此度の経験で、大自然が人間にとって、どれだけ大きく、どれだけ理不尽で、どれだけ絶大な存在か思い知らされました。
『自然を大切に』という言葉は、人間にとって都合のいい形にしていこうとしていくものなのかと考えさせられました。
本当の意味で『自然との共存』とはどういうものなのか、我々にとっては尽きない命題になりそうです。
Ichika View
俺の刀と銀髪の女性のナイフがぶつかり、火花が散る。
早速面倒なことに巻き込まれてしまったらしい。
いや、今更過ぎるか。
この一年以内で面倒なことなんて数え上げるだけでも鬱にでもなってしまいそうだし、辞めておく。
なにせフランスの陰謀と暴走で暗殺対象にされたり、実際に死んだり、記憶が飛んでいたり、訳も分からぬ非現実世界へ意識を飛ばされていたりと、「ちょっと待て」と言っても足りない事態に何度陥っていたりすることやら。
昨日の夜は徹夜もしてるし、生徒の人数分の弁当作ってたりしてるのに、今日は今日でコスプレさせられたりと大忙し。
忙殺されそうだけど日々充実してるというかなんというか…そしてその日の午後には初対面の人に殺されそうになってるとか人生何が起きるかわかりませんね。
「えっと…アンタ誰?」
「名を聞き出そうってんのなら、先ずは自分から名乗りな小僧!」
「あいにく名前を知られてる様子だから改めて名乗るのもすこぶる面倒でさ」
心の中身がそのまま口から飛び出しているけど俺は悪くねぇっ!
そのまま強引に刀を振るい、拮抗していた状態から引き離す。
「奥裏陽!」
一気に踏み込む。
面倒な事はとっとと済ませるのが俺としては定石。
それを向こうが理解してくれて…ないんだろうなぁ。
跳弾の可能性を考えてくれているのかいないのか、右手で
本当に面倒になってきた。
「死ね小僧!」
そのまま連射してくる。
「嫌に決まってるだろ!」
左手のナイフを諦めて投擲。
銃弾と衝突し、船内の闇の中へと消えていく。
そのまま拡張領域から新しく
刀身を銃弾から守るための楯にして一気に接近。
「おおらぁっ!」
そのまま強引に振り払う。
今回の仕事はあくまで隠密・情報収集だからチェーンソー部位は駆動させていない。
なにせ気づかれるわけにもいかない。
あとは壁面に衝突させないように気遣わないと。
ともなると、やはり刀よりもこの廊下にて向いている武器はといえば…!
槍がいい、か。
『はい、これ』
刀を鞘に納めた瞬間に左手に槍が展開され、ソイツを握る。
実際にはシンプルだが、どこか禍々しさが感じられる真紅の槍だった。
「訊いてるぜ、テメェの専売特許は近接戦闘限定だってな!」
「ああ、その話は聞き飽きてるよ。
最近はそんなのばっかりだよ」
歩兵集団に武装ヘリだの、兵を詰め込んだ小型飛行機だとか、間合いの外から狙ってますと言わんばかりの相手ばかりで飽き飽きしてる。
近接戦闘に浪漫を感じているわけではないが、銃器の類を扱えない俺としては、近接戦闘に大きく頼りがちなわけだ。
とはいえ、遠距離戦闘が出来ないわけじゃない。
斬撃を飛ばしたり、投擲をしたり位は出来る。
後は…他に能がないと言われがちになりそうだが、武器を射出したりとか…。
最後のはほぼほぼ他力本願もいいところだが…。
弾切れを起こしたのか、数秒射撃がやむ。
弾倉の交換が行われ、再び射撃攻撃が行われる。
この場所なら槍に頼るべきかと思ったが、やはり銃では相手が悪い。
輝夜が取り出してくれたのは感謝はしてるが、早速
芸がないが、再び大剣を引き抜く。
紅白のツートンカラーに染められた
「チィッ!」
こういう相手ならやはり大剣が頼りになる。
相手まで下がらせてしまうのがキツいが、それでもダメージが少なくて済みそうだ。
「やりにくいガキだなぁっ!」
「こっちのセリフだ!」
一気に加速して肉薄。
銃口を向けられるが、剣で銃弾を弾き続ける。
狙っているのは、銃口を塞ぐ事で引き起こされる暴発だが、やはり読まれている。
銃撃を諦め、銃を投げつけてくる。
あんまりにも予想外すぎる行動に一瞬だけ視界からその手が消えて見えた。
ガッ!
