IS 漆黒の雷龍   作:レインスカイ

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獄雷冥魔 ~ 呆逐 ~

Ichika View

 

新聞部部室への強制差し押さえと押収が終わってからアリーナへ戻ろうかと思ったのだが、辞めておいた。

俺も簪も参加する競技が終わっているので、戻る理由もない。

それにマスゴミが追ってくるのも相手するのも考えるだけでも非常に憂鬱だ、ついでにいうと面倒。

それに、今までいかがわしい方面に関してグレーゾーンだった連中もまとめて摘発できるし、戻ってきたタイミングで部室が立ち入り禁止になって驚愕しているところも少しばかり見てみたい。

俺もずいぶんとアグレッシブになってるよな。

これも学園での生活にて毒されているってことだろう、そう思い込まないとやっていけない。

弁当を一晩かけて作ったので、夕飯はすっぽかすことにして、研究に勤しむことにした。

余談だが、俺のスケジュールは今後、簪がマネジメントしていくらしい。

 

あまった時間も使い道がない為からって研究開発に宛がうのも珍しい話かもしれないな。

だとしても、だとしても、だ…。

 

「やあやあ

いっくん!簪ちゃん!研究頑張ってるかな!?」

 

変な恰好してる人がここへ来た。

なんで二人きりの時間ってどんどん減っていくんだろうなぁ。

 

「そのメイド服は何ですか」

 

「ほらぁ、ちーちゃんだけコスってるのが不公平だぁ、て言うからさぁ私も着替えてみたんだよ。

どうかな?束さん似合ってる?」

 

メイド服に頭の上にはウサギのミミのカチューシャ、までは『仮に』いいものだと思うことにしても、だ。

右手に握られている物騒なデザインの関節剣は何なのだろうか。

使いにくそうなイメージがある。

もののついでに、同行させられているのだろうか、専守防衛用無人機と言われながらも毎度毎度鉄屑にされている挙句に最近ではただの作業ロボットになりつつあるアースガルズがいくつものキャリーケースを持っているのも、俺は見なかった事にした。

 

『あ、あれ面白そう』

 

輝夜の変な言葉が聞こえた気がするが、そっちも聞かなかったことにした。

俺にはあんなもの振り回せそうにないからな。

 

「いつまで見てるの一夏?」

 

「…あきれてものが言えなかっただけだからな」

 

簪の方がよっぽど似合いそうだと思う。

さぁて、研究に戻りますか。

 

「何か言ってくれないとウサ先生不機嫌になっちゃうぞう?」

 

「んじゃぁ…『見苦しい』です」

 

四つん這いになって落ち込んでる天災兎をほっぽり出して研究に戻ることにした。

間違ったことは口にしたつもりは無い。

この人は千冬姉と同い年の2X才だ。

その年齢でコスプレしてるし、目に毒であるのも変わらない。

『見苦しい』と言っても差し支えは無いだろう。

 

「ほい、二番のバイパス」

 

「1645番のケーブルも」

 

「おう、それから445番の通信ケーブルからの接続先だけど…」

 

「ん…なんだろう・・?」

 

簪が視線を向けているのは、コアネットワークに似ながらも別の何かへの接続先だ。

此処で俺が答えを先に行ってしまうのも無粋だ。

『ESネットワーク』というのも味気ないので『輝星(きしょう)領域』と俺は呼ぶようにしている。

存在は確認したのだが、俺は直接確認まではしていない。

そこに至っているのは、簪達のように『星』シリーズを手にした人物達だけだ。

それを実際に至れるようになれば、もしかしたら…という範疇を今は出ていないのだから。

 

「コアネットワーク、じゃないような…」

 

「さて、何だろうな…」

 

俺も開発研究はしているつもりだが、やはり難しい。

答えは見えかけてるだけで、実際にはちらつかされているような状態が続いているのが現状。

最初の開発者である束さんはコレを人に見つけてほしかったのか、はたまた見つけられるように誘導していたのかは判らない。

仮に発見させられるように誘導していたのなら、この人の掌の上で踊らされていた事になる、気に入らないけどさ。

だが、束さんでもコレを発見できていなかったのだとしたら?

すべてのコアが独自に、それも開発者に感知されずに成長していたことになる。

『親がいなくても子は育つ』とは誰が言った言葉だったか、まさにそれになりそうだ。

 

「…一夏、何かよからぬことを考えてる?」

 

「失敬な」

 

俺ってそんな風に考えてるのが顔に出ているのだろうか?

