。

視線が向かう先は、展望台の橋の手摺。

その上に一人の人物が立っていた。

今の今まで誰もいなかったそこに、その少女は平然と佇んでいた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。