「ちっ、反応速度はガキの分際で尋常じゃねぇな」
「生憎、訓練を積み重ねていてね」
本当、暴君相手では、この反応速度が無ければ、何度死んでいたかわからない。
…むしろ、あの人こそが身近にいながらの一番の危険人物ではないのだろうか。
この御仁も、拳銃を捨てた直後に手刀を貫手で首を狙ってきた。
しかも暗殺器具の『寸鉄』を仕込ませて。
「隠密行動を続けていたかったが、こんなところで見つかったのも何の因果だろうな。
物のついでに、何しにこの国に来たか教えてくれないか?」
左手の剣を離し、右手だけの腕力勝負に持ち込むが…だめだ、この人、何が何でも話さないって目をしてる。
「生憎、こっちも知らねぇんだよ!」
あ、そっち?
うわぁ、じゃあなんでこの人この船に乗ってるんだよ。
事情も知らない人を斬るのは抵抗もあるし
「一応訊いとくけど、アンタは…アメリカ軍から機体を奪ったテロリストってわけじゃないんだよな?」
「初対面の人間に『アンタはテロリストか?』とか聞いてくるとかお前は正気か?」
「初対面の人間に殺しかかってくる人に『正気か?』とか言われたくないですよ」
ひどく正論だと思います。
実際に名も顔も知らない人間に銃弾を浴びせられそうになって、切り刻んだ経験は幾度かあるが、この人は話が通じないわけでも無さそうだった。
なら幾分かは安心が出来そうな気がした。
そう、気がするだけだ。
対話で済むのなら、それに越したことは無い。
「…一先ず、話に移させてくれよ」
「…ちっ!」
提案には舌打ちをされたが飲み込んでもらえたようだ。
そうでもしないと、俺が次の手に移ることが分かったからだろう。
投擲されたナイフには特殊なワイヤーを括り付けていた。
それを回収すれば、背後から狙われるという寸法だ。
絹江さんのような『鋼糸』の才は俺には無いが、こういう絡め手くらいは使えるだろう。
「わーったよ!」
ワイヤーを引き戻し、ナイフを回収。
物のついでに目の毒になりそうな拳銃を砕き、話に移ることにした。
とかボヤきながら左手で拳銃を手放そうとしなかったため、一瞬の隙をついて銃身だけを真っ二つに捌いておいた、なにせ俺からすれば目に毒だ。
銃把だけになった武骨な鉄塊は近くのダストシュートに放り込まれ、ようやく普通に会話ができそうな気がした。
気がしただけだ、それでも相手は職業軍人なわけだから完全に気を許せる相手じゃない。
「…じゃあ、話に移るか。
この艦はなんなんだ?どこから来た?
何の目的で日本に来た?」
「矢継ぎ早だな…ってか手を刀から放せよお前は…」
また話が面倒なことになりそうだから頭の中でダイジェスト的にまとめてみる。
この御仁の名は『イーリス・コーリング』。
現役アメリカ空軍のISパイロットだそうだ、搭乗する機体はアメリカ製第三世代機『
この艦に乗っていたのは、上官からの命令だったそうだ。
日本に来た目的は不明、同行理由はただの護衛だ。
だが護衛と言いつつも船室と食堂を行ったり来たりの侘しい航行の日々だったらしい。
んで、その最中にたまたま俺と遭遇したらしい。
たまたまの遭遇で襲い掛かられた挙句に殺されそうになるとか俺ってどれだけ運が無いのだろうか。
普段から常習になりつつあるため息をまたここでも大きく吐き出すのだった。
ホント、頭が痛くなりそうだった。
「…んで、俺を見るなり殺そうとた理由は?」
「ただの腕試しってのもあるが」
酷く迷惑
「ナターシャがお前さんと関わった直後に便りがなくなっちまってな、お前さんが怪しいと思ったんだよ。
尋問なりなんなりしてみれば素直に吐くかと思ったんだが」
ホントに迷惑だった。
『ナターシャ』と呼ばれる人物ってあの人だろ?
『銀の福音』の搭乗者していた人だったよな、今は束さんが身柄保護をしていて、秘書もどきになってる人だったな。
さらにはES開発にもいろいろと口出ししてくるあの人だったか。
まあ、元気でよろしくやってると思うのだが。
その旨を伝えるとイリーナ女史は納得してくれたようだった。
「んじゃ、本題に移るか。
この船の貨物はどこに置かれている?」
「貨物だぁ?そんなもんの話は特に訊いてな…」
刀の柄を握る。
はぐらかすな、その意思表示だった。
やれやれ、荒熊隊譲りの尋問術が俺の身にも沁みついてきているようだ。
「正確な位置は知らない、だが怪しいと思う箇所がある。
三つある動力室と、地図にない部屋への入り口だ」
動力室が三つあるのは自然なのか不自然なのかは俺には判断がつけにくいが、不審な場所は存在するらしい。
「貨物はどうなっている?」
「そっちも見たが、ダミーみたいでな、木箱の中身は空っぽだ」
「なら、その妙な部屋へ案内を頼めるか?」
「わーったよ、まさかこんなガキに使い走りにされるとはな…」
一先ず案内をさせながら通信を開き、楯無さんにもここでの収穫を伝えておくことにした。
『…判ったわ、一夏君はその地図にない部屋へ向かって。
私はもう少し情報を集めてから合流するわね』
短く伝えただけで通信を切られてしまった。
さて、向こう側でも何らかの収穫があったのかもしれないが、今は仕方ない、か。
「此処だ」
そこは居住区の一角だった。
地図にない部屋、と言っていたが、変哲の無い一室にしか見えないのだが?