思えば感情を失ったときにも考えてることを簪にはホイホイ見破られていたような気がしないでもない。

警戒はしているつもりなんだけどなぁ…。

 

辞め辞め、ちょっと気晴らしに体育祭がどんな風になっているのかカメラを接続してみよう。

 

最初に映ったのは虚さんだった。

体育すわりになり、顔を俯せて

 

「私はあんな粗暴な性格じゃない私はあんな粗暴な性格じゃない私はあんな粗暴な性格じゃない」

 

呪詛でも唱えているかのように精神的に引きこもってらっしゃる。

まだ続いてるのかよあの人。

別のカメラに繋げてみる。

 

「鍵ィィィィィ…。

鍵は何処だぁぁぁぁぁぁ…」

 

鉄球付きの枷を引き摺りながらフラフラと彷徨う篠ノ之の姿。

えっと…別のカメラでは…。

 

「ああ、うん、碌なものが映らないな…」

 

三年生の体育会会場にて、とうとう摘発された団体が連行されていく光景(逢魔ヶ刻)が映ってたり。

面白半分で二年生が映っているであろうアリーナに接続してみる。

 

「………なんでこんな格好にならなきゃいけないんスか…」

 

フォルテ・サファイア先輩がコスってました。

何あのコスプレ。

 

今回は俺もコスプレさせられた身だし、気分としては憂鬱だ。

さてと、もうちょっとマトモな景色はどこかに無いものか。

 

一年生が体育祭を続けているアリーナのカメラに接続してみる。

そのカメラの真正面に…誰だあれは?

 

「些細な事は忘れてしまいましょう?

だって些細な事ですもの」

 

山田先生だった。

髪にはヴェールが飾られ、かなり大胆なドレスをまとっている。

そしてその手には何故か『壺』が。

何か入ってるのか気になるが、あのドレスは

 

「なんでこんな恥ずかしいドレス(ブリオー)なんですかぁぁぁぁ…」

 

挙句、蹲って動けなくなっていた。

一定時間が過ぎたのか、シャルロットが入っていたであろう天幕が全自動で引っぺがされていた。

 

「うわ……」

 

首には蝶ネクタイ、手には何故か銀色の業務用のお盆…だけで、

 

「みないでよぉぉぉぉっっ!!!!」

 

『トップレス』&『ボトムレス』でした。

当然簪の手で目隠しされて、映像は切られた。

 

「一夏、今の見た?」

 

「すまん、二人の姿が見えた」

 

「…忘れて…」

 

「おう、承知した」

 

物のついでと言わんばかりにモニターが物理的(・・・)にフリーズした。

この学園、もはや魔境になってきてないか?

マトモな光景だとかを見たくて大橋付近のカメラを見てみる。

 

「……………」

 

「おやぁ?どうしたのかなぁ、いっくん?」

 

「ちょっと出てきます」

 

やぁれやれ、だ。

 

 

 

Kanzashi View

 

「一夏、どこにいっちゃったんだろう?」

 

気分転換の為か、一夏は急にラボを後にしてしまった。

どこか暗雲をその背に感じさせながら。

 

「さぁねぇ、どこに行っちゃったんだろうねぇ」

 

束博士も暗雲を頭上に漂わせながら。

それとそのコスプレ、そろそろ辞めてください、本当に目に毒。

一夏が「見苦しい」とか言ったのが私でも理解できた気がする。

 

「ちょっと束さんもお出かけしてくるねぇ。

作場研究で忙しかったから、コーヒーガブガブ飲んじゃって♡

今から早速お花摘み♡」

 

…これって同性に言ったところでセクハラにしかならないような気がした。

私は悪くない。

一方的に聞かされただけなのだから、私には何の容疑もかからないはず。

 

「あの人、キャラ濃過ぎ」

 

 

 

Ichika View

 

俺が大橋側に辿り着いた時には千冬姉も来ていた。

暮桜は…待機状態にしているらしい。

 

「ずいぶんと悠長にしていたな」

 

「千冬姉こそ、それは新しいコスプレか?

ISスーツじゃなくて、コスプレでも目に毒になってきてる気がするよ」

 

頭の上には猫を模した耳がついたカチューシャ。

首回りが大きく開かれ、背中と腰が露出したへそ出しキャミソール。

ボトムは太もも半ばのタイトスカート。

 

ストレートパンチと一緒にフック。

鼻をかすめるだけで終わらせた。

っつーか生身の人間相手に殴りかかりそうだよな、危ないっての。

間違ったミンチの作り方を後続に教えそうで先が不安だよ。

 

それよか何そのグローブ?

手には肉球付きのグローブ、掌にあたるところには『烈拳・猫魂』とか書かれてるのが見えた。

この人は動物に例えたとしても猫じゃねぇよ、どう考えても人食いの虎だ。

 

「やめよう、不毛すぎる…」

 

「だな、それよりも」

 

呼んでもないないお客さんがそろそろお出ましだ。

見覚えのある白髪の覆面男。

一番テーブル、ご注文いただきました。

 

「やっぱり実在したみたいだな、クローンソルジャー(ジャック)の話」

 

保安要員は頼りないことにも真っ先に逃げ出してる。

邪魔にならないから良いかもしれないけどさ。

 

「それが今回は一人だけのようだし、即座に片付けるぞ」

 

「へいへい」

 

俺と千冬姉の視線の先には、あの時と同じ顔の男がいた。

真っ白な髪に、彫りの深い顔。

そして…

 

「標的、確認…!」

 

あの時と違う声。

だが、何やら観察されているのは理解ができる。

禍根は…まあ、あるか。

両手両足を斬り落とした件か?