「此処に何があるっていうんだ?」
「判んねぇよ、ただの居住区の一室と言っちまえばそうだが、この部屋だけは居住区のマップには掲載されていないんだ」
ふぅん、記されていない居住区の一室、ね。
天井には…仕掛けはない、壁面も同じく、水圧にも負けないような小さな窓が一つ取られているだけ。
ともなると…床か。
先ほども使った
端から端まで、隅から隅まで念入りに、3cm単位で突っついていくと。
「みっけ」
壁面から吊るすタイプの簡易ベッドの下の床だけ、感覚が違った。
どうやらその下に続く通路とかがあるらしい、なんというか、ベタというかテンプレと言うべきか。
誰にも言えない文句なんて口に出すだけ野暮なので、手っ取り早くその床板を
案の定、通路がぽっかりと口を開いていた。
「ウワ、ホント何かありやがった」
「アンタも来るか?
なんでこの艦に乗せられたのか、理由くらいは正確なところまでは知っておきたいところだろ?」
「まあ、そうだな」
ってーわけでイーリス女史にもご同行願う形になったわけだ。
念には念を入れて、一直線上の通路でも、俺よりも前を歩かせる。
人がいて立ち塞がろうものなら口裏を合わせることも可能だし、セキュリティ相手でも対処が幾分かは可能だろうからな。
…そう思っていたのだが…どうやら杞憂に終わった。
セキュリティも見張りも何一つ誰一人居やしない。
拍子抜けとでも言いたいが口は閉ざす。
これ以上侮られるのはお断りだ。
「にしても随分と長いなこの通路、アメリカ製の艦ってのはこんなにも下り階段を用意しておくものなのか?」
「ンなわけ無ぇだろ、どう考えても潜水艦の船底だって超えてるぞ」
そのコメントには賛同だ。
何せ耳の奥の鼓膜を抑えられるような感覚がしている。
周囲の水圧と気圧が変化しているようだ。
感覚からしても30m以上は下っている。
そこまで来てようやく通路の終着点に到達した。
泳いで渡ってきたときには判らなかったが、俺たちが下ってきた感覚が正しければ、潜水艦の下に
なるほど、これは確かに船内の地図に掲載出来ないわけだ。
どんな艦を作っているんだアメリカは?
「さてと、開くぜ?」
「ああ、頼む」
電子ロックも施されていないドアをゆっくりと開く。
「…⁉」
「ッ!」
ドサ…!
ドアを開いたそばから現れたのは、白衣を羽織った禿頭の男…の死体だった。
何者なのかは判らない、なにせ顔が
グロッキーなものを見てしまったが、ここで退く訳にもいかなかった。
イーリス女子は機体の右腕を、俺は『雪片弐型』と『天龍神』を引き抜き、視線を奥に向けた。
「ンだよ、コレは…⁉」
隣のイーリスが息を呑みながら呟いていた。
見渡す限りの人間でも入る巨大なカプセル、それが百を超える数になるまで並んでいた。
改めて先ほどのドアを見てみる。
そこには
「『
嫌な予感とは常々当たるもののようだ。
ジャックは…やはりクローンシステムによって複製された大量生産兵器だ。
そして此処は、その生産工場。
今日学園付近にまで来たのは、そのうちの一体だったということなのだろう。
「…これが、アメリカ軍のやり方か?」
「そんなわけ無ぇ!
私だってこんなものは知らない…ある筈が…」
…どうやら本当に知らない様子。
演技でもないし、言っていることは本当らしい。
アメリカ軍の中に内通者が居るのか、それとも利用されているのか、上層部が真っ黒なのかは知らないが、生産拠点は京都のほかにも在ったらしい。
それにしても、ドイツもコイツも同じ顔で培養されているようだ。
呆れたね、生命の倫理を崩すような研究を軍の中で行われているとは…。
そして、此処は培養室と同時に運搬も行っている、と。
なんとも効率のいい話に吐き気がした。