六刀で串刺しにした件か?

バンザイアタックへの同伴をお断りした件か?

わずか数分で怨恨塗れだな。

 

クローンソルジャー(ジャック)が銃を構えようとするが、その瞬間には千冬姉が刀を引き抜き、斬撃を飛ばす。

実力は落ちてない様子。

今回は俺は見学で終わりそうだ。

オマケに俺よりもずいぶんとスマートな戦い方を見せてくれる。

相手が何か叫ぶよりも前に、構えるよりも前に、刀を振るい、腱を斬る。

明らかに『殺す為』ではなく、『生け捕り』にするための振るい方だ。

俺と手合わせしていた時よりも…うん、力を抜いてるんだろうな。

 

ドチャッ

 

そんなグロテスクな音がして両腕両足が根元から斬り落とされてた。

参考にでもしておこうか、あの刀の振るい方は。

 

「まあ、こんなものだろう」

 

刀を鞘の戻すその姿勢でも、嫌味になるほどサマになってた。

キメ過ぎだろう、この人。

 

「で、コレ(ジャック)どうする?

担いでいくのは俺はお断りだぜ?担ごうとしたところで噛みつかれそうだし」

 

特に耳とか噛みちぎられるとかご勘弁。

コイツ(ジャック)ならやりそうじゃねぇか?

 

「どうせなら…この場で尋問とかどうだ?」

 

「馬鹿者」

 

馬鹿なの自覚してるからか、今更言われても本当に今更過ぎるんだよな。

結局のところ、専守防衛型無人機(アースガルズ)を呼びつけてお持ち帰りさせた。

専守防衛型無人機(アースガルズ)だけど、今となってはただの作業用ロボットになってるよな…。

機械相手であったとしても、ねぎらいの言葉をかけてやりたくなってくる。

まあ、クローンソルジャーの方も今回は出オチみたいに切り刻まれて終わってたけど、これで第三、第四の同一人物が出てこられてもほとほと困り果てるだけなんだが…。

一匹居たら三十匹居るキッチンの天敵の規模で済まされそうにない気がするのは、本当に気のせいであってほしい。

…下手なフラグを立ててしまったような気がしないでもないが、頭の片隅から吹き飛ばしておく。

 

「で、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

「体育祭の出場競技は終わってるから、開発研究に更け込むよ。

それに、今後編入してくるであろう男子生徒の為の環境整備もあるし、忙しいんだよ」

 

たぶん、千冬姉よりも。

えっと…今日の放課後には料理研究会での監督役、ダンス同好会でのマネージャーもどき。

被服同好会…だっけ?それと今回の体育委員会連中への押収と強制捜索とか色々。

あ、でも予備のスケジュール帳も没収されてたから覚えてねーや。

むしろ俺にもマネージャーでも寄越してくれ。

 

ドンッ!!

 

背後、というか上空でそんな音。

音がした方向へ視線を向けると…燻ってる専守防衛型無人機(アースガルズ)が…。

気のせいか、しょぼくれてるように見えた。

 

「…何が起きた?」

 

「自爆したとかそんな感じじゃないか?」

 

ほら、あのアースガルズだって肯いてるし間違いないだろ。

 

この匂い、人体の脂肪が焼けた匂いってやつなんだろうな。

むろん、料理しているときに感じられる薫りとは大きく違うため、朝も昼も何も食べていない俺からしても、どこで何を間違えようとも食欲なんて出てくるわけも無い。

 

「で、クローンソルジャーの脅威がまた一段階上がったな。

追い詰められたら自爆、か。

消耗品扱いできる生体兵器の最後がコレみたいだな。

開発者の頭を疑いたくなってくるよ」

 

戦場で量産複製兵器が死体の山になってから自爆されてみろ、両軍共壊滅だろ。

バンザイアタック上等なんて考えてる将校とか絶対出てくるぞ。

何せ、人の形をした兵器だ。

邪魔になれば捨てればいい、足りなくなれば補充するとか考えるだろ。

使い捨ての道具に情を持つのが異常かどうかは、さて置いといて。

 

「…この臭いの、何とかならないか?」

 

遺体を眼前にして言うことじゃないよな…。

 

『臭い』と言われたのが聞こえたのか、専守防衛型無人機(アースガルズ)が震えてる…気がした。

ああ、悪いこと言ってごめんな。

ISには情が出てくるのは俺の性格なのかもしれないな。


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